2019年9月18日 (水)

「第六百九十二話」

 駅前のいい感じの定食屋で、兄妹は仲良く昼食を食べていた。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「ピーマン食べないの?」
「食べるよ。」
「食べないじゃん。」
「食べるよ。」
「え?さっきからずっとだよ?ずっと食べてないじゃん。」
「食べるよ。」
「え?もしかして、まだピーマン食べられないの?ねぇ?もしかしてそうなの?ウソでしょう!?お兄ちゃん、大人でしょ?30でしょ?ピーマン食べられないの!?」
「ピーマンに年齢は関係ない!4歳でもピーマン食べられるヤツは食べられるし!95歳でもピーマン食べられないヤツは食べられない!」
「いや、じゃあ何で野菜炒め定食を注文すんの?絶対ピーマン入ってんじゃん。食べられないなら、ピーマン入ってないのにすればいいじゃん。」
「何だ?ピーマン嫌いなヤツは、ピーマンが入った野菜炒め定食を注文したらダメなのか?」
「そうは言ってないけど、わざわざ残すくらいなら、勿体ないし注文しなければいいじゃんって話だよ。」
「大体な。ピーマンが入った野菜炒め定食、ピーマンが入った野菜炒め定食って言うけどな。俺からしたら、何で野菜炒め定食にピーマンを入れるんだって話だよ。野菜炒め定食にピーマンが入ってない事だって結構あるだろ。」
「あるよ?あるある。野菜炒め定食に必ずしもピーマンが入ってる訳じゃないよ?だけど、ここのお店のこの野菜炒め定食には、ピーマンが入ってるって知ってるじゃん!」
「毎回入ってるとは限らないだろ?」
「毎回入ってるよ!そう言うスタンスでやってますもん!昔っから!」
「今日はもう、ピーマンが品切れちゃったって事もあるだろ?」
「何でそんなゼロに近い確率の賭けに出るの!」
「お前、獣医さんってのは、どうなんだ?」
「話変えた!」
「やっぱり大変なんだろ?」
「うん、大変だよ。嬉しい事と同じくらい悲しい事もあるしね。でも、遣り甲斐はあるよ。」
「獣医さんかぁ。」
「何?感慨深く言っちゃって。」
「いやだって、お前小さい頃から獣医さんになりたいって言ってて、本当に獣医さんになっちゃうんだもんな。凄いよ。」
「何?気持ち悪いなぁ。誉めても何もないよ?そうだよ?それこそ、お兄ちゃんがピーマン食べられない頃からの夢だもん!」
「何でそこに俺のピーマン嫌いをぶち込んで来るんだよ!」
「あ!お兄ちゃん覚えてる?」
「覚えてない!」
「その覚えてないは、覚えてるって事だよね?昔さ!アタシが中学生で、お兄ちゃんが高校生の時、無理矢理お兄ちゃんにピーマン食べさせたら、お兄ちゃん泣いちゃったんだよね。」
「何?お前はその話を死ぬまでする気か?何度も言ってるだろ?あれは、ピーマンを無理矢理食べさせられたから泣いたんじゃないて、ピーマンを咀嚼してる時に下唇を噛んだから涙が出て来たんだって!」
「あれ?ピーマンを食べてる時に、鼻毛を抜いたからじゃなかったっけ?」
「鼻毛も抜いたし!同時に下唇も噛んだんだ!新事実だ!新事実!」
「おお!さすが刑事!新事実を出して来るね!」
「刑事バカにしてんのか?」
「してないよ。ねぇ?刑事って、ピーマンが食べられなくてもなれるんだね。」
「当たり前だろ!バカにしてんじゃねぇか!」
「聞き込みとか、殺人事件を解決してもいいんだね。」
「当たり前だろ!どう言う基準になってんだよ!ピーマン!」
「食べないの?ピーマン。」
「あえてな。」
「はいはい。んー!美味しい!このピーマン!」
「はあ?ピーマンに美味いも不味いもないだろ。」
「本当に美味しいんだってば!ほら、お兄ちゃんも欠片だけでも食べてみなよ!」
「食べるかよ!その欠片が命取りなんだよ!」
「そっかそっか、また泣いちゃうもんね。」
「泣くかよ!また鼻毛抜いて下唇を噛むのが恐いだけだ!」
「こーんな欠片も食べられないのに、犯人を取り調べしたり、後輩を怒ったりするんだ。」
「必須科目なのか?人生の必須科目なのか?ピーマンは!級があるのか?段があるのか?ピーマンは!お前だって、地球上の全種類の動物の名前言えないくせに獣医さんやってんだろ!」
「凄い反論来た来た!うん、やっぱり美味しい!」
「笑いながらピーマン食うって、それはもう、ホラーだな。」
「食べないの?お父さんのピーマン、美味しいよ!」
「俺は、親父のピーマンは、昔から目で楽しむタイプなんだよ。」
「そうでした!」
「お前、どこでもそんなホラーにピーマン食べてるのか?」
「な訳ないじゃん!世界一美味しいピーマンを食べた時にしか、このとびっきりの笑顔は出ません!」
「あっそ。」
「そっ!」
「さてと、親父のピーマンも食べ終わった事だし、帰るか。」
「アタシが食べたんだけどね!」
「うっせ!」
「あれだよ?きっと夜ご飯は、これでもかってくらいピーマン尽くしだよ?」
「うっせ!」

第六百九十二話
「兄妹帰郷」

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