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2006年7月 8日 (土)

「第一話」

 春休みを目前としたある晴れた日の朝の事。いつものように僕が目覚めると部屋には、黒いタキシードにシルクハット姿でステッキを持ったおじさんがステップを踏んでいた。僕は、その異様にリズミカルな音に起こされたのだった。寝ぼけ眼を擦りながら、この非現実的な出来事をどうにか受け入れようと、立ち向かう決意をした。そして、このおじさんを何とかしてお父さんだと思おうとした。でも、正直無理だった。お父さんだと思えば思うほど、お父さんを嫌いになっていく自分が嫌いになっていくのが分かったからだ。
「おじさん・・・・・・誰?」
僕は、勇気を出してファーストコンタクトを試みた。
「おじさんは、おばさんなんだよ。」
えっ!?どっからどう見てもおじさんじゃん!なぜ嘘をつく?てか何だか曖昧な言い回しだなぁ。おじさんなの?おばさんなの?いやいや
「おじさんでしょ?」
振り返った!?さも、自分じゃありませんよ。何処におじさん何ているの?ってな具合でキョロキョロしてる!しょうがない。おじさんの言ってる事に合わせるか・・・・・・・・・。
「おばさん?」
振り返った!さも、自分じゃありませんよ。何処におばさん何ているの?ってな具合でキョロキョロしてる!ってどっちだよ!
「おじさん?」
「ん?」
見た!今度は、こっちをしっかりと見た!あまりにしっかり見すぎて顔がプルプルしてる!本当に何なんだよこの人。
「どうして僕の部屋にいるの?」
「それを聞いてどうするんだ?」
聞くでしょ。普通聞くでしょ。話の取っ掛かりとしてまず聞くでしょ。
「不自然だ。」
あんただよ!むしろあんたの存在の方がだよ!
「僕に何か用ですか?」
「ワッハッハッハッハッ。ワーッハッハッハッ!」
笑った!?本域で笑った!?これが大人笑いかぁ。って関心している場合じゃない。横に揺れだしたし、涙流し出したし、声裏返り始めたし、そして疲れてステッキにもたれ掛かって休憩してるし!
「用があるから来たんじゃないか。ボーイ。」
確かにボーイですけども、小学五年生ですけども、もうすぐ六年生ですけども、なんかムカツク!なんだかイラッとする!
「用って?」
「ないっちゃぁない!」
あるっちゃぁあるんかい!むしろこっちを使えよ!あぁ、なんかだんだん面倒臭くなってきた。
「帰って下さい。」
「ボーイ。ボーイに一つ聞きたい事がある。」
無視か!
「ボーイには、夢があるかい?」
「えっ!?」
何だよ突然真面目な顔付きになって。
「おじ・・・・・・。」
やっぱおじさんじゃん。
「いや、ジェントルマンにはね。」
いいよ言い直さなくって。それっぽいカッコしてますけど、あんまいないよ。自分の事を自分でジェントルマンって言う人。
「夢があったんだよ。」
いいよ別に。聞きたくないですよ。
「ボーイは、知ってるかなぁ。ペイロット。」
パイロットでしょ。
「いいぞ。ペイロットっていうのは。」
パイロットね。
「大空をさぁ。バーン!と、男の夢と浪漫を持って行くんだよ。」
パイロットじゃん。
「そいで言うんだよなぁ。アテンションプリーズってさ。」
スチュワーデスだ。そいつぁ、スチュワーデスだ。まてよ?もしかしたらこの人の中では、スチュワーデス=ペイロットなのかなぁ?だからあんなにペイロット、ペイロットって連呼してたのかなぁ?きっとそうだ!そうに違いない!
「あっ!パイロットか!」
違うんかい!!単なる言い間違いかい!少しでもおじさんよりに思考した自分の脳が憎い!
「おっと、ジェントルメンばっかり語ってしまっていたね。」
複数形!?どっからどう見ても一人なんですけど?光の屈折やら、その他諸々を利用したところで、やっぱり僕には、一人にしか見えないんですけど?
「ボーイの将来の夢は何なんだい?」
僕?こう聞かれると何だか恥ずかしいなぁ。
「・・・・・・・・・学者。」
「えっ?」
聞いてろよ!どんだけ距離あんだよ!両耳に手を当てる事かよ!
「学者!」
「えっ!」
聞こえんだろこの距離なら!どんだけ金持ちなんだよ僕の家!そんなに広かないよ。四畳半だよ。
「が・く・しゃ!」
「ペイロット?」
違う!
「違うよ。学者さん。」
「よ学者さん?」
どこ切っちゃってんだよ。誰だよそいつ!わざとだな。わざとやってんだな。
「そうそう。よ学者です。よ学者さん。」
「ジェントルマンもボーイの時代には、よ学者さんを夢見たものだよ。」
いるんだ!?そんな学者さんがいるんだ。名前のニュアンス的に中国とかあっちの方の人なのかなぁ?余とか於とか書くのかなぁ?だいぶ昔の人っぽい感じはしますね。
「学者かぁ。」
がっかりだよ。深読みしてがっかりだよ。考えに費やした僕の時間をどうか返して下さい。
「本当にもう帰って下さい。」
「やだ!」
子供かよ。
「警察呼ぶよ。」
「やだ!」
子供かよ!プイって!ジェントルマンがやる事じゃないでしょ。子供っつうか乙女かよ!
「乙女じゃない!」
何で会話出来ちゃうんだよ!テレパシー?超能力者なの?
「乙女じゃない!」
偶然かい!適当かい!
「時にボーイ。」
「はい?」
「冒険は、好きかな?」
「冒険?」
何だよ唐突だなぁ。話の展開が分からないよ。
「そうだ。大冒険だ。」
微妙にタッチが変わったじゃん。ほんの一、二秒で世界規模になっちゃったよ?
「した事ないから分からないよ。」
「ジェントルマンもだ。」
何なのこれ?何の問い掛けだったの?この人は、何がしたいの?
「あれは、ジェントルマンがジャングルに行った時だったかなぁ・・・・・・。」
した事ないんじゃないの?天井見ながら回想に入ろうとしてるけど大丈夫なの?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
話さないんかい!何も話さないんかい!
「プッ。」
笑った!何かを思い出して笑ってる!いやだからジャングルの話をしろよ!
「あのシミ顔みたい。」
それかよ!笑った理由それかよ!しかもさらりと嫌な事に気付いてくれたなぁ。今夜寝る時、気になって恐くて寝れないじゃん!トイレ行けないじゃん!そいでジャングルなしかい!話さないんかい!何なのこの人?物凄く疲れるんですけど。
「僕これから学校行くんで帰って下さい。用も無いみたいだし。」
「怒るな!!」
怒られた!?
「怒ってないですよ。」
ってそっちかい。天井のシミの方ね。僕かと思いましたと。って何それ?しゃべるのそのシミは?で、さっき笑ったの、もしやにらめっこだったの?そのシミとにらめっこしてたんですか?朝の段階でそれだったら夜中は、動きだしちゃうんじゃないの?大丈夫なの?
「大丈夫だ!」
だから何で会話が出来ちゃうんだよ。よし!試してみよう。おじさん!後ろに包丁を持っておじさんを刺そうとしてる男の人が立ってるよ!
「大丈夫だ!」
今にも襲い掛かろうと包丁を振り上げたよ!
「大丈夫だ!」
刺されたよ!
「大丈夫だ!」
んな事あるかぁ!!
「大丈夫だ!」
もはや口癖かい!単なる口癖なんかい!
「時にボーイ。」
二度目。
「小腹が空いたな。」
知るかよ!じゃあとっとと帰れよ!自分の家に。
「今日のブレイクファーストは、何かなぁ。」
ブレックファーストね。何か最初の休憩OR最初に壊れたみたいになっちゃってるよ。
「ブロークンファーストは、何かなぁ。」
壊れたよ?何か壊れちゃったよ?いいの?
「楽しみだなぁボーイ。」
何そのギラギラした眼差しは?家!?さっきっから僕の家の朝ご飯の事を言ってたわけ?お断りだよ。こんなわけの分からない人、お断りだよ。
「時にボーイ。」
三度目。
「おじ・・・ジェントルマンは・・・・・・。」
いいよ言い直さなくったって。気にしてるのあんただけだよ。
「そろそろ帰ろうかな。」
待ってましたよ。万々歳だよ。いつもならとっくに顔洗って、歯を磨いて、朝ご飯の並んだテーブルについている時間だよ。
「バハァイ。」
軽いなぁ。のりが軽い。
「ガチャッ。」
「バタン。」
やっと帰った。一安心とかホッとしたって、この事を言うんだな。うん。
「ガチャッ。」
「シルクハットがなんちゃらって言ってたろ。」
言ってねぇよ!てか戻ってくんなよ!で!何で白いタキシードに着替えてんの?もうわけが分からないよ!いい加減にしてよ!!

「ジリリリリリリ!!」
夢!?
「リリリリリリリ!!」
夢だ!
「リリリカチッ!」
夢だったんだ。とても嫌な夢だったなぁ。よし!顔でも洗ってスッキリしよ!
「!!」
「時にボーイ。」
「おじさん!?」

第一話
「少年とジェントルマン」

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