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2006年8月

2006年8月 2日 (水)

「第七話」

 ここに、二人の男がいる。会話は、朝からなされている。晴天の中。
「ハンバーグ。」
「ハンバーグ?グ、グ、グ、グラタン!あっ!」
「おいおい。」
「強いなぁ。」
「俺が強いんじゃなくて、お前が弱いんだよ。今日まで俺に一度として勝ってないだろ。・・・・・・・・・あれ?だいぶ爪伸びてるなぁ。」
「えっ?」
「ほら。」
「本当だ。切れば?」
「そん時が来たら、そうするよ。」
「そうだなぁ。俺も髪の毛切りに行きたいしなぁ。あっ!そう言えば、花屋のさっちゃん。来月、結婚だってな。」
「ああ、知ってるよ。」
「お前、確かずっと好きだったよな。」
「・・・・・・・・・むかしな。」
「むかし?嘘つけ!今だって好きなくせに。」
「うっせぇ!」
「告白したのか?」
「・・・・・・・・・してない。」
「なーんだよ。してないのかよぉ。待ってたんじゃないの?さっちゃん。」
「まさか!?で、でたらめな事言うなよ。」
「でたらめ?でたらめじゃないよ。俺からしてみれば、何でお前とさっちゃんが結婚しないんだろうなぁ?って感じだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「奪っちゃう?」
「奪う?」
「式当日にさぁ、花嫁を奪うんだよ。今まさに!二人が誓いのキッスをする瞬間!お前がドアを勢いよく開けて、花嫁に駆け寄る!そして、腕を掴みドアの方へと走り出す!なんか古い映画のワンシーンみたいだけど、ロマンチックじゃない?で、二人が教会の外に出ると、車が用意されてんのよ。もちろん!運転手は、俺ね。」
「何でお前いんの?」
「いいじゃんいいじゃん。お前の人生のビッグイベントに参加したいじゃない。俺はねぇ、世界中の人々がお前ら二人の結婚を認めなくても、お前とさっちゃんの結婚を認める!神様が反対しても俺が賛成する!」
「たまに羨ましくなるよ。お前のその性格。」
「あはは。なっ!いいアイディアだろ?絶対上手くいくって!」
「式に間に合えばな。」
「そっかぁ・・・・・・・・・まっ!だけどあれだ。女は、星の数ほどいるって言うだろ?男ならあんまりくよくよするなよ。」
「してないっての!お前が頭の中で勝手にさせてるだけだろ!」
「あはは。わりぃわりぃ。しかし良かったなぁ。」
「何が?」
「えっ?ほら、晴れて良かったなぁって事。」
「ああ、天気な。」
「そうそう。だって雨とか風とか嫌じゃん。」
「まあな。」
「お天道様が拝める日が一番だよ。」
「お前は、百姓か?一昨日だったっけか?物凄い天気だったの。」
「ああ、あれは、凄まじかったよ。まるで、台風が二つ同時に上陸したみたいだったよ。この時期にだよ?まったく!困っちゃうってんだよ!」
「だから、百姓かって!それに、時期は関係ないだろ?時期は!確かにありえない天気だったけどな。」
「なあなあ。」
「ん?」
「もしかしてお前って今日、誕生日?」
「・・・・・・・・・そう言えば、今日は十七日?」
「そうだよ!」
「お前、よくそんな事を覚えてたなぁ。」
「あれからずっと数えてたからね。任せなさい。」
「お前に任せたらロクな事にならないのは、身を持って体験してるからな。遠慮しときます。」
「それを言うなって。今は、仲良く元気にやってるじゃないか。」
「・・・・・・・・・やれやれ。」
「おめでとう!」
「いいよ別に。思い出したかのように言いやがって。それに、そんなにおめでたくもないっての。」
「照れんなって。こういうのは、縁起もんなんだからさ。とりあえず、素直に言葉だけでも受け取っておけって。プレゼントは、後々あげれたらちゃんとお前の欲しいものをあげるからさ。なっ。」
「はいはい。期待しないで待っとくよ。」
「そうそう。ポジティブ、ポジティブ。人間、ネガティブになっちゃあ、おしまいだよ?いかなる時にもポジティブ!苦しい時こそポジティブ!あれっ?と思ったらポジティブ!」
「なんか薬みたいになっちゃってるぞ。」
「なっ!だから、さっちゃんの事は、気にしない気にしない。」
「なっ!じゃねぇよ!さちの事は、これっぽっちも気にしてないっての。」
「またまたー。」
「はぁー。」
「ほら気にしてる!」
「今の溜め息は、そんなんじゃないよ。」
「じゃあ、なに?どしたん?」
「何て言うかさぁ。俺は、今日でまた、一つ歳をとったわけだろ?なのに、いったい何をしてんだか。と、思ってさ。」
「何もしてない。」
「うっせぇ!何もしてないじゃなくて、何も出来ないんだよ!」
「しょうがないよ。人間それぞれ立場ってもんがあんだからさ。他人が何をしようと、俺らは、俺らだよ。今出来る事を一生懸命にやればいいじゃない。むしろ、今やってる事は、今しか出来ないのかもしれないんだしさ。例えそれが、しりとりだとしても!そのしりとりを一生懸命にやってれば、きっといつか!いつの日か!いつの日にか!!ああ、あの時しりとりしといて良かったなって日が必ず来るよ。来るはず!」
「そんな日来なくっていんだよ!」
「それにしても暇だなぁ。まいったなぁ。なあ、俺らの長い人生の中でも、これほど暇な時間って無いんじゃない?そう思うと何だかこの時間も貴重に思えてくるよな。」
「お前だけだよ。」
「おいおい。ポジティブ、ポジティブ。」
「はいはい・・・・・・・・・。俺らの人生、長いかどうかも分かんないだろ?」
「またまたー。お前の悪い癖だよ?何でもマイナス思考になっちゃうとこ。」
「そう言えばお前。親父さんと仲直りしたのか?」
「何だよ急に。気持ちがブルーになるような話題すんなよな。」
「店継ぐの継がないので大喧嘩したろ?」
「したよ!しちゃ悪いの?するだろ!あの場合するのが普通だろ!して当たり前!しなきゃ損!」
「いっつも、この話題になると怒り出すよな。」
「あったりめぇよ。」
「なぜ江戸っ子?」
「だいたい何で長男だからって親の後を継がなきゃならんのよ!おかしくない?人権侵害だ!差別だ!もっと世の中の長男に自由を!of the people. by the people. for the people.」
「なぜリンカーン?まあな、お前の気持ちも分かるよ。でも、親父さんの気持ちも分からないでもないけどな。」
「何だお前!親父派か!親父派閥の人間か!親父国務長官か!親父書記長か!親父後援会会長か!親父マニアか!おや」
「うっせぇよ!親父国務長官とか親父書記長って何だよ!俺は、お前派でも親父さん派でもねぇよ!」
「お前が親父寄りに意見するからだろ!」
「してないって言ってんだろ!二人の言ってる事は、どっちが間違ってるってわけじゃなくって、どっちも正解だって事だよ。お前がこの先、人生をどう歩もうが、それは間違いじゃないってだけの話だよ。」
「いい事言うねぇ。この眼鏡の人。」
「かけてねぇよ!」
「眼鏡風味な人。」
「どんな味だ!」
「眼鏡。」
「もはや人じゃなくなってんじゃんかよ!」
「じゃあさあ。」
「ん?」
「今のこの現状も間違いじゃないって事?」
「ある意味な。」

第七話
「雪山遭難九日目の昼」

「あっ!!」
「どしたん?」
「・・・・・・・・・見間違えか。」
「・・・・・・・・・それにしても・・・・・・・・・暇だなぁ。」

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2006年8月 9日 (水)

「第八話」

ジェット兄さんが
ジェットに飛んでいる
ジェット兄さんが
今夜も飛んでいる
真ん丸お月様
目掛けて飛んでいる
しょぼくれ笑顔で
惚けて飛んでいる
スピーディーに
それはスピーディーに
スピーディーに
まさにスピーディーに
ジェット兄さんが
ジェットに飛んでいる
ジェット兄さんが
夜空を飛んでいる

ジェット兄さんは
そんなにジェットじゃない
ジェット兄さんは
それほどジェットじゃない
とか言う人も
中にはいるけれど
とか言わない人も
稀にいるけれど
アグレッシブに
それはアグレッシブに
アグレッシブに
とてもアグレッシブに
ジェット兄さんは
思いのほかジェット
ジェット兄さんは
予想外にジェット

ジェット兄さんの
ジェットのひみつは
ジェット兄さんの
そこんとこのあれは
誰も知らない
ジェットが知ってる
誰も知らない
あるかも分からない
ミステリアスに
それはミステリアスに
ミステリアスに
ここはミステリアスに
ジェット兄さんの
ジェットのひみつは
ジェット兄さんの
日記に書いてある

ジェット兄さん
ヒューンと飛んでく
ジェット兄さん
ビューンと飛んでく

ジェット兄さんも
疲れる時がある
ジェット兄さんも
止まる時がある
ハンカチ片手に
汗を拭きながら
常連顔して
喫茶店に入る
ノーコメントで
それはノーコメントで
ノーコメントで
軽くノーコメントで
ジェット兄さんも
アイスコーヒーを飲む
チョコレートパフェも
ぺろりとたいらげる

ジェット兄さんを
見ているだけじゃなく
ジェット兄さんと
一緒に飛んでみたい
追い着きたいな
追い着けるかな
追い越したいな
追い越せるかな
タイムイズマネーだ
それはタイムイズマネーだ
タイムイズマネーだ
世の中タイムイズマネーだ
ジェット兄さんを
待ってるだけじゃなく
ジェット兄さんと
ジェットに飛んでみたい

ジェット兄さん
僕の兄さん
ジェット兄さん
自慢の兄さん
ジェット兄さん
訳あり兄さん
ジェット兄さん
たぶん兄さん

ジェット兄さんが
ジェットに飛んでいる
ジェット兄さんが
今宵も飛んでいる

第八話
「ジェット弟」

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2006年8月16日 (水)

「第九話」

 私は、毎日、家と家から電車で九駅行った所の駅近くにある公園を往復する生活を送っている。
「にゃー。」
もちろん、好きでこんな生活をしているわけじゃない。原因は、会社を解雇された事にある。会社が経営難に陥り、大規模な経費削減と言う名目で、社員を集団リストラしたと言うわけだ。勤続二十七年と八ヶ月と十六日の私も例外ではなかった。この事実を家族に打ち明けられるはずもなく、気が付けば半年以上もの時間が経過していた。貰った退職金を取り崩し、なんとかそれを給料として毎月妻に渡してはいるが、そろそろそれも限界に近付いてきている。もってあと、二、三回がいいところだろう。最初の段階で無理にでも打ち明ければよかったと、今になって後悔している。思い返せば家族のため、会社のためと言って一生懸命に働いてきた二十七年と八ヶ月と十六日。
「にゃー。」
こうやって、公園のベンチに座り、ゆっくりとした時間の流れの中で、改めて自分の人生を見つめ直すと浮かんでくる。果たして本当にそうだったのだろうか?家族や会社を理由に私は、私自身から逃げていたのではないのだろうか?本当に自分がやりたかった事を諦め、妥協した人生を家族や会社のせいにして生きてきただけではないのだろうか?そう考えると本当の被害者は、そんな私の偽りの人生に巻き込まれた家族なのではなかろうか?
「にゃー。」
だからと言って、一度として家族と過ごした日々を不幸だと思った事などない。初めて子供が生まれた時の喜びは、私の人生の中で、もっとも幸せな時間であった。二人目、三人目の時も同様だ。それは、比べられるものじゃない。三人とも、私の愛すべき子供達だ。宝物だ。私は、この子達に出会えただけで、今の人生に感謝している。満足している。そして、こんな私を一生懸命に支えてくれた妻には、感謝してもしきれない。ありきたりだが、「ありがとう。」と言う言葉しか出てこない。愛すべき家族を持てた。この選択が、間違いだとは思ってない。
「にゃー。」
だけど私は、いったい何をしてるんだ?公園のベンチに朝から夕方まで座り続け、毎度顔を合わせる黒猫に餌を与え、今では、すっかり私になついている。
「にゃー。」
こんな事をするために私は、働いていたのか?こんな惨めな姿を見せるために子供達を授かったのか?こんな想いをさせるために妻と一緒に人生を歩む事を誓ったのか?今の自分では、到底答えの見つからない支離滅裂な自問自答をこうやって、半年以上も続けている。偽りの人生?よくそんな事を言えたもんだ。今までの二十七年と八ヶ月と十六日は、私の人生だ。後悔などない。しかし、正直疲れてしまった。この無意味な半年間を過ごし、こんな自分が嫌になった。
「にゃー。」
そしてまさか、自分が自殺を考える日がやって来るとは、思いもしなかった。しかし、こんな生き恥を曝してこれからの人生を生きて行くのならば、せめて最期ぐらい自分らしく生きよう。自ら幕を下ろそう。誰に迷惑をかけようが、誰が何と言おうが、この選択肢が間違ってるとしてもだ。私の人生だ。これは、私の人生だ。そして、これが私の人生なのだ。
「にゃー。」
公園の遊具で無邪気に遊ぶ野球帽の少年とその仲間達よ。こんな大人になってはいけない。死を考えながら生きてはいけない。希望を持って生きなさい。いつまでも夢を持ち続けなさい。人を信じる人になりなさい。そして、友を大切にしなさい。
「にゃー。」
私は、いったい何を言っているのだろう。私が言える立場ではない。未来がある君達に、未来のない私が言える事など一つもない。
「にゃー。」
「よしよし。すまんな。もう、お前に餌を上げられなくなってしまったよ。この公園にも、もう二度と来る事はないが、達者でな。」
「にゃー。」
「しかし、お前は、いいな。何の悩みも抱えてなさそうだし、自由で気ままで、のんびりと毎日を幸せに暮らせる人生で、まったく羨ましいよ。」
「それは、こっちのセリフだ。」
黒猫は、私を睨み付けてそう言うと、ベンチから軽やかに飛び降り、お尻を突き出すようにして身体を伸ばしながら欠伸を一つした。それから姿勢を正し、尻尾を真っ直ぐ突き立てると、ゆっくり歩き出した。そして、ゆっくりと公園を去って行った。

 あれから一ヶ月が経ち、今日も私は、いつもの公園のいつものベンチに座っている。いつもと変わらぬ空間。昨日と変わらない今日。今日と同じ明日。明日と同等の昨日。ただ一つ変わったと言えば、あの日以来、黒猫の姿を見なくなったと言う事だけだった。
「それでも地球は、いつも通りに回る・・・・・・か。」
そう呟きながらふと目をやると、いつかの野球帽の少年がいた。ブランコに揺られながら吹く、少年のオカリナの音色に耳を傾けつつ私は、ベンチの上に仰向けになり、考えるのをやめ、空だけを眺める事にした。

第九話
「FATHER」

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2006年8月23日 (水)

「第十話」

 夏休みを目前としたある晴れた日の少し蒸し暑い朝の事。いつものように私が目覚めると部屋には、黒いタキシードに黒いシルクハット姿でステッキを持ったおじさんがスッテプを踏んでいた。私は、その異様にコズミカルな音に起こされた。私は、寝ぼけ眼を擦りながら、この目の前の非現実的な出来事をどうにか受け入れようと、ステッキを蹴っ飛ばした。
「ハウッ!」
おじさんは、よろめいて倒れそうになったけど、持ち堪えた。
「おじさん誰?」
私は、勇気を出して、
「ハウッ!」
もう一度、ステッキを蹴っ飛ばしてみた。
「いやはや、パワフルなガールだ。」
ガール?確かにガールだよ。間違ってないよ。六年生だからね。
「おじさんは、どうして私の部屋にいるの?」
「おじさん?おじさんじゃないんだよ。ジェントルマンなんだよ。」
「私に何か用?」
「ワッハッハッハッハ。ワーッハッハッハ!」
大人笑いね。大人は、みんなこうやって笑う。そして大人達は、このおじさんのように、横に揺れ出して、涙流し出して、声を裏返して、そして疲れてステッキにもたれ掛かって休憩をする。
「ハウッ!」
なわけないよ。
「用があるから来たんじゃないか。ガール。」
「用って?」
「ひ・み・ハウッ!」
「用って?」
「ガール。ガールには、夢があるかい?」
「お金持ちになる事。」
「おじ・・・・・・いや、ジェントルマンには、夢があったんだよ。」
「何?」
「ガールは、知ってるかなぁ。マジチャン。」
「知らない。」
「いいぞ。マジチャンって言うのは。」
「ふーん。」
「人々に驚きと感動を与えるのだよ。」
「へー。よさそうだね。」
「鳩を出したり、体を半分にしたり。」
「マジシャンじゃん。」
「ハウッ!そして、最後にこう言うんだ。アテンションプリーズ。」
「それは、スチュワーデスじゃん。」
「ハウッ!おっと、ジェントルメンばっかり語ってしまっていたね。」
「マンね。」
「ガールの将来の夢は、なんなんだい?」
「だから、お金持ちになる事だって言ったよ!」
「スルッ。」
「チッチッチッ。ガール、そう何回もステッキを蹴っ飛ばされるわけにはいかないんだハウッ!なかなかやるじゃないかガール。今度、大会に出場するといい。そんなガールには、特別にこのステッキにまつわる不思議で愉快なお話を聞かせてあげよう。」
「何?」
「実は、このステッキ、普通のステッキに見えるが、喋るんだよ。」
「うそよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「うそ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「う・そ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「時にガール。」
「うそじゃん。」
「ハウッ!」
「何しに来たの?何かしに来たんでしょ?」
「歌を聞かせよう。
黄金を目指せー
黄金を目指せー
仲間を増やせばいいんだよ
仲間を増やせばいいんだよ
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「それだけ?」
「そうだとも。」
「その繰り返し?」
「もちろんだとも。
黄金を目指せー
黄金をハウッ!」
「もういいよ。」
「ガール。途中で止めるとは、酷いじゃないか。」
「だって目指してばっかりだったんだもん。」
「時にガール。」
「何?」
「冒険は、好きかな?」
「だから黄金の歌?」
「そうだ。だから大冒険だ。どうだい?」
「嫌いじゃないよ。」
「おじさんもだ。」
「ジェントルマンでしょ。」
「そうだ。ジェントルマンもだ。」
「した事あんの?」
「ない!」
「じゃ何で大冒険の話なんかしたの?」
「してない!」
「帰って!」
「帰らない!」
「帰って!!」
「やだー!はいっ!
黄金を目指せー
黄金を目指せー
仲間を増やせばいいんだよ
仲間を増やせばいいんだよ
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「やっぱり目指してばっかりじゃん。」
「時にガール。」
「何?」
「時にガール!」
「何!」
「続きを考えてくれ。」
「は?」
「歌の続きを考えてくれ。」
「何でよ。自分の歌じゃん。」
「もはやこの歌は、ジェントルマンとガールの二人の歌だ。」
「いやよ。」
「なぜだガール。」
「面倒臭いし、意味分かんないし。」
「面倒臭いかもしれないが、意味は、分かるはずだ。
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「仲間を増やせばいいんでしょ?」
「そうだ。黄金を目指すには、多くの仲間が必要なんだ。分かるかガール?」
「なんとなく。」
「大冒険には、危険がつきものだ。黄金を目指すとなれば、それは普通の何倍もの危険がつきまとうのだよ。しかし!仲間がいれば、危険などなんのそのなのだよ。仲間は、多ければ多いほどいい。分かるかガール?黄金を目指すには、多くの仲間が必要なのだ!」
「ジェントルマンは、黄金を目指してんだ。」
「特に目指してない!」
「テイッ!」
「ハウッ!チョップか。チョップなんだなガール。ステッキを折るつもりでのチョップなんだな。」
「帰って!!でないと本当にステッキ折るよ。」
「分かったガール。チョップをされてしまってはしょうがない。君を仲間にするのは、このジェントルマン、諦めよう。」
「目指してなかったんじゃないの?」
「じゃ、バハァイ。」
「ガチャッ。」
「バン。」
「何でこんなに朝から疲れなきゃいけないわけ?」
「カチャッ。」
「ガチャガチャ。」
「鍵か?鍵を掛けたのだなガール。」
「ガチャガチャ。」
「ガール!開けてくれないか?ガール!」
「ドンドンドン!」
「話は、まだこれからなんだガール!」
「ガチャガチャ。」
「鍵を開けてくれガール!もう一度だけ部屋に入れてくれガール!」
「ドンドンドン!」
「このままでは、終われないんだガール!話が終わらないんだよガール!」
「ドンドンドン!」
「聞いているのか?そうか。そうだったのか。聞きたかったのだな?このシルクハットにまつわる不思議で愉快なお話が聞きたかったのだな?してあげようじゃないかガール。してあげるから開けてくれよガール。実は、このシルクハットは、喋るんだよ。」
「ガチャガチャ。」
「ドンドンドン!」
「ガール!約束が違うじゃないかガール!もう一度だけ言うぞガール。ジェントルマンがもう一度、ガールの部屋に入らない事には、話が終わらないんだ。分かったかなガール?」
「ガチャガチャ。」
「分かってくれよガール!そうか。そうだったのか。歌だな?あの歌を聞きたいのだな?いいだろうガール。歌おうじゃないかガール。ガールのために心を込めて歌おうじゃないか。
黄金を目指せー
黄金を目指せー
仲間を増やせばいいんだよ
仲間を増やせばいいんだよ
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「ガチャガチャ。」
「まあ、あれだなガール。ガールは、頑固者だな。それは、けして悪い事ではない。むしろいい事だ。しかしだなガール。」
「ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。」
「この場合は違うぞガール!今は、素直にならなくてはいけない時だ!心を開放するんだガール!心だけでなく、ドアも開放するんだガール!」
「ガチャガチャ。」
「ガァァァァァル!!」

「うるさいなぁ。まっ、ほっとけばそのうち諦めて帰るよね。」
そう言って私は、ドアの上に掛かってる時計を見た。
「いっけなーい!遅刻しちゃうよ。」
私は、大急ぎで洋服に着替えようと、ドアとは真逆にあるクローゼットの方に向きを変えた。
「時にガール。」
「ジェントルマン!?」

第十話
「少女とジェントルマン」

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2006年8月30日 (水)

「第十一話」

 仕事を終え、家のドアの前に着き、腕時計を見た時には、すでに午後十一時を過ぎていた。玄関のドアを開け、疲れた体に鞭を打ち、私は、スーツから部屋着へと着替えるため、真っ直ぐ寝室に向かった。ドアを開けると、そこには、疲れきった表情でベットに座り込んでいる私がいた。
「おう!」
私は、私に気付くと右手を上げて私に対し、気軽に挨拶を交わしてきた。
「お、おう・・・・・・・・・?」
私も右手を上げて私に挨拶を返した。これは、いったい何なんであろうか?あそこにいるのは、確かに私だ。ここにいるのも私だ。
「誰ですか?」
あまりの出来事に私は、思わず敬語で私に質問をしてしまった。
「誰って・・・・・・そりゃ私に決まってるじゃないか。」
決まっていた。この、私にそっくりな私は、どうやら私のようだ。それはもう、決まっていた。だったら、決まっているのであったら、それを踏まえて今一度、質問をしよう。
「なぜ私がいるのだ?」
「なぜって言われても・・・・・・私にも分からない。」
私の言う事は、確かに当たっている。なぜなら、私にも分からないからだ。私が分からない事を私が分かるはずもない。もし、私が私なら、同じような事を言ったであろう。
「まあ、少し落ち着いたらどうだ?」
確かに私の言う通り、私は慌てていた。慌てていたと言うより、パニックになっていた。パニックになっていたと言うより、慌てていた。そう、こんな有り様だった。だから、あえて問おうじゃないか私よ。パニックで慌てていながらも問おうじゃないか。
「なぜそんなに悠長にしていられるのだ?」
「悠長にって言われても・・・・・・慌ててたってしょうがないじゃないか。」
うん。それは、一理ある。納得だ。素直に納得だ。中々いい事を言うじゃないか私。さすが私。私じゃなければここまでナイスな事は、言わないだろう。ナイス私。私ナイス。だが、私は、私の言うように、落ち着く事など出来ない。
「慌ててもしょうがないかもしれない。がしかし、この事態は、慌てるのが普通じゃないのか?」
「分からないのか?慌てて問題が解決するのか?」
しない。するわけがない。した所を見た事がない。いい事言いまくりじゃないか私よ。よし!ここは、私の言う通り、少し冷静になろうじゃないか。
「分かった。まず初めに聞きたい。聞きたいと言うか、確かめたいのだが、そっちの私は、私だよな?」
「私は、私だ。」
「私も、私だ。」
そうか。やはり私達は、私なのだな。そっくりさんじゃなく、私なのだな。だったら考えるまでもなく次の質問をぶつけるまでだ。
「そっちの私は、この事態をどう思う?」
「分からない。分からないが、何かとてつもない事が起きているのは、確かな事実だ。」
「うむ。」
「同じ人間が存在するなんて、まるでフィクションじゃないか。」
なるほど・・・・・・・・・フィクションか・・・・・・・・・。ん?フィクション?フィクション、フィクション。そうか!
「フィクションじゃないのか?これ自体、フィクションなのでは?いやむしろ、フィクションでいいじゃないか。しっくりくるじゃないか!」
どうだ私!ずばりだろ私!
「フィクション?フィクションだったらこれは、夢って事か?」
「えっ!?」
夢?そうか!フィクション=夢と言う事か。気付きもしなかったぞ私。何て鋭い発想だ。鋭すぎて痛いぞ私。ん?つまりどう言う事なんだ?よし!ここは、冷静に分かったフリをして答えておこう。
「だろうな。」
「どっちの夢だ?」
は?
「私の夢なのか?それとも・・・・・・・・・私の夢なのか?」
そう言う事か。ん?
「私の夢だとしたら?」
「私が夢の住人と言う事になるな。つまり、そっちの私が作り出した幻。」
なるほど。
「じゃあそれで!」
「おいおい。勝手な事を言うんじゃない。私は、ちゃんと存在している。それならもし、私の夢ならば、逆にそっちの私の方が夢の住人だぞ。」
それは、困る。
「私は、現実だよ。」
「証拠は?」
証拠?そんなものあるわけないじゃないか。つねればいいのか?実際、私には、見えないだろうが、私は、さっきっからお尻をつねっている。ちねりまくっている。痛い!痛いぞ私。これが、この痛みが証拠として提出出来るのなら、私は、私だ。しかし、この証拠は、あまりにも幼稚すぎる。すぐに却下されるだろう。いや、もはやそれ以前に却下だ。
「無いんだな?」
ああ、無いよ。無いさ。しかし、証拠など関係ないじゃないか私!どっからどう見ても、あんなとこをそんな風に見たとしても、私は、私じゃないか。だいたい、だいたいだ。夢と現実なんて、感覚で分かる事だ。そもそも、そもそもがだ。これが夢でこれが現実だなんて、いちいち考えながら毎日を過ごしている人間がどこにいる。そんな奴は、いないぞ私。だから言おう。勇気を出して堂々と言おうじゃないか!
「しょ、証拠なんてものは、無い。」
「私もだ。そっちの私にこれが現実だと納得させる証拠など無い。逆に、これが夢じゃないと言う証拠もない。しかし、これは夢なんかではない。到底、理屈では説明など出来ない不条理な現実。納得するしない関係なく不愉快に侵入して来た現実。目で見た事実をそのまま受け入れなくてはならない恐怖感。紛れもなく安易に今の現実がこれなのだよ。」
ふむふむ。何だかわけが分からなくなってきたぞ。しかしだ。
「悪い事じゃないんじゃないか?」
「どう言う事だ?」
「素直にこの現実を受け入れて、有効利用すればいいじゃないか。」
「有効利用?」
「だって、考えようによっちゃあ、楽じゃないか。仕事だって、毎日行く必要がなくなるし、今までやりたくてやれなかった事だって出来る。これからもっと自由に人生が歩めるって事じゃないか。」
私は、何ていい事を言うんだ。自分で自分を抱きしめてやりたいよまったく。こんないい提案を私も否定できまい。
「馬鹿な事を・・・・・・・・・。」
ば、馬鹿?
「なぜだ私。」
「同じ人間が同じ世界の同一空間に同時に存在するなど、倫理的に許される事じゃない。有り得ては、ならない事なのだ。」
随分と気難しい事を言うのだな私よ。もっとお気楽でいいじゃないか。エンジョイしようじゃないか。ん?まてよ・・・・・・・・・これは、いろいろな事が出来るぞ。例えば、完全犯罪だって夢じゃないぞ!完璧なアリバイ工作が出来る!いける!これは上手い事やればいけるぞ!絶対やれるぞ完全犯罪!って私は、いったい何を考えているのだ。
「ましてや、そっちの私が良からぬ事を考えないとも言えんからな。」
ドキッ!
「もし、別の私が何か悪さでもしてみろ。何もしていない私にまで、迷惑がかかる。私自身がした罪ならば罰を受けよう。しかし、身に覚えのない罪で罰を受けるなど馬鹿らしい。つまり・・・・・・・・・。」
ん?つまり何だ?何が言いたいんだ?勿体振ってないで聞かせてくれよ私。気になるじゃないか。
「いらないのだよ。」
えっ?いらない?
「私の平穏な生活を邪魔する私など、必要がないのだよ。」
何を言っているのか私は、さっぱりだぞ私。
「分からないか?本当なら今私が言った事なんて考える必要すらない事なのだよ。そんなややこしい過程を踏まずとも、最初から答えは出ている。」
分からない。私の言わんとしている事がまったく理解出来ない。
「何が言いたい。」
「一人が消えなければならない。こんな馬鹿げた事態など、絵空事の世界だけで十分だ。現実世界では、決して有り得てはいけない事なのだよ。」
妙な雰囲気になってきたぞ。何かが妙だ。こいつは、本当に私なのか?私に変装した誰かなのか?だったらまずい!慌ててはいけない。落ち着くんだ。とにかく、何かとてつもなく妙な予感がする。ここにいてはいけないと、私の何かが感じとっている。一秒でも早くこの場を立ち去らなくては、大変な事になる。こんな時は・・・・・・・・・散歩だ!
「ちょっと気分転換に散歩でもしてくるよ。」
もっと冷静になろう。頭の中を一回空っぽにしてから、もう一度あらゆる観点と角度と視点から注意深くじっくり考え直そう。今の私の頭では、きっと簡単な算数の問題すら解けないだろう。
「じゃあ。」
よし。このまま、このままだ。このままゆっくり歩いて玄関に向かおう。
「カチャッ!」
ん?何か後ろの方で音がしたぞ?何だ?何なんだ今の寝室内に響く不協和音は?よし。ゆっくりだ。ゆっくりと振り向いて確かめようじゃないか。・・・・・・・・・銃!?
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「バン!バン!バン!」
「ドサッ!」
撃ち殺された私が、黒い塵となって消えていく。いったいこの光景を何回、目にした事か。朝から続くこの不可解な現象。ふと、腕時計を見るたびに考えてしまう。もし、時計の針が午前0時を回った瞬間、また日曜日の朝がやって来たらどうしようか?と。私が焦燥感にかられながら、ベットに座っていると
「ガチャ。」
また、私が帰って来た。そして私は、ゆっくりとこう呟く。
「終わるのか?」
そして、心の中でこうも呟く。「果たして私自身、本当の私なのだろうか?」と。

第十一話
「黒い日曜日」

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