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2006年8月23日 (水)

「第十話」

 夏休みを目前としたある晴れた日の少し蒸し暑い朝の事。いつものように私が目覚めると部屋には、黒いタキシードに黒いシルクハット姿でステッキを持ったおじさんがスッテプを踏んでいた。私は、その異様にコズミカルな音に起こされた。私は、寝ぼけ眼を擦りながら、この目の前の非現実的な出来事をどうにか受け入れようと、ステッキを蹴っ飛ばした。
「ハウッ!」
おじさんは、よろめいて倒れそうになったけど、持ち堪えた。
「おじさん誰?」
私は、勇気を出して、
「ハウッ!」
もう一度、ステッキを蹴っ飛ばしてみた。
「いやはや、パワフルなガールだ。」
ガール?確かにガールだよ。間違ってないよ。六年生だからね。
「おじさんは、どうして私の部屋にいるの?」
「おじさん?おじさんじゃないんだよ。ジェントルマンなんだよ。」
「私に何か用?」
「ワッハッハッハッハ。ワーッハッハッハ!」
大人笑いね。大人は、みんなこうやって笑う。そして大人達は、このおじさんのように、横に揺れ出して、涙流し出して、声を裏返して、そして疲れてステッキにもたれ掛かって休憩をする。
「ハウッ!」
なわけないよ。
「用があるから来たんじゃないか。ガール。」
「用って?」
「ひ・み・ハウッ!」
「用って?」
「ガール。ガールには、夢があるかい?」
「お金持ちになる事。」
「おじ・・・・・・いや、ジェントルマンには、夢があったんだよ。」
「何?」
「ガールは、知ってるかなぁ。マジチャン。」
「知らない。」
「いいぞ。マジチャンって言うのは。」
「ふーん。」
「人々に驚きと感動を与えるのだよ。」
「へー。よさそうだね。」
「鳩を出したり、体を半分にしたり。」
「マジシャンじゃん。」
「ハウッ!そして、最後にこう言うんだ。アテンションプリーズ。」
「それは、スチュワーデスじゃん。」
「ハウッ!おっと、ジェントルメンばっかり語ってしまっていたね。」
「マンね。」
「ガールの将来の夢は、なんなんだい?」
「だから、お金持ちになる事だって言ったよ!」
「スルッ。」
「チッチッチッ。ガール、そう何回もステッキを蹴っ飛ばされるわけにはいかないんだハウッ!なかなかやるじゃないかガール。今度、大会に出場するといい。そんなガールには、特別にこのステッキにまつわる不思議で愉快なお話を聞かせてあげよう。」
「何?」
「実は、このステッキ、普通のステッキに見えるが、喋るんだよ。」
「うそよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「うそ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「う・そ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「時にガール。」
「うそじゃん。」
「ハウッ!」
「何しに来たの?何かしに来たんでしょ?」
「歌を聞かせよう。
黄金を目指せー
黄金を目指せー
仲間を増やせばいいんだよ
仲間を増やせばいいんだよ
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「それだけ?」
「そうだとも。」
「その繰り返し?」
「もちろんだとも。
黄金を目指せー
黄金をハウッ!」
「もういいよ。」
「ガール。途中で止めるとは、酷いじゃないか。」
「だって目指してばっかりだったんだもん。」
「時にガール。」
「何?」
「冒険は、好きかな?」
「だから黄金の歌?」
「そうだ。だから大冒険だ。どうだい?」
「嫌いじゃないよ。」
「おじさんもだ。」
「ジェントルマンでしょ。」
「そうだ。ジェントルマンもだ。」
「した事あんの?」
「ない!」
「じゃ何で大冒険の話なんかしたの?」
「してない!」
「帰って!」
「帰らない!」
「帰って!!」
「やだー!はいっ!
黄金を目指せー
黄金を目指せー
仲間を増やせばいいんだよ
仲間を増やせばいいんだよ
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「やっぱり目指してばっかりじゃん。」
「時にガール。」
「何?」
「時にガール!」
「何!」
「続きを考えてくれ。」
「は?」
「歌の続きを考えてくれ。」
「何でよ。自分の歌じゃん。」
「もはやこの歌は、ジェントルマンとガールの二人の歌だ。」
「いやよ。」
「なぜだガール。」
「面倒臭いし、意味分かんないし。」
「面倒臭いかもしれないが、意味は、分かるはずだ。
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「仲間を増やせばいいんでしょ?」
「そうだ。黄金を目指すには、多くの仲間が必要なんだ。分かるかガール?」
「なんとなく。」
「大冒険には、危険がつきものだ。黄金を目指すとなれば、それは普通の何倍もの危険がつきまとうのだよ。しかし!仲間がいれば、危険などなんのそのなのだよ。仲間は、多ければ多いほどいい。分かるかガール?黄金を目指すには、多くの仲間が必要なのだ!」
「ジェントルマンは、黄金を目指してんだ。」
「特に目指してない!」
「テイッ!」
「ハウッ!チョップか。チョップなんだなガール。ステッキを折るつもりでのチョップなんだな。」
「帰って!!でないと本当にステッキ折るよ。」
「分かったガール。チョップをされてしまってはしょうがない。君を仲間にするのは、このジェントルマン、諦めよう。」
「目指してなかったんじゃないの?」
「じゃ、バハァイ。」
「ガチャッ。」
「バン。」
「何でこんなに朝から疲れなきゃいけないわけ?」
「カチャッ。」
「ガチャガチャ。」
「鍵か?鍵を掛けたのだなガール。」
「ガチャガチャ。」
「ガール!開けてくれないか?ガール!」
「ドンドンドン!」
「話は、まだこれからなんだガール!」
「ガチャガチャ。」
「鍵を開けてくれガール!もう一度だけ部屋に入れてくれガール!」
「ドンドンドン!」
「このままでは、終われないんだガール!話が終わらないんだよガール!」
「ドンドンドン!」
「聞いているのか?そうか。そうだったのか。聞きたかったのだな?このシルクハットにまつわる不思議で愉快なお話が聞きたかったのだな?してあげようじゃないかガール。してあげるから開けてくれよガール。実は、このシルクハットは、喋るんだよ。」
「ガチャガチャ。」
「ドンドンドン!」
「ガール!約束が違うじゃないかガール!もう一度だけ言うぞガール。ジェントルマンがもう一度、ガールの部屋に入らない事には、話が終わらないんだ。分かったかなガール?」
「ガチャガチャ。」
「分かってくれよガール!そうか。そうだったのか。歌だな?あの歌を聞きたいのだな?いいだろうガール。歌おうじゃないかガール。ガールのために心を込めて歌おうじゃないか。
黄金を目指せー
黄金を目指せー
仲間を増やせばいいんだよ
仲間を増やせばいいんだよ
黄金を目指せー
黄金を目指せー」
「ガチャガチャ。」
「まあ、あれだなガール。ガールは、頑固者だな。それは、けして悪い事ではない。むしろいい事だ。しかしだなガール。」
「ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。」
「この場合は違うぞガール!今は、素直にならなくてはいけない時だ!心を開放するんだガール!心だけでなく、ドアも開放するんだガール!」
「ガチャガチャ。」
「ガァァァァァル!!」

「うるさいなぁ。まっ、ほっとけばそのうち諦めて帰るよね。」
そう言って私は、ドアの上に掛かってる時計を見た。
「いっけなーい!遅刻しちゃうよ。」
私は、大急ぎで洋服に着替えようと、ドアとは真逆にあるクローゼットの方に向きを変えた。
「時にガール。」
「ジェントルマン!?」

第十話
「少女とジェントルマン」

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