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2006年9月13日 (水)

「第十三話」

 全体を塀で囲まれた建造物。その裏手にひっそりと存在する出入り口。そこには、制服を着た二人の男が立っていた。炎天下の中、蝉達の鳴き声が絶え間無く鳴り響き、暑さを倍増させていた。
「あぢー!」
「夏だからな。」
「それを踏まえてあぢー!」
「確かに暑い。」
「冬がこのぐらいだったらいいのにー。」
「でも、冬がこんな感じだったらお前は、何て言うんだよ。」
「あぢー!」
「だろ?なら我慢するしかないって事だよ。」
「あのなぁ、俺はなぁ、そりゃもう、物凄く!お前が考えてるよりも、物凄く我慢してんだよ!我慢して我慢して我慢したうえでの!あぢー!!」
「やめい!!俺まで暑くなる!」
「はいはい・・・・・・・・・。」
「やる気出せよな。こんなダラダラしてるとこを所長にでも見られたら、二、三時間の小言と十枚以上の始末書だぞ。」
「わーったよー。やればいいんだろ?やればー。で?今日は、何で俺らがここに呼ばれてるわけ?」
「お前なぁ。ちゃんと渡された書類を読めよな。ここに俺らがいるって事はだよ?だいたい検討がつくだろ?」
「ここってあれだろ?新しく入所して来る受刑者を迎え入れるとこだろ?」
「そうだよ!」
「で?」
「馬鹿かお前は!そこまで分かってて聞くなよ!ダラダラすんなって!」
「あのなぁ、どんな奴が来ようが、この暑さは、変わらないんだよ?あぢー!だからさぁ、これから来る奴がどんなんだろうと、まっっったく!興味なし!あぢー!そいつがこの暑さをなんとかしてくれるわけでもあるまいし。」
「そうでもないぞ?これからやって来る男の事を知ったら、恐怖で暑さなんて吹っ飛んじまうぞ。」
「そりゃーありがたいねぇ。で?どんな奴?」
「犯罪史上もっとも残忍な殺人犯!」
「ほっほー。あぢー!続けて続けて。」
「あまりに残虐で、あまりに残酷。付いたあだ名が史上最凶の殺人鬼!」
「最強?」
「最凶!」
「あそう。あぢー!で?何で最凶なの?」
「捕まるまでに何人殺したと思う?」
「うーん。百。」
「おしい!百八人。」
「煩悩?あぢー!」
「本当にお前は、たまに鋭い事を言うよな。人を自分の煩悩として、一人殺害する度に自分の中の煩悩が断じられたって言う話みたいだぞ。」
「1ポイント獲得。でもさぁ、連続殺人鬼なんて今までだっていたじゃん。」
「殺した人数だけじゃないんだよ。とにかく殺した後の行動が残虐で残酷なんだよ。残虐で残酷と言うか異常!もはや人じゃない。」
「人なんだろ?」
「例えだよ例え!」
「知ってるよ。」
「どんなんだと思う?」
「そうだなー。目玉を刳り貫いて、手の平にくっつける!」
「妖怪か!」
「うんじゃーねー。四十九人の目玉を刳り貫いて、五十人目の体中にくっつける!」
「妖怪か!」
「だったらねー。目玉を」
「目玉もういいだろ!何でそうやってお前は、妖怪にしたがる?」
「だってさぁ、あぢー!んだもん。」
「暑さ関係ないだろ。」
「関係あんだろ!暑さ=妖怪だろ!」
「どんな根拠だ!」
「知らん!」
「逆切れか!」
「じゃあなんだってんだよ。勿体振らずに教えてくれりゃーいいじゃん。」
「人食い!」
「人食い?」
「殺した人間をありとあらゆる料理に変えて食べるんだよ。」
「連続殺人鬼でカニバリズムなんて、もはや珍しくもなんともないじゃん。殺人シェフなんて、今時流行んないっての。それにしてもあぢー!」
「んなもん。いつの時代だって流行ってないよ!百八人だぞ?」
「そんなの俺だって、今までに食ったもんを人間に換算すればそんぐらいいってるっての。あぢー!てかそれ以上は、食ってるね!人生何度も悟っちゃてるよ!」
「またお前は、訳の分からん理論を言い出しやがって。」
「あぢー!んだから言わしてくれよ。せめて、訳の分からん理論ぐらい言わしてくれよ。」
「意味が分からん。」
「あぢー!すまんすまん。で?なになに?食うって全部?」
「全部だよ。」
「老若男女?」
「そう。」
「骨も?」
「そうだよ。全部だよ。」
「おかしくない?」
「何が?」
「あぢー!」
「何が?」
「あぢー!」
「だから何がだよ!」
「ん?だってさぁ、丸ごと食べちゃうんだろ?それって証拠なんて残らないじゃん。完全犯罪じゃん。あぢー!あぢー!と言うかもはや、なぢー!だな。」
「なぢー!って何なんだよ!」
「なぢー!ってのは、あぢー!の比較級だよ。で、最上級があちー!だよ。」
「じゃあ、お前たいして暑くないんじゃん!」
「まあまあ、細かい事は、気にしない気にしない。で?その完全犯罪を解いたのは?どこのどいつだ?何探偵だ?」
「食あたりだよ。」
「そんな名前の探偵聞いた事ないなぁ?ショク・ア・タリ?」
「誰だそいつ!そもそもお前は、どんだけ探偵に詳しいんだよ!」
「ホームズに金田一。」
「実在しない奴らじゃんかよ!」
「あとは・・・・・・・・・ショク・ア・タリかな。」
「知ったかか!聞いた事ないんだろ!探偵じゃなくって病気だ!病気!ショク・ア・タリじゃなくて食あたり!」
「へ?」
「百八人目の犠牲者を食って、腹をこわしたんだよ。で、病院に行って検査をしたら、胃カメラで胃を見てた医者と犠牲者の目玉とが合っちゃったんだよ。そして、事件が発覚したってわけだよ。」
「やっぱ目玉じゃん。」
「たまたまだよ。」
「くだらない事を言うねぇ。さびー!」
「そういうつもりで言ったんじゃないよ!」
「でもさぁ。」
「何だよ。」
「それでも腑に落ちないんだけど。」
「どこが?」
「一人を殺害して食ったのは分かるよ。でも、あと百七人を食ったって証拠が無いじゃん。そいつが嘘をついてっかもしんないじゃん。」
「リスト。」
「リスト?」
「取り調べ中に、そいつが次々と自分が食した人間の名前と特徴を挙げてったんだよ。で、リストを作って、それを基に調べてみると、リストに載ってる全員がある日突然、行方不明になってんだよ。そのリストと完璧に一致したってわけだよ。」
「で?信じちゃったってわけか。」
「それとな。料理を作ってる一部始終が録画されたディスクが自宅から発見されたんだよ。」
「だいたいそいつは、人間をどう料理したんだよ。あぢー!」
「焼いたり煮たり生だったり、まあそれこそいろいろなんじゃないか?」
「もっと詳しく分からないのかよ。」
「分からん。」
「ステーキとか?」
「かもな。」
「寿司とか?」
「ああ。」
「なんとか風なんちゃらかんちゃらとか?」
「分からないなら言うなよ!」
「ボイルドエッグ?」
「ゆで卵じゃん!材料卵オンリーじゃん!」
「じゃあ何だよ!」
「ああ、そうだ。なんでも、そのディスクを最初から最後まで見た人間が、ここをやられちゃって、今じゃ病院のベットの上らしいんだよ。内容が相当なもんだったんだろうな。それ以来、誰もそのディスクを見てないらしい。だから、あんまり詳しく分からないんだよ。」
「ソフトボイルドエッグ風人間の頭部?」
「話し聞いてたか?半熟卵関係ないし、分かんないって言ってんだろ!」
「頭部をコツーンとスプーンで割って、中の」
「やめい!!気持ち悪い!見れるよ!お前ならきっと普通に見れるよ!」
「ふーん。なるほどねぇ。最凶ねぇ。」
「何だよ。あんまり納得してないみたいだな。」
「してないよ。あぢー!もっと、暑さが吹っ飛ぶぐらいの怖い話なのかと思ったら、全然だったよ。相変わらずあぢー!しな。」
「想像したら十分に暑さ吹っ飛ぶぐらいの怖い話だろ?お前の頭の中がそいつ寄りなだけだよ。」
「あぢー!俺には、この暑さの方が怖いよ。」
「はいはいそうですか。」
「大食漢でモンスターみたいな男だろうが、今や捕まってこれから檻の中。怖くもなんともないね。しかし、あぢー!」
「やれやれ。」
「プップー!!」
男達の前に、一台の乗用車がやって来て止まった。
「来たみたいだぞ。」
「はいはい。あぢー!のにご苦労様だねぇ。」
「ガチャッ。」
そして、後部座席のドアが開いた。
「ほら、出て来るぞ!」
「あぢー!さてさて、どんな奴なのかな?」
すると、そこからがっしりとした体格の男が出て来た。
「なぢー!あいつか?」
「制服着てんだろ!あの人は、護送を担当してた人だよ。」
「バタン!」
しばらくして、後部座席のドアがその男の手によって閉められた。そこには、がっしりとした体格の男の横に立つ、史上最凶の殺人鬼の姿があった。
「!!」
「!!」
制服を着た二人の男は、目を大きく見開き、驚いた様子であった。実際に史上最凶の殺人鬼を目の当たりにして、その全身から放たれる狂気に満ち溢れた鋭い殺気に畏怖したのか?はたまた、残虐で残酷なモンスターを目の前にして、その冷酷な野獣が放つ眼光により、体の自由を奪われてしまったのか?
そして次の瞬間、男達は、声を揃えてこう言った。

第十三話
「ちっさ!!」

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