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2006年10月

2006年10月 4日 (水)

「第十六話」

我輩には、人には言えないような
物凄くとんでもない変な癖がある。

その、人には言えないような
物凄くとんでもない変な癖と言うのは

「我輩には、人には言えないような
物凄くとんでもない変な癖がある。」

と、必ず文頭で書いてしまう癖である。

第十六話
「癖だからしょうがない」

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2006年10月11日 (水)

「第十七話」

 説明しよう。ここは、どこにでもあるような喫茶店である。そして、この一見どこにでもいるような若い男。しかし、彼には、人には言えない秘密があるのだ。秘密が何だかは、とても気になるとこだろうが、大丈夫である。それは、何行か先で分かる事なのだ。
「カランコロン。」
説明しよう。喫茶店のドアが開き、怪人カマキリ男が入って来たのである。そして、さっきの若い男の真向かいの席に座ったのだ。
「遅くなってごめん。」
「別にいいよ。」
「いやー、この辺なかなか駐車場が見当たらなくってさ。参ったよ。」
「あそう。」
「いらっしゃいませ。ご注文お決まりでしたらお伺い致します。」
「えーと、それ何?」
「アイスコーヒー。」
「あっじゃあ、俺も同じので。」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」
「いやー、この辺なかなか駐車場が見当たらなくってさ。参ったよ。」
「さっき聞いたよ。」
「言った?」
「言ったよ。」
「言ったか。」
「で?」
「で?って?」
「何でこんな所に呼び出したわけ?」
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」
「ああ、すんません。いやほら、今日これから戦うじゃん。」
「そうだよ。何か問題でも?」
「うーん・・・・・・問題と言うか何と言うか。どうだろう?」
「何が?」
「いやほら、戦いだけが全てだろうか?」
「そう言う問題じゃないと思うけど?」
「分かる!分かってる!おたくが正義のヒーローエグゼクティブマンで、俺が悪の怪人カマキリ男だって事だろ?」
説明しよう。そう!怪人カマキリ男の言う通り!この若い男こそが、悪の怪人軍団と戦う正義のヒーロー!エグゼクティブマンなのである!そして、先程の秘密と言うのがこの事だったのだ。
「分かってるならいいじゃん。」
「いい?うーん・・・・・・いくはないんだよ。」
「いくよ。」
「待てって!落ち着けってエグゼクティブマン。」
「でも、ちびっ子達が待ってるから。」
「よーく分かる!怪人をやっつけて、ちびっ子達と遊んであげるその正義のヒーローの使命!分かるわぁ。」
「ならいいじゃん。」
「いくないんだよ。」
「お前悪さしただろ。」
「したと言うか。させられたと言うか。ほら、上の者がやれって言うからさぁ。仕方なくやったんだよね。」
「うん。まーでもそれは、しょうがないよ。さっ、やろうよ。」
「ちょっと待てって!エグゼクティブマン!」
「なに?」
「あれだろ?どうせあのエグ何とか光線?」
「エグゼクティブ光線の事?」
説明しよう。エグゼクティブ光線とは、ご存知!エグゼクティブマンの必殺技中の必殺技である。十本の指全てから放たれる光線で、どんな凶悪な怪人をも倒してきたのだ。
「そう!それ!どうせ今日もそれで決着をつけるんだろ?」
「そうだよ。」
「痛いじゃん。」
「痛いよ。」
「激痛じゃん。」
「うん。でも、それもしょうがないよ。」
「その光線から出てる有害な何かとか、もっと環境問題に目を向けろよ!」
「博士が作ったんだから、そんなもの出てるわけないだろ!」
説明しよう。博士とは、事故で家族を失い、一人生き残った重体の彼に改造手術を施し、正義のヒーローエグゼクティブマンとして蘇らせ、この地球を心から愛する人物であり、エグゼクティブマンにとっては、育ての親なのだ。そして、エグゼクティブマンと共に、悪の怪人達と日々戦っているのである。今は、怪人イノシシ男の時に負った怪我により、最寄の整形外科に通院する日々でもある。
「戦うよ。」
「待てって!俺の話を聞いてくれって!」
「聞いてるよ。」
「だいたいさぁ。俺なんてこのカマだけだよ?」
「でも、そう言う怪人なんだからしょうがないよ。」
「カマと光線だよ?ないわぁ。ない!いや、なにもね。やられたくないって言ってんじゃないんだよ。」
「ならいいじゃん。」
「あいつ死にたくないんじゃないかとか、意気地無しだとかって言う人間がいるかもしれないよ。でも俺は言うね。そんな人間に言うね。やられるのなんて恐くない!」
「エーグーゼークーティーブー!こ」
「待てって!早いって!エグゼクティブマン!」
「止めないでよ!」
「止めるよ!そりゃ必死で止めるよ!」
「やられたくないんじゃん。」
「そーじゃない!そーじゃないよエグゼクティブマン!何て言ったらいいのかなぁ?もっと痛くないのってないの?」
「エグゼクティブタイフーン!」
説明しよう。エグゼクティブタイフーンとは、エグゼクティブマン自身が回転して強風を巻き起こし、怪人を銀河の果てまで飛ばしてしまうのである。過去に一度、怪人ポニー男の時に使用している必殺技である。
「寂しくなるなぁ。他には?」
「エグゼクティブレインボー!」
説明しよう。エグゼクティブレインボーとは、エグゼクティブマンの武器、エグゼクティブバズーカの別名である。七色の光線が発射されるため、そう呼ばれているのである。エグゼクティブレインボーをくらった怪人は、木っ端微塵になり、地球上に少しの肉片すら残す事なく消えて逝く運命なのだ。ちなみに、怪人ポリバケツ男と怪人ミジンコ男の時に使用している必殺技である。
「それ痛いじゃん!」
「一瞬だよ。」
「他のないの?」
「エグゼクティブファイヤー!」
説明しよう。エグゼクティブファイヤーとは、熱い!とにかく熱い!めちゃくちゃ熱い!のである。
「熱いじゃん!熱いのは、痛いのより苦手なんだよね。」
「エグゼクティブ毒!」
説明しよう。毒である。
「苦しいじゃん!苦しいのは、痛いのより熱いのより苦手なんだよね。」
「やっぱりやられたくないだけじゃん。」
「聞いてくれエグゼクティブマン。」
「なんで急にシリアスになるわけ?」
「本当の事を言おう。いや!君には、それを聞く権利がある!」
「本当の事?」
「なぜ、俺がこんなに戦いを拒んでいるのか?」
「うん。」
「本当は、戦いたいんだ!今すぐにでも、エグゼクティブマン!君に倒されたいんだ!だけど・・・・・・・・・。」
「いくぞ!!カマキリ男!!」
「早いよ!だけどって言ったよ?最後まで話を聞けって!そんなんじゃ、正義のヒーローエグゼクティブマンが聞いて呆れるよ。」
「ごめん。」
「戦えない理由があるんだ。」
「戦えない理由?」
「実は、俺のこのカマ。左の方が調子悪いんだよ。ほら見て。ここまでしか曲がらないの。あたたたた。なっ?あたたたた。」
「なっ?て言われても、さっきまで痛がってなかったけど?」
「ついつい強がっちゃうんだよなぁ。そう言うとこあるんだ俺。」
「まあ、それはそれって事で。いくよ?」
「いかないよ!分かってないなぁ。エグゼクティブマンよ。」
「何が?」
「いいかい?こんな手負いの怪人と戦ってるとこをちびっ子達が見たらどう思うと思うのさ。」
「頑張れエグゼクティブマン!」
「頑張る必要性がないだろ!」
「負けるなエグゼクティブマン!」
「負けるかよ!そうじゃなくって!いい?ちびっ子達は、こう思うんだよ。あっ!エグゼクティブマンが弱い者いじめをしてる!ってね。」
「してないよ!」
「してない!確かにしてないんだよ。」
「ならいいじゃん。」
「エグゼクティブマン的にはな。だが!ちびっ子達の目線になって考えてみろよ!どう見てもエグゼクティブマンが怪人カマキリ男をいじめてるようにしか映らないだろ?」
「そうかなぁ?」
「そうですよ!ちびっ子達なめちゃ駄目ですよ。彼等の瞳は、純粋そのものですよ。」
「どんなキャラだよ。だったら、どうすればいいわけ?」
「今度の月曜って暇?」
「暇だけど?」
「よし!その時に決着をつけようじゃないか!」
「えっ!?今日じゃないの?でもまあ、ちびっ子達に誤解されるのも嫌だし・・・・・・・・・分かったよ。」
「じゃ、月曜日にとりあえずまたここで。」
「ここ?ここで戦うの?喫茶店だよ?」
「いいんだよ。とりあえずここに集合って事だよ。いい?分かった?」
「わ、分かったよ。」
「じゃ、今日は俺が。」
「いいよ。自分のは、自分で払うよ。」
「いいんだって!俺が呼び出したんだからさ。」
「いいって。」
「いいのいいの。しまって、しまって!エグゼクティブ財布しまって!」
説明しよう。エグゼク
「無いからそんなもん!勝手に変なアイテム増やさないでよ。これは、ただの財布だから。自分で払うよ。」
「違う違う。今日は、本当にそんなんじゃないから。」
「自分で出すって。」
「いい加減怒るよエグゼクティブマン!カマ出ちゃうよ!」
「わ、分かったよ。ごちそうさま。」
「御礼なんかしなくっていいから、俺の方こそありがとう。じゃ、来週の月曜日にここで。ごめんね今日は。」
「別にいいよ。」
「あっ、ゆっくりしてっていいから。それじゃあ!わっはっはっはっはっ!必ず貴様の息の根を止めてやるからな!!さらばだ!エグゼクティブマン!!カマカマー!!」
「行っちゃったよ。何だったんだろう?来週の月曜日かぁ・・・・・・・・・。すいませーん!御冷下さーい!」
地球の平和とちびっ子達の未来を守るため、今日もエグゼクティブマンは、悪と戦う!頑張れエグゼクティブマン!負けるなエグゼクティブマン!戦え!我等のエグゼクティブマン!!

第十七話
「エグゼクティブマン」

「すいません。領収書下さい。前株で悪の怪人軍団でお願いします。」

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2006年10月18日 (水)

「第十八話」

「お父さん!」
「何だ母さん。そんなに慌てて?それより、新聞取ってきてくれたか?」
「それどころじゃないのよお父さん!」
「何がだ母さん。」
「それがね!大変なのよ!」
「何が大変なんだ?」
「聞いて下さいなお父さん!」
「聞いてるよ母さん。」
「私が新聞を取りに玄関のドアを開けたの。そしたら、郵便受けのところにいたんですよ。」
「何がいたんだ?」
「ちょっと変わった人がですよ。」
「母さん。」
「何です?」
「話がさっぱりなんだが。」
「だからね。私が新聞を取りに玄関のドアを開けたの。そしたら、郵便受けのところにちょっと変わった人がいたんですよ。」
「だから母さん。」
「何です?」
「さっぱりなんだよ。」
「もう!あのね。私が・・・・・・・・・。お父さん来て下さい!」
「ちょ、母さん。母さんは、力があるんだからそんなに引っ張ったら背広が破れちゃうじゃないか。」
「破けたら縫いますから。それより、その細い目を大きく見開いて、ちょっと変わった人を見て下さいよ。」
「おいおい母さん。細い目はないだろ。この細い目と母さんは、何十年間一緒に生活していると思ってるんだ?かれこれ三十」
「その話は、また今度ゆっくりと聞きますから!いいですか?開けますよ?心の準備をして下さいよお父さん!」
「心の準備って母さん。そんなに一大事なのか?母さんが口で説明してくれればいいじゃないか。」
「それを上手く説明できるなら、わざわざお父さんをこんなところまで連れて来ませんよ。」
「こんなところって、玄関じゃないか。だいたいちょっと変わった人、ちょっと変わった人って言うが、何がどうちょっと変わっているんだ?母さん。」
「だから説明できないんですって!いいから自分の目で確かめて下さい。」
「ガラガラガラ。」
「まったく母さんは、朝から大騒ぎなんだから。だいたいそんな人・・・・・・・・・!?な、何だ!何なんだあのちょっと変わった人は!?」
「だから言ったじゃありませんか。」
「母さん。」
「何ですか?」
「あんなにちょっと変わった人を見たのは、わし生まれて初めてだ。」
「私もです。」
「何であんなにちょっと変わっているんだ?」
「さあ?」
「聞いてみよう。」
「やめといた方がいいですよお父さん。」
「母さんは、気にならないのか?」
「そりゃあ、何であんなにちょっと変わっているのか気になりますけど。」
「だったら聞いてみようじゃないか!」
「気を付けて下さいよお父さん。」
「分かってる。あ、あのう、つかぬ事お伺い致しますが、あなたはどうしてそんなにちょっと変わっていらっしゃるのですか?」
「お父さん!」
「母さん!」
「見ました今の?」
「見たよ。何なんだ今のちょっと変わったリアクションは!?」
「何なんでしょう。今のちょっと変わったリアクション!?」
「母さん!」
「何ですか?」
「触ってみよう!」
「ちょっとお父さん。それはどうかと思いますよ?ちょっと変わった病気とかもらったらどうするんです?まだ家のローンも残っているのに。」
「大丈夫だ。こう見えても会社の健康診断では、トップクラスだったんだからな。」
「頭の方もトップクラスだったら、今頃部長になっていて、ローンも払い終えているんですけどね。」
「母さん!それを言ったらおしまいだよ?ん!?」
「どうかしました?」
「何かちょっと変わった匂いがしないか?」
「言われてみれば、ちょっと変わった匂いがしますね。もしかして!」
「そう思うか母さん。」
「そう考えてらっしゃるんですねお父さんも。」
「このちょっと変わった匂いは、あのちょっと変わった人から漂っているに違いない!母さん!」
「はい?」
「わしは、もう我慢できんぞ!触る!」
「あっ!お父さん危ないですよ!ちょっと変わった事をされるかもしれませんよ!」
「な、何だ!?このちょっと変わった感触は!?母さんも触ってみなさい!」
「私は、遠慮しときますよ。」
「いいから触ってみなさい。その段々腹が引っ込むかもしれないぞ?」
「お父さん!お腹の事は、関係ないでしょ!このお腹あってのお父さんじゃありませんか!」
「訳の分からん事を言ってないで早く触りなさい。」
「分かりましたよ。はっ!?何ですかこのちょっと変わった感触!?」
「だろ?触ってみる価値あっただろ?」
「ありました。ありました。」
「母さんが買ってる奇抜な洋服より、よっぽど価値があるってもんだ!」
「聞き捨てなりませんよお父さん!私の服装に何か文句があるんですか?」
「そんな事言ってないだろ?」
「言ったも同然です!」
「おいおい母さん。何もそんなに怒らんでもいいじゃないか。ん?今の聞いたか母さん。」
「聞きました。聞きましたよお父さん。」
「今のちょっと変わった言葉を言ったのは、母さんじゃないよな?」
「はい。お父さんでもないんですよね?今のちょっと変わった声でちょっと変わった言葉を言ったのって。」
「て事はだよ母さん。」
「て事はですよお父さん。」
「ちょっと変わった人が喋ったのか!」
「それしか考えられませんよ!」
「これはもう、祝うしかないな母さん!乾杯しかないだろ母さん!酒だ!酒を持ってきてくれ!我が家で一番高い酒を頼むぞ!」
「お父さん?お言葉ですが、お酒、お酒って事あるごとに言いますけど、いったいそのお酒にいくらかかっているのかご存知ですか?お父さんの安月給でただでさえ毎月やり繰りしていくの大変なんですからね。ですから、お父さんがお酒をもっと控えてくださると、火の車の家計もだいぶ助かるんですけどね。」
「母さん。」
「何です?」
「酒の事をどう言われようがいいとしよう。わしも反省せねばと思ったよ。だが、給料の事を持ち出すんじゃないよ!これでも汗水流して一生懸命働いているんだよ!それを言うに事欠いて安月給はないだろ!!」
「お父さん!」
「何だ!」
「後ろ!」
「後ろが何だ!」
「いいから振り向いてみて下さい!」
「そんな事を言って、話をごまかそうったってそうはいかんぞ!って何なんだこのちょっと変わったダンスは!?どうしてちょっと変わった人は、ちょっと変わったダンスをしているんだ!?」
「分かりませんよ。分かりませんけど・・・・・・・・・。」
「けど何だ母さん。」
「ちょっと変わった人だからじゃありませんか?」
「なるほど。確かに母さんの言う通り、ちょっと変わった人だからだな。」
「それにほら、ちょっと変わった人がちょっと変わったダンスをしながら、ちょっと変わった鼻歌を歌っていますよ。」
「本当だ!!ちょっと変わった人がちょっと変わったダンスをしながら、ちょっと変わった鼻歌を歌って、ちょっと変わった決めのポーズをしている!?はっ!なんてこった!」
「どうしました?」
「わしは、馬鹿だ!」
「知ってます。」
「母さん?」
「冗談ですよ。それより、何なんですか?」
「写真だよ!」
「写真?お父さんの昔の浮気現場のですか?」
「母さん?そりゃもう数え切れないほど謝ったじゃないか。」
「冗談ですって。」
「その話は、冗談にならないからやめてくれ。」
「はいはい。それで?写真がどうしたんです?」
「おお!そうだった!こんなチャンスを写真に撮らないでどうするんだ母さん!」
「そうですよお父さん!あのちょっと変わった人とちょっと変わった記念写真を撮りましょうよ!」
「そうと決まればカメラだ母さん!カメラを持ってくるんだ!」
「すぐ取ってき・・・・・・・・・。」
「どうした母さん?」
「お父さん!」
「どうしたんだ母さん!早くしないとちょっと変わった人が帰ってしまうじゃないか!」
「帰っていきます。」
「何!?何てこった。ちょっと変わった人が帰っていってしまう。」
「残念ですね。」
「残念だ。」
「撮りたかったですね。ちょっと変わった記念写真。」
「撮りたかったな。ちょっと変わった記念写真。」
「お父さん?」
「何だ母さん?」
「それにしても見て下さいよ。あの歩き方を。」
「ああ。ちょっと変わっているな。」
「ちょっと変わっていますね。」
「なあ、母さん?」
「何ですかお父さん?」
「それにしても、ちょっと変わった人だったな。」
「そうですね。」

第十八話
「想像力トレーニング」

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2006年10月25日 (水)

「第十九話」

 俺は、近所に新しく出来た中華屋に来ていた。もちろん俺が注文したのは、ラーメンだ。俺と言ったらラーメン。ラーメンと言ったら俺。と言われるほど、三度の飯よりラーメン好きの俺が中華屋に来てラーメンを注文しないと言うのは、ミンミンゼミと言われながらヒグラシのように鳴く、ツクツクボウシみたいに不自然でおかしな事だ。
「お待たせしました。」
そう言って大将が運んで来たのは、オムライスだった。なぜ?どうして?いや待てよ。これをオムライスと断言するのは、まだ早いかもしれないぞ。これは、中華料理界に革命を起こそうと大将が長年考えに考え、考え貫いた結果、作り出された新しいラーメンなのかも知れないぞ。疑う前に確かめろ!俺の座右の銘が心の中で熱く叫んだ。
「大将これって?」
俺は、恐る恐るケチャップのかかった黄色い物体を指差しながら尋ねた。ラーメンの概念を根底から覆そうとしている中華料理界の革命児の顔を脳裏に焼き付けようと、人間の身体の構造上、自然と閉じようとする瞼に必死に抵抗しながら。
「オムライスでございます。」
俺の中で何かが音を立てて崩れていった。それは、とても重要な何かだった。なんでだ!なんでオムライスなんだ!俺は、ラーメンを注文したんだぞ?焼きそばや中華丼が運ばれて来るならまだ分かる!なぜオムライスなんだ!どうして中華屋にオムライスがあるんだ!!もしや?
「天津丼?」
「オムライスでございます。」
「餃子?」
「オムライスでございます。」
俺の期待は、ボロ雑巾のようにされて投げ返された。何かとてつもなく異臭を放つボロ雑巾だった。中華屋に来てラーメン頼んだらオムライスが出てくるなんて・・・・・・・・・。世の中ってのは、どんだけ理不尽なんだ!ラーメンとオムライス。オムライスとラーメン。まさかとは思うが、大将の聞き間違いと言う最後の望みを託し、俺は再度注文をしてみる事を心に誓うと共に、大きな声ではっきりと言う試みを決意した。
「ラーメン下さい!」
「ございません。」
大将の答えは、俺の今までの人生観を覆す発言だった。ラーメンがない!中華屋なのにラーメンがない!どんな中華屋だ!!俺の魂の雄叫びが胃の中でこだましていた。ないならないで、どうして最初に言わないんだ大将!そうか!俺の言い方が悪かったのかもしれない。大声出しちゃったから大将にしてみれば、このお客さん怒っちゃったの?風に感じてしまったのかもしれない。ビビッてしまって、ついついあんな発言をしてしまったのかもしれない。よーし。ここはもっと自然に、お客らしく注文しよう。
「いやー大将。最近やっと涼しくなってきたね。」
「はい。そうでございますね。」
「過ごしやすくなってきたね。」
「はい。そうでございますね。」
「ラーメン下さい。」
「ございません。」
くそ!駄目か!いやいや、まだ諦めるのは早いぞ!だったら注文のしかた自体を変えてやる!
「ラーメン下ちゃい。」
「ございません。」
「クダサイラーメン。」
「ございません。」
「ペプロポポポン。」
「ございません。」
赤ちゃんも外人さんも宇宙人も大将には、通用しないって事なのか!俺のボキャブラリを超えている。負けるな!負けるな俺!ございますと言わせるんだ!そう言わせるように大将を誘導するんだ!
「この店は、トイレってあるの?」
「ございます。」
「会計の時に一万円札出しても、全部お釣りが千円札にならないように、ちゃんと五千円札も用意してあるの?」
「ございます。」
「ラーメン下さい。」
「ございません。」
「中華屋には普通、中華料理があるよね?」
「ございます。」
「ラーメン下さい。」
「ございません。」
「ラーメン下さい!」
「ございません!」
頑固者か!!大将の八割以上が頑固で出来ているのか!!こんな中華屋の大将が存在していいのか!!それ以前にこんな中華屋が存在していいのか!!近隣住民からの反対運動やら中華料理界からの勧告とかないのか!!ここまで来るとこの大将には、常識が通じない。そう思った俺は、とんでもない非常識な質問をぶつけてやろうと考えた。もしかしたら今の俺の顔を鏡で見ると、悪魔のような微笑みを浮かべているのかもしれない。ぶつけてやる。質問をぶつけてやるぞ。中華料理の神がいるのなら、間違いなく俺に罰が下るであろう悪魔の質問をな!
「大将は、ラーメンって食べ物を知ってる?」
「存じております。」
なら作れ!すぐ作れ!そして、中華料理の神に懺悔しろ!!
「ラーメン下さい。」
「ございません。」
悪魔だ!この大将こそ悪魔だったんだ!おお神よ。中華料理の神よ。我を守りたまえ。そして、この悪魔の大将を悔い改めさせ、ラーメンを作らせたまえ。
「ラーメン下さい。」
「ございません。」
恐いもの知らずか!神すら駄目って事なのか?神ですらこの大将をどうする事も出来ないと言うのか!神をも恐れない、悪魔の大将だったんだ!!そして、俺に残された道は、この呪いのオムライスを食べると言う選択肢だけなのか!どうなってしまうんだ?この呪いのオムライスを口にした俺は、いったいどうなってしまうと言うんだ?大将の僕となり、一生この中華屋でタダ働きさせられてしまうのか?それとも、俺もオムライスにされてしまうのか?そう言えば!店にいる客は、俺だけだ!
「大将?今日は、他に客はいないの?」
「当店に本日ご来店された方は、お客様で二人目になります。」
やっぱりか!!このオムライスは、俺の前にやって来た客だったんだ!純粋に中華料理を食べに来ただけの穢れなき清き心の持ち主だったのに、悪魔の大将の魔の手にかかり、オムライスにされてしまったんだ!そして俺も、オムライスにされてしまうんだ!なんて事だ。こんな運命だなんて!俺は、ただラーメンが食いたかっただけだったんだ。あんまりだ。しかし、運命に逆らう事が果たして出来るのだろうか?生まれた時から運命が決まっているのなら、それを変える事なんて出来やしない。俺は、オムライスになる運命だったと言う事か。しかし!俺は、捩じ曲げてやるぞ!そんな運命を捩じ曲げてやる!運命なんてくそ喰らえだ!
「ラーメン下さい。」
「ございません。」
その瞬間。俺は、何かを悟った。運命とは、時に残酷なもんで、それを受け入れる事が出来るかで、その人間の価値が決まるものなんだ。だったら!だったら受け入れてやろうじゃないか!俺の生き様を見せてやろうじゃないか!俺は、震える右手でスプーンを掴んだ。そして、大将を睨み付けながらこう言った。
「いただきます。」
俺は、頭の中で走馬灯のように駆け巡る今までの人生を噛み締めると共に、震える右手で口の中に入れたオムライスを噛み締めていた。これからオムライスになる俺を、不適な笑みで嘲り笑っているかのように、悪魔の微笑みを浮かべている悪魔の大将の顔を見ながら。
「うっ!」
「お客様?どうかなさいましたか?」
「美味い!!」
なんて美味いオムライスなんだ!この卵のふわっふわっ感!そして、ケチャップご飯の絶妙な味付け!二つが一つになった時の神懸り的なこの美味さ!究極のオムライス!キング・オブ・オムライス!いや、神のオムライスだ!俺は、我を忘れてオムライスに夢中になった。俺のスプーンを持つ右手は、止まる事なく、気が付けばあっと言う間にオムライスをぺろりと平らげてしまっていた。
「美味かったよ大将!ごちそうさま!」
「ありがとうございます。」
そう言った時の大将が見せた微笑みは、まるで仏のようであった。深々と頭を下げる大将の姿は、俺には眩しく神々しく見え、とてもじゃないが凝視する事が出来なかった。ふと気が付けば、頬には熱い何かが伝っていた。
そして、感動に打ち拉がれながら会計を済ませ、五千円札の混じったお釣りを受け取り店を出た俺は、店の看板を改めて見て笑った。どうでもいいじゃないか。そう思った。それは、何だかとても清々しい気分だった。それから俺は、またこの店にラーメンを食べに来ようと、固く心に誓った。

第十九話
「中華屋にて・・・・・・・・・」

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