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2006年12月20日 (水)

「第二十七話」

「次の次の方どうぞ!」
立ち上がろうとした僕は、思わずズッコケそうになった。なぜ僕をとばす!てか、次の次と言っても僕しかいないじゃないか!
「ガチャッ。バタン。」
僕は、医者の姿を見て再びズッコケそうになった。ハゲヅラに付けヒゲって!なんてコントな医者なんだ!まあ、百歩譲ってハゲヅラは何となく分かるよ。けど、なんでお師匠さんみたいなヒゲなんだよ!それ、チョイスおかしいだろ!だが、僕はツッコミを入れなかった。熱っぽくて体がだるくてお腹の調子も良くなかったので、そんな余裕は微塵もなかったからだ。もし、そんな余裕があったなら、とっくに会社に行っている。
「お掛け下さい。」
いやいやいや、あんたの手の方向に腰掛けたらひっくり返って頭打っちゃうよ!また違う病院行かなきゃいけなくなるよ!
「ここでいいんですよね?」
そう言って僕は、丸い回転椅子に座った。
「ブッブッーッ!!」
その音に驚いた僕は、思わず立ち上がってしまった。椅子の下にブーブークッションって!
「なんで?」
あまりの出来事に僕は、気付くと無意識に自然と出て来た言葉で医者に尋ねていた。
「今日は、どうなさいました?」
だいぶ普通だ!ノンリアクションだよ!あんたが仕掛けたんじゃないのかよ!引っ掛かった僕の方が馬鹿みたいじゃないか!一人で驚いちゃったりなんかしちゃったりしちゃってさ!なんか面倒臭い雰囲気満々だなぁ。さっさと進めよう。
「なんか熱っぽくて体がだるくてお腹の調子も良くないんですよ。」
「いやそうじゃなくって、ちくわで例えて症状を言ってもらわないと。」
えっ!?ちくわ!?
「なぜにちくわ?」
「私の好物だから。」
知らないよ!あんたの好物なんかどうだっていいよ!特に知りたくもないプチ情報だよ!だいたいどうやって体の具合をちくわで例えるんだよ!
「どうやって言えばいいんですか?」
「そうだねぇ。長細くて真ん中に穴が開いてて・・・」
ちくわで例えるんじゃなくて、ちくわを例えちゃってるよこの人。案の定、面倒臭いなぁこの医者。
「真面目に診てもらえませんか?」
「これは失敬。では、気を取り直して・・・・・・・・・あなたの病気は!いったいどれだー!!のコーナー!!」
なんかご陽気に始めちゃったよこの医者。
「さて、このコーナーはですね。私が三つ病気の名前をあげます。そしてあなたには、その中の一つを選んでもらいます。」
三択ね。って言ってもクイズなんだか何なのかよく分からないけどさ。でもツッコミなんか入れないよ。だって面倒臭いからね。病気が分かるなら何でもいいよ。
「1番風邪。」
ああ、きっとそれだよ。
「2番風邪。」
それもだよ。
「3番風邪。」
まさかの展開だよ!いい加減過ぎるだろ!
「さあ!どれ!」
えっ?どれ?って聞く事なの?もうどれだっていいよ。どれだって同じだろ?何なんだこの無意味な作業は!何番だっていいよ!
「1番で。」
「いいんですね?」
「はい。」
「本当に1番でいいんですね?」
「いいです。」
「本当に?」
こんなとこ引っ張ってどうするんだよ!もう、さっさっとやってくれよな!
「1番で。」
「もっと大きな声で!」
「1番で!」
「もっともっと!!」
「1番で!!」
「なるほど。熱っぽくて体がだるくてお腹の調子も良くないんですか。」
なんだこの敗北感は・・・・・・・・・なぜ僕が負い目を感じなければならないんだ。とにかく面倒臭い。早く薬を貰って帰りたい。むしろ薬だけでいい。
「そうです。熱っぽくて体がだるくてお腹の調子も良くないんですよ。」
「難しいなぁ。赤いボタンと青いボタンを同時に押しながらレバーを上下に動かしてダイヤルを回さないと開かない金庫をお持ちなんですかぁ。」
確かに難しいよ。そんな風にしないと開かない金庫を持っていたらね。でもだよ?もしも僕がそんな金庫を本当に持っていたとしよう。だからってそれをなぜ医者のあんたに話さなきゃならないんだよ!どんなに僕とあんたの間に人を入れて伝言を頼んだとこで、そんな風には伝わらないだろ!面倒臭い指数かなりのもんだなぁ。
「そんな事、言ってませんよ。早いとこ診察して下さいよ。」
「もちろんだとも!」
僕は、初めて本気で人を殴りたいと思った。
「熱っぽくて体がだるくてお腹の調子も良くないんですね?」
「そうです。」
「私思うんですよ。」
「何ですか?」
「病院に行きなさい。そして、人に優しくしなさい。けして、自分一人だけで生きているだなんて思うんじゃないぞ。先生、いつでもここにいるからな。今日はもう寝なさい。おやすみ。」
優しな言い方とお言葉やなぁ。先生に相談して本当に良かった。って馬鹿!
「ここが病院じゃなかったら、いったいここは何なんですか?八百屋さんですか?」
「安いよー安いよー!奥さん!今日はねぇ。大根が安いよ。ってコラ!やらせるんじゃないよ!」
乗っかってきちゃったよ!それにしてもノリツッコミ下手だなぁ。セリフもだいぶ棒読みだったしさ。
「熱っぽくて体がだるくてお腹の調子も良くないと言ったらあれですよ。」
何回同じ事を言ってんだよこの医者は!まあ、だいたい分かるけどさ。
「やっぱり・・・・・・・・・か」
「やっぱりガンです!」
そのやっぱりって言葉は、いったいどこに掛かってるんだよ!本当に面倒臭いなぁ。
「何で精密検査もしてないのにガンと言い切れるんですか?」
「やだ?じゃあ何がいいかなぁ?どんな病気が似合うかなぁ?」
洋服屋さんじゃないんだからさ!似合うってなんだよ似合うって!もう答え言っちゃおう。だって、この医者面倒臭いんだもん。
「風邪でしょ?」
「まあね。」
僕は思った。人を不愉快にさせる笑顔って本当にあるんだなと。
「心配せんでもただの風邪じゃ。」
ここにきてお師匠さん出て来ちゃったよ!登場までえらい長かったなぁ。
「でも、ただの風邪で安心しました。」
「ただの風邪って言っても支払いがただって訳じゃないですよ。」
ガキみたいな事を言ってんじゃないよ。
「分かってますよ。」
「ただの風邪って言うのは、あなたがただで風邪になったと言う意味です。」
「お金を払ってなる風邪なんてあるんですか?」
「ありますよ。」
ないよ!
「そこのコンビニの横にある自動販売機で売ってますよ。あっ!?でも昨日、撤去されてたなぁ。」
なんでしてやったりみたいな顔してんだよ!見に行かないよ!別に帰りに確かめに見に行ったりなんかしないんだからガキみたいな下手な言い訳すんなよな!心底面倒臭い医者だなぁ。
「じゃあ、念のために一応診察しますんで上着を脱いで下さい。」
まったく、とんでもなく時間の無駄しちゃったよ!
「はい。後ろ向いて。」
なんか無駄にエネルギーを使った感じがするなぁ。
「はい。それじゃあ、上着を着たら次は熱を測りましょう。」
ん?待てよ?なんだか様子がおかしくないか?なんか変だぞ?
「やっぱりちょっとありますね。」
これ?普通じゃない?普通に診察してない?ここら辺のくだりこそ、ボケる要素満載じゃないの?
「念のために注射を打っときましょう。」
「は、はい。」
「注射を取ってきますんでお待ち下さい。」
「はい。」
「ガチャッ。バタン。」
なんだか拍子抜けした感じだなぁ。まるで、今まで起きていた事が全て絵空事のようにさえ思えてきたよ。もしかしたら僕は、勘違いしていたのかもしれない。
「ガチャッ。バタン。」
「それでは腕を捲くって下さい。」
って!?なんでパイまみれになっちゃってんだよ!「あんた誰だよ!」的になっちゃってるよ?向こうでいったい何があったんだよ!勘違いしていたのが勘違いだったよ!
「はい。終わりましたよ。」
そんな視界で無事に注射が終わった事が奇跡に近いよ!
「それじゃあ、お薬の方を19種類出しときますね。」
多っ!?とてもじゃないけど、もし食後の話だったら無理な量だよ!
「2、3種類程度にしてもらえませんか?」
「分かりました。じゃあ、3種類を一回分出しときます。」
少なっ!?昼過ぎには、また取りに来なきゃならないだろ!
「二、三日分ぐらいもらえませんか?」
「分かりました。じゃあ、三日分お出ししましょう。」
ここら辺は、相変わらずの面倒臭さだなぁ。そうだ!
「運動は出来ますか?」
「ああ、運動ね。どんぐり拾い以上でんぐり返し未満の運動なら出来ますよ。」
基準が分からないよ!悪かったんだね。聞いた僕が悪かったんだね。
「軽い運動なら出来るって事ですか?」
「そうですね。あと食事の方は、しばらく油っこいものは控えて下さい。」
満面クリーム顔で言うなよな!さっきっからパイがボタボタ落ちてるし、なんか見た目からしてグダグダ感あり過ぎだろ!
「それじゃあ、すぐお薬をお出ししますんで、受付の方でお待ち下さい。」
「はい。」
やっとだよ。やっと終わったよ。なんか病状が悪化した気がプンプンするよ。
「ガチャッ。」
「はぁ。」
出ちゃうよ。そりゃ溜め息も出ちゃうよ。出ちゃいますよ。
「バタン。」
「ガーン!」
タライだ。きっとドアの向こうで医者の頭の上にタライが落ちたんだ。でも僕は、ドアを開けて確かめる事などせず、長椅子に腰掛けた。なぜかって?それはどうでもいい事だからだ。そして、それはとても面倒臭い事だからだ。僕は、しばらく座りながら考えていた。次、病気になったらどこに行こうかと。ん?それにしても?すぐって言ってたのに気持ち遅くないか?僕は、受付を覗き込んだ。
「すいません。」
さっきいた受付の女性の姿が見当たらない。
「すいませーん。」
なにしてるんだ?こっちは早く帰って薬飲んで寝たいのに。
「すいませーん!」
待たせ過ぎじゃないか?
「すいませんっ!!」
「お待たせしました。」
案の定だよ!案の定あの医者が女装して出て来ちゃったよ!パイが残ってるし化粧が中途半端だし!やるならちゃんとやれよな!とことん面倒臭いなぁ。
「こちらを食後にお飲み下さい。」
絶対にツッコミを入れるものか!入れてたまるか!
「分かりました。」
「お大事に。」
「ありがとうございました。」
こんな屈辱的な気持ちで感謝の言葉を述べたのは、生まれて初めてだよ!
「ガチャッ。」
どうせ・・・・・・・・・。そう思いながら僕は、ドアを開けて外に出た。
「バタン。」
「ガーン!」
ほらね。やっぱりだ。僕は、もちろん振り返る事もツッコミを入れる事もなく、もう病気なんてうんざりだと思いながら家路を急いだ。

第二十七話
「コントな医者」

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