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2007年1月17日 (水)

「第三十一話」

 携帯電話と言う代物を誰もが使っていた時代がある。そんな時代の出来事であった。
シャワーを浴び終えた若い女性が白いバスローブ姿に白いバスタオルで頭を拭きながら白いベットのある白い寝室を歩いていると突然。
「Ring!Ring!Ring!Ring!」
白い携帯電話が鳴った。
「Pi!」
若い女性は、何の躊躇いもなく慣れた手付きで白い携帯電話に出た。
「助けてくれ!」
白い携帯電話の向こうからは、危機迫る中年の男性の声が聞こえてきた。
「誰?」
「助けてくれ!」
「誰なの?」
「頼む!助けてくれ!」
「どうして番号を知ってるの?」
「この番号にしか掛けられなかったんだ!」
「どう言う事?」
「分からない!とにかく助けてくれ!」
「助けるって何?だいたい今何時だと思ってるの?夜中の2時よ?イタズラするにしても時間帯を考えなさいよね。」
「こんな夜中にいきなり電話をしてしまってすまないと思っている!だが」
「なら切るわよ。」
「待ってくれ!どこか真っ暗な場所に閉じ込められているんだ!助けてくれ!」
「知らないわよ!自分でどうにかしなさいよ!」
「どうにか出来ないから君に助けを求めているんじゃないか!」
「いい?私とあなたは、まったくの他人なの!分かる?何の接点もないの!あなたがどこに閉じ込められようが私には関係ない事なの!私にあなたを助ける義務なんて一つもないの!あなたのイタズラに付き合ってるほど私も暇じゃないの!!」
「イタズラなんかじゃない!お願いだ!助けてくれ!」
「本当に切るから。」
「待ってくれ!」
「いやよ!」
「頼む!聞いてくれ!!」
「さようなら!」
「妻が死にそうなんだ!」
「そんな嘘に引っ掛かると思ってるの?お大事に!」
「嘘じゃない!」
「あんまりひつこくするなら警察呼ぶわよ!」
「思い出した!」
「えっ?」
「思い出したんだ!」
「何を思い出したの?」
「事故に遭ったんだ!」
「事故?」
「ひき逃げだよ!」
「えっ?!」
「私と妻が横断歩道を渡っていた時に車が突っ込んで来たんだ!」
「じゃあ、その時に奥さんが事故に遭ったってわけ?」
「そうだ!その時妻が撥ね飛ばされ、そして地面に叩き付けられた後に妻の体の上をその車が・・・・・・・・・次に見た時には、変わり果てた妻の姿が・・・・・・・・・。」
「なんて事!?でもそれじゃあ、奥さんは死んでしまったんじゃ・・・・・・。」
「いや、微かにだが息はしていた!微かにだが・・・・・・・・・。」
「じゃあ、どこかに閉じ込められてるって、もしかして事故の目撃者のあなたを犯人は、連れ去ったって事?」
「いや・・・そうじゃない・・・。」
「違うの?奥さんをひき逃げした犯人は!目撃者であるあなたの口を封じるためにどこかに監禁してるって事でしょ!!」
「違うんだ・・・・・・・・・。」
「何が違うのよ!あなた気が動転していて状況が掴めてないのよ!早く逃げないとあなたも殺されちゃうわよ!分かったわ!すぐに警察に通報してあげる!」
「待ってくれ!また・・・・・・思い出したんだ・・・・・・。」
「何を思い出したの?」
「妻だけじゃない。」
「えっ!?」
「ひき逃げされたのは、妻だけじゃないんだ。」
「まさか!?他の通行人も巻き添えになったの!?」
「違う・・・あの時あの横断歩道を渡っていたのは・・・・・・・・・他の通行人じゃない。」
「ならあなたの勘違いよ!やっぱり気が動転してるのね!しっかりしなさい!落ち着いて!落ち着きなさい!」
「いや・・・気など動転していない。結婚記念日だったんだ。レストランで夕食をすませ、年甲斐もなく妻と私は手を繋ぎ・・・楽しい会話をしながら横断歩道に差し掛かった・・・他に通行人などいなかった・・・そう・・・ひき逃げされたのは・・・私達二人なんだ。」
「な、何を言ってるの!?あなたは、こうして私と話してるじゃない!」
「私は・・・妻と一緒に撥ね飛ばされた・・・そして・・・妻を真横でずっと見ていた・・・・・・地面に叩き付けられた時も・・・運悪く妻だけタイヤに踏み潰された時も・・・・・まるでスローモーションの映像を見ているかのようだった。」
「あなた大丈夫?」
「私達は・・・その間もずっとお互いの手を握り締めていた。」
「さっきから何を言ってるのよ!」
「大事な事を思い出したんだよ。」
「大事な事?」
「見たんだ。」
「何を見たの?」
「ひき逃げをした犯人の顔だよ。ひかれる直前に運転席の犯人と目が合ったんだよ。」
「見たの?」
「ああ、はっきりと思い出したよ。電話をしていた。携帯電話で誰かと会話をしながら運転していた。だから赤信号にも気が付かなかったんだろう。楽しそうに笑いながら・・・私達の事など気にもとめず・・・白い携帯電話で・・・きっと彼氏と話していたんだろうな?本当にとても楽しそうな笑顔だったね。」
「あなた・・・・・誰?」
「だから言ってるじゃないか。」
「誰よ!」
「君にひき逃げされた夫婦の夫だよ!!」
「ふざけないでよ!!やっぱりイタズラね!いったいどこから掛けてきてるのよ!!」
「君のすぐ近くからだよ。閉じ込められたのではなく、私はここに入り込んだんだ!君に懺悔させるためにな!!」
「どこよ!どこにいるのよ!」
「くっくっくっくっくっ。」
「どこ!どこ!どこよ!隠れてないで出てきなさいよ!!」
「くっくっくっくっくっ。」
「どこよ!どこ!どこにいるのよ!どこよ!どこ!」
「くっくっくっくっくっ。」
「どこ!どこ!どこにいるの!どこ!どこなのよ!どこにいるのよ!」
若い女性は、白い携帯電話を片手に家中の扉と言う扉を開けて回った。
「くっくっくっくっくっ。」
「とっとと出てきやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

第三十一話
「待受画面」

「くっくっくっくっくっ・・・・・・ここだよ・・・・・・ここ・・・・・・くっくっくっ。」

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