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2007年5月16日 (水)

「第四十八話」

「おい人間!人間の男!男人間!」
「うるさい兎だな?何だよ!」
「我輩の耳を放してくれ!」
「放したらお前は逃げるだろ?」
「逃げるなどと卑怯な真似などしないから、我輩の耳を放してくれ!」
「信じられないね。」
「男人間!信じる心を失ってしまうってのは、とても悲しい事なのだぞ?」
「お前さっき逃げただろ!」
「過去を振り返るな男人間!」
「はいはい。」
「我輩には、全てお見通しだぞ?お前は、我輩を食べる気だろ!」
「そうだ。」
「しかも家族で食べる気だろ!」
「ああ、そうだ。」
「悪い事は言わない。男人間よ。我輩を食べるのは、やめておけ!」
「何でだ?」
「我輩には、毒があるのだ!我輩は、毒兎なのだよ!」
「そうかい。」
「いや男人間!本当なのだよ!」
「何でお前に毒があるって分かるんだ?」
「昔、我輩を食べた人間が死んだのだ。」
「どうして食われたのにお前は生きてるんだ?」
「その辺は、シークレットと洒落込もうじゃないか。男人間よ。」
「嘘なんだろ?」
「嘘ではない!男人間よ!」
「そもそもお前みたいに喋る兎自体が嘘みたいな存在なんだから、お前の言ってる事なんか最初から信じちゃいないさ。」
「男人間!お前とお前の家族が死んでも我輩は知らんぞ?」
「お前は、鍋の中から俺達一家の行く末を見守っていてくれ。」
「そうだ男人間よ!」
「何だ?」
「こんな事もあったのだぞ!ある日、我輩の所にそれはそれは偉い。とてもとても偉すぎる学者がやって来たのだ。でな、そのとてつもなく偉い学者が言うにはな。我輩の体には毒があるのだと。」
「何て学者だ?」
「えっ?」
「学者の名前だよ。有名な学者だったんだろ?」
「有名人間だったな。有名過ぎる人間だったぞ!」
「教えてくれよ。何て名前の学者だったんだ?」
「確か・・・・・・ここまで出てるんだが・・・・・・。」
「やっぱり嘘か。」
「嘘ではない!えいと・・・・・・そうだ男人間!」
「思い出したのか?」
「我輩の耳を放してくれたら思い出せそうだ。」
「やっぱり逃げたいだけか。」
「違う!我輩は、ただ男人間に有名人間の名前を教えたいだけだ!我輩は、生まれてから一度も逃げた事などない!」
「だからお前は、さっき逃げたばっかりだろ?」
「逃げると言うのはな男人間よ!逃げ切れてこそ初めて逃げたと言えるのだよ!」
「逃げようとしたんだろ?」
「男人間よ!」
「何だ?」
「何とか食べる方向ではなく、我輩を飼うと言う方向に話を持って行く事は、出来ないものだろうか?」
「そりゃ無理だ。なんせ俺達一家は、兎が大の好物だからな。悪いな兎。」
「我輩は、家事手伝いなら何でも熟せるぞ?美味しい兎鍋も作ってやろう。」
「別にいいよ。」
「何を遠慮しているのだ男人間よ。お前らしくもない。我輩は、知っているぞ?男人間の一家は兎が大の好物だって事をな。」
「俺がさっき言ったからだろ?兎よ。お前さっきから自分で何を言ってるのか分かってて話をしているのか?兎が兎を料理するなんて聞いた事ないぞ?」
「我輩もだ。」
「食われたくないだけなんだろ?もういい加減に観念したらどうだ?」
「男人間!観念しろとは、我輩に負けを認めろと言う事か?」
「簡単に言うとそうだな。」
「我輩は、敗北など認めないぞ!例えこの肉体が滅びようとも魂はこの世に生き続けるのだ!」
「だったら食われてもいいじゃないか。」
「いや男人間。それとこれとは、話が全然別なのだ。恥を承知で正直に言おうではないか!実は我輩、今ちょっとだけ恰好付けたかっただけなのだ!」
「そうかい。」
「男人間!!!」
「何だよ大きな声だして!」
「びっくりして手を放すかなと思ってな。実験を試みただけだ。」
「兎。」
「何なのだ?手を放す気になったのか?」
「お前、必死だな。」
「まあな。我輩は、何事にも一生懸命に取り組む兎だからな。」
「だったら一生懸命に食べられてくれ。」
「そうだ男人間!」
「今度は何だ?」
「今度とか言うな。男人間よ。我輩と組んで一儲けしようではないか!」
「何だって?」
「喋る兎などきっと世にも珍しいぞ!すぐに有名になってお金が入ってくるぞ!どうだ!なかなかのナイスアイディアだとは思わないか?男金持ち人間になれるのだぞ!」
「興味ないね。俺は今のままの暮らしで十分に満足している。それこそ大金なんてもんは、俺にとったら毒みたいなもんだ。」
「よし!ではこうしようじゃないか!男人間は、今までの暮らしをする。その間に我輩が稼いでくる!どうだ?悪い話しではないと思うのだが?」
「おいおい兎。俺の話をちゃんと聞いてなかったのか?金なんかいらないんだよ。それに、何だかんだでお前逃げる気なんだろ?」
「逃げるものか!」
「まあ、どっちにしろお前はもうすぐ家族みんなの胃袋の中だ。」
「面白いな男人間!そのジョークを食われる前に森の動物達に教えたいから耳を放してくれ。」
「次から次へと、よくもまあ下らない事を考えつくもんだな。」
「やはり我輩を食べる気なのか?」
「食べる気はない。」
「男人間!考え直してくれたのだな!うむうむ。男人間ならそうするだろうと我輩は、信じていたぞ!さすが男人間だ!立派だ!男人間の中の男人間だ!」
「食べる気じゃなく食べるって決定してるんだよ。」
「返してくれ男人間!今の我輩の大絶賛の言葉を返してくれ!」
「さて兎。あの赤い屋根の家が俺の家だ。」
「男人間!今まで黙っていた事を許してくれ!」
「まだ何か下らない事を言うつもりなのか?」
「我輩には、男人間に隠していた重大な秘密があるのだ!」
「別に聞きたくないって言っても喋るんだろ?」
「実はな・・・我輩はな・・・この国の国王なのだ!」
「・・・・・・・・・。」
「ん?どうした男人間よ?なるほど、さすがにこの真実には、男人間も驚いたって事か。分かるぞ男人間。しかし、我輩は男人間が我輩にしている我輩の耳を掴むと言う行為を許してやるぞ!男人間は、きっと我輩と兎を間違えたのだろうからな。我輩が男人間の立場でも同じ事をしただろう。さあ、お遊びはこれぐらいにして、我輩の耳を放してくれ。男人間とその家族を我輩の城に招いて兎を使った料理を振る舞おうではないか!」
「プッハハハハハ!」
「嬉しいか男人間!嬉しい時や楽しい時には、そのように大声で笑っていいのだぞ!逆に悲しい時や淋しい時には、大声で泣いていいのだぞ!」
「ハハハハハ!兎よ。そこまでの嘘をよく考えついたな。」
「いや男人間よ。これは嘘ではないのだ。」
「ほら、もうすぐ家だ。」
「男人間?よく聞くのだ!今までついた嘘に対しては、我輩が謝ろうではないか。だがな。男人間よ。我輩が国王って事は、本当なのだぞ!」
「分かっています分かっています。分かっていますよ国王さま。」
「そうか。ありがとう男人間よ。ならば、この手を放してくれないか?」
「ちゃんと国王さまを家族みんなで美味しく食べさせてもらいますよ。」
「おい男人間!話が違うではないか!」
「はいはい。」
「我輩は、この国の国王なのだぞ男人間!お前は、国王を鍋にして食べると言うのか!」
「久しぶりの兎鍋だ。」
「よだれを垂らすな男人間!何度も言うが我輩は、国王なのだぞ!」
「さあ、家に着きましたよ国王さま。」
「貴様!我輩を食べたら重罪なのだぞ!処刑なのだぞ!」
「国王さまに家の鍋の湯加減を気に入ってもらえるといいんですけどね。」
「まだ遅くはない!考え直せ男人間よ!」
「楽しかったよ兎。」
「我輩は兎ではない!」
「ガチャッ。」
「帰ったぞー!今日は、兎鍋だー!」
「我輩は国王だー!!」
「バタンッ!」

第四十八話
「謎の死を遂げた一家」

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