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2007年8月 1日 (水)

「第五十九話」

 みんなは、自分の宝物を持っているだろうか?

『国民宝物分配制度』

半年前に決まったこの制度。国民全員に宝物を分配すると言う制度だ。以前から宝物を所有する者は、国が行う『宝物鑑定検査所』に持って行き、そこで合格の『宝物印』を押してもらわなければならない。じゃあ、そこで不合格となった者や元々宝物を所有していなかった者はどうするのか?

『国民宝物分配制度』

そこで登場するのが、この制度だ。国は、宝物を通じて喜びや幸せ、逆に失った時の後悔や悲しみなどを教えていく方針らしい。因みに、宝物を失った者は、一定期間内に新たな宝物を自分で見つけるか、もしくは再び国から宝物を受け取るかのどちらかを行わなければならない。話が少し横道に逸れたが、国から宝物を受け取る場合、『宝物鑑定検査所』で手続きを踏んだあと、国がランダムに決めた宝物が自宅に送り付けられてくる。

『ヘドロ君』

そして、これが国から送り付けられてきた全身ヘドロで出来た僕の宝物、ヘドロ君だ。
「腹減ッタ。」
ヘドロ君は喋る。きっと存在的には、ペットのような感じなんだろうと思う。
「ウェェェェェェェェェ!!」
ヘドロ君は、口からヘドロを吐く。しかも、かなり頻繁にヘドロを吐く。そして、そのヘドロは強烈な異臭を放つ。でもって、普通に部屋が汚れる。
「眠イ。」
ヘドロ君は、よく寝る。だから、よく育つ。最初は、手の平に乗るぐらいの大きさだったのに、今では二メートルぐらいに成長した。高さもそうだけど、同時に幅もよく育った。もちろん、ヘドロ君は手の平に乗るぐらいの大きさの頃から可愛くない。ヘドロ君に可愛い時期なんてない。
「ブギィィィィィィィィ!!」
これは、ヘドロ君の鳴き声だ。聞いてるだけでも吐き気のする鳴き声だ。しばらくすると、窓にはびっしり虫達が張り付いている。何匹か事典で調べても名前が分からない虫も付いていた時もあった。
「デカイ鼻糞トレタ!」
ヘドロ君は、自分の鼻糞を収集している。いわゆる鼻糞収集家だ。もちろん鼻糞もヘドロだ。僕には区別がつかないが、ヘドロ君には区別がつくみたいだ。その鼻糞も強烈に臭い。ヘドロ君は、それを大事そうに一個一個ビンの中に入れて、そこら辺に保管している。今では、足の踏み場もないぐらいだ。
「ウェェェェェェェェェ!!」
僕は、なぜ自分が提出した家族の写真が宝物として不合格になり、おまけに没収までされたにも係わらず、どうしてこんなヘドロの化け物が宝物として合格なのかを考えた。
「ウェェェェェェェェェ!!」
まあ、答えなんか出る訳がない。問い合わせをしたとこで、「国の決定です。」と素っ気なく言われておしまいだ。

『国民宝物分配制度』

これの厄介な点を説明しなければいけない。基本的には、国から送り付けられてきた宝物は、手放す事が出来ない。誰かと交換したり、誰かと売買したり、故意に破壊した時点で即逮捕だ。場合によっては、極刑になる恐れもある。つまり、死刑だ。
「ウェェェェェェェェェ!!」
だから、僕はヘドロ君を手放したり売ったりする事が出来ない。まあ、貰ってくれる人も買ってくれる人もいないだろうけど・・・・・・・・・。自らの手で破壊する事も出来ない。ヘドロ君が自然に死ぬか、何かしらの国を納得させられるだけの紛失理由がない限り、僕は死ぬまでヘドロ君と一緒だ。
「ヘドロ君?」
「ナニ?」
「君って死ぬの?」
「分カラナイ。」
ヘドロ君と一緒にダンボールに入っていたもの。

『ヘドロ君取り扱い説明書』

によると、「基本的にヘドロ君は死にません。」と書かれていた。基本的って何だ?確かに、見るからに死にそうもない。「ただし、きちんと育ててあげないと死にます。」と付け加えて書かれていた。他には、生息地「下水道」とも書かれていた。
「ヘドロ君?」
「ナニ?」
「夕ご飯なににする?」
「汚イ物!」
好きな食べ物の欄には、読んだだけでも気分が悪くなるような物が書かれていた。でも、ヘドロ君の死=僕の死なので、僕は毎日一生懸命に汚い物を集めた。
「ヘドロ君?」
「ナニ?」
「暑くない?」
「調度イイ!」
ヘドロ君は、寒さを嫌い暑さを好む。だから、強烈な異臭が激烈な悪臭に変わり、猛烈な刺激臭になる。鼻の穴に何を詰めたって、それは無意味の一言。何度か警察が僕の家にやって来た事があった。でも、ヘドロ君の事を説明すると、「頑張って下さい!」と握手を交わし、納得して帰って行く。
「ヘドロ君?」
「ナニ?」
「お風呂入ってもいい?」
「ダメ!」
何が我慢出来ないって、僕も不潔にしないといけないって事だ。ヘドロ君は、基本的に清潔を嫌い不潔を好む。不潔にしていないと死んでしまうらしい。
「ウェェェェェェェェェ!!」
よく考えてみれば、こんな珍しいと言うか未知の生物は宝物かもしれない。でも、わざわざ宝物にする必要もない。そもそも宝物にしたくもない。誰にも自慢出来ないし、誰にも理解されないと思う。
「ヘドロ君?」
「ナニ?」
「君なんて宝物じゃない!!」
「オデ、ヘドロ君!オデ、オ前ノ事、好キ!」
その言葉だけなら素直に受け取ろう。だけど、抱き着くのだけはやめてくれヘドロ君。
「オ前モ、ヘドロ君!」
確かにヘドロ君のヘドロが全身にネチャネチャくっついてるけど、僕は断じて
「ヘドロ君なんかじゃない!!」
「ブギィィィィィィィィ!!」
聞いてないよ。
「ヘドロ君?」
「ナニ?」
「君は」
それは突然の事だった。

「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!」

「えっ!?」
大地震だった。
「ウェェェェェェェェェ!!」
「暢気に吐いてる場合じゃないよヘドロ君!このままじゃ!マンションが崩壊しちゃうよ!早く逃げないとダメだ!」
「ウェェェェェェェェェ!!」
「ヘドロ君!!」
そして

「ドガァァァァァァァン!!」

あっという間にマンションは、崩壊した。
「ん?」
生きてる。そう、僕は生きていた。この大地震が引き起こした大惨事の中、僕は生きていた。12階建てのマンションの5階に住んでいたのに、僕は無傷で生きていた。マンションは、跡形もなく崩壊したと言うのに・・・・・・・・・。
「ヘドロ君?」
しばらくして僕は、ヘドロ君の姿を探した。しかし、僕の回りには、ヘドロが飛び散って出来たと思われるヘドロの沼しかなかった。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー!」
遠くの方からやって来るサイレンの音を聞きながら、僕は全てを理解した。マンションが崩壊する寸前にヘドロ君が僕を自分の体の中に入れて守ってくれたのだと・・・・・・・・・。
「ヘドロ君・・・・・・・・・。」
僕は、ヘドロの沼を見ながら呟いた。
「ありがとう・・・・・・・・・ヘドロ君。」
そして、命懸けで僕を守ってくれたヘドロ君に感謝した。僕は、最高の宝物を手にしていたんだと、この時初めて理解した。
「オデ、ヘドロ君!」
「ヘドロ君!?」
目を疑った。ヘドロの沼からちっちゃな、手の平に乗るぐらいの大きさのヘドロ君が出て来た。
「生きてたの?」
「生キテタ!!」
この時僕は、近くに落ちていた粉末洗剤の箱を無意識に手に取ると、何の迷いもなくヘドロ君に向け、ぶちまけていた。

第五十九話
「潔癖症な男」

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