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2007年8月 8日 (水)

「第六十話」

「ピッ!」
「指紋及ビ網膜情報ヲ承認シマシタ。」
「ウィーン!」
白衣を着た男が、幾多の厳重なセキュリティを通過してエレベーターに乗り込んだ。
「ピッ!」
「ウィーン!」
「ウーン!」
男は、地下1104階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まり、そして静かに動き出した。
「随分とのんびりしたご登場だな。」
エレベーター内に備え付けられているスピーカーから男の声が聞こえて来た。
「ごめんごめん。空が渋滞してたんだよ。」
「だったら地下でも地上でも使えばいいだろ?」
「落下事故でルートが全面封鎖されてたんだよ。」
「ならしょうがないな。でも最近は、下手くそなくせして珍しがってやたらと空を走りたがるドライバーが増えて困ったもんだな。」
「まあ、仕方ないさ。新しい事に興味を持つ。人間のいい部分だよ。」
「車が空を飛ぶ事がそんなに珍しいかねぇ。」
「僕らは、実験や試作を何度も繰り返して試乗していたからそうは思わないけど、世の中の人からしてみれば、画期的で好奇心をくすぐられる夢の未来カーなんだよ。」
「それで作った本人が事故に巻き込まれたんじゃあ、皮肉な話だな。はっはっはっはっはっ!」
「はいはい。どうせ僕は自業自得ですよ。でも今回の研究は、そうならないように願っててよ。」
「そうそう。今日だろ?第一号としてお前が実験台になるのは?」
「実験台って言われとあれだけど、この実験が成功すれば、人類にとっては大きな一歩になると思うんだ。」
「でも、本当にやるのか?ギリギリまで考えさせてくれって言ってただろ?」
「正直、ここに来る直前まで迷ってたんだ。でも、あの落下事故で決意が固まったんだよ。完璧なクローン技術が完成すれば、人間は失った箇所の体や病魔に侵された箇所の体を完璧に再生出来る。ただ、倫理に反する部分では、今でも本当にこのまま実験を進めていいものなのか迷ってるけどね。」
「まあ、準備万端で下で待ってるから、エレベーターの中でゆっくり答えを探せばいいさ。別に土壇場になってお前が中止にしたとこで、研究チームの誰一人として文句を言う奴なんかいないんだからな。」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。」
「クローンの研究が全てじゃないんだ。お前にとっては、まだまだそんなもんは通過地点なんだからな。」
「君にそんな風に言われるなんて、何だか気持ち悪いな。」
「おいおい。俺だってたまには女以外も慰めてやる事もあるんだぜ?」
「君に慰められるとはね。天変地異でも起きなきゃいいけど?」
「はっはっはっはっはっ!言ってくれるじゃないか。だがなぁ、みんなお前の発想力や想像力や技術力には期待してるんだよ。まあ、何よりもお前と一緒に研究出来るのが楽しいんだけどな。」
「何だかくすぐったいな。」
「ちょっと子供っぽいけどな。」
「一言多いんだよ。」
「はっはっはっ!それじゃあ、下で待ってるからな。」
「うん。」
「淋しくなったら通話ボタンを押すんだぞ?」
「分かったよ。」
「じゃあ、退屈な旅を満喫して下さいコ」

「ガゴォォォォォォォォンッ!!」

大きな音と激しい揺れと共にエレベーターは、停止した。
「えっ!?どうしたんだ?」
男は、突然の出来事に動揺していた。何が起こったのか分からず、想定外の事態を引き起こした最新設備のエレベーター内。その密室の中に一人閉じ込められてしまった男は、必死に通話ボタンを押していた。
「おい!どうしたんだよ!いったい何が起こったんだよ!」
男は、軽いパニック状態に陥っていた。
「おい!みんな大丈夫なのか!返事をしてくれ!僕はエレベーターに閉じ込められた!外でいったい何が起こったんだ!誰か返事をしてくれよ!!」
「ガンガンガン!」
男は、必死になってエレベーターの扉を叩いた。
「ガンガンガン!」
「おーい!誰か!誰か返事をしてくれ!いったい外で何が起きたんだ!」
「ピッ!」
男は、再び通話ボタンのスイッチを押した。
「こちらコマツ!誰でもいい!頼む!誰か返事をしてくれ!!」

第六十話
「彼の名は、コマツ」

「こちらコ」
「ウーン!」
コマツが通話ボタンを押して喋っていると、静かにエレベーターが動きだした。
「どうでしたかコマツ博士?退屈な旅がスリリングな旅に変わった感想は?」
エレベーター内のスピーカーからは、先程の男の声が聞こえて来た。
「悪い冗談はやめてくれよ。」
「実は、冗談なんかじゃないんだ。」
「えっ!?本当に何かあったのかい?」
「旧冥王星の軌道が急に変わったんだ。」
「えっ!?」
「だが安心してくれ。SS財団の開発した軌道修正装置が作動して、すぐに旧冥王星の軌道は元に戻った。軌道修正装置から放たれたレーザーの反動で地球全体が多少の衝撃を受けたが、被害はゼロと確認された。」
「良かった。でも、もし旧冥王星が軌道を外したままだったらどうなっていたんだろう?」
「さあな?何にも起こらなかったかもしれないし、とんでもない天変地異が起こってたかもしれないな。まあ、何も起こらなかったからいいじゃないか。」
「SS財団・・・・・・・・・スカイシュリンプ財団・・・・・・・・・。」
「天才博士の無用の遺産がやっと役に立った訳だ。あれを作るに当たって博士は、他からの猛反対の声があったにもかかわらず、半ば強引に完成させたらしいからな。」
「そこまでして天才が残した遺産・・・・・・・・・やっぱり何か意味があったんじゃないのかなぁ?」
「考え過ぎなんだよコマツは。博士亡き後、その真相を知る者は誰一人としていないんだ。考えたってしょうがない事さ。まあ、タイムマシーンでもあれば話は別なんだけどな。」
「タイムマシーンか・・・・・・・・・。」
「案外あの博士だったらひそかにタイムマシーンを作ってたかもしれないな。」
「かもね。」
「それにしてもコマツ?」
「なんだい?」
「モニターから見えたお前の慌てっぷりには笑わせてもらったよ。」
「えっ?」
「いや~、人類に残された最後の人間って感じがして良かったぞ?迫真の演技だったよ!はっはっはっはっはっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうしたんだコマツ?もしかして怒ったのか?わりぃわりぃ。すぐに音声回線が回復しなかったんだ。わざとお前の呼び掛けに答えなかった訳じゃないんだ。すまなかった。」
「そうじゃないんだ。別に僕は怒ってる訳じゃないんだよ。」
「ん?だったらどうした?もしかして衝撃でどこか打ったのか?気分が悪いなら近くの階に止まって診てもらった方がいいぞ。」
「ありがとう。体は大丈夫だよ。」
「ならどうした?」
「やめようと思うんだよ。今日やろうとしていたクローン実験を・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「中止にするよ。」
「いいのかコマツ。」
「うん。」
「でも、なぜ急にやめる事にしたんだ?」
「何となく。」
「何となく?」
「そう、何となくやめようと思ったんだ。きっとこの研究は、まだ必要ないんだって思ったんだよ。」
「何となくか・・・・・・・・・はっはっはっはっはっ!全くお前らしいよコマツ。分かった。チームのみんなには、お前がこっちに着く前に俺から説明しといてやる。」
「ありがとうコマツ。」
「同じ苗字の誼みだ。でも、そのかわり昼飯おごれよな。」
「分かったよ。そうだ!この前、美味しいエビフライを出すお店を見つけたんだけどどうだい?」
「エビフライか。いいな!そこに行こう!昼飯を食いながらでも俺の合体お手伝いロボットの案を聞いてくれよ。」
「何だか面白そうな話だね。」
「お前ならそう言ってくれると思ったよ。」
コマツを乗せたエレベーターは、間もなくコマツの待つ研究室に着こうとしていた。

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コメント

PYNさん、大変ごぶさたです(;^_^A♪

苦労んネタですか……。

財団名が出てきたあたりで、海老天重が食べたくなってきました♪

アメfullmoonロの方はお客さんの入りはどうですか?

そうそう。文芸ウェブさあちのコメディ・ジョークのカテゴリがずっと更新反映されていないようなので、管理人のこざるサンに訊いてみます♪

スミマセン、少し疲れていたのですが、また、元気になりました。

ではまた♪

投稿: MASSIVE | 2011年10月23日 (日) 19時28分

MASSIVEさん、お久しぶりプリシュリンプ!!

はい、クローン寝たです。

まあでも、もしかしたらあんましクローンになっていないかもですが・・・・。

あっ!飴風呂の方ですか?う~ん?ぼちぼちぼちぼちぼちぼちぼちぼち・・・な感じですかねぇ。

ありゃ?更新が反映されていませんでしたか?ちょっと僕の方でも確認してみます。

しかし、MASSIVEさん。憑かれているにも係わらず僕の短編を読みに来てくれるだなんて、とんだチャレンジャー過ぎます!

でも、元気になってもらえて良かったです。

喫茶店に行くが如く、お好きなタイミングでまた、気分転換にでも暇潰しにでも、お越し下さいな。ちょっと刺激的なコーヒーしかお出しできませんが、いつでもウェルカム状態でお待ちしておりますから。

コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2011年10月24日 (月) 00時30分

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