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2007年9月19日 (水)

「第六十六話」

「はじめまして。」
「あんたが出版社の人かい?」
「はい。お電話でもお話した通り、あなたのお作りになるチーズは最高とのお噂を聞き付けまして、今回うちから出す本の取材にやって来ました。今日は、宜しくお願いします。」
「ああ、こちらこそ。ところで?」
「はい。」
「チーズ作りの現場は初めてかい?」
「はい。初めてです。」
「なら、昨日の夜は緊張して眠れなかっただろ。」
「えっ?いえ、特に緊張して眠れなかったと言う事はありませんでした。」
「俺は眠れなかった。」
「はい?」
「本の取材なんて生まれて初めての事だったから緊張して緊張して。」
「そうでしたか。でも、心配しないで下さい。僕のする簡単な質問に答えてもらった後に、いつも通りにチーズを作ってもらえればいいだけですから、安心して下さい。」
「それと、眠いのに朝まで牛の出産に立ち会って立ち会って。」
「緊張したのと眠れなかったは、それぞれ違う理由があったようですね。」
「さて!」
「さて?」
「チーズ作りに1番大切な事は何だか分かるかい?」
「チーズ作りに1番大切な事ですか・・・・・・・・・あのすいません。僕から質問しても宜しいですか?」
「宜しいです。」
「助かります。それでは、最初の質問なんですが、チーズを作ろうと思ったきっかけは?」
「チーズ作りに1番大切な事かい?それは」
「すいません。」
「何だい?」
「チーズ作りに1番大切な事ではなくて、チーズを作ろうと思ったきっかけです。」
「すまんすまん。緊張してつい。」
「大丈夫ですよ。ちょっと深呼吸しましょうか?」
「いやそれはお断りだ!」
「えっ!?そ、そうですか。ま、まあ、では改めてお聞きします。チーズを作ろうと思ったきっかけは?」
「チーズ作りに1番大切な事かい?だったら」
「わざとやってません?その質問は後でちゃんとしますから、今はチーズを作ろうと思ったきっかけをお答え下さい。」
「そうなの?」
「はい。それでは改めてお聞きします。チーズを作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。チーズを作ろうと思ったきっかけですよ!」
「俺がチーズを作るきっかけになったのは、ある日いつものように牧場に足を運ぶと、そこにはUFOが」
「すいません。」
「何だい?」
「嘘やめてもらっていいですか?」
「面白いかなと思ったからさ。」
「読者は面白さを求めている訳ではないんです。それに、今の話だと出版する本の方向性が大きく変わってしまいますから、真実のみでお願いします。」
「宇宙人が」
「すいません!」
「きっかけは・・・・・・・・・挑戦さ。」
「挑戦?と言いますと?」
「俺ならもっと最高のチーズを作れると思ったからだよ。」
「なるほど!チーズ界に革命を起こそうと思った訳ですね!」
「そこまでの軍事力は兼ね備えてないよ。せいぜい牛と馬と山羊だぞ?」
「はい?」
「あと羊。」
「あのう?」
「ただなぁ。奴らをなめるなよ!奴らが本気になったらな!地球なんてあっという間だ!」
「どうあっという間なのかよく分かりませんが、僕が悪かったようですね。何だか難しい例えをしてしまったようで、反省してます。」
「それでもチーズ界に革命を起こせと言うなら、俺はやるよ!」
「・・・・・・・・・それでは、次の質問をしたいと思います。」
「おう!」
「チーズ作りに1番大切な事とは?」
「お主は何だと思う?」
「急に何時代の人ですか?そうですね?例えば牛に食べさせる餌が他とは違うとかですか?」
「気に入った!分からない事は分からないと素直に言えるお前さんを俺さんは気に入ったよ!」
「えっ?ま、まあ確かに分かりませんが・・・・・・・・・。」
「確かにお前さんは、まだチーズ作りをした事がないからな。分からないのは当たり前だ!当然だ!恥じる事などない!」
「何か口調がセリフっぽいですけど?もしや、昨晩考えられたんですか?」
「なら教えてやろう。チーズ作りに1番大切な事をな!」
「会話が噛み合ってないようですけど、まあ教えてもらえるなら是非お願いします。」
「あのな。チーズ作りに1番大切な事はな。気合いだ。」
「気合いですか?」
「最高のチーズを作りたい!そう言った気合いが大切なんだよ!」
「なるほど!意気込みってやつですね!」
「えっ?」
「えっ?」
「いや気合いだよ。何かそっちの方がいい表現っぽいけど、せっかく出産中に気合いって思い付いたんだから、そっちでいこうよ。」
「まあ、何となく出産中に思い付いたのには、納得できますよ。気合いが1番大切な事なんですね?」
「そうだ!なかなか覚えが早いじゃないか。これなら今すぐにでも立派なチーズが作れるぞ!って、そりゃ無理か!ばっはっはっはっはっ!!」
「・・・・・・・・・あのう。僕は作りませんよ?いったい昨晩、どんなシナリオを考えついたんですか?」
「ばっはっはっはっはっ!!ちっちゃな『つ』がいっぱい。もうあれだな。チーズじゃなくって、この際チッズにしちゃおうか?」
「どの際ですか!困りますよ。それで、具体的に気合いと言うのは?」
「なぜ俺がお前さんをわざわざこんな汚い牧場に、って汚い牧場ってどう言う事だよ!」
「言ってませんよ。」
「なぜ、こんなにも美しい牧場に呼んだのか分かるかい?」
「いえ、分かりません。」
「気に入った!分からない事は分からないと素直さんに言えるさんお前さんを俺さんは気に入ったさん!」
「さん付けすぎですよ。そのセリフお気に入りなんですか?」
「牛達を見てみろ。」
「牛ですか?」
「分かるかい?」
「いえ。」
「気に入った!分からない事は分からないと素直に言える貴様を俺様は気に入ったよ!」
「絶対気に入ってるでしょ!そのセリフ絶対気に入ってるでしょ!」
「数十頭いる牛の中から一頭選ぶんだ!」
「選ぶ?」
「そして、選んだ牛をよーく見る!」
「なるほど!そこから既に最高のチーズ作りが始まっているんですね!」
「そうだ!」
「その牛の一挙手一投足を見て!最高のチーズ作りに適したミルクを出す牛なのかを見定めているんですね!」
「あれだ!あれは最高のチーズを作る!」
「あの大きな牛ですか!そう言われると段々そう見えて来るのが不思議です。さあ、あの牛の所まで行きましょうか!」
「まだだ!」
「行かないんですか?」
「行かない!」
「あの牛ではないんですか?最高のチーズを作る牛がまだ他にいると?」
「おそらくあの牛で間違いない!」
「では、乳搾りをはじめましょう。ここで見ていても時間が過ぎて行くばかりです。」
「見るんだ!」
「はい?」
「牛を見るんだ!」
「どう言う事ですか?」
「じっと見るんだ!」
「あのう?」
「気合いだ!」
「気合い?」
「あの牛は最高のチーズを作るんだと、気合いを入れて見るんだ!」
「なるほど!作り手のボルテージを上げるって訳ですね!」
「横文字はよく分からないが、そんな感じだと思う!とにかく気合いを入れて牛を見るんだ!」
「しかし、いったいどのくらい見ていればいいんですか?」
「チーズが出来るまでに決まってるだろ!!」
「えっ!?」
「こうして気合いを入れて牛を見続けていれば最高のチーズが自然と出来上がる!」
「出来上がらないですよ!」
「出来る!ニョロっと、お尻の穴から出て来る!」
「そんなとこからチーズ出て来ないですよ!」
「だからチーズはちょっと臭う!」
「意味が違うでしょ!」
「だが、俺は何度も牛のお尻の穴からニョロっと、時にはドバドバっと、さらにはバフっと、チーズが出て来る所を何度も見ているんだぞ!」
「な、何度も!?」
「そうだ!何度もだ!俺の牛は、そんじょそこらの牛とは訳が違うんだよ!」
「ま、まさか!?」
「ほら出て来たぞ!!」
「そんな馬鹿な!?って、案の定あれうんこだ!!」
「で?俺の最高のチーズは、いつ本に載るんだい?」
「載せれるか!!」

第六十六話
「香る本」

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