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2007年10月24日 (水)

「第七十一話」

 思いの外、思い通りにいかない事がある。
「どいてくれないか?」
「モゾモゾ。」
それは、お邪魔虫だった。この際、わしがどこで何をどんな感じで、どんな具合に思い通りにしようとしているのか?そんな事は、どうだっていい。どうでもいい事だ。説明しているほど、わしは暇ではない。目の前にある真実は一つだ。わしが今、お邪魔虫によって思いの外、思い通りにいっていないと言う真実のみだ。こんなにも思いの外、思い通りにいかないのは、生まれて初めての事だ。
「ところでお前は、やっぱり虫?なのか?」
「モソリ。」
やっぱりか。見た感じからして虫だとは分かっていたが、少しだけ気になったものだから、確認の為に一応聞いて確かめておいてよかった。もしも虫じゃなかった時があれだからな。あれと言うのは、所謂世間一般的に言う、あれの事だ。あれはあれで、あれについて語っているほど、わしは暇ではない。あれは、それ以上でもこれ以下でもない。あれだ。ん?だがこのお邪魔虫、まさかとは思うが!?
「お前、人間の言葉が分かるのか?」
「モソリ。」
また頷いた。やはりそうだったのか。どうりであまりにも思いの外、思い通りに会話が出来ていると思った。だが、なんて事だ。お邪魔虫の存在だけで十分に驚いていると言うのに、さらに人間の言葉が分かるとは・・・・・・・・・これは、何かの根底を覆す衝撃の事実だ。まあ、その何かが示す何かが何かと言う事を事細かに説明しているほど、わしは暇ではない。事実、今この瞬間、おそらくどこかで何かが覆っているに違いない。
「どかないつもりか?」
「モソリ。」
「何故だ?」
「モソ、モソモソモソ!モッソ、モソモソ!モーソ、モーソ。」
「分からん!」
分かる訳がない。『モ』と『ソ』と『ッ』の組み合わせだけで、いったい何が分かると言うのだ。そして、いったい何を分かれと言うのだ。しかも、それが分かったとこで、わしは自分の考えを何一つ変えるつもりなどない。思い通りにするまでだ。この思いの外、思い通りにいかない現状を打破するまでだ。この際、お邪魔虫の意思など関係ない。お邪魔虫が、何故わしの邪魔をしているのかなど興味すらない。
「モゾモゾモゾ。モゾモゾモゾモゾモゾ。モゾ、モソモソモソ。モソリ。」
「気持ち悪い!」
喋るならまだしも、そんなに体をくねくねもぞもぞ動かしながら何かを訴えかけてきたとこで、気持ち悪いの一言だ。訴えかけてきた何かが何かなど知りたくもない。例え思いの外、思い通りに何かが何かだと分かったとこで、この日の為にわしがずっと計画していた事は、思い通りに実行するまでだ。それだけが揺るぎない事実だ。
「おい!」
「モソ?」
「どうしても、そこをどかないと言うのか?」
「モソリ。」
「分かった。ならば、わしはこの場を去るまでだ。じゃあな。」
まだ十分に時間に余裕があったわしは、お邪魔虫に別れを告げ、再び自分の計画を思い通りに実行する事にした。
「モソ!」
掴んだ!?わしの服を何本目の足だか手だか分からない体の部分で掴んだ。
「ん?何だ?わしに行くなと言うのか?」
「モソリ。」
「何故だ?」
「モソソソ!モソン、モーゾモゾ!モソ!モモモモ、ソソソモソ!」
「だから分からんし、気持ち悪い!いいか?わしには、思い通りにやらなければならない事があるのだ。それは、わし個人だけの大事な事かもしない。他の人間からしてみれば、実に下らない事かもしれない。だが、お邪魔虫であるお前に、それを邪魔する権利もないはずだ。」
「モソリ。」
「分かってくれたようだな。なら、わしはそろそろ行かねばならないから、その何本目の足だか手だか分からない体の部分で掴んでいる服を放してくれ。」
「モソリ。」
全く、本当に思いの外、思い通りにいかなすぎる。だが、それもここまでだ。この先は、思い通りにいってみせる。そう、あと数分で・・・・・・・・・ん?
「ちょっと待て!?」
「モソ?」
わしがお邪魔虫と遭遇してから、数分しか経っていないはず。なのに何故だ?何故もう数時間も経ってしまっているのだ?わしの時計が狂っていたのか?いや、それは有り得ない事だ。家を出る時に正確に合わしたはず。それに、この腕時計が狂うはずがない。だとすると、思いの外、思い通りにいかない原因を作った張本人は一匹だけだ。
「おい!」
「モゾ?」
「お前、いったいわしに何をした!」
「モゾゾ。」
「嘘つけ!お前が何かをしたのは分かっている!お前と出会ってから!思いの外、思い通りにいかな過ぎる!」
「モゾモゾ。」
「これはいったい、どう言う事なんだ!説明をしろ!何がどうなっているのかを説明しろ!事細かに説明するのだ!!」
「モ、モゾ。」
「いいか!お前にとっては、どうでもいい事かもしれない!だが!わしにとっては、大事な事なのだ!」
「モ、ソソソ。」
「ちゃんと説明しろ!・・・・・・・・・いや、説明などしなくてもいい。そんな事どうだっていい!返せ!返すのだ!」
「モソモソ。」
「今すぐ!わしの時間を返すのだ!!」
「モ、モモソ。」
「さあ!返すのだ!わしの時間を返せ!」
「モモモソソ。」
「わしから奪った時間を返せ!!」
「モモモモモ。」
「これでは・・・・・・・・・。」
「モソ?」
「これでは・・・・・・・・・。」
「モソソ?」
「これでは、もう間に合わん・・・・・・・・・。」
「モソソソ?」
「わしの計画が・・・この日の為に綿密に練られたわしの計画が・・・・・・。」
「モソモソソ。」
「お前のお陰で・・・お邪魔虫の邪魔のお陰で・・・・・・。」
「モ、モッソ。」
「あいつを殺す事が出来なくなってしまったではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

第七十一話
「時には何も起こらない」

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