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2007年11月28日 (水)

「第七十六話」

 気が付くと私は、無人島にいた。この島が無人島だと、どうして私が分かったのかと言うとだ。それは、この島が無人で、しかも島だからだ。何よりも、雰囲気がそんな感じだったからだ。
「ザバーン!」
波打ち際の砂浜で、体育座りをしながら地平線を眺めていると、私がこの無人島にやって来た時の事を思い出す。
「ザバーン!」
家を出て、最初の十字路を見方によっては右方向に曲がった次の瞬間、なぜだか私は気を失った。そして、目を覚ますと私はこの無人島にいた。
「ザバーン!」
ついさっきの事だ。懐かしくもなんともない。私には、この無人島がどこにあるのかも、なんて名前なのかも、なぜここにいるのかも、分からない。何もかもがミステリアスだ。だだ、一つだけ解明されている謎があった。それは、ここが無人島だって事だ。
「ザバーン!」
誰かに恨まれているのか?私に恨みを持つ者の手による仕業なのか?とも考えた時期があった。しかし、私は人に恨まれるような性格ではない。と、自身で思い込んでいる節がある。だから、絶対に恨みによるものではない。例え、この意味不明な後頭部への激痛があったとしてもだ。例え、首筋を伝う生暖かい何かがあったとしてもだ。否定出来る事は、とりあえず片っ端から否定する。それが私の哲学であり、幼い時からの長所でもある。
「ザバーン!」
無人島は、暇だ。やる事がない。しかし、私のような人間にとっては、逆にこの環境が心地よかったりもする。騒がしくゴミゴミとした環境では思い付かない考えが、思い付いたりするからだ。
「ザバーン!」
まあ、私は普段から何かを深く考えるような人間ではないので、無人島にいても普段と違うような事は思い付かない。普段も特に思い付かないのだから、普段よりももっと思い付かない。
「ザバーン!」
だが、そんな私にも頬を伝う何かがあった。思えば、目が覚めたら突然こんな無人島にいたのだから、無理もない。現実から非現実に突き落とされてしまった現実。どうにか戻るため、だぐりよせようにも、どこにあるのかさえ分からない現実へと繋がる糸。何の前触れもなく、こんな環境を目の前に叩き付けられたら、誰だって頬を伝う何かが自然と流れ出て来てしまうだろう。それは、感情で制御出来ないぐらいの感情。
「ザバーン!」
私は、頬を伝う汗を右手で拭った。なんて暑いんだ無人島は!この状態で汗の出ない人間などいるはずもない!いるのなら、どうかお目に掛かりたいもんだ!
「ザバーン!」
まあ、無人島だからそんなチャンスはないと分かっている。だが、せめて雲があの太陽を覆い隠すとか言う千載一隅のチャンスが訪れても、罰は当たらないだろう。とは思う。仮に罰が当たったとしても、小石に躓く程度だろう。とも思った。
「ザバーン!」
ん?小石に躓く?そうか!私はあの時、家を出て最初の十字路を見方によっては、左方向に曲がった時、足元の小石に躓いた!
「ザバーン!」
な訳ない。あの十字路のどこをどう歩こうが、小石に躓く事など不可能だ。なぜなら、あの時あの十字路に小石がなかったからだ。そして、あの十字路で小石なんて代物は、今まで一度もお目に掛かった事がないからだ。考えれば考えるほど、どうして私が無人島にいるのかが分からなくなる。一度、何か別の事を考えよう。
「ザバーン!」
さっきから私の目の前に打ち寄せてくる波。いや、私がこの世に生まれるもっと前から、それこそ遥か大昔の地球が誕生したその日から、波は打ち寄せているのかもしれない。
「ザバーン!」
もしかしたら、向こう側からおっきな人が海を押していて、それで波が発生しているのかもしれない。
「ザバーン!」
仮にそのおっきな人を波師としよう。
「ザバーン!」
長生きだ。波師は、地球とだいたい同じ歳って事になる。
「ザバーン!」
そして、何よりも物凄く退屈な作業だ。海を押しているだけなんだからな。つまらないだろうし、やり甲斐など全くない仕事かもしれない。
「ザバーン!」
いや待てよ?波師自身は、これを仕事だと思っていないのでは?
「ザバーン!」
現代人の私の価値観と物差しで考えてはいけない問題なのかもしれない。純粋に、ただ純粋に波師は波を愛し、波を発生させているだけなのかもしれない。ある意味で波師にとっての波とは、アート!
「ザバーン!」
一度として同じ波を作る事など出来ない!
「ザバーン!」
波師は芸術家!地球と言うキャンパスに海と言う絵の具を使って、波を描いているんだ!世の中で言われている超一流の芸術家達が束になって何かを創作したとこで、まるで相手にはならない程の!
「ザバーン!」
波師の作り出す波と言う作品を知らない者などこの地球上に、果たして存在するのだろうか?
「ザバーン!」
知名度が違いすぎる!影響力が違いすぎる!波は、波師が描く究極の風景画と言えるのではないだろうか?誰も辿り着く事の出来ない自然との一体化。
「ザバーン!」
それを成し遂げた唯一の芸術家。それが波師だ!ん?まてよ?
「ザバーン!」
だが、これまでいったいどれだけの人間が波に飲まれて命を落としていったのだろう?海に飲まれたと言ってしまえばそうかもしれない。しかし、そこに波が存在しなかったら助かる命もあったはずだ。
「ザバーン!」
ならば、波師は究極の芸術家であり、同時に究極の犯罪者でもある。と言う事なのか?正直、クリエイティブでない私にとって、この境地は分からない事だ。しかし、アートを突き詰めて突き詰めて、アートに魂を同化させて辿り着く境地に待つ運命と言うのは、そう言う事なのかもしれない。
「ザバーン!」
なんて悲しい運命を背負っているんだ!おっきな人!
「ザバーン!」
そして、なんて長生きなんだ!おっきな人!
「ザバーン!」
波師よ。あなたは、これから先も向こう側から海を押し続け、波と言う作品を作り出し、いったいどこに向かい、そしてどこに行こうとしている?
「ザバーン!」
そして、私はなぜ無人島にいて、いつになったら家に帰れる?
「ザバーン!」
知っているのなら教えてくれ!おっきな人!
「ザバーン!」
もしも、もしも私がこのままこの無人島を脱出する事が出来なかったら。
「ザバーン!」
私も波師を志して、こっち側から押してみようかな?
「ザバーン!」
びっくりするだろうな。向こう側のおっきな人。えっ!?何で?とか思うだろうな。自分以外にも波師が?とか思って、何かコンタクトをとってくるかもしれないな。
「ザバーン!」
物凄いおっきな波を作ってくるかもしれないな。
「ザバーン!」
死んでしまう!!そんなおっきな波をこの無人島にぶつけられたら、無人島ごと波に飲み込まれて、私は死んでしまう!!
「ザバーン!」
諦めよう。私は、波師になる事を志し半ばにして諦めた。私には、もっと大きな夢があるんだ!
「ザバーン!」
それは、この無人島から脱出して、家に帰る事だ!
「ザバーン!」
そして、十字路を見方によっては、やっぱり右方向に曲がり、研究施設に辿り着き、いつも通りに兵器実験のスイッチを押す係に戻らなければ!
「ザバーン!」
それにしてもここは、本当に無人島すぎるほど無人島だ。

第七十六話
「正座島」

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コメント

>「ザバーン!」
>仮にそのおっきな人を波師としよう。

ここがサイコーでした。
おっきな笑いをありがとうございます。

投稿: カラス | 2008年3月16日 (日) 04時08分

無人島に一人でいると、あまりにも暇過ぎてとんでもない事を考えてしまうんでしょうね。
こちらこそ、嬉しくなっちゃうコメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年3月19日 (水) 18時21分

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