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2008年1月

2008年1月 2日 (水)

「第八十一話」

 俺は、満月を見ていた。

第八十一話
「満月とサムライ」

 あの満月は、俺の刀で半分に斬る事が可能なんだろうか?いや、果たしてそれ以前に今の俺の刀で、ここから満月までとどくんだろうか?
「おサムライさん!」
「終わったよ。」
「すいません!すいません!すいません!」
「あんたが謝る事はないだろ。か弱い娘を助けてやるってのが、侍ってもんさ。」
「でも、おサムライさん!」
「なあ?どう思うよ?俺の刀であの満月を半分に斬れると思うか?」
「えっ!?」
「子供の頃から考えてたんだよ。どうして、みんな満月を斬りたがらないのか?ってな。」
「おサムライ・・・さん?」
「それはなぜか?誰もが不可能だと思って、最初から勝負を諦めてるからさ・・・・・・・・・。」
「おサムライさ」
「どいつもこいつもふざけやがって!」
「!?」
「だがよう。いったい誰が決めたんだ?いったい誰が確かめたんだ?・・・・・・満月が斬れないってよ。」
「・・・・・・・・・。」
「なあ、娘?」
「はい。」
「月は、いつも満月とは限らない。なぜだ?もしかしたら、もしかしたら其の内いくつかの月は、俺の知らない何処かで、それこそ地球の反対側で、誰かが満月を斬っているのかもしれない。そう、思わないか?」
「わっちは・・・・・・・・・。」
「何だ娘。あんた、もしかして遊女だったのか?・・・・・・・・・まあ、そんな事はどうだっていいか。あんたの過去や未来に興味はない。俺は俺の意志であんたを助けたんだからな。」
「難しい事は、よく分かりません。けど、次の満月は必ず・・・必ずおサムライさんが刀で半分に斬ってくれると思います。だから・・・・・・・・・。」
「今日じゃなくて、次の満月か。言ってくれるな、娘。まあ、今日は満月を斬るには、ちょっと暴れ過ぎて疲れたからな。娘、しばらくあんたの膝枕を借りるぞ?」
「・・・・・・・・・どうぞ。」
「満月を見上げながら、膝枕って言うのも・・・・・・乙なもんだな・・・・・・・・・。」
「次の満月の日には、その時には、わっちもお側に」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「おサムライさん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「おサムライ・・・さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「おサムライさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「死なないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」





最後に娘が何を叫んだのか?俺の耳には届かなかった。ただ、無謀にも折れた刀で満月を斬ろうなどと考えていた俺に、温もりを与えてくれた娘。俺は、そんな娘に心の底から感謝した。

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2008年1月 9日 (水)

「第八十二話」

「ニセ時限爆弾を作りましたよ。ボス。」
「これで今夜の仕事は、成功したも同然ですね。って、ニセ時限爆弾って、なに?」
「ニセ時限爆弾って言ったら、ボス。ニセ時限爆弾ですよ。ボス。」
「なるほどね。って、何がそんなになるほどなんですか?全くなるほどなんかじゃありませんよ。いったいどこがどう、ニセ時限爆弾なの?」
「またまた、ボス。見たら分かるじゃないですか。これは、明らかにニセ時限爆弾です。」
「へぇ~。って、全然分かりませんよ。まさか!?時限式じゃないの?」
「もちろん、最新式の時限装置を完備してます。そんじょそこらのニセ時限爆弾とは、一味も二味も違いますよ。ボス。」
「なに?ニセ時限爆弾って、そんなにポピュラーな代物なの?俺ちゃんが知らないだけなの?」
「さあ?」
「まあ、さあ?ですよね。俺ちゃんの事をお前ちゃんが知る訳ないですもんね。知ってた方が逆に怖いですもんね。まあ、ポピュラーでもなんでもいいですけど、いったい普通の時限爆弾とどこが違うの?」
「全体的にです。ボス。」
「全体的って、見た感じは普通の時限爆弾ですけど?お前ちゃん、まさか!?爆発しないって代物じゃなかろうね。」
「まさかですよ。ボス。ちゃんと爆発しますよ。ボス。ちゃんと爆発しなかったら、ニセ時限爆弾じゃないじゃないですか。ボス。」
「じゃないじゃないって言われましても、こっちは根本的にそこら辺が分からないんですよ。でも、時限式で爆発するんだったら、イコールそれは、それはイコール、普通の時限爆弾じゃないの?」
「ところが、これはニセ時限爆弾なんですよ。凄くないですか?ボス。」
「そう言われても、凄さがいまいちと言うか、全然と言うか、全く伝わって来ませんよ。なに?食べれんの?ニセの方は食べれちゃう時限爆弾って事なの?」
「おしい!」
「おしいの?」
「本当は、おしくないです。ボス。」
「ちょっと!こんなとこで、変な気の使い方しないで欲しですね。まあ、食べれる訳ないですよね。」
「食べれます。」
「食べれちゃうんだ!?」
「もちろん!ニセ時限爆弾ですから。」
「そのもちろんが分からないんですよ。でも、それがニセ時限爆弾のニセ時限爆弾たる由縁じゃない訳ですよね?」
「そうですね。ボス。ニセ時限爆弾を作ると、どうしても結果的に食べれるようになってしまうんです。だから、食べれるって言うのは、おまけみたいなもんなんですよ。ボス。」
「ふ~ん。まったく意味が分かんないや。」
「まあ、いいじゃないですか。ボス。機能的には、普通の時限爆弾と何ら変わらない訳ですし。さあ、今夜の仕事の準備に取り掛かりましょうよ。ボス。」
「いくないでしょ。気になってしょうがないでしょ。仕事の準備どころじゃないでしょ。」
「でも、ボス。早くしないと時間に間に合いませんよ。ボス。」
「時間がどうだとか、縄張り争いがどうだとか、そんなの今はどうだっていいんですよ。」
「よくないですよ。ボス。」
「よいですよ。それよりも、なぜニセ時限爆弾と言うのかと言う方が、よっぽど最重要ポインツですよ。」
「わ、分かりましたよ。ボス。これは、本当はニセ時限爆弾なんかじゃなくて、普通の時限爆弾なんですよ。ボス。勘違いしてました。」
「ここに来て、そんな気の使われ方は嫌ですよ。あんだけニセ時限爆弾、ニセ時限爆弾って言っといて、今さら普通の時限爆弾はないでしょ。それは逆に、俺ちゃんに失礼ですよ。」
「そんなにニセ時限爆弾が気になるんですか?」
「そりゃそうでしょ。当たり前でしょ。あのね。お前ちゃんにしてみれば、ニセ時限爆弾って代物は、日常茶飯事ですよ?けどね。俺ちゃんにしてみれば、物凄く興味津々な逸材ですよ。なに、ニセ時限爆弾って?みたいな事ですよ。」
「・・・・・・・・・分かりました。ボス。まさか、ボスがそこまでニセ時限爆弾に食い付いて来るとは、正直考えていませんでした。」
「考えといて欲しかったもんですね。」
「いいですか?ボス。そもそもニセ時限爆弾と普通の時限爆弾の違いと言うのはですね。」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ど、どうしたんですか!?」
「どうしたじゃないですよ。それは、俺ちゃんのセリフですよ。何を言っちゃおうとしちゃおうとしちゃってるんですか?」
「ですから、ボスがニセ時限爆弾と普通の時限爆弾との違いが気になるとおっしゃるから、説明しようかなと思いまして。」
「思っちゃダメですよ。ここに来て簡単に正解を言っちゃうんなら、最初に言っちゃって欲しかったな。」
「すいませんでした。ボス。」
「分かればいいんですよ。分かってもらえれば、それだけでハッピーですよ。」
「ありがとうございます。ボス。で、ですね。ニセ時限爆弾と言うのは、そもそ」
「こらぁぁぁぁぁ!!こらっ!こらっ!こらっ!」
「えっ!?」
「だから!言っちゃおうとしちゃおうとしちゃったらダメですよ。」
「はい?」
「俺ちゃんが当てますよ。ニセ時限爆弾がニセ時限爆弾たる由縁を、俺ちゃんがバシッと、バシバシッと当てちゃいますよ。」
「しかし、ボス。もう、準備に取り掛かからないと。」
「普通の時限爆弾より甘いとか?」
「違います。」
「辛い?」
「違います。」
「苦い?」
「違います。」
「分かっちゃいましたよ。・・・・・・・・・酸っぱい!」
「違います。」
「なら、普通の時限爆弾の約400倍のビタミンCが含まれている!これでしょ!」
「違います。味とか何かが多く含まれてるとかじゃありません。」
「ほら、だって食べれるって言ったから、何かそこにヒントがあるんじゃなかろうか?重要な手掛かりがあるんじゃなかろうか?と、思いましてね。関係ないの?」
「確かに言いましたが、あくまでそれは製造工程においての副産物でして、そこは重要視しないで下さい。因みにミネラル分が普通の時限爆弾の4億倍、含まれています。」
「なにそれ?そのおちゃらけた数字。子供騙しな桁。なんか下手な嘘に聞こえちゃいますよ?」
「聞こえるだけです。これは今年度、ニセ時限爆弾協会が発表した数字です。今までは、2億5千~3億と言われていたんですが、それを大幅に越える結果が、長い年月を費やした分析によって出されたんですよ。ボス。」
「そうでしたか。そう言った協会の日頃の努力により、今日の俺ちゃん達が、ニセ時限爆弾を安心して使用出来るんですね。って、協会ですと!?協会があるんですと!?」
「はい。ボス。」
「ますます、ますます、なに、ニセ時限爆弾って?」
「ニセ時限爆弾とはですね。」
「ごぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!」
「えっ!?」
「お口チャック、チャック!俺ちゃんが当てるって言いましたよ?」
「すいません。ボス。」
「協会まで存在するとなると、いよいよニセ時限爆弾が侮れなくなってきましたね。」
「ボス?」
「ちょっと待って下さい。今、正解を考えていますから。」
「そうじゃなくって、そんなに気になるなら、今日のところは、一旦今夜の仕事の準備に取り掛かかるとしてですね。明日、私が愛読している『週刊ニセ時限爆弾』をお渡ししますよ。そこに詳しくニセ時限爆弾について書いてありますから読んでみて下さい。」
「なにそれ!?雑誌もあんの!?しかも週刊誌って、かなりの需要が見込めるって事じゃありませんか!?俺ちゃんの知らないとこで、いったい何事が巻き起こっている訳なの?」
「では、準備を始めましょう。ボス。」
「う~ん?」
「最初に、今夜の作戦の簡単な説明から始めます。まず、屋敷の正面の門ですが、ここに」
「ニセ時限爆弾は普通の時限爆弾に比べて軽い!」
「違います。4個のニセ時限爆弾を仕掛けます。次に」
「重い?」
「違います。事前に掘っておいた屋敷内に」
「丸い?」
「いえ、逆に四角さが増しています。侵入するルートにもニセ時限爆弾を7個仕掛けておきます。これは、我々が屋敷から脱出した後に」
「若返り効果!」
「違います。爆発させるためです。これでだいたいの追っ手は振り切れるはずです。そして」
「何だろうか?何なんだろうか?難問ですね。超難問ですね。・・・・・・あっ!分かりましたよ!分かっちゃいましたよ!不老不死!」
「違います。」

第八十二話
「ちょっと色が淡い」

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2008年1月16日 (水)

「第八十三話」

「キョロキョロ!」
「教授?どうしたのですか?キョロキョロが声に出ていますよ?」
「出ていたか!」
「はい。」
「どれぐらい出ていたんだ!」
「はい。それは物凄く出ていました。」
「そうか。まあ、どれぐらい出ていたかは関係ないとしてだ。私が、なぜキョロキョロしながらキョロキョロと口に出していたのか分かるか?」
「何か、誰かに絶対聞かれてはならない話があるのですね?」
「そうだ。」
「それは、教授の研究テーマと何か関係があるのですか?」
「その通りだ!私が日頃から研究している短編小説についてだ!それは、昨日の夜の事だった。短編小説の大きな障害にぶち当たってしまったんだ。」
「それは、晩御飯を食べる前でしょうか?それとも、晩御飯を食べた後でしょうか?」
「後もいいとこだ。布団に入って目をつぶった瞬間だよ。」
「馬鹿な!?だったら、お風呂にも入った後ではありませんか!?」
「いや、昨日は疲れていたから風呂には入っていない。」
「で、いったいどのような障害にぶち当たってしまわれたのですか?」
「ネタバレだ!」
「ネタバレ?いや、しかし教授。お言葉ですが、短編小説とネタバレの歴史は古いです。今になって、わざわざ就寝前にぶち当たるような障害ではないのでは?」
「甘い。」
「そ、それはどれぐらいですか?お砂糖ぐらいでしょうか?それとも、チョコレートぐらいでしょうか?」
「シロップちゃんだ!」
「甘過ぎる!そこまで僕の考えが甘過ぎる理由をお聞かせ下さい。」
「ネタバレとは、何だ?」
「はい。短編小説を読んだ者、及びその短編小説を読ませようとする者が、第三者に短編小説のオチに繋がる話や表現等を行ってしまう行為。もしくは、読んでいる者が読書の最中に、短編小説のオチが分かってしまう現象です。」
「うむ。確かに従来の解釈は、そうだ。しかし、私の新解釈は違う。」
「それはいったい?」
「前者は無視し、後者に重点を置いたネタバレだ。」
「短編小説を読んでいる者に重点を置いたネタバレですか?」
「そうだ。」
「それはいったい?」
「我々を例に上げて話を進めていこう。」
「お願いします。」
「まず、何の情報もなく短編小説を手に取った者がいたとしよう。短編小説を開いて読んでみると『キョロキョロ!』『教授?どうしたんですか?キョロキョロが声に出ていますよ?』と文頭に書かれていた。」
「はい。」
「分からないか?」
「さっぱりです。」
「いいか?ここで既に私が教授だとネタバレしているんだ!さらに欲を言えばだ!私がキョロキョロしている事もネタバレしているんだ!さらにさらに、もっともっと欲を言えば!それを私が声に出していた事すらもネタバレしているんだよ!」
「本当だ!?・・・・・・・・・いや、しかし教授?果たしてこれをネタバレと言うのでしょうか?」
「いいか?勘の鋭い読者ならこの文頭だけで、次の展開が読めてしまうんだよ!『何か、誰かに絶対聞かれてはならない話があるのですね?』『そうだ。』つまりだ。私は、誰かに絶対聞かれたくない話があると言う事が導き出される!しかもその後に君はこう続ける。『それは、教授の研究テーマと何か関係があるのですか?』とな。ここから導き出される結果として、私は教授で、そして何かの研究をしていて、誰かに絶対に聞かれたくない話があると言う事だ。分かるか?」
「さっぱりです。いったい教授の言うネタバレが、どういったものなのかが見当もつきません。」
「いいか?私が言うネタバレとは、短編小説特有の結末だけのどんでん返しの事ではない。つまりだ。文章の連鎖的情報が脳内に与えるネタバレだ。AがBを、BがCを、CがDをと言った具合にネタバレの連鎖が起きてくるんだよ!これは短編小説にとっては致命的だ!一文字一文字がネタバレの脅威となっているんだからな!」
「そんな馬鹿な!?でも、教授の理論は的を得ている。確かに我々読み手は、常にどんなどんでん返しが待ち構えているのだろうかと、予測しながら短編小説を読んでいる。文章から得られる情報を分析し、自らの仮説を頭の中で構築している。情報が多ければ多いほど、仮説は真実に近づいて行く。ならば、ネタバレが既に文頭から始まっていると言うのは、理論上正しい。いや、もしかしたら題名から始まっているのかもしれない。しかし教授?」
「それでは、短編小説が書けない・・・・・・か?」
「そうです。ネタバレを100%恐れていては、短編小説が書けません!」
「だから君は、シロップちゃんなんだよ。」
「甘いのですね!僕の考えは甘過ぎるのですね!」
「ネタバレを恐れ、しかしそれでも短編小説を書いてしまう。100%妥協して書かれた0%の短編小説が、短編小説な訳がないだろ!」
「きょ、教授?ま、まさか!?」
「そうだ。私は風呂にも入らず、寝ないで考え、あるとてつもなく恐ろしい答えに辿り着いた。君がたった今、辿り着いた答えだよ。」
「我々は、まだ短編小説を読んだ事がない!」
「そうだ。」
「今まで読んでいた短編小説は、短編小説ではない!短編小説は、この世に存在していなかった!」
「ああ。何とも悲しい結末じゃないか。全くどんでん返しもない・・・・・・・・・。」
「教授?」
「さしずめ、私がここで短編小説の秘密を知ってしまった君を殺せば、いい結末になるのか?実は、私が教授ではなく短編小説財団の人間であった方が読み手の発想の遥か上を行くのか?あるいは、私がシロップちゃんだったら・・・・・・・・・はっはっはっ!そんなもんは!全く短編小説ではない!!実にどんでん返しではない!!私が教授で、助手の君が存在してこそ成り立つ結末など、既にネタバレなんだよ!茶番なんだよ!!」
「我々は、いったい今日まで何の研究をして来たのでしょうか?実は、この世に存在すらしていなかった短編小説・・・・・・・・・教授?これから我々は、いったい何処へ向かえば良いのでしょうか?そして、いったい何を研究してけばいいのでしょうか?」
「決まっているじゃないか!!」
「えっ?」
「勿論、我々はこれからも短編小説を研究していくんだ!」
「お言葉ですが、教授!研究する短編小説が、ありません!それでもまだ、偽りの短編小説を研究してくとおっしゃるのですか!」
「いや・・・・・・・・・まだ、手はある!」
「それは、いったい!?」

第八十三話
「いざ、地球へ」

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2008年1月23日 (水)

「第八十四話」

 あたしの寝室の窓をすり抜けて入って来たそいつは、こう言った。
「どうも、死神です。」
でも、あたしのイメージする死神とは、まったく駆け離れた奴だった。何て言うか、普通。そう、普通って表現がぴったしな奴。あまりに普通で、まるで特徴のない奴。窓をすり抜けて入って来たってとこぐらいが、唯一、普通じゃないとこだった。
「本当に死神?」
「はい。」
「証拠は?」
「証拠?えぇーっと?」
死神は、背広の内ポケットを焦って探り始めた。窓をすり抜けて入って来なければ、完全に営業マンだ。
「どうぞ。」
「何これ?」
「ご存知、名刺です。」
ご存知の使い方が変。しかも、名刺には大きな字で死神の二文字が書いてあるだけ。窓をすり抜けて入って来なければ、完璧に胡散臭い品物を売り付けてくる商売の人だ。
「まあ、窓をすり抜けて入って来たから、一応、死神って事にしとくけど。」
「助かります。」
「で?用件は?まさか、あたしを迎えに来たって訳じゃないわよね?だったら悪いけど帰ってくれる?」
「あのう?」
「何よ。」
「誠に言いづらい事なんですが。」
「何?」
「お迎えに来ました。」
「ちょっと!死神さん!」
「はい。」
「あたしの話をちゃんと聞いてたの?迎えに来たってなら、帰ってって言ったんですけど?」
「聞いてました。」
「なら、さっさと窓をすり抜けて出てってよ。」
「そう言われましても・・・・・・・・・。」
「あのねぇ。だいたい何であたしが死ななくちゃいけない訳?部屋、間違えたんじゃない?」
「いえいえ。死神が部屋を間違える事は、ありません。えぇーっと。」
訳の分からない理論を持ち出したかと思ったら、死神はまた背広の内ポケットを焦って探り始めた。
「ほら!これ、あなたですよね。」
何かと思えば、それはあたしの写真だった。窓をすり抜けて入って来なければ、決定的にストーカーだ。
「確かに、あたしよ。」
「良かったぁ。」
「だから、何?」
「へっ??」
「写真があるから何なの?そもそも、あたしが死ぬ理由がよく分からないわよ。数日前に健康診断の結果が出たばっかだし、これからこの部屋で予期せぬ事故でも起こるって言うの?だったら死ぬ瞬間に来たらどうなの?」
「あのう?」
「だいたい見るからに普通の人間っぽい死神なんて、非現実的よ!もっとこう、大きな鎌を持ってるとか!ガイコツだとか!ああーっ!もうっ!・・・・・・とにかく!何か普通過ぎるのよ!普通過ぎて、これから死ぬんだとしても!何か嫌なのよ!」
「すいません。私の説明不足でした。ちゃんと死神ルールをお伝えすべきでした。申し訳ありません。」
「死神ルール?」
「はい。」
「何よそれ?」
「はい。そもそも死神とは、実体が存在しません。そうですね。例えば空気のような存在だと思って下さい。」
「はあ~?」
「いいですか?大きな鎌を持っているだとか、ガイコツだとか、その他いろいろな死神のイメージは、あなた方人間が勝手に想像力を膨らまして作り上げた死神像なんです。」
「ちょっと待って!だったら、何であんたは実体が存在してるのよ。」
「これは、借り物です。さすがに実体がないままだと、対象をお迎えに来れないもので。」
「じゃあ、その姿は普通の人間の体を借りてるって訳なの?」
「そう言う事になりますね。まあ、でも今回は最後がたまたま人間だっただけで、動物の時もあれば、植物の時もあります。その時々の状況によります。」
「まったく意味が分からないんですけど?」
「もう一つ、あなた方人間は大きな間違いをしているんです。死神は、けして人間の寿命が尽きる時に現れる存在ではないんです。自然死は自然死。事故死は事故死。別にその後に死神が迎えに来る事は、ありません。それも人間が勝手に想像力を膨らまして作り上げた死神像なんです。」
「だったら、死神って何なの?だいたい、さっきあんたは、あたしを迎えに来たって言ったじゃない。」
「迎えに来たのは確かです。でも、それはあなたが今から死ぬって訳じゃないんです。」
「はあ~?」
「今から、私に殺されると言う事なんです。」
「殺される?何であたしが死神に殺されないといけない訳?」
「はい。死神が対象の前に姿を現す条件として、13の強い念が必要なんです。」
「13の強い念?」
「はい。本気で殺してやろう!と言う、13の強い殺意の念です。」
「待って・・・・・あたしの前にあなたが現れたって事は、あたしは13人の人間に、殺してやろと本気で思われてるって訳?」
「13と言う存在全てが人間とは限りません。それは、人間だったり動物だったり植物だったり、地球上のあらゆる生命体です。なので、死神は動物や植物、昆虫や微生物、魚類や細菌などの前にも現れます。」
「そんな!?」
「そして、その場に一番近い死神が13番目の姿を借りて、対象を殺すんです。理解してもらえましたか?」
「つまり、簡単に言えば、死神は代理人って訳?殺し屋って訳?」
「えぇーっと。ちょっと違いますね。そんなに軽い存在ではないんです。言うなれば、秩序管理人。」
「秩序管理人?」
「そうです。地球上の全生命が、より良く快適に安全に暮らしていけるように、秩序を乱す対象を排除するんです。別名、掃除屋。だってそうでしょ?13の本気の殺意を芽生えさせてしまうような対象なんて、地球上にいらないんですから。」
「掃除屋・・・・・・あたしが地球の秩序を乱してる・・・・・・・・・。」
「そうです。さあ、もう宜しいですか?そろそろ死んでもらえますか?」
「でも!あたしは、あんたなんか!死神の方じゃなくって、借り物の方!あんたなんか知らないわよ!」
「それは、きっとあなたが何処かでこの人間に本気の殺意を芽生えさせてしまったんでしょう。」
「冗談じゃないわよ!訳の分からない奴に、訳の分からない理由で殺されるなんて、ごめんだわ!お断りよ!!」
「これも地球の秩序の為です。今後のより良い地球の未来の為です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「さて、何かご希望の殺され方があるなら、聞きますよ?ない場合は、絞殺になります。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あっ!もちろん、自殺でも構いません。私としては、それが一番手を汚さずに済む選択なんで助かるんですが?」
「・・・・・・・・・もし。」
「はい?」
「もし、あたしが今からあたしを殺そうとしている借り物を本気で殺してやろうと思ったら?」
「考えましたね。たまに人間でいらっしゃるんですよ。あなたのように、頭の良い人と言うんでしょうか?もし、借り物が今まで12の殺意を芽生えさせていたら、あなたで13になる。必然的に一番近くにいる死神の私は、あなたの体を借りなくてはならない。そして、対象を殺す。あなたへの殺意の13は、12になり、あなたは殺されずに済む。」
「可能なのね?」
「試してみる価値は、あると思いますよ?」
「チャンスをくれるの?」
「もちろんです。ただし、借り物がいくつの殺意を芽生えさせているかは、私にも分かりません。」
「いいわ。助かる道がそれしかないんだったら・・・・・・やるしかないでしょ!」
「では、どうぞ。」
「ふぅ・・・・・・行くわよ!」
「はい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

第八十四話「死神ルール」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・残念です。借り物は、13にならなかったようです。では、ご希望の殺され方をお聞かせ下さい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ないようなので、絞殺で宜しいですね?」
「・・・・・・・・・いや、殺され方を選ぶのは、お前の方だよ。死神No.1104。」
「へっ??」
「俺の借り物は、どうやらお前の借り物にではなく、お前自身に本気の殺意を芽生えさせたようだ。これでお前は調度、13。当然、死神も地球上の生命体。死神ルールが適用される。お前の負けだ。いや、相討ちか?まあ、そんな事はどうだっていい。」
「馬鹿な!?」
「ルールは、不用意にペラペラ喋るもんじゃねぇって事だな。さあ、どんな殺され方がいいんだ?」

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2008年1月30日 (水)

「第八十五話」

 おとぎ話の結末は、決まってハッピーエンドとは限らない。主人公が不幸になってしまうケースだってある。何が言いたいのか?そう、今回のこのおとぎ話の主人公にも、不幸な結末が訪れるって事だ。
「ああ、暇だなぁ。」
果たして、おとぎ話のようなフィクションの世界で、暇ではない登場人物がいるのだろうか?森にやって来たこの男は木こりで、このおとぎ話の主人公ではない。主人公は、このあと木こりと衝撃的な出会いをする事になる鰐だ。しかし、木こりは何をそんなに暇だと嘆いているのだろうか?森には、沢山の木があり、それを切り倒すのが木こりの仕事なのだから、暇なはずがない。
「何て暇なんだ。俺は毎日、毎日、木を切り倒しているだけの生活。何か面白い出来事でも起こらないかなぁ?」
一つの弱みとして、物語上に登場人物が一人の場合。現実世界では有り得ないほどの長い独り言を喋らなければならない。普通、木に対してこんなに不平不満を訴える木こりなどいない。でも仕方がない。いまだ登場人物は、木こりしかいないのだから、しばらく独り言が続く事は、必然だ。
「まあ、何か面白い出来事と言っても、いったい何が面白い出来事なのかなんて、木こりの俺には考えもつかないけどな。」
不思議なもので、こうして木こりの独り言を聞いていると、何だか木こりが昔から木こりをしているかのような錯覚に陥ってしまう。木こりは、あくまでこのおとぎ話の為だけの木こりだと言うのに、全く不思議だ。
「木こりさん。」
「ん?誰か俺の事を呼んだか?」
そろそろ独り言の限界なのだろう。木こりの他に登場人物が現れた。森の妖精だ。妖精・・・・・・そう、おとぎ話には欠かせない定番の登場人物と言っても過言ではない。しかし、木こりはしばらくその姿を目にする事が出来ない。
「木こりさん。」
「声はするが、姿が見えない。なぜだろう?」
「ここです。」
「ん?どこだ?」
「上です。」
「上?」
木こりは空を見上げたが、そこに妖精の姿はない。当たり前だ。妖精は、木こりの頭の上にいるのだから。
「あなたの頭の上です。」
「頭の上?だが、そんな所にいられたら姿が見えないぞ?」
「そうでしたね。じゃあ、今からあなたの目の前に行きます。それ!」
「こいつは驚いた!?」
「こんにちは。」
「あんた・・・妖精か?」
「ボクは、この森の妖精です。」
所謂、妖精は木こりの前にやっと姿を現した。おそらく妖精が実際に目の前に現れたら、こんな驚きでは済まされないだろう。腰を抜かすのは言い過ぎかもしれないが、どこからか声がする時点で、正体不明の声と会話などせずに逃げ出すのではないだろうか?木こりには、まるで恐怖心と言うものが欠けている。大抵、おとぎ話の登場人物達は、恐怖心を好奇心が上回っている。まあ、だから物語が順調に進んで行くのだろう。
「森の妖精が俺に何の用なんだ?」
「はい。実は、このまま木こりさんに木を切り倒し続けられると、この森は死んでしまうのです。」
「森が死ぬ!?」
木を切り倒し続ければ、森が死ぬなど、わざわざ妖精に言われなくても分かる事だ。そこまで木こりも馬鹿ではないだろうし、きっと他の人間が気づいて、木こりに忠告するだろう。しかし、それではおとぎ話にならない。妖精が現れて森の長老が言う森の事情を木こりに伝えなければ、子供達は食い付かない。他の人間が木こりに直接伝えてはならない。何よりも子供達は、そんな普通な事を望んではいない。
「森の長老は、言いました。このまま森の木が切り倒され続けていけば、森はあと数年で死んでしまう、と。そして、森を救うには今しかない、ともおっしゃいました。」
「森を救う?いったいどうやって救うんだ?」
「あなたが、今から切り倒そうとしている木を切り倒してしまうと、森はもう死ぬしか道がありません。でも、あなたが今から切り倒そうとしている木を切り倒さなければ、森はこれから先もずーっと長い年月を生き続けられるんです。」
「そうか。」
「木こりさん。お願いです。どうか、この森を助けて下さい。」
「分かった。森を死なせる訳にはいかないからな。木を切り倒すのは、やめにしよう。」
「ありがとうございます。」
「しかし、木を切り倒すのをやめてしまったら、これから先俺は、どうやって生活をしてけばいいんだ?」
「森の長老が言ってました。もし、あなたが木を切り倒す事をやめる決断をしてくれた時は、あなたの足元に落ちている長い枝で釣竿を作るように伝えよ、と。」
「この枝で釣竿を?」
有り得ない話だが、万が一、木こりが目の前の木を切り倒す方を選択していたら、木こりは切り倒した木の下敷きになって死んでいた。だが、これは木こりも妖精も、森の長老でさえも知らない話だ。なぜなら、木こりが木を切り倒す方を選択する話は、始めから用意されていないからだ。誰も語る事のない話など、誰も知らなくていい話だ。
「はい。この森には、川があります。作った釣竿を使って川で釣をしてみて下さい。そうすれば、あなたが生活に困る事はありません。」
「魚を釣って生活をしてくのか?」
「さあ?ボクは、森の長老にそう伝えろと言われただけですから、分かりません。でも、とにかく今すぐ釣竿を作って釣りをして下さい。そうしたらきっと分かります。では、そろそろボクは帰ります。森を助けてくれて本当にありがとう!」
「サワワワワ~!」
「消えた・・・・・・。釣りをすれば分かるかぁ・・・・・・・・・まあ、考えたって分かる訳もないんだ。とにかく釣竿を作ってみるかな。」
森からのお礼として、木こりは金銀財宝の入った宝箱を釣り上げる事となる。だったら、この場で金銀財宝をあげればいいと思うのだが、それでは話がここで終わってしまう。仕方がない事だ。そもそも、これから木こりは妖精に言われた通り、長い枝で釣竿を作り、そして川へ行き、そこでこのおとぎ話の主人公である鰐と出会う訳なのだから、川に行ってもらわないと困ってしまう。
「よし!出来たぞ!さあ、川へ行くか!」
さて、そろそろ私も準備をしとかなければならないようだ。もうすぐ木こりが釣竿を持って、川にやって来るのだからな。

第八十五話
「鰐と釣り人」

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