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2008年1月23日 (水)

「第八十四話」

 あたしの寝室の窓をすり抜けて入って来たそいつは、こう言った。
「どうも、死神です。」
でも、あたしのイメージする死神とは、まったく駆け離れた奴だった。何て言うか、普通。そう、普通って表現がぴったしな奴。あまりに普通で、まるで特徴のない奴。窓をすり抜けて入って来たってとこぐらいが、唯一、普通じゃないとこだった。
「本当に死神?」
「はい。」
「証拠は?」
「証拠?えぇーっと?」
死神は、背広の内ポケットを焦って探り始めた。窓をすり抜けて入って来なければ、完全に営業マンだ。
「どうぞ。」
「何これ?」
「ご存知、名刺です。」
ご存知の使い方が変。しかも、名刺には大きな字で死神の二文字が書いてあるだけ。窓をすり抜けて入って来なければ、完璧に胡散臭い品物を売り付けてくる商売の人だ。
「まあ、窓をすり抜けて入って来たから、一応、死神って事にしとくけど。」
「助かります。」
「で?用件は?まさか、あたしを迎えに来たって訳じゃないわよね?だったら悪いけど帰ってくれる?」
「あのう?」
「何よ。」
「誠に言いづらい事なんですが。」
「何?」
「お迎えに来ました。」
「ちょっと!死神さん!」
「はい。」
「あたしの話をちゃんと聞いてたの?迎えに来たってなら、帰ってって言ったんですけど?」
「聞いてました。」
「なら、さっさと窓をすり抜けて出てってよ。」
「そう言われましても・・・・・・・・・。」
「あのねぇ。だいたい何であたしが死ななくちゃいけない訳?部屋、間違えたんじゃない?」
「いえいえ。死神が部屋を間違える事は、ありません。えぇーっと。」
訳の分からない理論を持ち出したかと思ったら、死神はまた背広の内ポケットを焦って探り始めた。
「ほら!これ、あなたですよね。」
何かと思えば、それはあたしの写真だった。窓をすり抜けて入って来なければ、決定的にストーカーだ。
「確かに、あたしよ。」
「良かったぁ。」
「だから、何?」
「へっ??」
「写真があるから何なの?そもそも、あたしが死ぬ理由がよく分からないわよ。数日前に健康診断の結果が出たばっかだし、これからこの部屋で予期せぬ事故でも起こるって言うの?だったら死ぬ瞬間に来たらどうなの?」
「あのう?」
「だいたい見るからに普通の人間っぽい死神なんて、非現実的よ!もっとこう、大きな鎌を持ってるとか!ガイコツだとか!ああーっ!もうっ!・・・・・・とにかく!何か普通過ぎるのよ!普通過ぎて、これから死ぬんだとしても!何か嫌なのよ!」
「すいません。私の説明不足でした。ちゃんと死神ルールをお伝えすべきでした。申し訳ありません。」
「死神ルール?」
「はい。」
「何よそれ?」
「はい。そもそも死神とは、実体が存在しません。そうですね。例えば空気のような存在だと思って下さい。」
「はあ~?」
「いいですか?大きな鎌を持っているだとか、ガイコツだとか、その他いろいろな死神のイメージは、あなた方人間が勝手に想像力を膨らまして作り上げた死神像なんです。」
「ちょっと待って!だったら、何であんたは実体が存在してるのよ。」
「これは、借り物です。さすがに実体がないままだと、対象をお迎えに来れないもので。」
「じゃあ、その姿は普通の人間の体を借りてるって訳なの?」
「そう言う事になりますね。まあ、でも今回は最後がたまたま人間だっただけで、動物の時もあれば、植物の時もあります。その時々の状況によります。」
「まったく意味が分からないんですけど?」
「もう一つ、あなた方人間は大きな間違いをしているんです。死神は、けして人間の寿命が尽きる時に現れる存在ではないんです。自然死は自然死。事故死は事故死。別にその後に死神が迎えに来る事は、ありません。それも人間が勝手に想像力を膨らまして作り上げた死神像なんです。」
「だったら、死神って何なの?だいたい、さっきあんたは、あたしを迎えに来たって言ったじゃない。」
「迎えに来たのは確かです。でも、それはあなたが今から死ぬって訳じゃないんです。」
「はあ~?」
「今から、私に殺されると言う事なんです。」
「殺される?何であたしが死神に殺されないといけない訳?」
「はい。死神が対象の前に姿を現す条件として、13の強い念が必要なんです。」
「13の強い念?」
「はい。本気で殺してやろう!と言う、13の強い殺意の念です。」
「待って・・・・・あたしの前にあなたが現れたって事は、あたしは13人の人間に、殺してやろと本気で思われてるって訳?」
「13と言う存在全てが人間とは限りません。それは、人間だったり動物だったり植物だったり、地球上のあらゆる生命体です。なので、死神は動物や植物、昆虫や微生物、魚類や細菌などの前にも現れます。」
「そんな!?」
「そして、その場に一番近い死神が13番目の姿を借りて、対象を殺すんです。理解してもらえましたか?」
「つまり、簡単に言えば、死神は代理人って訳?殺し屋って訳?」
「えぇーっと。ちょっと違いますね。そんなに軽い存在ではないんです。言うなれば、秩序管理人。」
「秩序管理人?」
「そうです。地球上の全生命が、より良く快適に安全に暮らしていけるように、秩序を乱す対象を排除するんです。別名、掃除屋。だってそうでしょ?13の本気の殺意を芽生えさせてしまうような対象なんて、地球上にいらないんですから。」
「掃除屋・・・・・・あたしが地球の秩序を乱してる・・・・・・・・・。」
「そうです。さあ、もう宜しいですか?そろそろ死んでもらえますか?」
「でも!あたしは、あんたなんか!死神の方じゃなくって、借り物の方!あんたなんか知らないわよ!」
「それは、きっとあなたが何処かでこの人間に本気の殺意を芽生えさせてしまったんでしょう。」
「冗談じゃないわよ!訳の分からない奴に、訳の分からない理由で殺されるなんて、ごめんだわ!お断りよ!!」
「これも地球の秩序の為です。今後のより良い地球の未来の為です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「さて、何かご希望の殺され方があるなら、聞きますよ?ない場合は、絞殺になります。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あっ!もちろん、自殺でも構いません。私としては、それが一番手を汚さずに済む選択なんで助かるんですが?」
「・・・・・・・・・もし。」
「はい?」
「もし、あたしが今からあたしを殺そうとしている借り物を本気で殺してやろうと思ったら?」
「考えましたね。たまに人間でいらっしゃるんですよ。あなたのように、頭の良い人と言うんでしょうか?もし、借り物が今まで12の殺意を芽生えさせていたら、あなたで13になる。必然的に一番近くにいる死神の私は、あなたの体を借りなくてはならない。そして、対象を殺す。あなたへの殺意の13は、12になり、あなたは殺されずに済む。」
「可能なのね?」
「試してみる価値は、あると思いますよ?」
「チャンスをくれるの?」
「もちろんです。ただし、借り物がいくつの殺意を芽生えさせているかは、私にも分かりません。」
「いいわ。助かる道がそれしかないんだったら・・・・・・やるしかないでしょ!」
「では、どうぞ。」
「ふぅ・・・・・・行くわよ!」
「はい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

第八十四話「死神ルール」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・残念です。借り物は、13にならなかったようです。では、ご希望の殺され方をお聞かせ下さい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ないようなので、絞殺で宜しいですね?」
「・・・・・・・・・いや、殺され方を選ぶのは、お前の方だよ。死神No.1104。」
「へっ??」
「俺の借り物は、どうやらお前の借り物にではなく、お前自身に本気の殺意を芽生えさせたようだ。これでお前は調度、13。当然、死神も地球上の生命体。死神ルールが適用される。お前の負けだ。いや、相討ちか?まあ、そんな事はどうだっていい。」
「馬鹿な!?」
「ルールは、不用意にペラペラ喋るもんじゃねぇって事だな。さあ、どんな殺され方がいいんだ?」

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コメント

素晴らしく頭を使う結果でありました。
面白い。

投稿: すっぽんぽんぴーぽー | 2008年1月28日 (月) 02時27分

かなり嬉しいです。
 
たぶん、今回の作品はちょっと普段とは違う異色な感じに仕上がった作品だと思います・・・たぶん。
コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年1月28日 (月) 10時58分

本当にここにあるお話は全て
面白いですね~(o⌒∇⌒o)
映像化したら楽しそう☆
創造力をかきたたせる作品ばかりですし☆

これからも頑張ってくださいね!
応援しています!!!o(^▽^)o

投稿: ゆかり | 2008年1月30日 (水) 18時21分

あ!間違えた!創造力じゃなくて
想像力でした!

投稿: ゆかり | 2008年1月30日 (水) 18時24分

想像力も創造力もかきたてられちゃって下さい。
応援、ありがとうございます。
これからも何となく適当にガシガシ書きまくっていきたいと思います。
コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年1月30日 (水) 19時54分

こんな風にうらまれて、命を落としたくないナぁ…駆け引きに負けた、普通の死神サンは…やっぱり死んじゃうのでしょうか?!

投稿: ぁぃリNo.38 | 2008年1月30日 (水) 23時10分

おそらく・・・。
あるいは何か死神ルールに裏ルールでも存在するのなら・・・。
コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年1月31日 (木) 12時39分

どうも、喧嘩魔術士です。

死神ルールはシリーズ化できるんでは?
と言うか、観たいッッ!

コズミック・コメディの話を楽しみにしています。
応援してます。
気楽に頑張ってください。

投稿: 喧嘩魔術士 | 2008年3月25日 (火) 15時06分

シリーズ化ですか!?
しかも観たいですか!?

そうですね。シリーズ化・・・悪くはないですね。
気長に待っててもらえるのならば、何かしらのカタチで続編的な感じで、ひょっこり書いてしまうかもしれません。

コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年3月26日 (水) 18時46分

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