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2008年1月16日 (水)

「第八十三話」

「キョロキョロ!」
「教授?どうしたのですか?キョロキョロが声に出ていますよ?」
「出ていたか!」
「はい。」
「どれぐらい出ていたんだ!」
「はい。それは物凄く出ていました。」
「そうか。まあ、どれぐらい出ていたかは関係ないとしてだ。私が、なぜキョロキョロしながらキョロキョロと口に出していたのか分かるか?」
「何か、誰かに絶対聞かれてはならない話があるのですね?」
「そうだ。」
「それは、教授の研究テーマと何か関係があるのですか?」
「その通りだ!私が日頃から研究している短編小説についてだ!それは、昨日の夜の事だった。短編小説の大きな障害にぶち当たってしまったんだ。」
「それは、晩御飯を食べる前でしょうか?それとも、晩御飯を食べた後でしょうか?」
「後もいいとこだ。布団に入って目をつぶった瞬間だよ。」
「馬鹿な!?だったら、お風呂にも入った後ではありませんか!?」
「いや、昨日は疲れていたから風呂には入っていない。」
「で、いったいどのような障害にぶち当たってしまわれたのですか?」
「ネタバレだ!」
「ネタバレ?いや、しかし教授。お言葉ですが、短編小説とネタバレの歴史は古いです。今になって、わざわざ就寝前にぶち当たるような障害ではないのでは?」
「甘い。」
「そ、それはどれぐらいですか?お砂糖ぐらいでしょうか?それとも、チョコレートぐらいでしょうか?」
「シロップちゃんだ!」
「甘過ぎる!そこまで僕の考えが甘過ぎる理由をお聞かせ下さい。」
「ネタバレとは、何だ?」
「はい。短編小説を読んだ者、及びその短編小説を読ませようとする者が、第三者に短編小説のオチに繋がる話や表現等を行ってしまう行為。もしくは、読んでいる者が読書の最中に、短編小説のオチが分かってしまう現象です。」
「うむ。確かに従来の解釈は、そうだ。しかし、私の新解釈は違う。」
「それはいったい?」
「前者は無視し、後者に重点を置いたネタバレだ。」
「短編小説を読んでいる者に重点を置いたネタバレですか?」
「そうだ。」
「それはいったい?」
「我々を例に上げて話を進めていこう。」
「お願いします。」
「まず、何の情報もなく短編小説を手に取った者がいたとしよう。短編小説を開いて読んでみると『キョロキョロ!』『教授?どうしたんですか?キョロキョロが声に出ていますよ?』と文頭に書かれていた。」
「はい。」
「分からないか?」
「さっぱりです。」
「いいか?ここで既に私が教授だとネタバレしているんだ!さらに欲を言えばだ!私がキョロキョロしている事もネタバレしているんだ!さらにさらに、もっともっと欲を言えば!それを私が声に出していた事すらもネタバレしているんだよ!」
「本当だ!?・・・・・・・・・いや、しかし教授?果たしてこれをネタバレと言うのでしょうか?」
「いいか?勘の鋭い読者ならこの文頭だけで、次の展開が読めてしまうんだよ!『何か、誰かに絶対聞かれてはならない話があるのですね?』『そうだ。』つまりだ。私は、誰かに絶対聞かれたくない話があると言う事が導き出される!しかもその後に君はこう続ける。『それは、教授の研究テーマと何か関係があるのですか?』とな。ここから導き出される結果として、私は教授で、そして何かの研究をしていて、誰かに絶対に聞かれたくない話があると言う事だ。分かるか?」
「さっぱりです。いったい教授の言うネタバレが、どういったものなのかが見当もつきません。」
「いいか?私が言うネタバレとは、短編小説特有の結末だけのどんでん返しの事ではない。つまりだ。文章の連鎖的情報が脳内に与えるネタバレだ。AがBを、BがCを、CがDをと言った具合にネタバレの連鎖が起きてくるんだよ!これは短編小説にとっては致命的だ!一文字一文字がネタバレの脅威となっているんだからな!」
「そんな馬鹿な!?でも、教授の理論は的を得ている。確かに我々読み手は、常にどんなどんでん返しが待ち構えているのだろうかと、予測しながら短編小説を読んでいる。文章から得られる情報を分析し、自らの仮説を頭の中で構築している。情報が多ければ多いほど、仮説は真実に近づいて行く。ならば、ネタバレが既に文頭から始まっていると言うのは、理論上正しい。いや、もしかしたら題名から始まっているのかもしれない。しかし教授?」
「それでは、短編小説が書けない・・・・・・か?」
「そうです。ネタバレを100%恐れていては、短編小説が書けません!」
「だから君は、シロップちゃんなんだよ。」
「甘いのですね!僕の考えは甘過ぎるのですね!」
「ネタバレを恐れ、しかしそれでも短編小説を書いてしまう。100%妥協して書かれた0%の短編小説が、短編小説な訳がないだろ!」
「きょ、教授?ま、まさか!?」
「そうだ。私は風呂にも入らず、寝ないで考え、あるとてつもなく恐ろしい答えに辿り着いた。君がたった今、辿り着いた答えだよ。」
「我々は、まだ短編小説を読んだ事がない!」
「そうだ。」
「今まで読んでいた短編小説は、短編小説ではない!短編小説は、この世に存在していなかった!」
「ああ。何とも悲しい結末じゃないか。全くどんでん返しもない・・・・・・・・・。」
「教授?」
「さしずめ、私がここで短編小説の秘密を知ってしまった君を殺せば、いい結末になるのか?実は、私が教授ではなく短編小説財団の人間であった方が読み手の発想の遥か上を行くのか?あるいは、私がシロップちゃんだったら・・・・・・・・・はっはっはっ!そんなもんは!全く短編小説ではない!!実にどんでん返しではない!!私が教授で、助手の君が存在してこそ成り立つ結末など、既にネタバレなんだよ!茶番なんだよ!!」
「我々は、いったい今日まで何の研究をして来たのでしょうか?実は、この世に存在すらしていなかった短編小説・・・・・・・・・教授?これから我々は、いったい何処へ向かえば良いのでしょうか?そして、いったい何を研究してけばいいのでしょうか?」
「決まっているじゃないか!!」
「えっ?」
「勿論、我々はこれからも短編小説を研究していくんだ!」
「お言葉ですが、教授!研究する短編小説が、ありません!それでもまだ、偽りの短編小説を研究してくとおっしゃるのですか!」
「いや・・・・・・・・・まだ、手はある!」
「それは、いったい!?」

第八十三話
「いざ、地球へ」

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コメント

文章の連鎖反応をまったく裏切った内容です、教授ッッ!!(笑)

投稿: 愛莉No.38 | 2008年1月16日 (水) 23時45分

シロップちゃんなコメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年1月18日 (金) 00時22分

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