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2008年2月13日 (水)

「第八十七話」

「あちゃー!お客さん、渋滞に巻き込まれちゃいましたよ。」
僕は、タクシーに乗っていた。普段なら電車に乗って会社へ向かうはずが、今日みたいな日に限って、車両トラブルで電車が止まっていた。だから、僕はタクシーに乗っていた。
「参ったな。」
「何、お客さん。ばれたの?」
「ばれたって、何がですか?何もばれてませんよ?」
「すいません。てっきりお客さんのお茶目なヅラが、ばれちゃったのかと思って。」
「お茶目なヅラってどんなヅラですか!ヅラじゃないですよ!ほら、引っ張っても大丈夫ですよ。ちゃんとした地毛です!地・毛!」
「あっ!ずれた!?」
「ずれませんよ!よしんば僕がお茶目なヅラだったとしても、いみじくもズレたとしても、とどのつまりそれは言っちゃダメですよ。」
「じゃあ、何をそんなに参っちゃったんですか?」
「今日、大事な会議があるんですよ。」
そう、こんな日に限って僕の将来を左右する大事な会議があった。
「なくなったってよ。その会議。」
「な訳ないでしょ!何で運転手さんが知ってるんですか!知ってる訳ないでしょ!」
「お客さんの事なら、何でも知ってますよ。」
「いったい何者なんですか!」
ついてない。電車は止まるし、会議には間に合いそうもないし、変なタクシーに乗っちゃうし、まったくついてない。
「で?その会議は、いつ始まるんですか?」
「30分後なんですけど、間に合いそうですか?」
「ムリー!!」
「やっぱり・・・・・・・・・。」
「でも、お客さん!安心されたし!」
「もしかして運転手さん!裏道とか知ってるんですか?」
「裏道かぁ~。ほわぁん、ほわぁん、ほわぁん。」
「何で回想シーンに入ろうとしてるんですか!」
「ないね。」
「ないなら普通に言えばいいじゃないですか!何でわざわざ回想経由で遠回りするんですか!」
「お客さんが上手い事言いました!どーぞ。」
「わざわざ無線で報告しなくってもいいですよ!別に上手い事言ってないですから!むしろ、タクシーで遠回りはダメでしょ!」
「さすがに30分は、無理ですよ。」
「そうですか・・・・・・・・・。」
僕の人生も終わりだな。
「5分で行けるよ!」
「えっ!?5分!?本当ですか?」
「わたくし、軽く嘘をつきました。」
「何で、この状況で嘘をつくんですか!」
「ごめんなさい。どーぞ。」
「いったい誰に謝ってるんですか!僕に謝って下さいよ!無線聞いた人もびっくりですよ!」
「でも、お客さん。男ってのは、でっかい夢を持った方がいい!」
「白目で言う事ですか!いや、それ以前に何の話ですか?」
「お客さん。私の運転さばきなら、5分は無理でもこれぐらいの渋滞なら、20分で行けますよ。」
「本当ですか!?」
「飛行モード!」
「えっ!?」
「オンっ!」
「まさか!?飛ぶんですか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「飛びません。」
「また嘘ですか!」
「そうです。どーぞ。」
「無線好きか!えっ!?ちょっと待って下さい?いったいどっから嘘なんですか?まさか!20分ってのも嘘だったんですか?」
「20分は本当です。どーぞ。」
「だから、どーぞもういいって!でも、いったいどうやって20分で行くんですか?」
「裏道を使うのだす!」
「でも運転手さん、さっき知らないって、まさか嘘ついてたんですか?」
「嘘なんてついてませんよ。私はね。タクシーを運転している時以外、嘘などついた事ありません!」
「現状つきっぱなしなんじゃないですか!」
「お客さん、勘違いしちゃいけないぜ?」
「ちょくちょく人格が変わりますよね?」
「裏道を知っているのは本当です!」
「だったら、何で僕が聞いた時に言ってくれなかったんですか!」
「だって、タイミング的に私からお客さんに言った方が、場が盛り上がるだろうし、何よりも私のカッコイイ度数がアップするじゃないですか!」
「・・・・・・・・・そんな下らない理由で。」
「悪かったね、お客さん。そして、ありがとう。」
「ありがとう。の意味が分かりませんよ。それは無線を使っていいですよ。」
「お客さんの心にありがとう。」
「さらに意味不明になりましたよ。ウインク気持ち悪いし・・・・・・とにかく!裏道があるなら早く行って下さい!」
「分かったり、分からなかったり。」
「どっちですか!」
「じゃあ、分からないで。」
「分かったにして下さい!」
「はいはい。分かりましたよ。そうしますよ。そうすればいいんでしょ。」
「何ですか、その嫌そうな言い方と鼻をほじるくる態度は!」
「ふんっ!ヅラのくせに!」
「ヅラじゃねぇよ!」
「お茶目なくせに!」
「どんな文句だ!」
「さあ、お客さん!ここを曲がると、いよいよお待ちかねの裏道に突入だよ!わっくわくだね!」
「テーマパークかよ・・・・・・・・・。」
とにかく、面倒臭さ1000%のタクシーに乗ってしまった僕は、鬱陶しさ10000%の運転手を信じて、会社到着の淡い希望を胸に、そわそわイライラしながら、今か今かと待ち望んでいた。
「ところでお客さん。目的地に着くまで私の恐怖体験談でも聞きませんか?」
「幽霊話ですか?まあ、何もしないのも暇ですし、聞いてみようと思います。」
「では。」
「まあ、朝ですから恐さも半減してしまいますけどね。」
「あれは、そう確か5年ぐらい前かな。5年くらい前かな。5年ぐらい、5年くらい。5年ぐ」
「濁点のあるなしが、そんなに重要なんですか?僕は重要だと思わないなぁ!」
「5年前の話なんですけどね。ちょっと遠くの方まで乗せたお客さんがいたんですよ。ええ、山を越えるぐらいの場所まで。そう、山を越えたんですよ。」
「何も言ってませんけど?」
「帰る頃には、もう夜中の2時を過ぎてましてね。その帰り道の話なんですけどね。調度、トンネルに差し掛かった頃に思い出したんですよ。そこが有名な心霊スポットだって事に。嫌だなと思いながらもタクシーを運転していたんです。そして、トンネルの出口を出た瞬間!目の前に人が飛び出して来たんですよ!急ブレーキしたんですが、間に合うはずもなく、私はその人を轢いてしまったんですよ。」
「で、どうしたんですか?」
「急いでタクシーから降りて辺りを見渡しても、誰もいないんですよ。私、恐くなってしまって、そのまま急いで帰ってしまったんですよ。」
「ちょっと恐いですね。」
「それで後日。」
「続きがあるんですか?」
「新聞を見てびっくり!何の事はない。私が轢いたショックで、吹っ飛んで崖の下に落っこちていたらしいんですよ!はっはっはっ!」
「恐怖体験談でも何でもない!単なる轢き逃げした話じゃないですか!待てよ?その話もどうせ嘘なんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「黙るな!」
「私ね。最近、体の調子が優れなくてね。」
「話を変えるな!」
「それでこの前、人間ドックに行って来たんですよ。」
「何か見つかったんですか?」
「もし、地球が大爆発したら、死ぬって言われました。」
「みんな死ぬよ!何だその医者!つまり、健康だったって事なんですね。」
「それはいつですか!って、聞いたんです。」
「いいよ聞かないで!」
「そしたら、その先生が言ったんです!」
「いいよ答えないで!」
「何て言ったと思います?」
「さあ?」
「3分後って言ったんですよ!私、恐くなってしまって、そのまま急いで帰ってしまったんですよ。」
「だったら逃げても無駄でしょ。それより運転手さん!あと10分ですけど、本当に間に合うんですか?」
「お客さん!心配御無用だはぁっ!ロケットエンジン点火!GOぉぉぉぉぉ!!」
「付いてるんですか!?」
「ブー!」
「おならかよ!普通にしろよ!てか、客乗せてる間は我慢しろよな!」
「あっ!」
「どうしたんですか?まさか、間に合わないとか!?」
「身が出た!」
「漏らしてんじゃん!」
「見る?」
「見る訳ないでしょ!何で見ると思ったんですか!」
「見ないそうです。どーぞ。」
「誰かに指令を受けてたのか!そんな事より運転手さん!間に合わなかったら、どうするんですか!」
「その時は大丈夫。」
「大丈夫じゃないですよ!」
「実は、わたくしタクシーの運転手さんこと、タクシーの運転手さんは、時間が戻せるのです。」
「もう何か嘘つく時の雰囲気、プンプンなんですけど?だったら、試しにやってみて下さいよ。」
「分かりました。えーっいっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あちゃー!お客さん、渋滞に巻き込まれちゃいましたよ。」
「セリフが最初に戻っただけだろ!」
「ちょっと失敗した。」
「圧倒的に失敗だよ!」
「体の調子が優れないからなぁ。」
「健康そのものだろ!って、運転手さん!そんなこんなで!もう5分しかありませんよ!」
「よーし!分かった!こうなったら奥の手だ!最終手段だ!ワープを使おうではないか!諸君!」
「使える訳ないし、1人だし、もし使えるんだったら最初から使えだし。」
「ワー!」
「ブリブリブリッ!!」
「プじゃなくって、ブリブリブリッて音がした!」
「失敗した!」
「どう考えても!容赦なくうんこしただけだろ!!」

第八十七話
「15年くらい前の社長と運転手さん」

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