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2008年3月12日 (水)

「第九十一話」

「この穴は、どこへ続いているんですか?」
「闇の世界へと、続いているのだよ。」
「闇の世界?」
「そう。闇の世界だよ。」
「そこは、どんな世界なんですか?」
「さあ?まだ誰も行った事のない世界で、行ったとしても帰って来れるかどうかも分からない世界なのだよ。」
「そうなんですか。」
「行ってみるかい?」
「僕が?」
「そうだよ?何となく行ってみたそうな顔をしているぞい?」
「はあ、確かにこの穴には物凄く興味があります。かなり好奇心をくすぐられます。けど・・・・・・・・・。」
「やはり、闇の世界は恐ろしいかい?」
「正直、考えただけでも恐怖で胸がいっぱいです。」
「そうか。なら、行かないほうがよいよ。」
「あのう?」
「何だい?」
「あなたは、どうして闇の世界への入口にいるんですか?もしかして、あなたは闇の世界の住人で、ここの番をしているんですか?」
「ぶははははっ!わしが闇の世界の住人?違う違う、わしは、この世界の住人だよ。」
「じゃあ、どうして?」
「キミと同じだよ。この穴に興味を抱き、身体中の細胞が好奇心で埋め尽くされ、穴に足を踏み入れ、闇の世界へ行ってみたい、と思ったのだよ。」
「もしかして!?あなたは、闇の世界へ行って、そして戻って来たんでは?」
「いいや、わしにはあまりにも勇気が足りな過ぎたのだよ。だから、諦めたのだよ。だったらせめて、せめてここでわしと同じ志を持つ者の背中を見届けようと思って、ここにいるだけなのだよ。」
「そうだったんですか。」
「80年。だ~れも、闇の世界への入口に足を踏み入れる者などいなかったのだよ。」
「80年!?」
「ああ、暇な80年だったのだよ。暇で暇で、自分が暇だと言う事すら、忘れてしまうぐらいにな。勘違いしないで欲しいのだよ。それでも、わしにとっては充実した柔らかで滑らかな80年だったのだよ。後悔など、1度もした事がないのだよ。この曇り空を見て、風に流れる雲を見て、闇の世界へと足を踏み入れる者を待つ時間は、至福の時間だったのだよ。おっとっと、何だか喋り過ぎて、キミの貴重な時間を奪ってしまったよ。すまんすまん。」
「おじいさん・・・・・・・・・。」
「もう、行くかい?」
「・・・・・・・・・はい。」
「そうだな。あまり遅くなると家族が心配するだろうしな。さあ、暗くなる前に行くのだよ。」
「はい。ただ、僕が行くのは、こっちです。」
「なっ!?闇の世界へ行くと言うのかい!?」
「そうです。」
「もし、もしわしの話を聞いて、わしの為に行くと言うのなら!?」
「違います。僕は僕自身の為に闇の世界へ行くんです。ただ、おじいさんの話を聞いて、決意が固まっただけです。」
「そうかいそうかい。」
「おじいさん。」
「ん?」
「僕の背中を優しく押してくれて、ありがとうございました。」
「気を付けて行くのだよ。」
「もし、もし良かったら一緒に行きませんか?」
「いや、わしは残るのだよ。心が折れてしまったわしなんかが一緒では、キミの足を引っ張ってしまうからな。わしは、キミの背中を見届けたら、80年ぶりに家に帰る事にするのだよ。誘ってくれて、ありがとう。」
「そうですか。」
「ああ。」
「それじゃあ、僕は行きます。」
「本当にありがとう。勇気あるキミ。」
「こちらこそです。お元気で。」
「キミもな。」

第九十一話
「これは
 闇の世界のはなし
 それはつまり
 光の世界へと続く
 穴のはなし」

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