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2008年4月 9日 (水)

「第九十五話」

「息子ー!息子ー!」
下の部屋から僕を呼ぶ声が聞こえて来た。息子って、名前で呼んで下さいよ、母上。
「息子に荷物が届いてるわよー!」
荷物?ああ、注文したあれですか。
「開けるわよー!」
えっ!?なぜ開ける選択肢を選んだのですか母上!まだ開けてはダメですよ!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
僕は、全速力で母上のいる下の部屋へと向かった。
「何かしらね。楽しみね。」
「待って下さい!!」
「パカッ!」
「何で勝手に開けるのです!母上!」
「だって、目の前に開ける物があったら、開けちゃわないと気持ち悪いじゃない?」
いや、理論がおかしいですよ!その理論で、よく今まで何のトラブルにも巻き込まれる事なく、無事に生きてこれましたね母上!
「ところで、何これ?」
「えっ?」
「いろんな物の詰め合わせ?こんなの必要なの?いったい何に使うの?わざわざ注文しなくても、スーパーマーケットとかでも売ってるんじゃない?」
いきなり質問責めですか?母上。確かに母上のおっしゃる事は正しいです。何も知らない人が中身を見たら、そう思うに違いないでしょう。でも、それらは紛れもなく殺人キットと言う代物なのですよ、母上。
「木綿豆腐?」
「最近、木綿豆腐にハマっているのです。各地の木綿豆腐をお取り寄せして、食べ比べをしているのですよ。そして、キング・オブ・木綿豆腐を決定するのです!」
「キング・オブ・木綿豆腐ねぇ?」
「はい。」
違いますよ、母上。その木綿豆腐は、あくまで殺人キットのパーツの一つなのですよ。殺人キットには、およそ殺人とは関係のないような物が入っているのです。キング・オブ・木綿豆腐などと言う代物を、本気で僕が決定しようなどと思っているのですか?
「辞書?」
「ええ、持っている辞書が古くなってきたもので、新しいのが欲しくなり、ついつい買ってしまったのです。」
「そう。でも、言ってくれれば、辞書ぐらい買って上げたのに。」
「いえ、母上。自分で買う事に意味があるのですよ。」
そして、一見殺人には全く関係のないような数々のパーツ一つ一つが、完全殺人を作り上げるパズルのピースの役割を担うのです。分かりますか?母上。
「色鉛筆?しかも、朱色だけ?」
「ちょうど朱色だけなかったもので。」
それらのパーツを説明書通りに使用する事により、完全殺人が完成するのですよ、母上。
「あら!」
「どうかしました?」
「電球!」
「別に、母上がそんなに喜ばなくても。」
「ちょうど、お風呂場の電球が切れてたところなのよ。これ使ってもいいかしら?」
「はあ、別にいいですよ。」
「ラッキー!」
パーツを一つ一つ、パズルを完成させる要領で使用する。すると、その先には、100%事故死にしか見えない殺人が待っているのです。
「葉っぱ?」
「ああ、きっと箱に詰める時にでも混じってしまったのでしょう。」
「なら、捨てちゃいましょう。」
「母上!」
「どうしたの?」
「それは、僕があとでちゃんと捨てときます。」
「あらそう?悪いわね。」
「いえ、僕に届いた荷物ですので、僕が捨てるのは当たり前です。」
危ない危ない。その葉っぱは、今回のこの殺人キットの中で最も重要な役割を担うパーツなのですよ、母上。捨てられてしまったら、完全殺人が成り立ちませんよ。
「あら?水色のTシャツ?」
「はい。一目で気に入ってしまったので、衝動買いってやつです。」
「三枚も?」
「ええ、母上も知っての通り、僕は非常に汗をかく体質ですから。」
「でも、この前水色のTシャツ買って上げなかった?」
「はい。しかし、あれは前後にアニメのキャラクターがプリントされている物で、そちらの水色のTシャツは、無地なのです。」
「無地が欲しかったの?だったらあの時に言ってくれればよかったのに。」
「誤解しないで下さい母上。僕は、あのアニメキャラクターが前後にプリントされている水色のTシャツを非常に気に入っています。ただ単に、無地の水色のTシャツも欲しくなってしまっただけの事です。」
「そう。」
なぜ、殺人キットで完全殺人が可能なのか?それは、確率から導き出される事故死。事故死の確率を人為的に上げれば、それすなわち、完全殺人。では、どうやって事故死率を100%に近づけるのか分かりますか?母上。
「砂消しゴム?」
「最近、少し絵を画く事に興味を持ちまして。」
「あら、だったら今度、お母さんモデルになっちゃおうかしら?」
「是非。」
殺人キットを申し込む段階で、事前に殺したい相手について、約1000ページにも及ぶ膨大な数の質問事項を的確に具体的に回答する必要がある。そして、申し込み用紙と回答用紙を同封し、殺人キットを注文する。あとは、向こうが勝手に殺人対象の個人データ、行動パターン、回答用紙などから得られる情報を基に、どうすれば100%に近い事故死率になるのかを割り出してくれるのです。
「ランドセル?」
「はい。その色のランドセルを背負っている友人がいて、僕も欲しくなってしまったのです。」
「でも、あと二年しか小学校には、通わないのよ?」
「どうしても欲しかったのです。」
「まあいいわ。あと二年と言っても、まだ二年ですものね。楽しく過ごすのが一番よ。」
「はい。」
「でも、このランドセルのお金は、お母さんが出しますからね。」
「ありがとうございます。」
そして、まずは説明書が郵送されてくる。その数日後に殺人キットが送られてくる。説明書に従い殺人キットを正確に使用する。そうする事で、100%に近い確率で対象を事故死に導く事が出来る。誰が見ても日常起こりうる事故死。まさに完全殺人。
「ゲームソフト?」
「新作です。」
「またゲーム?ゲームばっかりしちゃダメよ?」
「分かっています。」
そして、僕の殺人対象は、母上。あなたです。日頃から疎ましい。あなたなのですよ。申し訳ないですが、夕方頃には事故死していただきます。
「またゲームソフト?」
「そちらも新作なのです。」
事故死までのルート。ルート14.母親と一緒に殺人キットの中身を確認する。そう、何気ないこの日常のやり取りから既に、完全殺人は始まっているのですよ、母上。
「あらヤダ!何、このイヤラシイ雑誌!」
「そっ、それは!?」
「これは、お母さんがあとで処分しときます!」
「・・・・・・・・・はい。」
「近頃の小学生は、おませさんね!」
ルート23.母親がエッチな雑誌を処分する。まさに説明書通りの展開で、思わず笑い出しそうになってしまいますよ、母上。ルート35.母親がお風呂場の電球交換。ルート38.自室で新作ゲームをプレイ。さあ、これでパーツは全て揃いました。あとは、そのままルート通りに進めて行くだけですよ、母上。
「これで最後ね。」
「えっ!?」
最後?そんなはずない。殺人キットのパーツは、今ので最後のはず。
「油揚げ。」
「油揚げ!?」
「そうだわ!これとさっきの木綿豆腐を使って、夕ご飯にお味噌汁を作りましょ!」
ルート66.木綿豆腐の味噌汁を作る。確かに母上が味噌汁を作るルートが先に待っている。だけど、油揚げは、何だ!?事故死率をより100%に近づける為に、向こうがキットに入れてくれたのか?サービス?しかし、ルート変更時には、再度説明書が送られてくるはず。
「どうしたの?顔色が悪いわよ?お部屋で寝てた方がいいんじゃない?」
「いえ、大丈夫です。新作のゲームをプレイすれば、気分も良くなると思います。」
そうだ。とにかく今は、殺人キットの説明書に従い完全殺人のルートを歩むしかない。油揚げは、単に事故死率を上げる為だけのパーツにすぎない。そうに違いない。考えてみれば、味噌汁を作るルートに何の変更もない。大丈夫だ。完全殺人は、完成する。
「そう?じゃあ、お母さんは、お風呂場の電球でも交換してこようかしらね。」
「はい。」
ほら、何の問題もない。ルート通りだ。
「では、僕は部屋でゲームをしています。木綿豆腐と油揚げ以外は、部屋に持って行きますね。」
ルート79.母親が吹き零れる味噌汁の鍋の火を慌てて消しに来る。ルート80.自室の窓から葉っぱを捨てる。ルート81.窓から入ってきた葉っぱが、母親の口の中へ。ルート82.葉っぱが喉につまり、母親は窒息死。
「あっ、待って!」
「はい?」
「それは、お母さんの殺人キット。あなたのは、あっちの開けてない方よ。」
「えっ!?」
「さようなら。」

第九十五話
「もう一つの殺人キット」

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