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2008年4月30日 (水)

「第九十八話」

 僕は、気分とタイミングでお店を開けたり閉めたりしてる。空気とニュアンスでいろいろな場所を転々としてる。僕のお店で売ってる品物は、時間。だからきっと、お店の名前も時間屋。時間にもいろいろあるけど、僕のお店で売ってるのは、過去。本当は、いろいろ仕入れたいんだけど、そこは厳しい現実社会。お金がなければ仕方がない。まあでも、僕が好んで過去を仕入れてるって話もあるんだけどね。だって、いろいろな時間の中で、過去が一番面白いんだもん。そこは、変えられない現実なんだなぁ。

第九十八話
「時間屋」

 今日は、何となく気分とタイミングと天気でお店を開ける日。それと昨日の夜、猫を三匹見たから。あと、大きなあめ玉を噛まずに最後まで舐めれたから。それに昨日は、散歩しても一回も人にぶつからなかったから。ん?それは一昨日だったかな?昨日は、ずっと家の中で大きなあめ玉を舐めてたから・・・ん?だったら僕は、どこで猫を三匹見たんだ?一昨日?あれ?一昨日は、確か卵の黄身が二つだったようなぁ?ありゃ?それは、もっと前だったっけ?
「ガチャン。」
そうこうしてるうちに、何だかんだでお客さんがやって来てしまった。
「いらっしゃいませ。」
まあいいや。昨日とか一昨日とかって、別に何だっていいや。とにかく今日は、お店を開ける日なんだから。それでいい。
「ここは、本当に時間を売っているのか?」
「はい。」
何か何か。切羽詰まった感じのおじさんがやって来た。この前来たのも確かおじさんで、その前がお姉さんで、その前がおじいちゃんだったかな?あれ?満月の次の日の雨の日に来たのは、子供だったっけ?スープをこぼさずに飲めた次の日がおじいちゃんだったかなぁ?
「おい。聞いてるのか?」
「えっ!?あっ、すいません。聞いていませんでした。」
「お店のドアのとこの貼り紙に書かれている事は、本当なのか?」
「はて?何て書きましたっけ?」
「過去あります。だ。」
「ああ!ありますあります!過去あります!」
そうだそうだ。一回も間違わずに、綺麗に書けたから、思わずドアのとこに貼っといたんだった。剥がすの忘れてた。
「いくらだ?」
「いくら?」
「過去を売っているのだろ?」
「売ってます売ってます。」
「過去に戻れるって事なのだろ?」
「戻れます戻れます。」
「私は、どうしても過去に戻らなければならない。だから、過去を売ってくれ。」
「エコロジー!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ありゃ?何か不思議そうな顔で見られてるぞ?間違った?間違ったのかな?この前、テレビ観てていつか使おう使おうと思ってたセリフだったんだけど・・・・・・もしかしてもしかしたら、使い方間違っちゃった?
「本当に過去へ行く時間を売っているのか?」
「がはっ!がははっ!やだなぁ。ここは時間屋ですよ?おじさんじゃなかったお客さん!過去へ行く時間を売ってる?に決まっ・・・・・・・・・売ってない!」
「何だと!?」
「売ってる!いやいや売ってない!違う違う売ってるんじゃなくって売ってない!あれ?」
「どっちなんだ!」
「どっちなんだ?」
「おい!」
「売ってない!」
「だったら、こんな所に用などない。帰らしてもらう。」
「待った!」
「何だ?」
「過去はあります。ただ、売ってる訳じゃないんです。いや、もちろんお客さんに過去を差し上げるんですが、売ってる訳じゃないんです。」
「どう言う事なんだ?」
「どう言う事なんでしょう?」
「馬鹿にしているのか?」
「してませんしてません!えっと・・・・・・あっそうそう!おじさ・・・お客さんがいくらとか聞くからややこしくなっちゃったんですよ。」
「なぜだ?ここは時間屋で、ここには過去がある。」
「そうそう。」
「それをお金を払って買う。何がおかしい?」
「そこだ!そこがおかしい!ああ、良かった。何かモヤモヤがヤモヤモになって、今日もポッキリ眠れそうだ。」
「やはり、帰らしてもらう。」
「ああ、待って下さい!行かないで!」
「何だ!」
「ぶたないで!」
「ぶつ訳がないだろ。」
「良かった。良かった良かった。あっ!そうそう。お金じゃないんですよ。僕がお客さんに…あっすんなり言えた!じゃなくって・・・・・・・・・えっと、話です!」
「話?」
「そうですそうです。何でお客さんが過去に戻りたいのかを話してもらって、それで過去を差し上げるんです。そんな寸法です。」
「なるほど。過去を上げるに相応しい人間かどうかを君が審査するって訳だな?」
「難しく言うと・・・・・・そんな感じです!」
「分かった。なら、なぜ私が過去に戻りたいのかを話そう。」
「どーぞ。」
「妻にちゃんと別れの言葉を言いたいのだ。」
「別れの言葉を?」
「私には、病気の妻がいた。だが、五年前の今日、死んだ。あの日、私はどうしてもやらなければならない仕事があった。」
「奥さんが死にそうなのに?」
「君には、分からないかもしれないが、大人にはいろいろな事情があるのだ。ましてや当時の私のしていた仕事は、世界を動かすような重要な仕事だった。私情を挟む事など、もってのほか。」
「奥さん・・・・・・可哀想。」
「ああ、まったくだ。まったく君の言う通りだ。妻が死んで、何が自分にとって一番大切なのかを理解した。だが・・・・・・・・・遅すぎた。気付いた時には、妻はもう・・・・・・遠くに行ってしまった。」
「グスン・・・・・・ズズズズズ!チーン!」
「君が泣いてどうする。そして、今日、妻の墓参りに来たら、この店が目に入った。何か運命的なものを感じてしまったよ。これは、妻に別れの言葉を言えと、誰かが与えてくれたチャンスなのではないかとな。そして、このチャンスを逃したら、私は一生後悔する!」
「うんうん。ズズズズズー!でもでも、奥さんの死は、変えられませんよ?チーン!チーン!」
「ああ、分かっている。妻は、病気で死ぬ運命だった。その運命を・・・・・・妻の死を変える事など出来ないのは、百も承知だ。私は、ただ妻に一言、一言ありがとうと伝える事が出来ればいい・・・それだけでいいのだ。」
「ええはなしや~!分かりました分かりました!」
「くれるのか?私に過去を!」
「差し上げます差し上げます!」
「ありがとう。感謝するよ。」
「こちらこそ感謝ですよ。こんなええはなし、うんうん。チーン!っと、さておじさんが行きたい過去は、五年前の病院でいいんですね?」
「ああ。」
「それと、過去に行く前に時間屋の約束事があります。」
「約束事?」
「はい。それを聞いてから、もう一度よ~く考えて決めて下さい。」
「分かった。」
「まず、過去に行くと言うのは、本当に過去へ行く事になります。つまり、もう一度おじさんの時間が五年前からスタートすると言う事です。だから、過去に戻っても、もう一人のおじさんにポッキリ会ってしまうなんてトラブルはありません。」
「五年前の私に戻ると言う事だな。ん?しかし、それでは、私は同じ過ちを繰り返すだけではないのか?」
「そこは、ご心配なく。時間屋ですから。ところで、おじさんはタバコを吸った事は?」
「今は、やめているが、昔は吸っていた。」
「じゃあ、簡単簡単!時間を遡るには、これを使います。」
「タバコを?」
「タバコに似てますが、タバコじゃないんです。時間の塊です。煙も出ますが、タバコじゃないんです。時間の塊です。ただ単に要領がタバコに似ているだけで、タバコじゃないんです。」
「時間の塊なのだな?」
「そうそう!なかなか要領がいい!」
「それで?その時間の塊を吸えばいいのか?」
「そうです。どうぞ。」
「これで、妻に別れの言葉を言える。」
「あっ!待った待った!大事な事を言い忘れるとこだった!時間の塊を吸ってる間、単純に過去に戻りたい人じゃなく、何かをやりたいと思っている人は、その思いを強く念じながら吸うんです!ああ、早口で喋って疲れたぁ。」
「つまり、私の場合は、妻に会い別れの言葉を言いたい。そう、強く念じながら吸えばいいのだな?」
「そうですそうです。そうすれば、過去に戻っても、その思いが頭の中に残ります。」
「分かった。」
「シュポッ!ジジジジジ・・・・・・・・・。」
「それと、さっきも言いましたが」
「分かっている。妻の死は、変えられない。だろ?」
「そうです。奥さんの死は、変わりません。」
「ス~、プハ~。ありがとう。時間屋。」
「いえいえ。こちらこそ、過去をお話し上げ、ありがとうございました。」
「ス~、プハ~、では、行って来るよ。」
「行ってらっしゃい!」
「ス~、プハ~。」
「・・・・・・・・・行っちゃった。」

 僕は、気分とタイミングでお店を開けたり閉めたりしてる。空気とニュアンスでいろいろな場所を転々としてる。僕のお店で売ってる品物は、時間。だからきっと、お店の名前も時間屋。
「でも、おじさん本当に過去を理解したのかなぁ?特に奥さんの死の部分。奥さんの死は変わらないんだから、今さら過去に戻っても、奥さん存在しないのになぁ?あれじゃあ、奥さんを捜してさ迷っちゃうよ。まあ、いい過去が聞けたし、特に問題ないかっ!」
僕のお店で売ってるのは、過去。本当は、未来とかも仕入れたいんだけど、過去の話が一番面白いから、この店では今んとこ過去しか置いてないんだなぁ。
「そうだ!時間屋じゃなくって、タイムショップに名前変えようかなぁ・・・・・・・・・やっぱ時間屋だな!」
そして、今日はもう店じまい。

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