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2008年5月14日 (水)

「第百話」

「第百話かぁ。それなりに何となく続いたもんだなぁ。適当に良くも悪くも続くもんなんだなぁ。第百話ってか、祝百話だな!にゃっはっはっ!にゃーっはっはっはっ!!」
とりあえず笑ってみたものの、いったい第百話の何が祝なんだかよく分からない。続けていれば自然と、必然と、当然と辿り着くじゃないか。まあでも、桁が一つ増えると言う事への喜びは少なくとも持っていた。だから、僕の中の節目好きな人種の血が勝手に騒ぎ出してしまうのもしょうがない。いや、単純に百と言う数字に対し、素直に服を着て喜びを表現すればいいのかもしれない。いやむしろ、服を着る前に表現すべきだ!
「はあ・・・・・・・・・。」
だが、あいにく理想と現実のギャップに悩まされている僕は、朝から溜め息ばかりだ。考えをまとめようと頭をスッキリさせる為に、何度お風呂に入った事か。
「さてと!」
洋服を着て、椅子に座り机に向かう。目の前には、この第百話用に買った真新しいペンと真っ白な原稿用紙がある。
「ふぅっ!」
呼吸を整え、僕はペンを握り締めた。この一連の作業も何度目だ?いったいいつになったら、この無限地獄から抜け出せると言うんだ?無限地獄にいる時点でアウトなのか?書きたいテーマは決まっている。
「本格派ミステリー!」
と、口に出したとこで書ける訳でもない。せっかくの第百話なんだから、普段は挑戦しないような作品を!と、意気込んでみたはいいものの。って、物凄く第百話を意識してる自分に今、今気付いたよ。
「はあ・・・・・・・・・。」
そもそもの本格派ミステリーの書き方がよく分からない。本格派ミステリーとサスペンスの微妙なボーダーラインも分からない。本格派と本格派でない本格派ミステリーの違いすら分からない。
「無理だ!」
ああ、この言葉も言い飽きた。本格派ミステリー小説の概念が既に、本格的本格派ミステリー状態な僕の脳みそに、本格派ミステリーを本書く化出来るのだろうか?こんな、駄洒落の切れ味すら錆び付いてる状態で、本格に本当に大丈夫なんだろうか?真犯人は、見付かるのだろうか?
「いやいや、書かねば始まらぬ!何事も!!」
握りこぶしが妙に悲しい。自分のキャラクターさえも分からなくなってきた状況で、完全犯罪を目論むトリックが頭に浮かぶのだろうか?ダメだダメだ!ネガティブな考えは捨て去るんだ自分!もう、サイは投げられたんだ!サジを投げてる場合じゃない!
「よし!書こう!」
さっきよりも、気持ちオクターブ上げてスタッカートな感じでブレスブレスで気合いを入れて、白紙の原稿用紙を睨み付けた。
「タイトルは・・・・・・・・・。」
だいぶ頭の中が本格派ミステリーなんだろうな。タイトルから書いてどうするんだ。僕の短編は、いつもタイトルが後じゃないか!
「はっ!」
ここで、ある衝撃的な問題にぶちあたった。
「一話完結の短編じゃ・・・・・・本格派ミステリーは書けない!」
でも、その超難解な謎は迷宮入りする事なく、スムーズに解決出来た。本格派ミステリー=長編。と、言う概念自体が間違っているんだ。この先入観こそが、作品の幅を縮めてしまう真犯人じゃないか!だいたい真犯人は、自分の近くにいるもんだ!
「長編に出来て短編に出来ない事はない!!!」
この台詞が犯人を追い詰めた時の僕の決め台詞かどうかなんて分からないけど、近所迷惑を省みず、とりあえず大声で叫んでみた。
「短編に出来て長編に出来ない事は山ほどある!」
続けてアンチ長編の旗を振りかざしてみた。
「小説の映像化は、無理だ!」
ついでに映像の世界にも進出してみた。
「漫画の実写化は、もっと無理だ!」
さらにエンジニアへの挑戦状を叩き付けながら、逆もまた然りと、ニヤリと笑いつつも自分の財布の中身を思い出し、
「・・・・・・・・・ありだな!」
と、妙に金の臭いがプンプンするこの犯行に反抗する事をやめ、ついでに置き去りにしていた現実に向き合う事にした。
「はあ・・・・・・・・・。」
本格派ミステリーと侮るなかれ、興味本意で手を出すと大火傷だ!だって、何から決めればいいのか分かんないんだもん!
「ストーリーか?」
いや、迂闊にストーリーから手を出してしまうと、登場人物を模索している中で、ストーリー寄りな登場人物になり、早い段階で犯人が読者にバレてしまう。ダメだダメだ。
「登場人物か?」
いやいや、意気揚々と人物設定を詳細に考えてしまうと、ストーリーが疎かになって適当になってしまう。本格派ミステリーでなく、ちょいミステリー風短編小説になってしまう。何よりも登場人物に感情移入し過ぎて殺せない!それじゃあ、事件が起きない!本格派ミステリーにならない!いや、ある意味それはそれで本格派であって本格派でない本格派ミステリーなのかもしれない。
「僕は、本格派な本格派ミステリーを書きたいんだ!なら、トリックか?本格派ミステリーにつきもののトリックから考えるか?」
いやいやいや、風光明媚なトリックが浮かんだとして、色即是空なトリックを考え出したとして、賛否両論なトリックを捻り出したとしても!それは単に、よりストーリーと登場人物を縛ってしまう事になるだけの事!
「だったら主人公?」
そうだな。とにかく物語には、物語を物語る主人公が必要だ。何にせよ主人公をまず決めた方がいいのかもしれない。でも、スタンダードに探偵と助手や老いぼれ刑事と若い刑事のコンビがいいのだろうか?それとも、オーソドックスに無職の人がいいのだろうか?ちょっとシュールに宇宙人や忍者がいいのだろうか?
「待てよ?」
本格派ミステリーなんだから、主人公も本格派ミステリーにした方がいいのでは?
「謎の老人?覆面レスラー?整形美人?仮面夫婦?もしくは・・・・・・・・・マチュ・ピチュ!」
ダメだ!本格派ミステリーの方に考えが行き過ぎて、本格派ミステリーにならない!本格派ミステリーに近付いているはずなのに、不思議だ!本格的コメディーの予感がプンプンする!
「難解過ぎるよ本格派ミステリー!」
ヒントがどこにも見当たらないよ!目の前の真っ白な原稿用紙は、まるで真っ白な答案用紙じゃないか!
「どこに答えを書きゃいいんだ!先生!!」
・・・・・・・・・知ってる・・・知ってるよ。先生は僕で、答案用紙を解答用紙に変えるのも僕。
「はあ・・・・・・・・・。」
つくづく思う。結局、不完全犯罪で終わる本格派ミステリーを本格派ミステリーと言えるのだろうか!最終的には本格派ミステリーじゃなくなってしまう本格派ミステリーを本格派ミステリーと言えるのだろうか!本格派ミステリーでなく、本格ミステリーじゃなかろうか?
「そんなのミステリーでも何でもない!」
そう、これはご存知、負け惜しみ。伝家の宝刀、負け惜しみ。免許皆伝、最終奥義、負け惜しみ。ミステリーを書けない自分を少しでも気丈に見せようとする必死な努力!
「あああああああああああっ!!!」
苛立って髪の毛をかきむしって、ミステリーが書けるなら、いくらでもかきむしるさ。それで書けるなら、ハゲは書けないじゃないか!
「はあ・・・・・・・・・。」
そしてまた、溜め息。どことなくノリツッコミな溜め息。とにかく考えよう。考えて考えて考えよう。ダメで元々なんだ。書くだけ書いてみよう。書かないで諦めてどうするんだ!
「・・・・・・・・・。」
気合いを入れた僕は、椅子の背もたれに腕を置いて振り返り、部屋中に置かれた無数の死体にしばらく目をやり、再び真っ白な原稿用紙と向かい合った。そして、僕はミステリーの書き出しを、まずは殺害現場の詳細な状況から書く事にした。

祝百話
「これからミステリー」

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コメント

初めまして今日は。
いつも楽しませていただいています。
密かに大ファンです。

百話目、おめでとうございます。
これからも密かに応援しています。
頑張ってください。

投稿: ひそか | 2008年5月15日 (木) 20時17分

コンニチハ!
その密かな応援が、密かに創作活動の
密かな想像源になるんです!
コメント密かにありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年5月16日 (金) 20時33分

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