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2008年6月18日 (水)

「第百五話」

「ヨク、此処マデ辿リ着イタ。アトハ、目ノ前ノ扉ノドチラカヲ選ブダケダ。」
「選ぶ?」
「ソウダ。右カ左、扉ヲ選ブダケデ良イノダ。扉ヲ開ケバ、汝ハ再ビ人トシテ生マレ変ワルノダ。」
「扉を選べばいいんだな?」
「ソウダ。」
前世や現世や来世の存在なんて、否定して生きていた。その表現方法自体が間違っているのだと考えていた。死ねばおしまい。即終了だと思っていた。いや、これは俺だけじゃなく、殆んどの人間が俺と同意見なんじゃないだろうか?だが、事実は違っていた。今、俺は現世の姿で、来世の扉の前に立っている。輪廻転生は・・・・・・生まれ変わりは・・・・・・ちゃんと存在していた。
「但シ、汝ハ今カラ其々ノ扉ノ来世ノ違イニツイテノ話ヲ聞ク事トナル。」
「違いだと?どう言う事だ!」
「左右ノ扉ノ先ノ来世ハ、一ツノ事象ヲ除イテ全テ同ジニ創ラレテイル。」
姿なき天の声が話す内容は、あまりにも衝撃的だった。だってそうだろ?世界が二つ存在してるって事じゃないか!ただ一つの違いって、いったい何だ?
「ソノ違イヲ聞キ、汝ハ行ク来世ヲ選択スルノダ。コレガ、至福ノ選択!」
「至福の・・・・・・選択?」
「ソウダ!」
この部屋に来るまでに数々の試験のような試練のような事柄をパスして来た。生まれ変わりのルールについての部屋から始まり、いったい時間にして、いや、日数にしてこの二つの扉の前に来るまで、どれぐらい掛かっているんだ?
「右ノ扉ハ、汝ガ現世デ過ゴシテイタ世界ダ。」
「つまり、今までの世界って事か?」
「ソウダ。」
「左の扉の世界は、いったい何が違うんだ?」
「デハ、左ノ扉ノ世界ノ説明ヲシヨウ。」
調度いい。俺が左の扉の先の説明を聞いてる間に、少しだけ生まれ変わりのカラクリについて話しをしよう。まず、大きな思い込みが二つある。一つは、生まれ変わり証。きっと、人間が勝手に勘違いしている点なんだが、どんな人間も必ず生まれ変わる事になる。そう、いい奴が天国に行き、悪い奴が地獄に行く訳じゃないって事だ。あんなのは、作り話もいいとこだ。ただ、どんな人間も平等な来世を送れるとは限らない。それが生まれ変わり証発行手続きの時に計算される寿命定理だ。
「何だって!?馬鹿な!?信じられない!?」
「驚ク事デハナイ。左ノ扉ノ世界デハ、ソレガ当タリ前ナノダカラナ。」
寿命定理については、公式を見せてもらったが、まったく理解出来なかった。ただ、単純に悪人の寿命が短くて、善人の寿命が長いとは限らないって事だ。現世で悪い事をした人間だって来世で長生きするし、現世でいい事をした人間も来世では短命に幕を閉じる。例えば、生まれて間もなく寿命が尽きる前世は善人の人間がいる。だが、数日後にその地域にレベル4の伝染病が蔓延する。苦しんで死ぬか?安らかに死ぬか?どっちがいいと思う?つまり、問題なのは生まれ変わる人間の人間性ではなく、生まれ変わる時期の世界の現状との前世の兼ね合いって事だ。
「便利デアロウ?」
「確かに、考え方によっては便利かもしれない。」
もう一つの大きな勘違いは、生まれ変わりに生物的な変化はない。つまり、人間は人間へ。象は象へ。薔薇は薔薇へ。プランクトンはプランクトンへ。だから、現世で人間だった人間が、ゴキブリになる現象は起きないって事だ。まあ、そこは何となく納得な事だったが、ここで一つ俺の中で疑問が生まれた。なら、なぜ絶滅する生物が存在するんだ?
「だが、待ってくれ!だったら、処理は?処理どうするんだ!」
「人間ノ場合ノソレハ、流レルノデハナク吸引スル形状ニナッテイル。」
だが、その疑問はこの部屋へ来て解けた。もし、絶滅したとされている生物達が、左の扉を選んだとしたら?いや、間違いない!左の扉の向こう側には、恐竜やマンモスがいる!でなけりゃ、絶対個体数の法則が成り立たない!
「吸引・・・・・・・・・か。」
「想像ヲ膨ラマスノモイイガ、ソロソロ時ダ!サア、ドチラノ扉ニ進ム!」
絶対個体数の法則。それはつまり、宇宙上に存在する生物の数が元々決まっているって事だ。増えも減りもしない。一定の保有数。それが絶対個体数の法則。だとしたら、いる!間違いなく左の扉の先には、俺が見た事もない生物達が存在している!
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
さて、そろそろ俺も来世をどっちの世界で送るかを決めなきゃならないな。
「質問してもいいか?」
「答エラレル範囲ナラバイイダロウ。」
「左の扉の世界には、恐竜がいるのか?」
「存在スル。」
やっぱり!見てみたい!ただただ恐竜をこの目で見てみたい!
「サア、選ブノダ!汝ガドチラノ世界ニ行クカヲ!」
「・・・・・・・・・。」
右は、今までと同じ世界。左は、恐竜や絶滅生物達が存在する世界。だが、あまりにもそのただ一つの違いが俺にとっては大き過ぎる!左の世界を選んだとして、俺にはその世界で普通に生活して行く自信がない。
「時ダ!汝自身ガ選ベナイノデアレバ!現世ト同ジ来世ヘ強制的ニ出テ行ッテモラウ事トナル!」
「・・・・・・・・・。」
くそっ!くそっ!くそっ!!行きたいっ!行きたいっ!行きたいぞ!
「左ノ世界ヘ行クノカ?」
「・・・・・・・・・。」
この左の扉の先にある世界に行きたい!あとは、扉を開けるだけだ!開けるだけでいいんだ!扉を開ければ、恐竜に会える!生きた恐竜に!
「早急ニ決断セヨ!」
「いや・・・・・・・・・右へ行く。」
無理だ。悔しいが、どう考えても無理だ。左へは行けない。俺には、左の世界へ行く勇気がない。失格だ。俺に考古学者でいる資格なんてない。
「本当ニイイノダナ?コレハ、最終確認ダ。」
「ああ、俺は右の扉の世界へ行く!」
「確認シタ。デハ、扉ヲ開ケヨ!ソレト同時ニ記憶ノリセットガ開始サレル!」
「分かった。」
まあ、資格も何も俺は既に考古学者じゃないんだったな。これで、現世の俺は前世となり、おさらばって訳なんだから、諦めもつくもんだ。だが、来世の俺が再びこの二つの扉を前にした時、現世の俺のように苦渋の決断を強いられるのだろうか?現世の俺には、無理だった左の扉を選ぶ決断をするのだろうか?出来る事なら、来世では別の職業に就いて欲しいもんだ。
「ガチャッ!」
まあ、考えてもしょうがない。現世の俺の役割は、ここまでだ。来世の俺に絶滅した生物達を見せたかったが、うんこが粉末で排泄される左の世界を選ぶ事は、現世の俺にはどうしても決断出来なかった。なるほど、右の扉の世界の人口が増える訳だ・・・・・・・・・。

第百五話
「作者は左へ、読者は?」

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コメント

とても面白いです。いつも拝見しています。  そういえばオナラには粉末状のうんこが含まれているそうですね。 

投稿: ドクター=ストップ | 2008年7月23日 (水) 19時17分

な、なんと!?そうだったんですか!?
それは新事実でした。
なるほど、では右の世界には少しだけ左の世界の影響があるのですね。えっ!?じゃあ、左の世界のオナラって・・・
勉強になるコメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2008年7月23日 (水) 20時19分

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