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2008年10月 8日 (水)

「第百二十一話」

「ここは・・・・・・取調室ですね。」
「はい。」
「僕を取り調べするんですか?」
「最初に言っときますが、これは逮捕でも取り調べでもありません。」
「でしょうね。普通、取調室で刑事さんと一対一なんて聞きませんもんね。」
「貴方が帰りたいと言うのであれば、いつでも帰ってもらって構いません。」
「まあ、帰っても今日は、やる事がありません。とても暇な日です。なので、ここにいます。」
「ありがとうございます。」
「さて、いったい何が始まるんでしょうか?楽しい催しって感じでもありませんね。」
「最近、この街で起きている謎の連続殺人事件を御存知ですか?」
「もちろん知ってますよ。新聞やニュースを連日賑わしているあの謎の連続殺人鬼のあの謎の連続殺人事件ですよね。」
「ええ。実は、私はその謎の連続殺人鬼のその謎の連続殺人事件の捜査員の一人なんです。」
「だと思いました。」
「・・・・・・・・・単刀直入に言います。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・どうぞ?」
「あの謎の連続殺人事件のあの謎の連続殺人鬼は、貴方ですね?なぞおおきひと!」

第百二十一話
「なぞおおきひと」

「それは、面白い推理ですね。なぜ、僕が犯人だと思うんです?まさか、刑事の勘とかって言う代物じゃないでしょうね?それは、つまらないですよ?」
「違います。あの謎の連続殺人事件は、あまりにも謎だらけ過ぎるんですよ。」
「まあ、謎の連続殺人事件と銘打つぐらいですからね。謎過ぎるぐらい謎でないとね。」
「あの謎の連続殺人事件を捜査すればするほど、謎が謎になっていく。」
「それで僕が捜査線上に浮かび上がったと言う訳ですか?僕が、なぞおおきひと、だからですか?」
「ええ。しかし、これはあくまで私個人の考えです。実際の捜査では、捜査線上には誰も浮かび上がっていません。」
「なるほどね。でも、やっぱりそれを所謂、刑事の勘って言う代物なんじゃないんですか?」
「違います。」
「違いましたか。」
「あまりにも謎過ぎるんですよ。謎過ぎて謎に埋め尽くされて謎めいて謎だらけで、捜査員の中には、本当に殺人事件が起きているのかさえ分からなくなっている者もいる。」
「じゃあ、起きていないんじゃないですか?」
「だといいんですが、残念ながら謎の連続殺人事件は、謎だらけに現実に起きています。」
「そうですか。で、僕をどうするつもりなんですか?謎の連続殺人鬼=なぞおおきひと、だけで逮捕出来るんですか?」
「最初にも言いましたが、これは逮捕でも取り調べでもありません。あくまで私の単独行動です。」
「でしたら、今のこの空間は、何なんでしょう?話し合いの場ですか?推理ゲームですか?それとも、謎の空間ですか?」
「違います。ただ、貴方と安全にゆっくりと話が出来る場所が、ここしかなかっただけの事です。」
「にしては、随分と僕に分の悪い場所ですよね?刑事さん。」
「すいません。では、フェアに行きましょう。」
「フェアに?」
「ええ。私は、あの謎の連続殺人事件の謎の連続殺人鬼が、なぞおおきひと、貴方だと考えています。」
「それは、さっきも聞きましたよ?」
「なので、これから私は、貴方をこの拳銃で撃ち殺します。」
「なるほどね。それで、謎の連続殺人事件が解決って訳ですね。まあ、それはあくまで刑事さんの頭の中だけの事ですけどね。」
「そうかもしれません。ただ、謎の連続殺人事件が今日を境に起こらなくなるかもしれない。まあ、私の頭の中だけの話ですけどね。」
「僕を撃ち殺したりして、刑事さんは大丈夫なんですか?」
「貴方を撃ち殺したあと、私も死にます。だから、大丈夫です。」
「なるほどね。でも、それのどこがフェアなんですか?死の覚悟がある人間と、そうでない人間との差があり過ぎる。それに、僕は刑事さんの確実な死を目の当たりにする事が不可能ですよ?もしかしたら、刑事さんは僕が死んで謎の連続殺人事件が起きなくなるかどうかを確認するかもしれない。そう、もしかしたら刑事さんは、死なないかもしれない。」
「フェアの話は、まだ終わってません。」
「これは、失礼。」
「今の話を聞いてもなお、なぞおおきひと、貴方は自由な選択肢を選べる。」
「自由な?帰ってもいいんですか?」
「ええ。もちろん構いません。これは、逮捕でも取り調べでもないのですからね。何なら私は、この場に刑事と言う立場で存在している訳ではありません。」
「あくまで個人的に、なんですね?」
「ええ。」
「なるほどね。では、僕が席を立ち、背を向けた瞬間に後ろから撃ち殺される可能性は?」
「ありません。」
「ゼロ?」
「ええ。」
「その言葉を信じろと?」
「貴方が帰る事を選択した時点で、私は拳銃から全ての弾を貴方の目の前で抜き、その弾を貴方にプレゼントしましょう。」
「なるほどね。なら、刑事さんが他にも拳銃をどこかに隠し持っていないと言う証拠は?」
「拳銃は、これだけです。」
「確証は?」
「何なら、裸になってもいいですよ?」
「いやいや、その言葉だけで十分ですよ。座って下さい。」
「そろそろ、始めてもいいですか?なぞおおきひと。」
「謎過ぎる謎だけですよ?謎だらけの謎だけですよ?謎多き謎だけですよ?それだけの事で、僕を撃ち殺すまでに考えが及びますか。」
「それだけの事、ではありません。それほどな事、です。」
「刑事さん?」
「何です?」
「人はなぜ、謎を謎のままにしておかないんでしょう?」
「それはきっと、人だからですよ。」
「なるほどね。でも、刑事さん?」
「何ですか?」
「人である刑事さんが、今からしようとしている行為は、むしろ謎以上に謎だらけですよ?」
「なぞおおきひと、これが私の導き出した答えなんですよ。」
「答え?」
「謎には、謎で対抗しなければ解けない!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「そうだ!刑事さん。僕が刑事さんを撃ち殺してから、自殺すると言う名案はどうです?」
「貴方が確実に自殺すると言うのなら、私はそれでも構いません!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・やっぱり、刑事さんの案でいきましょうか。」
「では、始めても構いませね?なぞおおきひと。」
「構いませんよ。刑事さん。」
「私は今から貴方を撃ち殺します!」
「どうぞ。」

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