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2008年10月29日 (水)

「第百二十四話」

「ガチャ!」

「こんばんは。」
「ども。」
「お仕事中、大変申し訳ありません。」
「はあ・・・・・・・・・あのう?ところで貴女は?」
「あっ!すいません!申し遅れました。アタシは、こう言った者です。はい。」
「国家出版?」
「はい。」
「国家出版って?」
「簡単に言えば、この国が運営している出版社、みたいなもんです。はい。」
「国が運営だって?そんな話、聞いた事もないぞ?」
「裏組織ですから。」
「裏組織?」
「今日、アタシが伺ったのは、これを先生にお届けする為です。はい。どぞ。」
「トウシ?」
「正確には、ヌスガミと読みます。はい。まあ、でも読み方はあんまり関係無いんで、お好きなように読んで下さって構いません。」
「で?俺は、この紙をもらって何だってんだ?」
「えっと、こちらの資料も、どぞ。」
「資料?いったい何なんだ?」
「ある方の書かれた1000本以上のショートショートの内の1作品です。はい。」
「俺にその作品を読めって言うのか?」
「ええ。」
「読んでどうする?いったいどうしろってんだ。」
「時間が無いので単刀直入に言います。はい。その作品を読み、盗んで下さい。」
「何だと!?」
「それが、ヌスガミを受け取った方の使命です。はい。」
「馬鹿な事を言うな!人の作品を盗める訳がないだろ!おい!国家出版だのヌスガミだのって何なんだ!帰ってくれ!」
「早口での説明でいいですか?なんせ、時間が無いもんで。」
「・・・・・・・・・説明?」
「我々、国家出版は、書物こそが国の宝、と言う国家の考えに基づき、活動を行っています。はい。書物とは主に、小説や漫画の類いを指します。はい。我々は、書物を守る組織なんです。はい。」
「書物を守る?」
「時代とともに良質の作品達は、社会に埋もれてしまいます。はい。それは、とても悲しい事です。はい。それは、国家財産を失うと言う事です。はい。その中でも、特に埋もれやすいのが短編小説と言われるショートショートです。はい。我々は、その埋もれた埋蔵金を掘り起こし、後世に伝えていかなければならないのです。はい。そこで白羽の矢が立ったのが、同じ書物の中でも比較的埋もれにくい漫画なのです。はい。」
「俺に、この作品をリメイクしろと?」
「リメイクではありません。作品の良い部分のアイディアを生かしつつ、先生のアイディアをプラスするんです。はい。」
「それじゃあ、本当に盗作じゃないか!」
「平たく言えば、そうかもしれません。ただ、国に宝を残す作業だとお考えいただけると、これ幸いです。はい。」
「ふざけんなよ!」
「ふざけてません。国は、真剣です。はい。その証拠にヌスガミを受け取った方には、国が全面的に援助を施します。はい。それも一生です。はい。将来の心配は無用です。はい。金銭面からメディアのバッシングまで、あらゆる事から国が全力で先生をお守り致します。はい。」
「断る!」
「なら、死にますよ?」
「何!?」
「ヌスガミを受け取ると言う事が、どれほど栄誉な事か。先生は、国に選ばれた人間なんです。はい。選ばれたくても選ばれる事ではないんです。はい。その申し出を断ると言うんであれば、もはやそれは、国家反逆罪。国反に残された道は、ただ1つ、国死です。はい。」
「おい!作者の人権や」
「人権とかプライドとか、そう言った精神論を語る余裕はありません。」
「精神論だと!?」
「そんな事を無条件で通過してしまうのが、このヌスガミなんです。はい。いいですか?先生、いいですか?盗むか、死ぬか、なんです。はい。」
「こんな事があっていいのか?こんな無茶苦茶な事があっていいのか!」
「あっていいのかではなく、なくてはならないんです!はい!先生、この作品を盗めるのは、貴方しかいないんです!はい!そう国が決断したんです!はい!先生!貴方は、国に選ばれた名誉ある方なんです!はい!英雄なんです!はい!」
「名誉?英雄?これがか?人の作品を盗むって事がか?」
「世間の目を気にしてらっしゃるんですか?」
「世間?そんな事は問題じゃない!俺は、俺自身の漫画家としての正義を守りたいだけだ!」
「正義だの悪だのと、全く下らない考えです。はい。」
「何だと!」
「カレーライス。」
「何?」
「料理と書物は、似ています。はい。カレーライスを作る料理人は、この世に1人ではありません。どのレストランに行っても存在する。はい。果たしてカレーライスと言う誰かが作り上げた基本となるレシピを元に、自分のオリジナリティをプラスして作り上げたカレーライスに、罪悪感を感じる料理人が存在するでしょうか?」
「料理人と漫画家は違う!」
「ええ、違います。はい。ただ、国家レベルでは、料理人も漫画家も同じです。はい。ただ、料理か書物かの違いなだけです。はい。」
「国家レベルか。」
「国が動いている事をお忘れなく。いいですか?ヌスガミを受け取ってから30分以内に結論が出ない場合、その時点で要請拒否として国反とみなされるんです。はい。先生は、死ぬんですよ?もう、好きな漫画が書けなくなるんですよ?それは、とても悲しい事でしょ?」
「随分と長い時間、考えさせてくれるんだな。」
「はい?」
「人の作品を堂々と盗むぐらいなら、俺の漫画家人生、ここまででいい。」
「正義ですか?」
「さあな?」
「では、それは死を受け入れたのだと、理解して宜しいのでしょうか?」
「こんな紙グズっ!!」
「残念です。はい。」
「クソ食らえだ!!」
「・・・・・・・・・国死を。」

「バン!」

第百二十四話
「オマージュ」

「実に、良く出来た作品だ。」
「じゃあ!出版してもらえますか!」
「出版?冗談だろ?」
「えっ?だって今、良い作品だって言ったじゃないですか!」
「俺が言ったのは、良く出来た盗作だって意味だよ。」
「盗作!?」
「ああ、少なくとも2つの作品の良い部分をパクって組み合わせ、構成された良質の盗作だって事だ。」
「何言ってんだ!僕は、盗作なんてしてない!」
「こんな小さな出版社なら、騙せるとでも思ったのか?それとも、巧妙なパクりなら、出版社は騙せないとしても世間の目なら欺けるとでも思ったのか?」
「僕は、本当にパクってなんていない!この作品は、僕のオリジナルだ!」
「おい、何処へ行く気だ?」
「もっと大きな出版社に行くんだ!こんな小さな出版社に来たのが、そもそもの間違いだったよ!」
「確かに、金儲け主義の大手出版社なら、或いは出版に漕ぎ着けるかもな。ただ、そこではお前は物書きではなく、道具に成り下がっちまうぞ?」
「うるさい!」
「行くなら勝手に行け。ただ、その原稿はドアの横にあるゴミ箱に破り捨てて行けよ。」
「何だって!?何で捨てなきゃならないんだ!」
「でなきゃ、お前はドアを1歩出た瞬間、死ぬからだよ。」
「僕が死ぬだって?」
「ああ、死ぬ。パクりは、重罪だからな。」
「何を言ってるんだ?」
「もしかしたら、お前は本当に作品をパクってないかもしれない。ただ、これは故意にパクったのか、無意識にパクったのか、ってのは問題じゃないんだ。」
「何を言ってんだ?」
「お前、小学校に入る時、頭に注射されたろ?予防接種とか言ってな。」
「それがどうしたんだ!」
「それなぁ、予防接種でもなんでもないんだわ。こんなちっちゃなチップを海馬に埋め込んだんだ。」
「馬鹿言うな!そんな有りもしない作り話を、信じろって言うのか!」
「お前、いくつだ?」
「23。」
「なら、ちょうど注射が始まった年のガキだな。その注射と同時期に始まったのが、出版社建設計画だ。不思議に思わないか?今では、この国にここみたいな小さな出版社が山ほど存在してるって事を。」
「それは!書物がこの国の文化だからだろ!財産だからだろ!」
「まあ、当たらずも遠からずだ。いいか?記憶ってのは、都合よく改ざんされちまうもんなんだよ。例えば『どっかで読んだ凄いアイディアの作品』と記憶する。だが、時が経つにつれそれは『凄いアイディアの作品』のように、あたかも自分が閃いたかのような錯覚をもたらす記憶に摩り替わっちまう。記憶の劣化が引き起こす現象だ。国は、自覚のないパクり現象の原因が、そこに有ると断定した。」
「僕の作品が、そうだって言うのか!」
「ああ、そうだ。お前は幼い頃に影響を受けた作品を自覚なくパクってる。」
「あんた、何者だよ。」
「俺?俺は、国家アイディア管理局の人間。通称、アイディア管理人、の1人だ。」
「アイディア管理人?」
「小さな出版社は、言わば振るいのようなもんだ。お前らみたいな仮国反者が来やすいようにな。まあ、中にはいきなり大手に行っちまって、逝っちまう奴もいるがな。あっちには、管理人がいないんだよ。」
「僕が国反者?」
「ああ、国は決断しちまったんだよ。アイディアを保護する事をな。いいか?海馬に埋め込んだチップは、お前が国反者だと断定した時点で、爆発する。するとどうなるか?お前の海馬が破壊され、お前は記憶を保てない人間になっちまう。物書きとしては、致命的だ。つまり、俺が言ってる死ってのは、物書きとしての死を意味してる。それが国死だ。」
「嘘だ!!」
「そのきっかけが、お前が原稿を手にしたままドアを出た瞬間って訳だ。」
「この作品は!この作品は僕の作品だ!!」
「まだ分かんねぇのか!この計画は、アイディアを保護するのと同時に、優秀な物書きを救済してやる計画でもあんだよ!」
「えっ!?」
「お前なら、オリジナルで勝負出来る!少なくとも俺はそう思ってる!だから、お前がその原稿を破り捨て、新たにオリジナル作品を持って来るなら!俺は、無条件でお前を全力でバックアップする!それは、お前のアイディアを国が守るって意味だ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「盗まないか、国死か、だ。」
「………出鱈目だ。そんな話、出鱈目だ!ドアを1歩出たら国死だって!パクったぐらいで国死だって!あんた頭がどうかしてるよ!」
「おい、そのままドアを出たら、国死が待ってるんだぞ?」
「国死?そんなの・・・そんなのクソ食らえだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ガチャ!」

第百二十四話
「オマージュ~星と紙~」

「・・・・・・・・・午後9時10分。国死確認。・・・・・・・・・ああ、やっぱりだ。こんな日に限って、矢鱈と星が輝いてやがる。まったく、鱈腹アイディア遺してアンタ逝っちまうもんだから、いっつもこれだ。アンタある意味、大罪人だよ。」

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