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2008年11月 5日 (水)

「第百二十五話」

「ガルル!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
私が何気無くキノコ狩りを思い付き、何と無く獣道を、それとなく歩いていると、目の前に人間狩りのトラが現れた。
「ガルル!!」
まずい。非常にまずい。とてもまずいぞ。トラは、完全に私を狩る気満々だ。分かってる。凄く分かってる。嫌でもそれが漂って来るから、嫌でも分かる。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
どうする?逃げるか?いや、果たして逃げたとして、果たして逃げ切れるのか?人間の脚力がトラの脚力を上回る事が、果たして可能なのか?もし、万が一、運よく、これ幸いと、逃げ切れたとしてだ。キノコは?キノコは、どうする?キノコは、どうなる?私は、いったい何の為に何と無く獣道をそれとなく歩いて来たと言うんだ!キノコを狩る為だろ!キノコ狩りをする為だろ!キノコを狩らずして、キノコ狩り成らざる!みたいな感じで、そんな風なニュアンスで、どっかの偉人が言ってたかもしれないじゃないか!
「ガルル!!」
戦おう!ここは是が非でも戦おう!この人間狩りのトラを倒す他、私がキノコ狩りをする道がないのなら、迷う道などない!
「チョーップ!!」
「ガルル!!」
「いたーっ!!」
何て、何て硬い皮膚なんだ!トラの皮膚は、こんなにも硬かったのか!いや、トラの黒い部分が硬いのか?そんなはずはない!それは絶対に有り得ない!何故なら私は今、トラの黄色い部分にチョップを喰らわしたからだ!
「チョーップ!!」
「ガルル!!」
「こっちもいたーっ!!」
どっちも硬い!とでも言わせるつもりなのか?いや、もしかしたら人間を狩ると言う強い信念を持ったトラだけが併せ持つ、強硬な皮膚なのかもしれないぞ?或いは、私のチョップが異様に弱いのか?もしくは、人間がキノコ狩りを志した瞬間、チョップの威力が弱まると言うのか?
「ガオー!!」
まずいぞ。かなりまずいぞ。今のチョップで、トラが相当お冠だ。目がさっきよりも血走っているし、尋常じゃないぐらい大量のヨダレを垂らしている。
「チョーップ!!」
「ガオー!!」
「いたーいっ!!」
くそう!やっぱりダメだ!やっぱり痛い!チョップはダメだ。チョップは通用しない。痛いだけだし、トラの怒りを増幅させてしまうだけだ。チョップとは、チョップとは、チョップとは、こんなにも役立たずな陳腐な技だったのか!!
「ガルル!!」
しかし、今にも飛び掛かって来そうなトラが、飛び掛かって来ないのも、チョップのお陰と言えるだろう!肉体的にダメージを与えなくとも、確実に精神的なダメージを与えている!なるほど、チョップとはそう言った技だったのか!使おう!これからもいろんな場所で、いろんな場面で、チョップを使い続けていこう!
「ガオー!!」
だが、この場は違う!ここでのチョップ使用は、間違いだし場違いだ!二度と、二度とチョップは使うまいと見せ掛けといての!
「チョーップ!!」
「ガルル!!」
「すんげーいたーいよー!!」
泣く。これ以上のチョップは、私の涙腺を刺激しかねない!けど、チョップしか知らない私に、いったいチョップ以外のどんな技を繰り出せばいいと言うんだ!はっ!そうか!そのチョップがあったじゃないか!そっちのチョップがあったじゃないか!
「ダブルチョーップ!!」
「ガオー!!」
「ダブルでいたーいっ!!」
ダブルって普通、攻撃力が二倍や三倍、或いはそれ以上になるもんだと思っていた。まさか痛さがそれ以上になるとは!?とんだ誤算だ!いや待てよ?もしかしたら、私のダブルチョップのやり方が間違っていたのかもしれないぞ?左右からトラを挟むような形じゃなく、両手を合わせてのダブルチョップなのか?もしくは、両手をクロスさせてのダブルチョップなのか?ああーっ、分からん!何て深いんだ!ダブルチョップ!!
「チョーップ!!」
「ガルル!!」
「折れるーっ!!」
い、いかん!キノコを狩る前に、この手が使い物にならなくなる。このままチョップ押しでトラを退治出来たとして、果たして私は無事にキノコを狩る事が出来るんだろうか?
「ガルル!!」
相変わらずトラは、いつでも私を狩れる臨戦態勢を保ったままだ。何か考えなくては!トラを退治出来る方法を!
「ガルル!!」
ええーいっ!右手などいらんわっ!!
「チョーッ!!」
「ガオー!!」
「って、やっぱいるわいっ!!」
いるいる!いるよ!いるし!いるに決まってるじゃないか!危ない危ない!空気と雰囲気と勢いとに、危うく飲まれるとこだった!恐るべし!その場!
「ガルル!!」
考え方を少し変えてみようか。こいつは、人間狩りのトラだ。だったら、私が人間じゃないと思わせれば、或いは諦めるんじゃないか?諦めきれるんじゃないか?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ガルル!!」
うん、無理!すぐ分かった!『ら』の部分辺りから怪しいなと感じ始めて、次の『、』の部分に差し掛かるか差し掛からないかの辺りで、もう答え出た!だって、人間丸出しの私が、どうやってトラに人間じゃないと思わせる事が出来ようか?
「ガルル!!」
ガルル!!ガルル!!って、さっきから五月蝿いな!ガルル!!と、ガオー!!としか言わないくせに!私のキノコ狩りの邪魔をしやがって!全く随分とふざけた話だ!とんだ茶番劇だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「チョーップ!!」
「ガオー!!」
「いてーんだよ!もうっ!馬鹿っ!馬鹿っ!」
何で私が痛いんだよ!何で私だけが痛いんだってんだよ!ほとほと馬鹿にしやがって!ちょっとぐらいお前も痛がれよ!嘘でもいいから痛がれってんだよ!不公平にも程があるだろ!それでもトラか!トラの端くれか!
「ガルル!!」
まあ、負け惜しみ的なのは、この辺までにしといてだ。ここまで状況が何一つ変化していない事を真摯に重く改めて受け止めよう。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
痛恨の極みってやつだな。まさか、トラを前にして痛恨の極みって言葉を使うとは、痛みに耐えて私を産んでくれた母親ですら、その当時は思いもよらなかったどろうな。
「ガルル!!」
ああ、やだ!もう、全くどうしていいのか分からない!キノコ狩りしたいって何気無い強い信念を持ち、ここまで何と無くやって来たが、果たして私は、そこまでキノコ狩りをしたいんだろうか?どこまでキノコ狩りをしたいって言うんだろうか?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ふっ、私は頭がおかしくなったのか?人間狩りのトラを目の前にして、その人間狩りのトラに、まるでチョップが通用せず、冷静さを失っていたのか?どこまでキノコ狩りがしたいのかだって?
「ガルル!!」
そりゃ、もう、果てしなくどこまでもだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「チョーップ?」
「ガルル??」
って、その時だった。私が渾身の一撃的なチョップをトラに喰らわそうとした時だった。キノコ狩りの私と人間狩りのトラの目の前に姿を現したのは、トラ狩りのキノコだった!

第百二十五話
「三つ巴」

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