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2008年11月26日 (水)

「第百二十八話」

「ギィィィィィィィ!」
「きゃああああああ!」

第百二十八話
「テイストはホラーで」

ある町の外れにある森。その森の奥深くに、ぽつん、と一軒のパン屋さんがあるのは、あまりにも一部の地域を除いては、有名な話だった。もし、この町を訪れる事があったのなら、町の住人達に、どんなパン屋さんなのかを、まずは、尋ねてみるといい。きっと、住人達は、皆こう答えるだろう。
「ホラーだ。」
と。そんな話を知ってか知らずか、今日もまた、絶妙に恐怖感漂う、そこら辺を巧妙に創られた暗く闇ったある町の外れにある森の中を、迷いに迷った麗しき若き女性が一人、そのパン屋さんを、訪れて来た。
「シー!もう、夜なんですから、そんな大きな声で叫ばないで下さい。」
「だだだだだって、パン屋さんかと、おおお思ったから。」
「パン屋さんですよ。どっからどう見ても、パン屋さんでしょ。もう夜なんですから、その震えも、どうにかして下さい。」
「そそそそそう。ならいいの。ここが、パン屋さんなら、それでいいの。」
「だったら、ドア閉めてもらっていいですか?もう、夜なんで。」
「えっ?ああ、ごめんなさい。」
「ギィィィィィィィ!」
「それにしてもここって、パン屋さんって言うか。」
「パン屋さん、て言うか。何です?」
「なんだか・・・・・・・・・ちょっ」
「バタンッ!!」
「きゃああああああ!」
「お客さん。言ったでしょ?もう、夜なんですから大きな声で叫ばないで下さいって。」
「だだだだだって、ドアの閉まる音が遅れて聞こえたから。」
「ああ、それね。もう、夜なんで、立て付けが悪いんですよ。」
「そ・・・そう言う問題なの?」
「違うんですか?」
「ま、まあ、どんな問題でもいいわ。実は私、森で迷っちゃったの。」
「なるほど。もう、夜ですからね。まあ、迷うでしょうね。」
「で、薄気味悪い森の中で灯りを見付けて、歩いて来たらこのパン屋さん?に辿り着いたの。」
「それはそれは、いらっしゃいませ。」
「えっ?ああ、どうも。それでね。」
「今日のオススメは、こちらになってます。」
「そそそそそれは、パン!?なの?」
「咀嚼して、胃袋に流れ着いて、腸を旅して、便に生まれ変わるまでは、パンですよ。」
「そ、そう。」
「あっ!それとも子供に大人気!ご存知!森の動物達を象った。このアニマルパンは、いかがですか?」
「きゃああああああ!」
「ちょっとお客さん。何度言ったら分かるんですか?もう、夜なんですから、大声は困るんですよ。」
「ごめんなさい。ででででも、そそそそのアニマルパン!?」
「もし、今度、また、大きな、声を、出すのなら?」
「・・・・・・・・・なら!?」
「口に手を当てて下さい。」
「わ、分かりました。絶対に、そうします!だから、そのアニマルパンをしまって下さい!」
「はあ、やっぱりアニマルパンは、子供ウケはするけど、若い女性ウケはしないですね。あっ、ナイスガイパンなら、若い女性ウケするんですかね?」
「うっ!」
「ちょっと、ちょっとちょっとちょっとぉ!吐くならトイレに行って下さいよ。だいたい、パン屋さんで吐き気を催すってどう言う事です?もう、夜なんだからって問題じゃ済まされないですよ。」
「ご、ごめんなさい。ちょっと人よりも想像力が豊かなもんで、も、もう大丈夫です。治まりました。」
「バタンッ!!」
「きゃああああああ!」
「お客さんって!!」
「いいい今のは、誰だって驚くでしょ!」
「まあ、今のはさすがに僕も驚きました。」
「でしょ!」
「だからって、大きな声で叫んでませんよ?もう、夜なんだからって、自覚がちゃんとありますからね!それに、もう、夜なんですから、いちゃもんもやめて下さい。」
「本当にごめんなさい。こうやって、口に手を当てながら喋りますから、パンにしないで!」
「パンに?ああ、なるほど。若い男性ウケする美女パンもいいですね。」
「えっ!?」
「そうそう、ちょうど貴女のような麗しき若い女性なんて打って付けの材料ですよ。」
「や・・・やめて、お願い。考え直しましょ!ねっ?落ち着いて、リラックース、リラックース!」
「ケタケタケタケタケタケタ!」
「笑わないで下さい。」
「・・・・・・・・・考え直す必要なんてありませんよ。」
「えっ!?」
「そうでしょ?」
「ちょっと待って。」
「お客さん?ケタケタケタケタケタケタ!」
「わ、笑わないでって!いやよ。絶対にいや!私は、パンになんかならないわよ!」
「そんな下品なパン、作る訳ないですよ。僕が目指すパンは、誰もが美味しいと言ってくれるパンなんですからね。」
「素晴らしい志しだと思うわ。いや、本当、素晴らしいわ。感動して涙が止まらないもの。」
「ありがとうございます。で、お客さんは、いったいどのパンをお買い上げになるんでしょうか?」
「パン?あっ、そうじゃなくって、私は町に戻る道を教えて欲しいの。」
「パン屋さんに来たのに?パンも買わずに町に?戻るんですか?」
「えっ?」
「笑われちゃいますよ?町の人達に、あいつは、パン屋さんに行ったのに、パンも買わずに、帰り道を教えてもらっただけで、パンも買わずに、歩いてパンも買わずに、森を抜けて、パンも買わずに、町へ、パンも買わずに、戻って来たんだ。ってね。」
「わ、分かったわ。何にも買わずに帰り道を教えてもらうなんて失礼よね。」
「何もそんな気を使わなくたって、もう、夜なんですから。」
「いや、いいの。だいたい当初の予定では、パンを買ったついでに帰り道を聞こうと思ってたから、ただちょっと順番がおかしくなっただけだから、気にしないで。」
「そうですか?まあ、それならいいんですけどね。もう、夜なんですけどね。」
「じゃあ、普通の在り来たりな、どこのパン屋さんでも見掛けるような、オーソドックスでスタンダードでノーマルなクロワッサンあるかしら?」
「あっ!ありますよ!」
「一つ下さい。」
「一つ?」
「三つ下さい。」
「三つですね。あんまり沢山だとあれですからね。」
「あれって?なに?」
「クロワッサン同士がケンカしちゃいますからね。」
「ケンカ?」
「冗談ですよ。冗談。」
「ああ、冗談ね。」
「さあ!どのクロワッサンにします?」
「動っ!?」
「もう、夜なんで動きが活発ですけど、味は絶品ですよ。」
「きゃああああああ!」
「お客さんってば!!」
ここは、ある町の外れにある森の奥深くにあるパン屋さん。町の住人達がホラーだと言う、パン屋さん。機会があれば、一度立ち寄ってみてはいかがですか?
「きゃああああああ!」
「もう、夜なんだからって言ってるでしょ!!」

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