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2008年11月12日 (水)

「第百二十六話」

―月曜日―

「ガチャ。」
今日からまた、忙しい1週間の始まりだ。俺は、繁忙期の真っ只中にある会社に向かう為、気合いと共にドアの外へと1歩足を踏み出し、そのままエレベーターへと向かうはずだった。
「ん?」
だが、俺は1歩目で歩みを止める事となった。それは、俺の踏み出した右足が、何かを蹴っ飛ばしたからだ。
「ジャガイモ?」
それは、袋に入ったジャガイモだった。
「誰か落としたのか?」
いや、それはない。俺は、マンションの角部屋に住んでいる。誰かがエコバッグの中からジャガイモを落とすには、あまりにも不自然な場所だ。
「何なんだ?」
少し気持ち悪かったが、もしかしたら、母親が置いていったのかもしれないと思い、とりあえずジャガイモを玄関の棚の上に起き、俺はドアの外へと1歩踏み出した。いや、俺的には、もっと時間を掛けてジャガイモについて考えを巡らしたかった。だが、そんな時間に掛ける時間は、持ち合わせていなかった。
「バタン。」

―火曜日―

「ガチャ。」
今日もまた、忙しい1日の始まりだ。俺は、気合いと共にドアの外へと1歩足を踏み出し、そのままエレベーターへと向かうはずだった。
「えっ?」
だが、今日もまた、俺は1歩目で歩みを止める事になった。それは、俺の踏み出した右足が、今日も何かを蹴っ飛ばしたからだ。
「ニンジン?」
それは、袋に入ったニンジンだった。
「今日は、ニンジン。」
気にはなった。物凄く気にはなった。頭の中がはてなでいっぱいだった。母親なら母親で、何で2回に分けるんだ?とも思った。だが、俺にはニンジンを気にしている時間を気にしている時間すらないのが現実だった。とりあえずニンジンを玄関の棚の上に起き、俺はドアの外へと1歩踏み出した。
「バタン。」

―水曜日―

「ガチャ。」
そして、忙しい俺の気合いの1歩目は、今日もまた何かを蹴っ飛ばす事から始まった。
「タマネギ?」
それは、袋に入ったタマネギだった。いや、よっぽど、今すぐにでも母親に、メチャクチャ連絡しようかと思った。だが、夜は帰って来るのが深夜だし、勤務中は無理だし、昼休みは睡眠をとりたいし、今しかないって、よっぽど電話に手が伸びた。が、俺にはそんな2つ目の信号でまで、立ち止まってしまうような無駄な時間は許されない。とりあえずタマネギを玄関の棚の上に起き、俺はドアの外へと1歩踏み出した。きっと特売日がバラバラだったのだろうと、無理からに自分を納得させ、俺は今日も繁忙期の真っ只中の会社へと向かう事にした。
「バタン。」

―木曜日―

「ガチャ。」
今日は、1歩目を踏み出す事すら出来なかった。
「牛肉!?」
それを目にして瞬時に理解した。これはもはや、母親の仕業ではない。なら、何かのイタズラか?だが、イタズラにしては、イタズラを遥かに凌駕してる。むしろこれは!
「料理!?」
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、そして牛肉。そう、何かの料理の食材に近い。しかもそれは、4日目のこの時点で数種類の料理に絞られてくる。そして、なぜかそれらは、4人前だって事が今日で分かった。俺は1人暮らしだぞ?
「何でだ?」
しかも、俺が調理しなきゃならないのか?まあ、そんな事をグツグツ考えている暇がないのは、今日に始まった事じゃない。とりあえず牛肉を玄関の中に入れ、俺はドアの外へと1歩踏み出した。
「バタン。」

―金曜日―

「ガチャ。」
カレーだ。ちょっと肉じゃがじゃないかと思ってたが、どうやらカレーのようだ。なぜなら、スパイシーなドアの前には、沢山のスパイスが置いてあるからだ。
「しかも、本格的。」
俺は、連日の仕事三昧の日々で疲れた体に鞭を打ち、見た事も聞いた事もない方が多いスパイスを、とりあえず玄関の棚の上に起き、スパイシーな世界から1歩外へと踏み出した。
「バタン。」

―土曜日―

そう、普段なら会社は休みだ。だが、繁忙期の真っ只中って事で、疑う余地もなく今日は休日出勤だ。
「ガチャ。」
カレーライスだ。目の前に置かれた米を見て、その事実に何の疑いもなかった。ただ、疑うとしたら、誰が何の目的で、なぜ俺の部屋の前にカレーライスの食材を置いてくのか?だった。しかも、4人前。
「はあ。」
会社以外では、ほぼ思考停止状態の俺は、とりあえずその作業が毎日の日課の如く、米を玄関の中に運び込み、ドアの外へと1歩踏み出した。
「明日だ。」
そう、明日は繁忙期の真っ只中であっても唯一会社が休みな日曜日。だから、月曜日から始まったこの異常事態を、明日ゆっくりコトコト考えてみよう。
「バタン。」

―日曜日―

今日は、会社が休みだ。さっき、違うだろうと思いつつも一応、確認の電話をしてみたが、案の定、カレーライスの食材を1日置きにドアの前へ置いたのは、母親ではなかった。確かに俺は、カレーライスが大好物だ。最期の晩餐には、カレーライスをと密かに考えている。それに、一連の行為に悪意は感じられない。むしろ、その逆だ。ドアの前に置かれていたカレーライスの食材、あれを詳しく調べてみると、どれも高級食材だった。おそらく、俺がこのまま人生を送る中で、絶対に口にしないであろう食材と言っても過言ではない。
「待てよ?」
ここで、1つの疑問が浮かび上がった。果たして、これで終わりなのか?俺が目の前の高級食材を目にして、勝手にこれらを組み合わせてカレーライスだと思っているが、もし俺の知らない料理が世界のどこかに存在するとしたら?土曜日までの食材で、俺の独断と価値観だけで終わりにしていいのか?今日もドアの前には、何か高級食材が置かれている確率は?
「高い!」
俺は、キッチンから玄関へ向かい、ドアノブに手を掛けた。
「待てよ?」
そう、ドアの前に高級食材が置かれているとは限らない。なぜ、全ての食材が4人前なんだ?俺は、ドアノブを回す手を止め、覗き穴から外を伺った。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
もしかしたら、知らない3人組でもいるのでは?と思ったが、そこには誰もいなかった。
「考え過ぎか。」
4人前ってのも、きっと1人前の分量が意外と難しいから平均的な4人前を選んだんだろう。とりあえずドアの外を確認して、何もなかったら次にカレーライスの事でも、じっくりグツグツ考えよう。
「ガチャ。」
「えっ?」
俺は自分の目を疑った。
「馬鹿な!?」
そこには、俺の日常生活の中では、確実に見ないであろう額が書かれた請求書が置いてあった。いくら高級食材だからって、こんな額・・・・・・・・・。
「はっはっ~ん。さては、牛肉だな?」
俺は、手に取った請求書から部屋の中の牛肉へと目をやった。
「モォ~!」

第百二十六話
「牛×4頭」

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