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2008年12月31日 (水)

「第百三十三話」

 知ってるかい?翔ぶって感覚を?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
こうして大空を、こうして大地に足を着けて、こうして自由に羽ばたいている鳥達を見ていると、なぜだろう?不思議と僕はいつも、こうして翔ぶって感覚がどんなものなのかが気になって気になって、しょうがない。なぜだろう?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
知ってるかい?翔ぶって感覚を?
「チュンチュン!」
スズメだ。
「チュンチュン!」
僕の右肩にとまったスズメだ。
「チュン!」
それは、そんなある日の、これは、いつも通りの、こんな日常の中で、僕がスズメと大地で出会って気付いた事だった。
「やあ!」
「やあ!」
どうやら僕は、鳥と話が出来るみたいだ。いい機会だから、聞いてみようと思った。翔ぶって感覚を・・・・・・・・・。
「翔ぶって、楽しいかい?」
「楽しくなんてないさ。」
意外な答えだった。
「どうして?」
「キミは、おかしな質問をするね。翔ぶのが当たり前の世界で、翔ぶ事が楽しいと思って翔んでるヤツなんていないさ。キミは、呼吸をしている事が楽しいと思った事があるかい?」
「ない。」
「それと同じ事さ。」
それは、何だか呆気ない結論だった。言われてみれば納得な事なんだろうけど、僕の中で何か引っ掛かる物があった。でもそれは、きっと僕自身の勝手な価値観であって、鳥にはあるはずのない価値観なんだと思った。でも・・・・・・・・・。
「ん?何か納得しきってないみたいだね。」
「えっ?」
スズメに心を見透かされていた僕は、相当慌てていたに違いない。その証拠に、スズメが僕の顔をジロジロ見て笑っていた。そして、こんな奇妙な事を言い出した。
「だったら、キミも翔んでみたらいいじゃないか。」
「僕が?」
「そう、キミが。」
「気球にでも乗れって事かい?」
「違うさ。キミ自身の力で翔ぶって事さ。そうすれば、さっき言った言葉の意味が納得出来るんじゃないのかい?」
確かに空想論だけで言うなら、スズメの言う通りだと思う。けど・・・・・・・・・。
「僕は人間だよ?人間の僕が、どうやって大空を翔べって言うんだい?」
僕は、何一つ間違いのない質問をスズメに投げ掛けた。
「人間が翔べないって、誰が決めたのさ。」
そしたら、予想もしなかった答えが返された。
「誰って・・・・・・・・・。」
「神様かい?」
「僕をからかってるのかい?」
「からかっていたら、こんな事は言わないさ。」
「分かってるだろ?人間は、翔べない生き物なんだ。それはもう、考える余地のない考えなんだ。」
「だから、それは人間が勝手にそう思い込んでいるだけじゃないか。最初から自分達は翔ぶ事が出来ない。最初?最初っていったい何なんだい?」
「えっ?」
最初?最初って、人間が地球上に誕生した瞬間って事じゃないの?確かに、スズメの言う通り、僕は生まれてから一度だって自力で翔ぼうだなんて実行した事も考えた事すらない。でも、でもだよ?それは、人間が本能で理解してる事なんだし、これだけ人間の歴史が続いてる中で、自力で翔んだ人間の話を聞いた事がないって事は、やっぱりそれは、人間が翔べないからなんだよ。人体の構造的に無理だからなんだよ。
「ごちゃごちゃ何か考えてるみたいだけどさ。」
「えっ?」
「とりあえず翔んでみればいいんじゃないのかい?それで翔べなかったら、翔べないって事で、そこで初めてやっぱり人間は翔べない生き物なんだなって、思えばいいじゃないか。翔ぼうとしないのに、やっぱり翔べないと思うのは、やっぱりおかしな話なんじゃないのかい?」
「・・・・・・・・・。」
「ほら!どうしたのさ!」
どうしたって言われても・・・・・・・・・。
「翼もないし・・・・・・・・・。」
「またそれかい?」
「また?」
「そうさ。何かがないからとか、人間だからとか、それって今、そんなに重要な事なのかい?」
「えっ?」
「キミは、翔ぶって事を拒否している。翔べてしまったら恐いと思っている。自分の概念と価値観が壊される事をね。」
「僕が?恐怖してるって?」
「違うのかい?じゃあ、どうして翔ぼうとしないんだい?」
「それは・・・・・・・・・。」
僕が恐怖?どうして僕が恐怖する必要があるんだ?翔ぶって感覚がどんなもんなのかを知りたい僕が、恐怖?でも、どうして僕は、翔ぼうとしないんだ?やっぱり人間だから?翼がないから?分からない。分からないよ。
「まあでも、キミが翔ぼうとしないなら、無理に翔ぼうとしなくてもいいんだけどさ。」
何か見放された。僕は、スズメに呆れ果てられて、見放されている。
「じゃあ、そろそろ当たり前のように翔んで帰るとするよ。」
そう言ってスズメは、雲一つない青空の中へ、僕を見放して、僕を見捨てて、当たり前のように翔び去って行った。
「・・・・・・・・・。」
その後ろ姿を見ながら、何だかこのままじゃダメな気がした。このまま今日一日が終わってしまったら、何か大きな後悔を残したまま、残りの人生を終わらしてしまうんじゃないのか?今、翔ぶ事を試みないで、どうするんだ!身体中の全ての細胞が、僕にそう訴え掛けてきているような気がした。
「よし!」
僕は、両腕を目一杯伸ばして、大空を見上げた。そして、大きく深呼吸を一回した。
「3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・えいっ!」

第百三十三話
「やっぱり無理だって!」

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