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2009年1月14日 (水)

「第百三十五話」

 それは、私が髪の毛を洗い終えて、狭いバスルームの狭い浴槽を見た時だったわ。
「やあ、お嬢さん!」
親指を立てて、ウインクが微妙に出来てないおじさんが、気持ち良さそうに湯舟に浸かっていた。
「・・・・・・・・・。」
えっ?はっ?えっ?なに?なになに??どう言う事?なんなの!?誰?なんで?どうして?どうしておじさんが?どうして知らないおじさんが?どうして知らないおじさんが湯舟に?どうして知らないおじさんが湯船に浸かってるの?
「なんだなんだ?そんなに無言で凝視して、そうかいそうかい!そんなに俺がダンディーかい!」
いや、全然。全くその単語からは、掛け離れてると思いますよ?てか、なに?いまいち現状が飲み込めないわ!えっ?なに?まさか?まさかこれって?幽霊?心霊体験?
「・・・・・・・・・。」
「まあ、自分ではそれほどダンディーだとは思ってないんだけどな!」
私も思ってないわよ。でも待って、幽霊にしてはなんか違う。なんかこう、上手く言い表せないけど、生命力を感じるって言うの?確かに、このおじさんはなんかの生命体で、ここに存在してるって感じがプンプンする。えっ?なに?なんなの?妖怪な訳がないし、お風呂の神様って感じでもない。なに?なになに??考えるのよ私!早く答えを導き出して、この非現実を現実に引き戻すのよ私!
「ドワーフ!」
「なんだ?ドワーフって?若者言葉で、ダンディーの上を行くダンディーの事か?そうかそうか!そんなに俺は、ドワーフかっ!参ったなぁ!くわっはっはっはっはっ!」
違う!ドワーフじゃない!考えてみればドワーフは、妖精だから小さいわ!それに、ドワーフは人間嫌いなはず!のこのこ地上に出て来て、森林浴気分が味わえる入浴剤が入ってる湯舟に、気持ち良さそうに浸かったりする訳がないわ!ますますよ!ますますなんなの?それに、面倒臭い程ダンディーにこだわる理由も変な笑い方も、まるで意味不明がいっぱいだわ!バスルームに意味不明が溢れかえってるわ!
「ところでお嬢さん?」
「はい?」
「すっぽんぽんだぞ?」
「えっ?」
なるほどね。そうだったんだ。知らなかった。この状況下に置かれて初めて分かったわ!人間、真剣にパニックになると、キャー!なんて悲鳴を上げないんだわ!むしろ、どうだっていい!今は、すっぽんぽんの自分の体を存在理由不明なおじさんにジロジロ見られたって、どうだっていい!そこを頭で考えるよりもなによりも、早くこのおじさんを理解しないと!非現実に溺れてしまうわ!後でいい!悲鳴を上げたり、すっぽんぽんをタオルで隠すのは、その後でいい!
「気にしないで!」
「気にしないでって言われてもなぁ?こっちが気になるんだよ。まあ、お嬢さんが露出狂なら、それはそれでしょうがないんだけどな!くわっはっはっはっはっ!」
屈辱的なレッテルを貼られようが!私は、挫けない!今は、むしろそれで好都合よ!お風呂なんだから!とか、お互い様でしょ!とかって、ツッコミを入れてる場合でもないの!レッテルもツッコミも後でどうにでもなる!肝心なのは、今よ!今現在よ!冷静さを装ってるけど、フルスロットルでパニックに陥ってる脳ミソをどうにかしないと!どう?聞く?聞いちゃう?ここはもう、ストレートに聞いてみちゃう?
「・・・・・・・・・おじさん?」
「なんだい?」
だから、ウインク微妙だから!
「おじさんは、誰?」
「おじさんは、おじさんだよ。ただ、他のおじさん達と違って、ちょっとダンディーなおじさんだよ。くわっはっはっはっはっ!」
「いや、そう言うダンディー主体な話じゃなくって、おじさんは生命体として、なんなの?」
「なんか話が難しくなってきたな。くわっはっはっはっはっ!」
どこがよ!なんで生命体って単語ぐらいで話が難しくなっちゃうのよ!よく、おじさんになるまで生きて来られたわね!
「まさか・・・人間?」
「まあ、アウストラロピテクスの進化の成れの果てと言ってしまえば、そうだろうな。くわっはっはっはっはっ!」
よっぽどよ!よっぽど、そっちの方が話を難しくしてるじゃない!いや、むしろややこしくしてるだけじゃない!えっ?ちょっと待って?人間なの?このおじさんって人間な訳?どう言う事?ある意味それって、覆されたわよ?私の頭の中で革命が起こっちゃってるわよ?世界がひっくり返っちゃうわよ?
「本当に?本当に、おじさんは人間なの?」
「そうだよ。まあ、他の人間より、ちょびっとダンディーだけどな!くわっはっはっはっはっ!」
もう、ダンディーも微妙なウインクも変な笑い方も2、3本出てる鼻毛も、どうだっていい!これって、なに?単なる変態の覗きにしては、覗いてないわ!こっそり感ゼロよ!突然現れて、それが幽霊でも妖怪でも宇宙人でもドワーフでもダンディーでもない単なる人間だった?有り得ない!有り得ないわよ!ダメ!そんなのダメよ!ダメに決まってるじゃない!これじゃあ、どんどん私の頭が非現実に引き込まれて行くわ!早く!早く現実に引き戻さないと!どうする?どうするどうする??えーと?えーっと??
「タイムトラベラー!」
「また若者言葉のダンディーより上を行くドワーフより更に上を行くダンディーって意味の言葉か?」
「違うわよ!ダンディーな訳ないじゃない!」
「まあまあ、お嬢さん。ちょっと、落ち着きなさい。ねっ?」
「落ち着ける訳ないじゃない!どう落ち着けって言うの!この状況で落ち着ける人間がいるなら連れて来て欲しいもんだわ!とにかくもう、パニックの最高潮もいいとこよ!」
「ほら、深呼吸して落ち着きなさい。リラーックス、リラーックス。」
「ふざけないでよ!!」
「お嬢さん!!」
「!?」
「・・・・・・・・・落ち着きなさい。いいかい?ちゃんと、俺の目を見て聞くんだ。分かるな?目を見て俺の話をよーく聞くんだ。」
「なによ?」
「おじさんはな。本当はな。」
「・・・・・・・・・。」
分かる!分かるわ!これで全ての謎が解明される!これでやっと、おもいっきり悲鳴を上げられる!なに?なんなの?おじさんは、なに者なの?
「ダンディーじゃないんだ!!」
「知ってた!」
「知られてた!?」
もうヤダー!!なんでこんな目に私が遭わなきゃならないのよー!!
「お嬢さん!」
ああーっ!!
「お嬢さんって!」
どうなってるのよ!もうーっ!!
「髪の毛をグシャグシャやってるお嬢さんって!」
「うるさいわね!なんなのよ!!」
「ところで、お嬢さんは何者なんだ?」
「はい?」
「いやほら、俺が湯舟で鼻歌混じりに鼻ほじがてらに、気持ち良く気分良く浸かってたら、突然髪の毛を洗いながら現れたお嬢さんは、いったい誰なんだ?」
「えっ?」

第百三十五話
「私の方がなの???」

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