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2009年2月

2009年2月 4日 (水)

「第百三十八話」

「さあ、この銃を使いたまえ。」
「・・・・・・・・・。」
「キミに教えて上げようではないか。剣が銃よりも強いと言う事実を!」
「・・・・・・・・・。」
「どうした!この期に及んで、怖じ気でも付いたと言うのか!」
「そうじゃなくって・・・・・・・・・。」
「でなければ・・・・・・・・・さあ来いっ!!」
「来いって言われても・・・・・・・・・。」
「なに?どうしたの?来ないと、来ないと決闘にならないじゃない。」
「決闘って言われても・・・・・・・・・。」
「いや、キミが言ったんだよ?キミがね。あのお店で剣は、銃よりも弱いって、言ったんだよ?」
「確かに言ったけど・・・・・・・・・。」
「よし来いっ!!」
「いや、ちょっと待って下さいよ。」
「なに!いったいなんなの!なにごとなの!」
「確かに僕は、銃よりも剣が弱いと、馬具の店で言いました。そして、アナタとの決闘を受け入れました。でも、何なんですか!このちっちゃな銃は!」
「さあ来いっ!!」
「さあ来いじゃなくって!」
「よし来いっ!!」
「よし来いじゃなくって!」
「なに!なに来いならいい訳?」
「来いの掛け声に違和感を抱いてるんじゃなくって、この銃ですよ!」
「なに?いいじゃない。こっちもちっちゃな剣なんだから、やろうよ決闘。」
「やりたいですけど、やりたいですけどこれってどうやって使うんですか?」
「どうやってって、なに?銃は素人なの?」
「いや、そこそこ名の知れた賞金稼ぎですけど、ガンマンですけど・・・・・・・・・。」
「けどけどけどって、けどばっかだな!キミは!」
「自分の銃でやっていいですか?」
「ダメだよ!なんでそうなるの?わがまま?」
「いや、わがままとかじゃなくって、こんなちっちゃな銃で、どうすりゃいいんです。」
「銃なんだから、撃てばいいじゃない。こっちは剣なんだから、斬るじゃない。それが決闘じゃない!」
「いや、でも小指に乗る程のちっちゃな銃ですよ?」
「可愛いじゃない。こっちも小指に乗る程のちっちゃな剣じゃない。可愛いじゃない。男と男の可愛い決闘じゃない。来いっ!!」
「可愛いいります?決闘に、そんなに可愛い要素を盛り込む必要性があります?」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃと、ごちゃごちゃだな!キミは!」
「ごちゃごちゃにもなりますって!」
「早撃ちガンマンなんでしょ?」
「まあ、一応。」
「なら、いいじゃない。それで、いいじゃない。それだけで、いいじゃない。よし来いっ!」
「構えないで下さい。早撃てませんよ。こんなちっちゃな銃じゃ!」
「じゃあ、キミの負けだよ。大敗だよ。」
「大敗ではないし、負けてはないし、僕が言いたいのは、こんなちっちゃな銃と剣じゃ、決闘自体が出来ないって事ですよ!って、ちっちゃな剣を爪楊枝代わりに使わないで下さい。もう、その状況がおかしいもの!」
「話が長いんだもの。そりゃ、シーハーの一つや二つしちゃいますよ。だいたいあれだよ?決闘するのに、その話の長さの方が、よっぽどだよ?よっぽどおかしいよ?」
「いやいやいや、話も長くなるって!これ何ですか?わざわざアナタが作ったんですか?」
「もちろんだとも!よし来いっ!!」
「いや、流れがおかしいでしょ。話の流れ的に、そこで剣を構えるのおかしいでしょ。って、剣ちゃんと持ってます?」
「えっ?ああ、落ちてた。」
「ほらー!そう言う事になるー!」
「たまたまだよ。天気だって、雨の日もあれば、晴れの日も曇りの日も雪の日だってあるじゃない!」
「天気はね!天気はいろいろありますよ!けど、決闘でこんな決闘は、ないでしょ!」
「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「それは僕の台詞ですよ。」
「なら言えばいいじゃない!」
「ガキですか?だいたいこんな精密にちっちゃな銃と剣が作れる腕を持っているなら、賞金稼ぎなんて辞めて、そっちの道で生きていけばいいじゃないですか。」
「・・・・・・・・・。」
「何で無言ですか?」
「いや、ちょっとあの雨雲が気になって。」
「天気、もうどうだっていいでしょ!」
「洗濯物の心配だって、時にはするじゃない!」
「なら、決闘なんてやめちまえ!」
「よし来いっ!」
「おかしいでしょ?そこで、よし来いは今日一おかしいでしょ?」
「来ちゃえばいいじゃない。来ちゃえばそれで全てが丸く治まるじゃない。」
「無理でしょ。要素がないですもん。事態が治まる要素、ゼロですもん。」
「なに?じゃあ、やめる?決闘。」
「いやだから、自分の銃でやらして下さいよ。」
「性能的には、一緒だよ?いや、むしろキミに渡した銃の方が高性能。」
「高性能とかじゃなくって、ちっちゃいんだって!扱えないんだって!」
「なんで!」
「だから、ちっちゃいからですよ!」
「怒るなっ!!!」
「!?」
「なにをそんなに怒る必要があるのか!大の男が!大の男に対して、なにをそんなに怒る必要があるのか!怒ってなにかが解決出来るのか!出来た試しがあるのか!」
「す、すいません。」
「怒って平和的な解決を見た試しがない!!」
「決闘するんですよね?」
「決闘するんですよ?なんですか?なんなんですか?なんか文句があるんですか?文句があるなら言ってみればいいじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「・・・・・・・・・いえ。」
「ちくちょぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「あのう?何も泣かなくっても?」
「泣いてないじゃい!生まれてから一度も泣いた事なんてありゃしないじゃない!」
「いや、その辺の事実関係は知りませんけど、分かりました。決闘しましょう。」
「よし来いっ!!」
「立ち直り早っ!満面の笑みじゃないですか。情緒不安定過ぎでしょ。」
「情緒なんてものはな!不安定ぐらいが調度いいじゃない!」
「良くないですよ。安定してるにこしたことないですよ。決闘は、やりますけど、ちっちゃな銃の使い方をちゃんと説明して下さいよ。」
「だからー!」
「完全に怒ってますよね?」
「イライラしてるだけじゃない!」
「同じ事じゃないですか。」
「普通の銃と同じなんだから、ここをな。こうやって、こう。」
「ここを?」
「ああーっ!そんな雑に扱ったら壊れるじゃない!もっと優しく!こうやって、こう。」
「こうやって?」
「だから壊れるって!もっと愛しく!こう!」
「こう。」
「バキューン!」
「あっ!」
「痛いじゃないっ!!もぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

第百三十八話
「なにやってんのっ!」

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2009年2月11日 (水)

「第百三十九話」

 私の父が心筋梗塞で突然死に、一人娘の私と母は葬儀の準備やら何やらで、イロイロとドタバタ忙しく、父の遺品を片付ける暇もありませんでした。
「やっと終わったね。」
いつも家族三人が囲んでいたいつもの食卓のいつもの席に座った私は、自分で自分の肩を叩きながら、溜め息混じりで母に言った。2人分の湯呑みを置き、母もいつもの席に座った。
「ありがとう。」
「何だかお父さんが死んで、立て続けにいろんな催しがあって、実感が沸かなかったけど、こうして家でいつもお父さんが座ってた席にお父さんが座ってないと、妙に感慨深いものがあるわね。」
「催しって、感慨深いって、ママ?表現方法がいろいろと間違ってる。でも、本当だよね。パパ、もういないんだよね・・・・・・・・・。」
「これであなたも家を出て行っちゃったら、お母さん一人になっちゃうわね。」
「ママ・・・・・・・・・。」
「何しようかしら?習い事?海外旅行?」
「はい?」
「それとも、再婚!」
「むしろポジティブ!?次のパパが楽しみでしょうがないわ。」
「何をふざけた事を言ってんのよ!」
「私!?ママじゃなくって、私なの!?」
「お母さんが再婚する前に、あなたはどうなの?あなたが先に結婚してくれなきゃ、お母さんオチオチ再婚も出来やしないわよ?」
「そっち!?主に9割以上が再婚主体の話題!?えっ、私?私はまあ、まだまだ結婚なんて考えてないしさ。」
「いい人いないの?」
「いい人ねぇ?」
「名字が同じ人とか。」
「いい人って、そう言う意味なの?」
「あなたももう30歳なんだからね。」
「29!まだ29ですから!」
「早く結婚しないと、あっという間に40歳で、気付いたら50歳になり、くしゃみしたら80歳になってて、一方その頃お母さんは、115歳なのよ?」
「長生き!?ま、まあほら、結婚ってさ。すればいいってもんじゃないじゃない?何て言うの?運命って言うの?神のみぞ知るって言うの?」
「じゃあ、神に聞いて来なさいよ。」
「いや、そんな簡単に会えないと思うし、そもそもいるのかどうかも分からないし、まあほら・・・。」
「いないのね?」
「へっ?」
「つまり、今はお付き合いしてる男性がいないって事なのね?」
「・・・・・・・・・。」
「はあ、情けない。」
「いや、情けがられても、こればっかりはね。」
「本当にその内、だーれも貰い手がいなくなっちゃうわよ?」
「酷い言われよう!?」
「あなた一人娘なんだから、お母さん早く孫の顔が見たいわよ。」
「ママ・・・・・・・・・。」
「でないと、あなたが先に弟の顔を見る事になるかもしれないわよ?」
「再婚して、しかも子供産んじゃうつもり!?」
「連れ子よ。」
「じゃあ、お兄ちゃんかもお姉ちゃんかも妹かもしれないじゃん!」
「それもそうね。双子の妹かもしれないわね。」
「どんな可能性なの?それって?そう言う人を選ぶって訳?」
「同じ名字のね。」
「確率低っ!てか、パパ死んで間もないって言うのに、再婚の話なんてして、ママはパパを愛してなかったの?」
「今日は、天気がいいわね。」
「堂々と、王道に、はぐらかされた!?」
「愛してたわよ。愛してたに決まってるでしょ。愛してたし、愛してるわよ。愛なしで、パパとママについて語る方が逆に難しいわよ。愛し愛され、どうかしら?気付いたらそこには、愛しか残ってなかったって感じよね。」
「聞いといてあれなんだけど、何だか物凄く恥ずかしくなるから、その話いいや。」
「その愛の結晶があなたなんじゃない。だから、早く結婚して幸せになって欲しいのよ。」
「ママ・・・・・・・・・。でも、私は今でも幸せだよ。」
「絵本を書いてる事がかい?」
「そっ!」
「あんれまあ、いったい誰に似たんだか?」
「そりゃあ、もっちろん!」

第百三十九話
「絵本作家の娘、絵本作家」

「誰?」
「パパよ!パパ!パパに決まってるでしょ!じゃあ、私。パパの部屋を少し片付けて来るから。」
「ちょっと!まだボロ儲け話が終わってないわよ!」
「いったい私をどこぞのデブ何社長と結婚させようとしてるのよ!」
これ以上、母と話してたら私の大事な結婚がとんでもない方向に行っちゃうと感じた私は、父の部屋へと向う事にした。それに、私にはどうしても父の部屋を片付けたい理由があった。それは、父の未発表作品を見付ける事。別に私がその話を貰って自分の作品にしようってわけじゃなくって、何て言うのかな?絵本作家の娘=ファンの特権ってヤツ?そんな誰にも真似出来ないワックワクを胸に、私は二階の父の部屋の扉と言うなの宝箱の蓋に手を掛けた。
「ガラガラガラ。」
「うわっ!きったなーい!」
それもそうだよね。突然だったもんね。あの日から気丈に笑顔を振り撒いて、冗談ばっかり言ってる母だけど、私は夜な夜な母が泣いていた事を知ってる。
「パパ・・・・・・・・・。」
ダメダメ!しんみりしたって何にも始まらない!私はここに、絵本作家としての私の人生の!パワーを貰いに来たのよ!
「さて、どこにあるのかなぁ?」
と、言っても場所はだいたい分かってるんだけどね。生前、父が絶対に開けてはいけないと言っていた押し入れ。未発表作品は、絶対そこにある!
「スゥゥゥゥゥゥゥゥ。」
「ビンゴ!」
って、未発表作品って書かれた山積みのダンボールって・・・・・・・・・。
「まあ、パパらしいや。さてと、どーれから読もおっかなー♪ん?」
そんなウッキウキな私の目に飛び込んで来たのは、『娘へ』と書かれたダンボールだった。私は、迷わずそのダンボールを開けた。そこには、父が書いたメモ用紙が一枚と沢山の未発表作品が入っていた。そのメモ用紙には、大きな文字でこう書かれていた。
「『自由に使いなさい!』・・・・・・・・・パパ。」
いろんな事が、私の頭の中を巡って、涙が出そうになったけど、必死にそれを堪えて、私はとりあえず一番上に積まれていた未発表作品を手に取った。
「よし!『ウサギの耳とキリンの首』これから読もう!」

『ウサギは言いました。
「キリンさん!どうしてキリンさんの首は、そんなに長いの!」
ウサギは、長い耳をピーンと立てて、真っ赤な目をキラキラ輝かせ、キリンの返事を待ちました。
「プチ。」
キリンからしてみれば小さなウサギの声など、長いキリンの首を経て、キリンの耳に伝わるはずもなく、更にはキリンからしてみれば小さなウサギの存在など、キリンが気付くはずもなく、ウサギはキリンに踏み潰されて死んでしまいました。』

「おわり。おわり?何がおわりなの?てか、何が始まったの?何なの?何なのこの作品?絵もやたらとグロテスクだし、グロテスク過ぎるし、見開きで計4ページの絵本って?本当に何なわけ?読者は、ここからいったい何を学べって言うの?いやいやいや、きっと何かあるはずよ!よし!『ウサギの耳とゾウの鼻』気を取り直してこれを読もう!」

『ウサギは言いました。
「ゾウさん!どうしてゾウさんの鼻は、そんなに長いの!」
ウサギは、長い耳をピーンと立てて、真っ赤な目をキラキラ輝かせ、ゾウの返事を待ちました。
「プチ。」
ゾウからしてみれば小さなウサギの声など、長いゾウの鼻を経て、ゾウの耳に伝わるはずもなく、更にはゾウからしてみれば小さなウサギの存在など、ゾウが気付くはずもなく、ウサギはゾウに踏み潰されて死んでしまいました。』

「おわり。おわり?キリンがゾウに変わっただけだけど?これをわざわざ未発表作品として残しとく意図が分からないわ。ん?『ウサギの耳とカンガルーの袋』『ウサギの耳とライオンの鬣』『ウサギの耳とクマの手』『ウサギの耳とバッファローの群』『ウサギの耳とカバの口』って、何なの?このウサギシリーズ!?しかも最終的にウサギ気付かれないで殺されちゃうし!?ここまで来るとあれね?何やってんのウサギ!って感じが否めないわね。でも、何なのこの不思議な感覚は?」
確かに父が遺した未発表作品達は、散々なウサギシリーズだった。ただ、私の興味と好奇心を刺激するには、あまりにも十分過ぎる作品達だった。だってそうでしょ?だいたい、この耳の長い目の赤い真っ白なウサギって動物?これってパパの想像?それとも大昔、本当に実在した動物?とにかく私の創作意欲は、この未知の生物『ウサギ』によって沸き立てられていた。

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2009年2月18日 (水)

「第百四十話」

 俺は、ランナー。つまり、走る人だ。走るって行為がどう言ったものか?走っている時点でそれは、既に俺がピンチだって事だ。

第百四十話
「ピンチ・ランナー」

「待てー!」
と、追う者がいて
「待つかー!」
と、追われる者がいて
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、俺がいる。追う者と追われる者の間に、俺がいる。果たして俺は、追われているのか?追っているのか?分かっているのは、俺がランナーで、しかもピンチだって事だけだ。例えば俺がランナーではなく。同じ間にいる存在として、ハムだとしよう。それはあまりにもサンドイッチで、サンドイッチ過ぎる程サンドイッチで、サンドイッチ以上でもサンドイッチ以下でもない。そこには、ピンチの欠片も見当たらない。ピンチの香りも漂わない。それは、ハムになってしまった段階で、既にピンチではなくサンドイッチだからだ。なら、どうして俺がピンチなのか?それは、俺がハムではなくランナーだからだ。
「待てー!」
と、追う者がいて
「待つかー!」
と、追われる者がいて
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、俺がいる。そう、例えば止まればいいじゃないかと言う意見が、世論調査で過半数を圧倒的に越えているとする。だがどうだろう?俺が追っているのか?追われているのか?によって、答えは随分と変化するんじゃないだろうか?そう、例えばの例えば、俺が仮に追う者だとして、ここで止まってしまったら、それは俺が追う者として追われる者を追う事を、諦めた事になる。果たしてそんなに簡単に物事を諦めていいのだろうか?諦めると言う行為をそんな簡単に捉えてしまっていいのだろうか?自暴自棄になり自虐体質になり、いずれ俺は、物言わぬ人形のようになってしまうんじゃないのだろうか?だとしたら、俺は止まる訳には断じていかない。そう、例えばの例えばの例えば、俺が仮に追われる者だとして、ここで止まってしまったら、それは俺が追われる者として追う者に追われる事を、諦めた事になる。果たしてそんなに簡単に物事を諦めていいのだろうか?諦めると言う行為をそんな簡単に捉えてしまっていいのだろうか?自暴自棄になり自虐体質になり、いずれ俺は、物言わぬ人形のようになってしまうんじゃないのだろうか?だとしたら、俺は止まる訳には断じていかない。例えばの例えばの例えばの例え止まらないと言う意見がマイノリティーだったとしても、俺は走り続ける事を選択する。それは俺がランナーであり、ピンチである以前に、一人の人間であるからだ。
「待てー!」
と、追う者がいて
「待つかー!」
と、追われる者がいて
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、俺がいる。ここで、この俺に巻き起こっている出来事を夢かもしれないと疑ってみよう。確率的に言ったら、バナナの皮で滑って転んで頭を打って、後頭部から血が沢山出て買い物帰りの主婦に救急車を呼んでもらい搬送先の病院が見つからず、たらい回しにされ、その間にも後頭部からは血とかが沢山出て、救急車の窓から見える車窓の景色は、あの日の父との思い出でと母が作ってくれたカレーライスの味を思い出させてくれて、何だかんだで搬送先の病院が見つかった頃には、救急車の乗組員とも少し仲良くなってて、連絡先の交換とかもしてて、その間にも後頭部からは血が2で何かが8の割合で出てて、病院で緊急手術して輸血して輸何かして、無事手術が成功して麻酔から覚めると、病室には家族似の人々がいて、常にポケットに両手を入れてビスケットを探している担当医の女医の二番目の娘と恋に落ちるよりかは、遥かに高い。夢かもしれないと疑ってみるのは、あながち間違いじゃない。
「待てー!」
と、追う者がいて
「待つかー!」
と、追われる者がいて
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、紛れもなく俺がいる。疑いようもなく現実世界がそこにある。頬っぺたつねり損とは、正にこの事を言うのだろう。走るのが止められないのなら、だったらせめて、この三人一直線に並ぶのを止め、俺だけ一歩横にずれればいいじゃないかと言った意見が、リスナーから俺宛に牛乳パックで作ったエコロジーなハガキで寄せられて来たとしよう。カオス理論を知っているだろうか?例えば過去にタイムスリップしたとする。そこでは些細な行動でも、未来を大きく揺るがす影響を与えてしまうと言ったものだ。つまりこの場合の未来とは、自分が元々いた現在になる訳だが、その未来に過去の行動で、とんでもない変化をもたらしてしまうと言った具合だ。それは、山の頂上から小石を転がしたら、山の麓ではとんでもなく大きな岩になっていると言う事だ。つまりこうだ。過去にタイムスリップし、そこで少年と出会い仲良くなり、少年が石に躓いて転ぶのを助けたとしよう。助けた少年はその後、とんでもない物を発明し、そのとんでもない発明品が、とんでもない奴等の手に渡り、とんでもない事に使われ、地球がとんでもない事になってしまう。なぜなら少年は、本当は石に躓いて頭を打って死ななければならなかったからだ。なら、少年を助けなければよかったのか?いや違う。少年と出会った時点で、既に未来は少しずつだが変化してしまっている。過去にタイムスリップしたならば、現在に戻るまで、自分の存在を誰にも知られずに気配を消し、いかなる接触も避けなければならない。これは、タイムスリップの鉄則だ。つまり、過去では常に己はゴーストでいなければならい。でなければ、落ちていた小石を手に取った瞬間に、木の実を食べた瞬間に、歩いてる人とぶつかった瞬間に、己の存在が消えてなくなるかもしれないからだ。俺は、タイムスリップして来た訳でもなければ、タイムスリップするつもりもない。ただ、俺が一歩横にずれた瞬間に、俺の存在が消えてなくならないって確証までは、俺は持ち合わせていない。そもそも、追う者と追われる者のどちらかが、或いは、どちら共が俺の時代にタイムスリップして来たタイムトラベラーだとしたら、三人一直線に走ってる事で、三人一直線に走れてるって言う事は、三人一直線に走ってるうちは、未来の地球の平和が保たれているって言っても過言じゃない。なら、俺は地球の平和の為に何が何でも三人一直線に走ろうじゃないか。俺のピンチで、俺だけがピンチで、この地球が救われるなら、俺はランナーで有り続け、ピンチで居続けようじゃないか。
「待てー!」
と、追う者がいて
「待つかー!」
と、追われる者がいて
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、俺がいる。

空は青く
風は心地よく
太陽の光が眩しく
学校帰りの小学生達は楽しそうに笑い合い
年齢に関係なくそれぞれな恋人達はそれぞれに愛しそうに笑い合い
そんな絶え間なく笑顔に満ちた最低限の平和に包まれている地球

例え俺がピンチだろうが
例え俺がランナーだろうが

それでも何かにつけて気付くと回っている地球
そこに青き地球
そこに蒼き地球
それがおそらく続くのであるならば
俺は最期の日まで共に走り続けよう

「待てー!」
と、追う者がいて
「待つかー!」
と、追われる者がいて
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、暇だから簡単に簡単な詩を作っている俺がいる。ランナーズハイになりかけては、今一歩でなれないでいる俺がいる。客観的に見たら足の部分が漫画みたいにクルクル高速回転している俺がいる。こう言った大会があれば、きっと優勝候補だとメディアに取り上げられる俺がいる。何か嫌な雲行きだなと思っている俺がいる。今日の晩御飯も相変わらず残り物だけでいいかと考えている俺がいる。あの時、ああしていれば、今頃ああなっていて、ああなんだろうなと、ああ考えている俺が、ああいる。なので、馬鹿野郎と、あの日の俺を責めている俺がいる。うるせえこの野郎と、今の俺に言い返してくるあの日の俺がいる。もしかしたら、俺がいるから追う者と追われる者がいるのかもしれないとは、考えないようにしている俺がいる。
「待てー!」
と、追う者がいて
「待つかー!」
と、追われる者がいて
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、間に俺はもう、いない。

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2009年2月25日 (水)

「第百四十一話」

「えいっ!」
「パシャッ!」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「んもうっ!あと二匹すくえばいいのにー!」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「お嬢ちゃん?こんな場所で金魚すくいとは、何とも粋と言うか、何とも不可思議だね。いや、真っ白な空間に真っ赤な金魚が入った透明な器、その真っ赤な金魚をすくう真っ赤な浴衣の真っ赤な髪飾りをした少女、やはり粋だと言うべきかな。」
「おじちゃんは、顔だけの人なの?」
「顔だけの人?ああ、おじちゃんはね。真っ白なタキシードに真っ白な蝶ネクタイに真っ白な手袋に真っ白な靴下に真っ白な靴に真っ白なステッキに真っ白なシルクハットだから、真っ白な空間に溶け込んでいるだけだよ。ほら、ちゃんと頭もあれば、ちゃんと手もあるよ。すね毛だって、ちゃんとあるよ。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「いやはや、金魚すくいに夢中で見てくれないんだね。うんうん。それはそれで、ありだね。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「ところで、お嬢ちゃん?何時間も前からずっと一生懸命に、一心不乱に金魚すくいをしているのは、なぜかな?」
「何時間も前から居たの?」
「居たよ。シルクハットで顔を隠しながら、ずっと見ていたんだよ。」
「おじちゃんは、北極熊?えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんはね。北極熊じゃないんだよ。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「あまりにも気付いてくれなかったから、こうしてお嬢ちゃんの前に姿を現したんだよ。」
「本当に気付いて欲しかったの?」
「まあ、本当は気付いて欲しくなかったんだけどね。姿を現すタイミングは、いつも決まってこのタイミングだって決めていたからね。」
「出られないの。えいっ!」
「パシャッ!」
「出られない?はてさて?出られないとは、いったいどう言う事かな?」
「ここから、出られないの。えいっ!」
「パシャッ!」
「出られないから、そのあまりの暇さ加減に、金魚すくいをしているって事かな?」
「違うよ!えいっ!」
「パシャッ!」
「違う?では、あまりの金魚すくいの面白さに魅了され、金魚すくいをやめるにやめられないでいるって事かな?金魚すくいの奥深さをとことん探究し、金魚すくい道を極め、金魚すくいの向こう側の更に向こう側へ行こうとしているって事かな?」
「おじちゃん!」
「ん?」
「おじちゃんは、馬鹿なの?」
「おじちゃんはね。馬鹿じゃないんだよ。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「・・・・・・・・・。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「・・・・・・・・・。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんはね。馬鹿じゃないんだよ。」
「あっそう。何か、馬鹿かと思っちゃった。」
「そうかそうか。おじちゃんは、馬鹿かと思われちゃったのか。あっはっはっはっはっ!」
「笑い事じゃないよ。」
「笑い事じゃないね。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「金魚をあと二匹すくわないと、この空間から出られないんじゃろ?」
「そぉうっ!何で急に老け込んだのかは、流すからね!えいっ!」
「パシャッ!」
「いいよいいよ。流す事も大切だからね。お嬢ちゃんは、何でこの真っ白な空間に?」
「知らない。朝、学校に行こうと思って玄関開けたら、ここだったの。」
「それは随分と、不思議眼鏡だね。」
「眼鏡関係無いけどね。えいっ!」
「パシャッ!」
「不思議ロボだね。」
「ロボも関係無いけどね。えいっ!」
「パシャッ!」
「不思議・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・体験ね!えいっ!」
「ピチピチピチッ!」
「やったー!すくえたー!あと一匹だ!!」
「コングラッ・・・・・・コングラッ・・・・・・おめでとう。お嬢ちゃん!」
「よーし!あと一匹すくえば、こんな変な真っ白な空間からも、こんな変な真っ白なおじちゃんからも、バイバイね。」
「おじちゃんはね。お嬢ちゃん?地味だが、変ではないんだよ?それにね。おじちゃんがここに居るのにも、ちゃんとした理由があるんだよ?」
「理由?そう言えば、何だかヤケに詳しいよね。えいっ!」
「パシャッ!」
「その理由を、聞きますか!聞きませんか!」
「聞きません!えいっ!」
「パシャッ!」
「もう一度だけ尋ねます。おじちゃんがここに居る理由を、聞きますか!聞きませんか!」
「イライラするから、選択形式やめてよ。勝手に言えばいいじゃん。」
「では、発表します!」
「はいはい。えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんはね。お嬢ちゃんをすくいに来たんだよ。」
「はっ?」
「同じさ。おじちゃんとお嬢ちゃんは、同じなのさ。お嬢ちゃんは、金魚を百匹すくわないとこの真っ白な空間から出られない。おじちゃんは、おじちゃんで百人の少女をすくわないと、魔法使いにかけられた魔法が解けないんだよ。」
「魔法使いにかけられた魔法って?」
「まあ、魔法使いから以降は嘘なんだけどね。話を盛り上げる為の付きたくもなかった嘘だけどね。」
「あっそう。えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんもね。この真っ白な空間に閉じ込められているんだよ。」
「えっ?」
「おじちゃんはね。ここに閉じ込められた時は、お兄ちゃんだったんだよ。」
「そんな昔から?」
「うん。もう、四十年近くになるかな。おじちゃんもお兄ちゃんだった頃に、玄関を開けたら、この真っ白な空間に居たんだよ。」
「だったら最初から、そう言えばいいじゃん。かなりの無駄話じゃん。」
「クライマックスに向けて話を盛り上げるには、無駄話が最適なんだよ。」
「された方は、イライラするけどね。」
「北極熊だって、獲物を捕獲するクライマックスの瞬間まで、景色に溶け込んでいるじゃないか。」
「おじちゃんは、北極熊なの?」
「おじちゃんはね。北極熊じゃないんだよ。おじちゃんはね。百匹の金魚をすくわないといけない百人の少女をすくわないといけないんだよ。」
「たぶん、話ここからでよかったんだよ。」
「さあ、おじちゃんに貸してごらん?最後の一匹は、おじちゃんじゃないとすくえないシステムになっているからね。」
「ねぇ?ところで、おじちゃんはあと何人すくわないといけないの?」
「・・・・・・・・・お嬢ちゃんで、百人目だよ。さあ、早く二人でこの真っ白な空間から出よう。さあほら、いつまでも水に浸けてないで、おじちゃんにその金魚をすくう道具を貸してごらん。」
「う、うん。分かっ!?」
「ピチピチピチッ!」
「あっ!」
「あっ!」

第百四十一話
「北極熊は鼻を隠す」

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