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2009年2月11日 (水)

「第百三十九話」

 私の父が心筋梗塞で突然死に、一人娘の私と母は葬儀の準備やら何やらで、イロイロとドタバタ忙しく、父の遺品を片付ける暇もありませんでした。
「やっと終わったね。」
いつも家族三人が囲んでいたいつもの食卓のいつもの席に座った私は、自分で自分の肩を叩きながら、溜め息混じりで母に言った。2人分の湯呑みを置き、母もいつもの席に座った。
「ありがとう。」
「何だかお父さんが死んで、立て続けにいろんな催しがあって、実感が沸かなかったけど、こうして家でいつもお父さんが座ってた席にお父さんが座ってないと、妙に感慨深いものがあるわね。」
「催しって、感慨深いって、ママ?表現方法がいろいろと間違ってる。でも、本当だよね。パパ、もういないんだよね・・・・・・・・・。」
「これであなたも家を出て行っちゃったら、お母さん一人になっちゃうわね。」
「ママ・・・・・・・・・。」
「何しようかしら?習い事?海外旅行?」
「はい?」
「それとも、再婚!」
「むしろポジティブ!?次のパパが楽しみでしょうがないわ。」
「何をふざけた事を言ってんのよ!」
「私!?ママじゃなくって、私なの!?」
「お母さんが再婚する前に、あなたはどうなの?あなたが先に結婚してくれなきゃ、お母さんオチオチ再婚も出来やしないわよ?」
「そっち!?主に9割以上が再婚主体の話題!?えっ、私?私はまあ、まだまだ結婚なんて考えてないしさ。」
「いい人いないの?」
「いい人ねぇ?」
「名字が同じ人とか。」
「いい人って、そう言う意味なの?」
「あなたももう30歳なんだからね。」
「29!まだ29ですから!」
「早く結婚しないと、あっという間に40歳で、気付いたら50歳になり、くしゃみしたら80歳になってて、一方その頃お母さんは、115歳なのよ?」
「長生き!?ま、まあほら、結婚ってさ。すればいいってもんじゃないじゃない?何て言うの?運命って言うの?神のみぞ知るって言うの?」
「じゃあ、神に聞いて来なさいよ。」
「いや、そんな簡単に会えないと思うし、そもそもいるのかどうかも分からないし、まあほら・・・。」
「いないのね?」
「へっ?」
「つまり、今はお付き合いしてる男性がいないって事なのね?」
「・・・・・・・・・。」
「はあ、情けない。」
「いや、情けがられても、こればっかりはね。」
「本当にその内、だーれも貰い手がいなくなっちゃうわよ?」
「酷い言われよう!?」
「あなた一人娘なんだから、お母さん早く孫の顔が見たいわよ。」
「ママ・・・・・・・・・。」
「でないと、あなたが先に弟の顔を見る事になるかもしれないわよ?」
「再婚して、しかも子供産んじゃうつもり!?」
「連れ子よ。」
「じゃあ、お兄ちゃんかもお姉ちゃんかも妹かもしれないじゃん!」
「それもそうね。双子の妹かもしれないわね。」
「どんな可能性なの?それって?そう言う人を選ぶって訳?」
「同じ名字のね。」
「確率低っ!てか、パパ死んで間もないって言うのに、再婚の話なんてして、ママはパパを愛してなかったの?」
「今日は、天気がいいわね。」
「堂々と、王道に、はぐらかされた!?」
「愛してたわよ。愛してたに決まってるでしょ。愛してたし、愛してるわよ。愛なしで、パパとママについて語る方が逆に難しいわよ。愛し愛され、どうかしら?気付いたらそこには、愛しか残ってなかったって感じよね。」
「聞いといてあれなんだけど、何だか物凄く恥ずかしくなるから、その話いいや。」
「その愛の結晶があなたなんじゃない。だから、早く結婚して幸せになって欲しいのよ。」
「ママ・・・・・・・・・。でも、私は今でも幸せだよ。」
「絵本を書いてる事がかい?」
「そっ!」
「あんれまあ、いったい誰に似たんだか?」
「そりゃあ、もっちろん!」

第百三十九話
「絵本作家の娘、絵本作家」

「誰?」
「パパよ!パパ!パパに決まってるでしょ!じゃあ、私。パパの部屋を少し片付けて来るから。」
「ちょっと!まだボロ儲け話が終わってないわよ!」
「いったい私をどこぞのデブ何社長と結婚させようとしてるのよ!」
これ以上、母と話してたら私の大事な結婚がとんでもない方向に行っちゃうと感じた私は、父の部屋へと向う事にした。それに、私にはどうしても父の部屋を片付けたい理由があった。それは、父の未発表作品を見付ける事。別に私がその話を貰って自分の作品にしようってわけじゃなくって、何て言うのかな?絵本作家の娘=ファンの特権ってヤツ?そんな誰にも真似出来ないワックワクを胸に、私は二階の父の部屋の扉と言うなの宝箱の蓋に手を掛けた。
「ガラガラガラ。」
「うわっ!きったなーい!」
それもそうだよね。突然だったもんね。あの日から気丈に笑顔を振り撒いて、冗談ばっかり言ってる母だけど、私は夜な夜な母が泣いていた事を知ってる。
「パパ・・・・・・・・・。」
ダメダメ!しんみりしたって何にも始まらない!私はここに、絵本作家としての私の人生の!パワーを貰いに来たのよ!
「さて、どこにあるのかなぁ?」
と、言っても場所はだいたい分かってるんだけどね。生前、父が絶対に開けてはいけないと言っていた押し入れ。未発表作品は、絶対そこにある!
「スゥゥゥゥゥゥゥゥ。」
「ビンゴ!」
って、未発表作品って書かれた山積みのダンボールって・・・・・・・・・。
「まあ、パパらしいや。さてと、どーれから読もおっかなー♪ん?」
そんなウッキウキな私の目に飛び込んで来たのは、『娘へ』と書かれたダンボールだった。私は、迷わずそのダンボールを開けた。そこには、父が書いたメモ用紙が一枚と沢山の未発表作品が入っていた。そのメモ用紙には、大きな文字でこう書かれていた。
「『自由に使いなさい!』・・・・・・・・・パパ。」
いろんな事が、私の頭の中を巡って、涙が出そうになったけど、必死にそれを堪えて、私はとりあえず一番上に積まれていた未発表作品を手に取った。
「よし!『ウサギの耳とキリンの首』これから読もう!」

『ウサギは言いました。
「キリンさん!どうしてキリンさんの首は、そんなに長いの!」
ウサギは、長い耳をピーンと立てて、真っ赤な目をキラキラ輝かせ、キリンの返事を待ちました。
「プチ。」
キリンからしてみれば小さなウサギの声など、長いキリンの首を経て、キリンの耳に伝わるはずもなく、更にはキリンからしてみれば小さなウサギの存在など、キリンが気付くはずもなく、ウサギはキリンに踏み潰されて死んでしまいました。』

「おわり。おわり?何がおわりなの?てか、何が始まったの?何なの?何なのこの作品?絵もやたらとグロテスクだし、グロテスク過ぎるし、見開きで計4ページの絵本って?本当に何なわけ?読者は、ここからいったい何を学べって言うの?いやいやいや、きっと何かあるはずよ!よし!『ウサギの耳とゾウの鼻』気を取り直してこれを読もう!」

『ウサギは言いました。
「ゾウさん!どうしてゾウさんの鼻は、そんなに長いの!」
ウサギは、長い耳をピーンと立てて、真っ赤な目をキラキラ輝かせ、ゾウの返事を待ちました。
「プチ。」
ゾウからしてみれば小さなウサギの声など、長いゾウの鼻を経て、ゾウの耳に伝わるはずもなく、更にはゾウからしてみれば小さなウサギの存在など、ゾウが気付くはずもなく、ウサギはゾウに踏み潰されて死んでしまいました。』

「おわり。おわり?キリンがゾウに変わっただけだけど?これをわざわざ未発表作品として残しとく意図が分からないわ。ん?『ウサギの耳とカンガルーの袋』『ウサギの耳とライオンの鬣』『ウサギの耳とクマの手』『ウサギの耳とバッファローの群』『ウサギの耳とカバの口』って、何なの?このウサギシリーズ!?しかも最終的にウサギ気付かれないで殺されちゃうし!?ここまで来るとあれね?何やってんのウサギ!って感じが否めないわね。でも、何なのこの不思議な感覚は?」
確かに父が遺した未発表作品達は、散々なウサギシリーズだった。ただ、私の興味と好奇心を刺激するには、あまりにも十分過ぎる作品達だった。だってそうでしょ?だいたい、この耳の長い目の赤い真っ白なウサギって動物?これってパパの想像?それとも大昔、本当に実在した動物?とにかく私の創作意欲は、この未知の生物『ウサギ』によって沸き立てられていた。

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