« 「第百四十話」 | トップページ | 「第百四十二話」 »

2009年2月25日 (水)

「第百四十一話」

「えいっ!」
「パシャッ!」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「んもうっ!あと二匹すくえばいいのにー!」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「お嬢ちゃん?こんな場所で金魚すくいとは、何とも粋と言うか、何とも不可思議だね。いや、真っ白な空間に真っ赤な金魚が入った透明な器、その真っ赤な金魚をすくう真っ赤な浴衣の真っ赤な髪飾りをした少女、やはり粋だと言うべきかな。」
「おじちゃんは、顔だけの人なの?」
「顔だけの人?ああ、おじちゃんはね。真っ白なタキシードに真っ白な蝶ネクタイに真っ白な手袋に真っ白な靴下に真っ白な靴に真っ白なステッキに真っ白なシルクハットだから、真っ白な空間に溶け込んでいるだけだよ。ほら、ちゃんと頭もあれば、ちゃんと手もあるよ。すね毛だって、ちゃんとあるよ。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「いやはや、金魚すくいに夢中で見てくれないんだね。うんうん。それはそれで、ありだね。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「ところで、お嬢ちゃん?何時間も前からずっと一生懸命に、一心不乱に金魚すくいをしているのは、なぜかな?」
「何時間も前から居たの?」
「居たよ。シルクハットで顔を隠しながら、ずっと見ていたんだよ。」
「おじちゃんは、北極熊?えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんはね。北極熊じゃないんだよ。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「あまりにも気付いてくれなかったから、こうしてお嬢ちゃんの前に姿を現したんだよ。」
「本当に気付いて欲しかったの?」
「まあ、本当は気付いて欲しくなかったんだけどね。姿を現すタイミングは、いつも決まってこのタイミングだって決めていたからね。」
「出られないの。えいっ!」
「パシャッ!」
「出られない?はてさて?出られないとは、いったいどう言う事かな?」
「ここから、出られないの。えいっ!」
「パシャッ!」
「出られないから、そのあまりの暇さ加減に、金魚すくいをしているって事かな?」
「違うよ!えいっ!」
「パシャッ!」
「違う?では、あまりの金魚すくいの面白さに魅了され、金魚すくいをやめるにやめられないでいるって事かな?金魚すくいの奥深さをとことん探究し、金魚すくい道を極め、金魚すくいの向こう側の更に向こう側へ行こうとしているって事かな?」
「おじちゃん!」
「ん?」
「おじちゃんは、馬鹿なの?」
「おじちゃんはね。馬鹿じゃないんだよ。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「・・・・・・・・・。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「・・・・・・・・・。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんはね。馬鹿じゃないんだよ。」
「あっそう。何か、馬鹿かと思っちゃった。」
「そうかそうか。おじちゃんは、馬鹿かと思われちゃったのか。あっはっはっはっはっ!」
「笑い事じゃないよ。」
「笑い事じゃないね。」
「えいっ!」
「パシャッ!」
「金魚をあと二匹すくわないと、この空間から出られないんじゃろ?」
「そぉうっ!何で急に老け込んだのかは、流すからね!えいっ!」
「パシャッ!」
「いいよいいよ。流す事も大切だからね。お嬢ちゃんは、何でこの真っ白な空間に?」
「知らない。朝、学校に行こうと思って玄関開けたら、ここだったの。」
「それは随分と、不思議眼鏡だね。」
「眼鏡関係無いけどね。えいっ!」
「パシャッ!」
「不思議ロボだね。」
「ロボも関係無いけどね。えいっ!」
「パシャッ!」
「不思議・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・体験ね!えいっ!」
「ピチピチピチッ!」
「やったー!すくえたー!あと一匹だ!!」
「コングラッ・・・・・・コングラッ・・・・・・おめでとう。お嬢ちゃん!」
「よーし!あと一匹すくえば、こんな変な真っ白な空間からも、こんな変な真っ白なおじちゃんからも、バイバイね。」
「おじちゃんはね。お嬢ちゃん?地味だが、変ではないんだよ?それにね。おじちゃんがここに居るのにも、ちゃんとした理由があるんだよ?」
「理由?そう言えば、何だかヤケに詳しいよね。えいっ!」
「パシャッ!」
「その理由を、聞きますか!聞きませんか!」
「聞きません!えいっ!」
「パシャッ!」
「もう一度だけ尋ねます。おじちゃんがここに居る理由を、聞きますか!聞きませんか!」
「イライラするから、選択形式やめてよ。勝手に言えばいいじゃん。」
「では、発表します!」
「はいはい。えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんはね。お嬢ちゃんをすくいに来たんだよ。」
「はっ?」
「同じさ。おじちゃんとお嬢ちゃんは、同じなのさ。お嬢ちゃんは、金魚を百匹すくわないとこの真っ白な空間から出られない。おじちゃんは、おじちゃんで百人の少女をすくわないと、魔法使いにかけられた魔法が解けないんだよ。」
「魔法使いにかけられた魔法って?」
「まあ、魔法使いから以降は嘘なんだけどね。話を盛り上げる為の付きたくもなかった嘘だけどね。」
「あっそう。えいっ!」
「パシャッ!」
「おじちゃんもね。この真っ白な空間に閉じ込められているんだよ。」
「えっ?」
「おじちゃんはね。ここに閉じ込められた時は、お兄ちゃんだったんだよ。」
「そんな昔から?」
「うん。もう、四十年近くになるかな。おじちゃんもお兄ちゃんだった頃に、玄関を開けたら、この真っ白な空間に居たんだよ。」
「だったら最初から、そう言えばいいじゃん。かなりの無駄話じゃん。」
「クライマックスに向けて話を盛り上げるには、無駄話が最適なんだよ。」
「された方は、イライラするけどね。」
「北極熊だって、獲物を捕獲するクライマックスの瞬間まで、景色に溶け込んでいるじゃないか。」
「おじちゃんは、北極熊なの?」
「おじちゃんはね。北極熊じゃないんだよ。おじちゃんはね。百匹の金魚をすくわないといけない百人の少女をすくわないといけないんだよ。」
「たぶん、話ここからでよかったんだよ。」
「さあ、おじちゃんに貸してごらん?最後の一匹は、おじちゃんじゃないとすくえないシステムになっているからね。」
「ねぇ?ところで、おじちゃんはあと何人すくわないといけないの?」
「・・・・・・・・・お嬢ちゃんで、百人目だよ。さあ、早く二人でこの真っ白な空間から出よう。さあほら、いつまでも水に浸けてないで、おじちゃんにその金魚をすくう道具を貸してごらん。」
「う、うん。分かっ!?」
「ピチピチピチッ!」
「あっ!」
「あっ!」

第百四十一話
「北極熊は鼻を隠す」

|

« 「第百四十話」 | トップページ | 「第百四十二話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/27775272

この記事へのトラックバック一覧です: 「第百四十一話」:

« 「第百四十話」 | トップページ | 「第百四十二話」 »