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2009年3月

2009年3月 4日 (水)

「第百四十二話」

「お父さん?」
「ん?」
「明日、お母さんのお墓参りだね。」
「うん。」
「晴れるといいね。」
「うん。」
「お父さん?」
「ん?」
「何でパンダの着ぐるみ着て夕ごはん食べてるの?」
「うん。」
「うん。じゃなくて。」
「うん。」
「だから、うん。じゃなっくって。」
「うん。」
「おい!」
「母さんが凶悪な連続殺人鬼に惨殺されて、もう10年か。10thアニバーサリーか。と、思ってな。」
「病死だし。」
「うん。」
「アニバーサリーの使い方間違っちゃってし。」
「うん。」
「事実を共有してる人間に嘘付いてどうすんの?てか、何でパンダの着ぐるみ?」
「10年か。お前も春から医学生だもんな。あの頃を思い出すよ。お前は、母さんの病気をアタシが治すんだい!わんわん!って言ってたもんな。きっと母さん、お前の今の姿を見たら涙流して喜ぶぞ。そして、立派な医者になった姿を見た時なんて、母さん泣き崩れてバラバラだ。にゃんにゃん!」
「もうツッコミ所が多過ぎて何がなんだかよ。」
「うん。」
「うん。じゃなくて!何か途中で犬が出て来たし。」
「わん。」
「最後に猫が出て来たし。」
「にゃん。」
「パンダでしょ?」
「うん。」
「無理矢理鳴き声とかいらなくない?」
「うん。」
「てか、何でパンダ?」
「うん。」
「それと盛り上がってるとこ申し訳ないんですけど、アタシが春から行く大学は、普通の一般的な大学だから!勝手にストーリー膨らませないでよね!言葉のチョイスもちょくちょく間違ってるしさ!」
「パンダー!!」
「パンダ、パンダー!!なんて鳴かねぇよ!小学校低学年でも、もっと気の利いた鳴き声言うよ!」
「パンダの尻尾はな。白いんだよ。うん。黒だと思われがちだけどな。うん。白いんだよ。」
「・・・・・・・・・。」
「うんうん。」
「・・・・・・・・・。」
「そうなんだよ。」
「・・・・・・・・・。」
「そうそう。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「お前を食べてやろうかっ!!」
「子供の夢、ぶち壊しか!いや、だから何なの?パンダの尻尾が白いから何な訳?てか、知ってたから!その事実、知ってたから!」
「うん。」
「もういんじゃない?もうそろそろ何でパンダの着ぐるみなのか話してもいんじゃない?」
「ゴリラー!!」
「ぜってぇ違げぇよ!パンダ、ゴリラー!!ぜってぇ違げぇよ!」
「おい!」
「何?」
「お前、女子なんだか、もっと綺麗な言葉遣いをしなさい!おぜってぇ違げぇよ!とか。」
「お、付ければ何でもいいと思うなよ!」
「うん。」
「だいたいパンダの着ぐるみ着た父親に、言葉遣いがどうとか言われたくないわよ!てか、何なのって!パンダ、何なのって!」
「これは、今までお前に話してなかった事なんだけどな。この着ぐるみはな。実は、父さんと母さんが初めて出会った時の大切な思い出の着ぐるみなんだよ。」
「思い出の着ぐるみ?」
「父さんがパンダだった頃、母さんはウサギだったんだよ。」
「へぇ~。遊園地か何かのショーに出てたんだ。そこで、2人の恋が芽生えちゃったって訳だ。」
「父さんと母さんは、遊園地か何かのショーにはな。出てなかったんだよ。」
「えっ?じゃあ、何かお店の街頭宣伝とか?」
「趣味だ。」
「趣味!?」
「あの日は、とても暑い夏の、もっとも暑い日で、脱水症状寸前のパンダの父さんは、調べなきゃならない調べ事があってな。図書館に行ったんだよ。」
「よく入れたわね。てか、脱ぎゃいいじゃん!てか、着なきゃいいじゃん!いやいや、そもそも何で?どうしてパンダの着ぐるみ?」
「でな。パンダの生態を調べようと思って、パンダコーナーを探してたんだよ。」
「んなコーナーないって!何?この話、無駄に長くなる話?聞いてて損する話じゃない?」
「でもな。館内をパンダのくせに隈無く探したんだけど、その図書館にはパンダコーナーがもれなく無かったんだよ。」
「どの図書館にもねぇよ!これ、絶対もれなく無駄に長くなるパターンだ。ダジャレ出ちゃったもん。」
「で、父さん耐え兼ねて館内の人に聞いたら、動物コーナーならあるって、洋服を着た館内の人が言ったんだよ。」
「着ぐるみ目線で館内の人を語るなって!」
「でな。動物コーナーに行って、まあ動物コーナーと言っても、実際には植物や魚類や鳥類や食べられるキノコや食べられる野草やら諸々の複合コーナーだったんだけどな。」
「ある?そこ詳しく話す必要ある?お母さん、まだ?」
「そこで、父さんは待望の動物図鑑を見付けたんだよ。でな、その動物図鑑を取ろうと手を伸ばした瞬間な。」
「へぇ~。そこで、同じく動物図鑑を探してたウサギの着ぐるみを着たお母さんの手と触れ合ったんだ。何か映画みたいな出会いだね。お互いに着ぐるみさえ着てなければ。」
「いや、母さんとは図書館を出た時に出会った。」
「予想通り全く無駄だった図書館内の話!なぜ話した?なぜ瞬間に的な思わせ振りな言い回しした?」
「いや、動物図鑑が思いの外、上の方にあってな。背伸びして取ろうとしたら、やたらと大きな音の屁が出ちゃったんだよ。面白エピソードだろ?稀にあるあるエピソードだろ?」
「ねぇよ!!稀とあるあるくっ付けちゃう事態が、まずねぇよ!」
「で、恥ずかしくなって走って図書館を出て来た時にぶつかったのが、ウサギの着ぐるみを着た母さんだったんだよ。そんな大切な思い出が詰まった物なんだよ。この動物図鑑はな。」
「持って来ちゃったよ!?どさくさ紛れに持って来ちゃったよ!?」
「持って来ちゃった。テヘッ。」
「いや、返しに行くチャンス何万回も合ったでしょ!てか、核心ついてもいい?」
「何だ?」
「変態じゃん!プライベートでパンダとウサギの着ぐるみって、2人とも変態じゃん!」
「変態じゃない!大変態だ!!」
「娘に何を堂々と宣言してんのよ!」
「だからな。そんな大変態同士から生まれたお前は、トリプル大変態で、大変態の中のサラブレッドなんだよ!!」
「いらねぇ!そんな称号いらねぇ!」
「はい。馬の着ぐるみ。」
「いらねぇ!ぜってぇいらねぇ!」
「明日の墓参りには、それを着て行きなさい。」
「馬の着ぐるみじゃねぇよ!サラブレッド=馬って安易な発想で用意しないでよ!行かねぇ!ぜってぇ墓参り行かねぇ!」
「ゴリラー!」
「ゴリラー!っじゃねぇよ!」
「カピバラー!」
「カピバラー!っじゃねぇよ!」
「チョモランマー!」
「もう動物でもねぇじゃん!」
「ご飯おかわりー!」
「自分でやれ!」
「暑いー!」
「脱げーっ!!」
「ゴリラー!」
「なら、ゴリラ着ろーっ!」

第百四十二話
「墓参りの前に図書館へ」

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2009年3月11日 (水)

「第百四十三話」

「えっ!?」
「えっ!?」
それはいつもの終わりのような始まり。いつも突然に始まり、いつも突然に終わる。運転手は、理由なんてそもそもどこにもまったくもってない反抗を繰り返すカウボーイ。その横には、そんな彼をいつも困らせる小悪魔。乗るは、ピンクのキャデラック。走るは、延々と真っ直ぐな名もなきルート。カーステレオから流れるは、絶妙にリズミカルで軽快な音楽。バックミラーには、白いドリームキャッチャー。
「したの?」
「してないだろ?」
「じゃあ、今の『えっ!?』は、いったいなに?なになになに!」
「いきなり変な事を言い出すから、びっくりした『えっ!?』だろ?だから、なになに攻撃は、やめてくれ。」
8ビートな二人のいつものケンカ。カウボーイでプレイボーイな彼の浮気を疑う小悪魔で少しどこかがやけにブッ飛んでる彼女。
「疑わし?」
「してないもんをしてないって言ってるだけだろ!俺にいったい、どうしろってんだ?」
「私だけを愛して欲しいのよ!」
「お前だけを愛してるよ!」
「ウソ!」
「ウソじゃないだろ?」
「なら、私の目を見て言ってちょうだいよ!」
「おいおい?運転中だぞ?」
「じゃあいい!ここで降ろして!」
「ちょっと待てって。」
「いいから降ろして!」
「おい。」
「いいわ!止めないなら、飛び降りるまでよ!」
「・・・・・・・・・分かった。俺の負けだ。」
と、膨れっ面で彼を睨み付ける彼女の方に顔を向ける彼。
「ほら、俺の目を見なよ。ハニー。」
「何よ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「俺は、お前だけを愛してる。」
「本当に?」
「本当さ。」
「神に誓って?」
「神に誓って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
見つめ合う二人。徐々に近付く二人の顔と顔。更に近付く二人の唇と唇。さあ、キスだ。ここでキスだ。二人の愛を確かめ合うキスだ。なぜなら、二人の物語の各章のクライマックスはいつもキスで締め括られると決まっているからだ。そう、それだけは今までもこれからも変わる事のない二人の世界。ただ、彼女が目を閉じる前に、そう、視界に何かが飛び込んで来た事により、キスはお預けになってしまう。
「前見てっ!!」
「えっ!?」
前を走るは、普段はコンボイな一台の大型トラック。二人は、二人の世界に入り込み過ぎて、いつの間にか追突寸前の距離まで、キャデラックと大型トラックの方も近付いていたのに気付いていなかった。
「スポン!」
取れるは、ハンドル。
「ハンドル取れた!」
「取れないでしょ!普通、ハンドルは!何で取れんのよ!ブレーキ!早くブレーキ踏んで!」
「パカパカパカ!」
こんな時、もちろん利かないは、ブレーキ。
「さっきから踏んでるよ!!」
「ぶつかる!!」
「ドンッ!」
激しく揺れるバックミラーの白いドリームキャッチャー。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫だけど。」
トレーラー部分に追突したキャデラック。キャデラックの追突に気付いた大型トラックの運転手。しばらく二台は、大型トラックの速度で走り続け、やがて大型トラックの運転手は、ゆっくりブレーキを踏み、二台は同時に止まる。
「なーにやってやがんだ馬鹿野郎!!」
怒鳴りながら大型トラックを降りて来たは、くわえタバコにヒゲモジャ、年季の入ったサングラスに年季の入ったお気に入りのチームのボロボロな野球帽、汚いタンクトップからムキムキの腕を出し、オーバーオールに身を包んだトラック野郎。
「何なのよまったく!何やってんのよ!」
「おいおい?俺か?原因は俺か?」
「そうよ!あなたの車でしょ?このふざけた車!ああ、もう!付いてないわ!今日は本当に付いてない!こんなことなら、モールでショッピングしてれば良かったわよ!」
「そりゃないだろ?ドライブに行きたいって言ったのは、お前だろ?」
「ハンドルが取れない車でだったら喜んで行くわよ!」
「取れないんだよ!いつもはな!こんなの初めてだろ?」
「ええ!初めてよ!でも、どうしてそれが今なのよ!どうせだったら他の女と乗ってる時に取ればよかったのよ!」
「おいおいおい、またかよ。だから、この車にはお前以外の女は乗せた事ないって言ってるだろ!」
「疑わし?」
「おいおいおい、いい加減にしてくれよ。」
「こりゃ、やぶさかじゃねぇな。」
トラック野郎が見た光景は、ボンネットから煙が出てるキャデラックの運転席で、車体から外れたハンドルを持つカウボーイと、ぶちギレた小悪魔との8ビートな口喧嘩だった。
「若いもんが何を下らない事でケンカしてやがんだ?」
「下らないですって?オジサン!これは重大な事なの!この人が他の女とイチャついてるかどうかの重要な局面なの!そうよ!きっとその事実を明らかにする為に起きたこれは事故なのよ!」
「何だって!?そうすると、俺様はそんな下らないどうでもいい事故に巻き込まれちまったってのか?」
「俺は、彼女だけを愛してるんだ!信じてくれ!俺は、彼女との愛の為だけに生きてるんだ!神に誓って言える!本当だ!」
「何で俺様に訴える?それとも俺様が神様にでも見えたか?こりゃ、フルスロットルで、やぶさかじゃねぇな。」
「悪夢だわ!」
「それは俺のセリフだろ?」
「勘違いしてもらっちゃ困るぞ?お二人さん?一番のやぶさかじゃねぇ悪夢を見させられてんのは、この俺様なんだぞ?」
「いいわ!もう、今日でお別れね!」
「ああ、分かったよ!俺達の愛も今日でおしまいだ!!」
「こりゃ、とことんやぶさかじゃねぇな。果てしなくやぶさかじゃねぇな。待て待て、俺様のトラックに追突して、それが原因で若い二人が別れちまうなんて、寝付きも寝覚めも悪くて、やぶさかじゃねぇや!」
「そんなの私が知った事じゃないわよ!」
「弁償はする!だから少し黙っててくれ!」
「はあ、一番付いてなくて、一番悪夢で、一番やぶさかじゃねぇのは、俺様かよ。オーケーオーケー!なら、こうしようじゃねぇか!見た感じ、俺様のトラックの方は、大した傷じゃねぇ!あんたら二人がお互いの愛を改めて確かめ合うってんなら、修理代なんていらねぇ!」
「愛を?」
「確かめ合う?」
「おうよ!」
「簡単に言ってくれちゃうわね!」
「俺達にいったいどうしろって?」
「キッスさ!」
「えっ!?」
「えっ!?」
「互いに愛を確かめ合うには、キッスと相場は決まってんじゃねぇか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ほら、黙ってねぇで!さっさとキッスで仲直りしちまえよ!それとも何か?本当にここで別れちまうってのか?どうなんだ、おい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
彼女の方に顔を向ける彼。彼のに顔を向ける彼女。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「俺は、俺はお前だけを愛してる。」
「本当に?」
「本当さ。」
「このオジサンに誓って?」
「このオジサンに誓って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
見つめ合う二人。徐々に近付く二人の顔と顔。更に近付く二人の唇と唇。さあ、キスだ。ここでキスだ。二人の愛を確かめ合うキスだ。そう、なぜなら二人の物語の各章のクライマックスはいつもキスで締め括られると決まっているからだ。そして、それだけは今までもこれからも変わる事のない二人の世界。もう、邪魔するものは何もない。
「やれやれ、まったくやぶさかじゃねぇな。」
キスをする二人を残し去って行くは、トラック野郎。乗るは、大型トラック。エンジンをかけ、タバコを灰皿で揉み消し、くわえるは、新たなタバコ。走り出すは、延々と真っ直ぐな名もなきルート。火をつけるは、女性の裸を型どったライター。小さくなるは、サイドミラーに映る次々と部品が外れて大破していくキャデラック。それを気にする事なく、いつまでもキスを続ける吐き出すタバコの煙で作られたハート型の煙の中のカウボーイと小悪魔の愛に満ち溢れた姿。そして、カーステレオから流れるは、絶妙にリズミカルで軽快な音楽。

第百四十三話
「joy to the world」

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2009年3月18日 (水)

「第百四十四話」

「あっんまー!!なにこれ!?なんでこんなに甘い訳?ええっ??ちょっとおかしくない?だって・・・・・・あっんまー!!」
「どうした?」
「アナタ、丁度いい所に来てくれたわ!」
「ん?」
「これなんだけど。」
「これがどうしたんだ?」
「尋常じゃないくらい甘いのよ。」
「これが?」
「それが!」
「嘘だろ?」
「嘘じゃないわよ。あっんまー!!ってくらい甘いんだから!」
「お前、あっんまー!!ってくらい甘かったら、穏便じゃないぞ?」
「だから、尋常じゃないって言ってるじゃない!」
「はあ!?」
「ああ!?」
「いいか?例えばこれがな?」
「いや、例え話とかどうでもいいから!一口いっちゃってよ!」
「お前、俺から例え話とるなよな!俺から例え話とってなんになる?例え話あっての俺だろ!例え話があったからこそ!俺達は、こうして穏便な夫婦生活を送ってるんだろう!」
「例えそうだとしても、今ワタシはアナタにすぐこの尋常じゃないくらいの甘さを体感して欲しいのよ。例え話はそれからでもいいじゃない。ねっ?例え話は逃げやしないわよ。」
「はあ!?」
「ああ!?」
「なら、甘さは逃げんのか?って話だぞ?」
「逃げるかどうかまでは分からないわ!でも、アナタ知ってる?地球上で一番速い乗り物の燃料には、甘さが使われてるのよ?分かる?この意味!甘さは、逃げやしないかもしれない!けど、速いのよ!甘さは物凄く速いの!今、ここで甘さに逃げられでもしたら、もう二度と私達は、甘さに追い付く事なんて出来ないのよ!」
「はあ!?」
「ああ!?」
「分かったよ。とにかく飲めばいいんだろ?。これが甘い訳ないじゃ・・・あっんまー!!」
「ほら!あっんまー!!でしょ!」
「あっんまー!!だ!なんだこれ!?なんでこんなに甘いんだ!?」
「でしょでしょ!甘いのよ!なんでかよく分からないけど、とにかく尋常じゃないくらい甘い訳よ!」
「穏便じゃないくらい甘いな!」
「ああ!?」
「はあ!?」
「まあ、とにかく甘さを体感してもらえて良かったわ。」
「ちょっと待て!」
「どうしたの?」
「いやなに、単純な話さ。極々単純で、在り来たりな話だよ。これ、単純に砂糖を入れただけなんじゃないのか?しかも、この穏便じゃないくらいの甘さ、穏便じゃない量の砂糖が入ってるんじゃないのか?」
「ちょっと待ってよ!ワタシ?ワタシを疑ってる訳?」
「まあ、疑ってないと言ったら、嘘になるかな。」
「ちょっと考えてみてよ!尋常じゃないくらいの甘さになる程の尋常じゃないくらいの量の砂糖を入れてる事に、ワタシは最後まで気付かなかったとでも言う訳?そんな人いる?砂糖でいったら一袋や二袋の騒ぎじゃないのよ?数十よ!数十!砂糖を数十袋使い切るまで、ワタシはワタシが砂糖を入れてる事に気付かなかった訳?有り得ないわ!そんな尋常じゃない事!もっと言えば!なんでワタシは砂糖なんか入れようと思った訳?」
「まあ、言われてみれば確かにそうだな。」
「それに!」
「ん?」
「今この家には、砂糖はないわ!」
「なんだって!?」
「いいえ。今だけじゃないわ!この家に砂糖があった事なんて一度もないのよ!」
「そんな馬鹿な!?家に砂糖が無かっただって!?だったら、俺が今までこの家で体感してきた!あの甘さやあの甘さ、ましてやあの甘さは、いったいなんだったって言うんだ!」
「ああ!?」
「はあ!?」
「とにかく!そんな過去を振り返ってる場合じゃない訳よ!それに、尋常じゃないくらい甘い現実は、なにも変わらないのよ!それはもう!疑いようのない真実なのよ!」
「確かに疑いようのない事実かもしれない。」
「ああ!?」
「はあ!?」
「とにかく、目の前には、疑いようなんてない現実があるのよ!」
「そんな疑いようのない現在がここに存在してるとしてだ!」
「ああ!?」
「はあ!?」
「としてなによ!」
「別にいいじゃないか。穏便じゃないくらい甘くたって、いいじゃないか。捨てれば済む事だろ?」
「ああ!?」
「はあ!?」
「ええ、そうよ!捨てればキレイさっぱり無かった事になって、私達は元の生活に戻れるわ!こんな事があったのなんて忘れてしまうぐらいの時が経って行くかもしれないわ!でも本当にそれでいい訳?そんな簡単に、その尋常じゃないくらいの甘さを忘却していい訳?だってそうでしょ?もしもよ?もしもまた、ある日突然、その尋常じゃないくらいの甘さがやって来たらどう?私達はきっと後悔してこう言うわ。なんであの時、私達は甘さを忘れる事を選んだのだろう。って、そしてきっと、こうも言うわ。なぜ、もっとあの時、甘さと真剣に向き合う事を私達は恐れたのだろう。と。」
「はあ!?」
「ああ!?」
「じゃあ、いったいどうしろってんだよ!この穏便じゃないくらいの甘さを!甘さの専門機関にでも頼んで!甘さの原因を究明してもらえばいいのか?甘さの真相を突き止めてもらえばいいってのか?甘さに隠された謎を!表沙汰にでもすればいいのか!白日の下に曝せばいいのか!そんな事して、いったいなんになる!そんな事したって、ただ、俺達が虚しくなるだけだろうが・・・・・・・・・。」
「ああ!?」
「はあ!?」
「どうしてそういつもいつも、マイナス思考なのよ!甘さに逃げられたとしても、甘さから逃げるような事しないでよ!」
「はあ!?」
「ああ!?」
「とにかく、今は言い争ってる場合じゃない。」
「そうね。そうだったわね。いろいろ酷い事を言っちゃって、ごめんなさい。」
「それはお互い様さ。俺の方こそ、悪かったよ。ごめん。」
「ああ!?」
「はあ!?」
「とにかく、一度冷静になりましょ。」
「そうだな。」
「でも、いったいどうしたらいい訳?」
「・・・・・・・・・冷静に考えてみれば、捨てれば済むって問題でもなさそうだ。」
「そうよね。」
「よし、とりあえず局に電話だ。」
「そうね。でも、万が一それでもどうにかならなかったら?」
「それでもどうにかならないようなら、やむを得ない!引っ越しだ!」
「そんな!?」
「当たり前だろ!こんな状態じゃ、風呂に入る気にもならないし、ましてや危なっかしくて歯磨きすらままならないんだぞ?」
「そうよね。そうするしかない訳よね。」

第百四十四話
「水道水」

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2009年3月25日 (水)

「第百四十五話」

「僕は、死ぬんですか?」
「申し上げにくいのですが、死にます。」
「ガビーン!」
「余命7日です。」
「もいっちょ、ガビーン!って、余命7日!?余命7日って、ガビーン!とか、ふざけてる場合じゃないじゃないですか!」
「ふざけていたのですか?私は、てっきり本当にガビーン!と驚く人がいるのだと、家に帰ったら早速、妻に話そうかと思っていましたよ。」
「ふざけてるに決まってるでしょ!何が、ガビーン!ですか!」
「いや、それは貴方が・・・・・・。まあでも、この状況下で、よくふざけられましたねと、ある意味感心しますよ。」
「感心してる場合ですか!僕の余命は、7日なんですよ!まあ、余命が7日だって聞くまでは、それとなく根拠のない余裕がありましたけど・・・・・・・・・。」
「それは別名。パニックと言うのでは?まあ、落ち着いて聞いて下さい。余命7日と言いましたが、実は余命7日ではないのです。いや、実際に余命7日と言うのは本当なのですが、余命7日ではないのです。」
「はい???ハテナが3つですよ?先生が落ち着いた方がいいんじゃないですか?つまりあれですか?手術したり、薬を投与したりすれば完治するって事ですか?」
「まあ、医学的に言えば、そんな感じに似ています。」
「医学的に言えば?ここは病院ですよね?どゆこと???」
「手術や薬では、この病気を治す事は出来ません。いや、この病気を完治させる事は、現代の医学では不可能なのです。」
「はあ???」
「まあ、はあ???でしょうね。はてなが3つでしょうね。分かります。その、はあ???な気持ち。最初にこの病気についての発表があった時、私も、はあ???でしたから。」
「何が言いたいんですか?」
「病気について、順を追って説明していきましょう。まず、この病気は貴方の職業と深い繋がりがあります。」
「僕の職業?物書きですか?」
「ええ、しかし全ての物書きの方がなってしまう病気ではありません。この病気になるのは、貴方のような小説を書いている方。いわゆる短編小説家の方だけなのです。」
「いや、全く意味が分からないんですけども?」
「原因は分かりません。ただ、一説によると、短編小説家は、他の小説家に比べ、新作を書くペースが極端に早い為だと言われています。」
「短編小説ですからね。そりゃ、新作を次から次へと生み出し書き上げていますよ。」
「新作病。そう我々はこの病気を呼んでいます。」
「新作病!?」
「短編小説家が、次から次へと新作を生み出そうとした結果。脳に思わぬ負担をかける事になってしまったものだと考えられます。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!なら、短編小説家はみんな新作病になるって訳なんですか?」
「いえ、違います。発症するのは、新作を書くペースが一週間以内の短編小説家の方です。発症したら最後、先程も言いましたが、現代の医学では、どうしようもありません。」
「ならやっぱり!僕の余命が7日って事には、何の変わりもないじゃないですか!」
「ええ、7日です。そこに変わりはありません。ただ!」
「ただ?」
「余命7日事態を引き延ばす事は可能です!」
「おいおいおい!余命を引き延ばすだって!?なにそれ???」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・えっ!?いや、馬鹿な!?そんな事が現実に有り得るはずがない!?冗談でしょ?」
「冗談ではありません。その通りです。今、貴方がお考えになった事は、おそらく正解です。」
「書き続けろって事・・・・・・です・・・・・・か?」
「そうです!余命7日以内に新作を書き上げれば、余命7日事態が更新されるのです!」
「そんな無限ループ的な時限爆弾的な!?」
「爆発させなければいいだけの事ですよ!いいですか?これが現実なのです!でも、考えようによっては、余命7日など、あってないようなものではありませんか!そうでしょ?」
「どうでしょ?なくは、ないでしょ。だって、あるんだから!」
「なくはないです!ただ、新作を書き続ければ死にません!」
「まあ、そうなんでしょうけども。」
「貴方なら、それが出来る!」
「随分と、簡単に言ってくれちゃいますね。」
「違いますか?それとも私は、貴方の事を買い被り過ぎたのでしょうか?」
「さあ?まあでも、病気の正体が分かって少しだけ、安心しました。」
「何のお力添えにもなれなくて、申し訳ありません。」
「いや、十分に先生は力になってくれましたよ。少なくとも、今回の余命7日は、更新されましたからね。」

第百四十五話
「余命更新完了」

「さすが短編小説家さんだ!新作病の事を新作の短編小説にしてしまうだなんて!素晴らしい!貴方なら、新作病を乗り越えられるかもしれない!」
「いやいや、それほどの者です!じゃあ、僕はこれで、また新作を書き上げなければなりませんからね。」
「そうでしたね。」
「お世話になりました。」
「あっ!」
「まだ何か?」
「もう1つの病気の方の余命の告知がまだ・・・・・・・・・。」
「ガビーン!」

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