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2009年3月11日 (水)

「第百四十三話」

「えっ!?」
「えっ!?」
それはいつもの終わりのような始まり。いつも突然に始まり、いつも突然に終わる。運転手は、理由なんてそもそもどこにもまったくもってない反抗を繰り返すカウボーイ。その横には、そんな彼をいつも困らせる小悪魔。乗るは、ピンクのキャデラック。走るは、延々と真っ直ぐな名もなきルート。カーステレオから流れるは、絶妙にリズミカルで軽快な音楽。バックミラーには、白いドリームキャッチャー。
「したの?」
「してないだろ?」
「じゃあ、今の『えっ!?』は、いったいなに?なになになに!」
「いきなり変な事を言い出すから、びっくりした『えっ!?』だろ?だから、なになに攻撃は、やめてくれ。」
8ビートな二人のいつものケンカ。カウボーイでプレイボーイな彼の浮気を疑う小悪魔で少しどこかがやけにブッ飛んでる彼女。
「疑わし?」
「してないもんをしてないって言ってるだけだろ!俺にいったい、どうしろってんだ?」
「私だけを愛して欲しいのよ!」
「お前だけを愛してるよ!」
「ウソ!」
「ウソじゃないだろ?」
「なら、私の目を見て言ってちょうだいよ!」
「おいおい?運転中だぞ?」
「じゃあいい!ここで降ろして!」
「ちょっと待てって。」
「いいから降ろして!」
「おい。」
「いいわ!止めないなら、飛び降りるまでよ!」
「・・・・・・・・・分かった。俺の負けだ。」
と、膨れっ面で彼を睨み付ける彼女の方に顔を向ける彼。
「ほら、俺の目を見なよ。ハニー。」
「何よ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「俺は、お前だけを愛してる。」
「本当に?」
「本当さ。」
「神に誓って?」
「神に誓って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
見つめ合う二人。徐々に近付く二人の顔と顔。更に近付く二人の唇と唇。さあ、キスだ。ここでキスだ。二人の愛を確かめ合うキスだ。なぜなら、二人の物語の各章のクライマックスはいつもキスで締め括られると決まっているからだ。そう、それだけは今までもこれからも変わる事のない二人の世界。ただ、彼女が目を閉じる前に、そう、視界に何かが飛び込んで来た事により、キスはお預けになってしまう。
「前見てっ!!」
「えっ!?」
前を走るは、普段はコンボイな一台の大型トラック。二人は、二人の世界に入り込み過ぎて、いつの間にか追突寸前の距離まで、キャデラックと大型トラックの方も近付いていたのに気付いていなかった。
「スポン!」
取れるは、ハンドル。
「ハンドル取れた!」
「取れないでしょ!普通、ハンドルは!何で取れんのよ!ブレーキ!早くブレーキ踏んで!」
「パカパカパカ!」
こんな時、もちろん利かないは、ブレーキ。
「さっきから踏んでるよ!!」
「ぶつかる!!」
「ドンッ!」
激しく揺れるバックミラーの白いドリームキャッチャー。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫だけど。」
トレーラー部分に追突したキャデラック。キャデラックの追突に気付いた大型トラックの運転手。しばらく二台は、大型トラックの速度で走り続け、やがて大型トラックの運転手は、ゆっくりブレーキを踏み、二台は同時に止まる。
「なーにやってやがんだ馬鹿野郎!!」
怒鳴りながら大型トラックを降りて来たは、くわえタバコにヒゲモジャ、年季の入ったサングラスに年季の入ったお気に入りのチームのボロボロな野球帽、汚いタンクトップからムキムキの腕を出し、オーバーオールに身を包んだトラック野郎。
「何なのよまったく!何やってんのよ!」
「おいおい?俺か?原因は俺か?」
「そうよ!あなたの車でしょ?このふざけた車!ああ、もう!付いてないわ!今日は本当に付いてない!こんなことなら、モールでショッピングしてれば良かったわよ!」
「そりゃないだろ?ドライブに行きたいって言ったのは、お前だろ?」
「ハンドルが取れない車でだったら喜んで行くわよ!」
「取れないんだよ!いつもはな!こんなの初めてだろ?」
「ええ!初めてよ!でも、どうしてそれが今なのよ!どうせだったら他の女と乗ってる時に取ればよかったのよ!」
「おいおいおい、またかよ。だから、この車にはお前以外の女は乗せた事ないって言ってるだろ!」
「疑わし?」
「おいおいおい、いい加減にしてくれよ。」
「こりゃ、やぶさかじゃねぇな。」
トラック野郎が見た光景は、ボンネットから煙が出てるキャデラックの運転席で、車体から外れたハンドルを持つカウボーイと、ぶちギレた小悪魔との8ビートな口喧嘩だった。
「若いもんが何を下らない事でケンカしてやがんだ?」
「下らないですって?オジサン!これは重大な事なの!この人が他の女とイチャついてるかどうかの重要な局面なの!そうよ!きっとその事実を明らかにする為に起きたこれは事故なのよ!」
「何だって!?そうすると、俺様はそんな下らないどうでもいい事故に巻き込まれちまったってのか?」
「俺は、彼女だけを愛してるんだ!信じてくれ!俺は、彼女との愛の為だけに生きてるんだ!神に誓って言える!本当だ!」
「何で俺様に訴える?それとも俺様が神様にでも見えたか?こりゃ、フルスロットルで、やぶさかじゃねぇな。」
「悪夢だわ!」
「それは俺のセリフだろ?」
「勘違いしてもらっちゃ困るぞ?お二人さん?一番のやぶさかじゃねぇ悪夢を見させられてんのは、この俺様なんだぞ?」
「いいわ!もう、今日でお別れね!」
「ああ、分かったよ!俺達の愛も今日でおしまいだ!!」
「こりゃ、とことんやぶさかじゃねぇな。果てしなくやぶさかじゃねぇな。待て待て、俺様のトラックに追突して、それが原因で若い二人が別れちまうなんて、寝付きも寝覚めも悪くて、やぶさかじゃねぇや!」
「そんなの私が知った事じゃないわよ!」
「弁償はする!だから少し黙っててくれ!」
「はあ、一番付いてなくて、一番悪夢で、一番やぶさかじゃねぇのは、俺様かよ。オーケーオーケー!なら、こうしようじゃねぇか!見た感じ、俺様のトラックの方は、大した傷じゃねぇ!あんたら二人がお互いの愛を改めて確かめ合うってんなら、修理代なんていらねぇ!」
「愛を?」
「確かめ合う?」
「おうよ!」
「簡単に言ってくれちゃうわね!」
「俺達にいったいどうしろって?」
「キッスさ!」
「えっ!?」
「えっ!?」
「互いに愛を確かめ合うには、キッスと相場は決まってんじゃねぇか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ほら、黙ってねぇで!さっさとキッスで仲直りしちまえよ!それとも何か?本当にここで別れちまうってのか?どうなんだ、おい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
彼女の方に顔を向ける彼。彼のに顔を向ける彼女。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「俺は、俺はお前だけを愛してる。」
「本当に?」
「本当さ。」
「このオジサンに誓って?」
「このオジサンに誓って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
見つめ合う二人。徐々に近付く二人の顔と顔。更に近付く二人の唇と唇。さあ、キスだ。ここでキスだ。二人の愛を確かめ合うキスだ。そう、なぜなら二人の物語の各章のクライマックスはいつもキスで締め括られると決まっているからだ。そして、それだけは今までもこれからも変わる事のない二人の世界。もう、邪魔するものは何もない。
「やれやれ、まったくやぶさかじゃねぇな。」
キスをする二人を残し去って行くは、トラック野郎。乗るは、大型トラック。エンジンをかけ、タバコを灰皿で揉み消し、くわえるは、新たなタバコ。走り出すは、延々と真っ直ぐな名もなきルート。火をつけるは、女性の裸を型どったライター。小さくなるは、サイドミラーに映る次々と部品が外れて大破していくキャデラック。それを気にする事なく、いつまでもキスを続ける吐き出すタバコの煙で作られたハート型の煙の中のカウボーイと小悪魔の愛に満ち溢れた姿。そして、カーステレオから流れるは、絶妙にリズミカルで軽快な音楽。

第百四十三話
「joy to the world」

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