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2009年5月 6日 (水)

「第百五十一話」

 何がビックリしたって、地球がチョコレートで出来てたって真実だ。

第百五十一話
「チョコレート・アース」

まあ、そう言われてみれば言われたで、思い当たる節は、いろいろとある。毎朝、目覚めた時、何と無くほのかにチョコレートの甘い香りが何処からか漂って来るし、世の中には茶色いものが溢れかえっちゃってるし、チョコレートをプレゼントする日が設けられてるし、そもそもチョコレートがこの地球上に存在してるって事が、地球がチョコレートで出来てるってのの何よりもの証拠だ。
「ワン!」
紹介が遅れたけど、暖炉の前でロッキングチェアに揺られながら、本を読んでる僕の足元にいるこのコーギーは、名前をギーコーって言う僕の愛犬だ。それに、何を隠そう今、僕が読んでるこの本を拾って来た張本犬だ。
「地球は、チョコレートで出来ている。ギーコー・・・・・・キミがこんなタイトルの本を口にくわえて家に帰って来た時は、遂にパワーハラスメントかと思ったけど、読んでみるとなかなかどうして、実に興味深い本だったよ。ありがとう。」
感謝の念と労いの意味を込めてギーコーの頭を撫でてやると、相も変わらず恐ろしく尖った犬歯で、ギーコーは僕の左手に噛み付いた。
「ウゥゥゥゥゥゥ!!」
一見、本気で噛み付いてるように見えるけど、実際は本気以上で噛み付いてる。クレーター状になった僕の手を見れば、それは一目瞭然だ。
「特に興味深い章は、ここだよ。」
そう言って僕が、ダラダラと理解し難い言葉を並べて専門用語満載の本題に入る前の説明書き的ページを左手だけで一生懸命必死になってめくった真ん中のページ。そこには、本当の地球が直径1センチぐらいのチョコレートの球体だって書かれてた。
「解るかい?つまり、僕らが地球だと思ってる地球は、実はチョコレートの表面をコーティングしてる単なる元素の集合体に過ぎないって事なんだよ。実際の地球は、こんなもんさ。」
「ウゥゥゥゥゥゥ!!」
一度、噛み付いたら最短でも3日は離さないギーコーの飼い犬とは思えないほどの血走った目を見ながら、僕は誰も行き着く事のなかった真実を、噛み付かれてる右手の方で地球を表現しながら語った。余談だけど、人の慣れる、って能力は偉大で、不思議と僕は右手に痛みを感じる事はなかった。
「それから、次。宇宙の匂いを嗅いだことがあるだろうか?」
この本を書いた誰かさんのこの問い掛けを初めて目にした時の衝撃足るや、僕がペットショップで初めてゲージ越しにギーコーと出会った時の感覚に似ていた。店員のお姉さんに頼んで、赤ちゃんのギーコーを抱っこさせてもらい、そのまま抱き抱えて家まで帰って来たスイートで、左手だけで財布からお金を支払う難しさを痛感させられたビター、な思い出。
「人生で二度もこんな衝撃に出会うとは、考えてもみなかったよ。」
宇宙の匂いを嗅いだことがあるか?この質問に解答出来る人間は、おそらく存在しない。真実とは、時に恐ろしく不条理に守られてるもんだ。
「宇宙が黒いのは、何故か?衛星や帰還したロケットがチョコレートまみれなのは、何故か?」
作者から投げ掛けられる次から次への問い掛けが、僕の仮説を真実へと導いて行く。もし、宇宙空間に空気が存在し、もし、ヘルメットを取る事が可能ならば、誰もが声を揃えて、こう言うはずだ。
「チョコレートの香りがする。」
子供の頃、チョコレートの雨がたまに降る事への疑問を抱いて過ごしてたけど、それは大人になるにつれ、次第にそのあまりにも当たり前な日常風景を疑問と思うバカばかしさに気付くと、疑問にすら思わなくなってた。そう、それはギーコーが、なぜ僕の手に噛み付くのかを考えなくなった時とよく似てる。宇宙自体が既にチョコレートなら、地球がチョコレートで出来てる事へ不信感を抱く必要性がない。宇宙の匂いを証明出来る人間が存在しないって言ったけど、もしかしたら死の直前に作者は、実感したのかもしれない。まえがき部分に書かれてた作者の言葉。
「この本が売り出された時には既に、私は宇宙の塵となっているのだろう。」
それは大いなる挑戦で、自己満足の極みだ。
「ただ、ギーコー?僕は、思うんだよ。地球がチョコレートで出来てるからって、それがどうしたんだ。ってね?」
「ウゥゥゥゥゥゥ!!」
「だってそうだろ?例え地球がチョコレートで出来てるって驚きが頭を駆け巡っても、僕らの友情は何一つ変わる事がないんだからさ。」
そう、例えば今まで信じられて来た言い伝えや歴史から、衝撃的で魅惑的な真実が突如としてある日、掘り起こされたとしても、僕の現実は何一つ変わる事はない。真実と現実は、似ているようでどこか平行線を辿ってるんだ。だって、僕らは既に真実の中の現実で生きて来たんだから、改めて真実を語られても、驚きや衝撃があったとしても、そこに変化はない。ただ、そうなんだって思うだけ、ただ、その発見を称えるだけ、ただ、無謀な挑戦を羨ましがるだけ、だ。
「ビチャビチャビチャ!」
「天気予報通りだ。」
降り出して来た窓に吹き付けるチョコレートの雨を見ながら、僕はその本を暖炉の中へ投げ込んだ。明日はきっと、チョコレートクリーニングの仕事の注文で大忙しだなんて現実を、頭の中で駆け巡らせながら。
「なっ?」
「ウゥゥゥゥゥゥ!!」

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