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2009年5月20日 (水)

「第百五十三話」

登場人物

グラハム捜査官
ヴェネッサ捜査官
ジョニー
ギーコー
ディスコ

9:41AM
『カフェ・チョコレート・ディスコ』

「なーるほどのぅ。」
10人ぐらい入れば満員になってしまう程の狭い店内。その狭い店内の狭い通路を一番奥のテーブル席まで行くと、そこには両手で新聞を広げ、熱心に記事を読んでいる五十代後半の男がいた。テーブルの上には、3分の1程度減ったチョコレートドリンクが置かれていた。
「なるほどじゃないでしょ!」
「ん?遅かったな。」
新聞を読みながら、男はその先に立つ二十代後半の女性に言った。
「遅かった?グラハム?私は、ちゃーんと定時にオフィスで仕事を始めてたのよ?そこへ、暢気にカフェでお茶してるジジィから電話で呼び出されたわけ!」
「まあまあ、とにかく座ったらどうだ、ヴェネッサ。ほら、お前さんもチョコレートが好きだろ?だからわざわざ、わしがご招待してやったんじゃないか。マスター!こちらのお嬢さんにも同じ物を!」
相も変わらずに新聞を読みながらのグラハムに対し、マスターはカウンターの中から深々とお辞儀をすると、チョコレートドリンクを作り始めた。
「何事も反発し合うわしらの唯一の共通点。それは、チョコレート好きってとこだけだ。ここのチョコレートドリンクは、絶品だぞ?なんせメニューは、それしかないんだからな。チョコレート・ホリックには堪らんぞ?ほれ、いい加減座ったらどうだ?」
「チョコレート中毒?私の場合は、貴方みたいにチョコレートならなんでもいいってわけじゃないの。チョコレートは、私にとってオシャレなのよ。」
そう言いながら、ヴェネッサは椅子に座った。
「その発想が既に、チョコレート・ホリックなんだよ。がっはっはっ。」
「はあ、やれやれね。で?いい加減、タブロイド紙を読むのやめて、何なの?今度は?また都会のオフィスビルに幽霊でも出たわけ?それとも、生き返る死体?睡眠殺人?タイムトラベル?」
テーブルの上に両肘を付き、両手に顎を乗せ、天井を見上げながら、ヴェネッサはつまらなそうに溜め息混じりで言った。
「そんなもんじゃないぞ?これを見てみろ!」
グラハムは、読んでいた記事をヴェネッサの方へ向けた。
「北でUFO墜落。軍は宇宙人を捕獲。へぇ~、凄く楽しそうー。」
「違う!その下の小さい記事の方だ!」
「下?チョコレートの雨が降る町?」
「どうだ!わしらにうってつけの事件だろ?」
「事件?これなら、まだ宇宙人の方がましよ。」
「お待たせ致しました。」
呆れ果てたヴェネッサの前に、チョコレートドリンクを置くと、マスターは深々とお辞儀をして、カウンターの方へと戻って行った。
「まあ、とにかくアレだ。それを飲んだら、出発だ!」
「はあ???」

第百五十三話
「チョコレート・ホリック」

1:37PM
『ルート214』

国道を走る一台のクラシックカー。運転席には、グラハム。助手席には、ヴェネッサが乗っていた。
「ねぇ?聞いてもいい?」
「文句以外なら大歓迎だ。」
「これ、いったい何の捜査なの?」
「捜査?んな事、一言でも言ったか?」
「はあ?」
「単なる興味だ。」
「なら、グラハム?貴方は今まで捜査って物をした事がないのね。」
「チョコレートの雨だぞ?わしはな。あの記事を見た時に、ピーンっと来たんだ!」
「子供じゃないのよ?いい、グラハム?気象学的に考えて、チョコレートの雨が降るなんて絶対に有り得ないの!ゴシップ中のゴシップよ!てか、何時間走れば着くのよ!」
「まあ、降ってなきゃないで、バカンスだと思えば楽しいだろ?」
「いつもバカンスじゃない!それで?何時間も掛けて行く田舎町で、どんなバカンスをすればいいわけ?グラハム?長官に怒られる前に帰りましょうよ。今度、私達の課が問」
「おい!ヴェネッサ!!アレを見てみろ!!」
「嘘でしょ!?」
曲がりくねった山道を走るクラシックカーの先には、チョコレートまみれの町並みが広がっていた。

2:02PM
『バレンタインタウン』

「どうだヴェネッサ!ここは本当にチョコレートの雨が降るんだ!」
「ねぇ?これって単に、この町の伝統的な行事か何かじゃないの?ほら、トマトとか爆竹とかのフェスティバルみたいなものなんじゃないの?」
町の入り口で車を止め、二人は車内で話していた。
「かもしれんな。だが、お祭りしては、少し静か過ぎる。それにアレは、ちょっとばかし異様な光景だ。」
そう言ってグラハムが指差す先には、チョコレートにコーティングされていない一軒の青い屋根の家があった。
「まあ、確かに何かはありそうね。」
ヴェネッサの言葉を聞き終わると、グラハムは車のキーを回した。

2:14PM
『青い屋根の家』

「ビィィィィィ!!」
グラハムがチャイムを鳴らすと、中から三十代半ばの細身の男性が現れた。
「ガチャッ!」
「どちら様ですか?」
「わしは、グラハム捜査官、こっちのお嬢さんはヴェネッサ捜査官。」
「事件か何かですか?」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっとばかし、この町について聞きたい事があってな。中に入れてもらってもいいかい?えーっと?」
「ジョニーです。」
「ジョニー。」
「・・・・・・どうぞ。」
ジョニーに案内され、グラハムとヴェネッサは、暖炉のある部屋へとやって来た。グラハムが暖炉の前にあるロッキングチェアの背もたれに手を掛け、軽くソレを揺らしていると、一旦部屋を出ていたジョニーが戻って来た。
「こんな物しかありませんけど、どうぞ。チョコレートドリンクです。」
「おう!悪いな!」
グラハムは、ヴェネッサが座るソファーの横へ座ると、テーブルに置かれたチョコレートドリンクのカップを手に取り一口飲んだ。
「うまい!!」
その言葉を聞いたジョニーは、微笑みながら二人の向かいに座った。すると、チョコレートドリンクに夢中なグラハムに代わって、ヴェネッサが質問を始めた。
「ねぇ?ジョニー?この町は、どうしてチョコレートまみれなわけ?チョコレートのお祭りでもしたの?」
「お祭りじゃありません。チョコレートの雨が降ったんです。」
「じゃあ、どうして貴方の家は、綺麗なの?」
「ああ、それは僕がこの町でチョコレートクリーニングの仕事をしているからですよ。家が綺麗なのは、試作品の防チョコレート剤を使ったからです。」
「防チョコレート剤?」
「チョコレート・ホリックです。僕が調合して作ったんです。」
「チョコレート・ホリック・・・・・・・・・ねぇ?グラハム?」
ヴェネッサは隣に座っているグラハムに、小声で話し始めた。
「やっぱり何だか、この町は変よ。」
それを聞いたグラハムが、今度はジョニーに質問を始めた。
「ジョニー?チョコレートの雨は、どうして降るんだ?」
「お二人は、宇宙の匂いを嗅いだ事がありますか?」
「いや、あいにくそういった機会には、まだ巡り合っとらん。」
「きっと嗅いだら、こう言いますよ?チョコレートの甘い香りがする。ってね。」
「それは何か宗教的な事かしら?」
ヴェネッサは、緑色の大きな瞳を細めながら聞き返した。
「宗教的?違いますよ。」
ジョニーは、二人を嘲笑うかのように少し見下した口調で言った。
「なら、もしかしたら?あの暖炉の中で黒焦げになっとる本が何か関係しとるのかな?」
そう言うとグラハムは、左手に持っていたチョコレートドリンクを飲みながら、右手で暖炉を指差した。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「やれやれ。図星か。で?あの本を書いたディスコってヤツは、いったい何者なんだ?」
「本ですって!えっ!?」
ヴェネッサはソファーから立ち上がり、暖炉へ向かおうとした。しかし、いつの間にか足元に居た物体に気付いた。
「犬?わぁお!コーギーじゃない!ジョニー、貴方コーギー飼ってたの!」
「噛み付くから気を付けて下さい。」
「大丈夫!私、犬には好かれるタイプだから。」
「それも得意のプロファイリングか?」
「違うわ。単に心が綺麗なだけよ。名前は、何て言うの?」
「ギーコーです。」
「ギーコー?」
グラハムが首を少し傾げながら犬の名前を呟いた時、ヨレヨレの背広の内ポケットから、電子音が鳴り響いた。
「ピロピロピロピロ!」
「何て着信音使ってんの?まさか、長官からじゃないわよね?」
「いや、ヴェネッサ、長官からじゃない。」
「携帯を見ないで、どうして長官じゃないって分かるのかしらねぇぇぇぇぇ?」
ヴェネッサは、ギーコーの頭を撫でながら、グラハムに尋ねた。
「着信音だ。」
「ああ、着信音で分けてるってわけね。」
「そしてこの着信音は、ヴェネッサ、お前さんからだ。」
「どう言う事なの!?」
「・・・・・・・・・なるほど、そう言う事か。」
何かを理解したグラハムは、携帯電話ではなく、代わりに拳銃を取り出すと、それをこめかみに当てた。
「グラハム!!何やってるの!?」
「まあ会おう、ヴェネッサ。」
「バン!」

9:41AM
『カフェ・チョコレート・ディスコ』

「なーるほどのぅ。」
「ピロピロピロピロ!」
何かに納得したグラハムは、タブロイド紙をテーブルの上に置き、内ポケットの携帯電話を手に取った。
「まあ、戻って来れたのもこいつのお陰か。ヴェネッサのヤツめ、どうせ下らん遅刻の言い訳だろ。そうだマスター、チョコレートドリンクをもう一杯!」
グラハムの視界の先には、深々とお辞儀をするマスターの姿があった。
「やれやれ。日に二度も拳銃で頭をぶち抜く事になるとはな。のぅ?そこら辺、どう思うよ?ジョニー?」
「バン!」

1:37AM

「ピロピロピロピロ!ピロピロピロピロ!」
「ピッ!」
「こちらゴッホ。」
「ゴッホ?何言ってんの?そんな事より、早く出てよね!ちょっと?聞いてんの?グラハム?」
「聞こえとるよ。あんまり大声を出さんでくれ、頭が少しクラクラしとるんだ。」
「もしかして居眠りしてたわけ?」
「わしが居眠り?難しい哲学的な事を考えとったんだ!」
「あそう。私はまた、チョコレート・ホリックの香りにやられて幻覚の世界へでもバカンスに行ってたのかと思ったわ。」
「馬鹿な事を。」
「まあ、いいわ。で?ギーコーは?」
「ああ、マスターなら、わしの目の前に座っとるよ。」
「そう、逮捕したのね。」
「死体でな。」
「殺されてたの!?」
「いや、自殺だ。おそらく取り引きでトラブったんだろう。ドラッグを大量に投与しての自殺だ。お陰で、店内はチョコレート・ホリックが充満しちまってる。今夜の暴風とカフェのドアの立て付けの悪さがなかったら、今頃わしはチョコレートの町の住民だ。」
「多幻覚系ドラッグ、チョコレート・ホリック。ドラッグが放つチョコレートの香りだけでも、その効果は絶大。でも、温度に弱い。」
「ん?何だ。あんなにこっちの捜査を嫌がってたのに、調べたのか?チョコレート嫌いのお前さんが。」
「まあね。」
「で?ところでジョニーは?」
「病院よ。」
「撃ったのか?」
「まさか!?ジョニー・バレンタイン。彼もドラッグ常習者だったわけ。」
「チョコレート・ホリックか。」
「ええ。おそらく、ゴーストライターとしての生活からのストレスによるものね。家に踏み込んだ時には、もう瀕死の状態だったわ。」
「なら、お前さんも幻覚の中に居たのか!?」
「も?いいえ、リビングの窓ガラスが割れてたお陰で、私の方は頭を銃で二度も撃たずに済んだわ。」
「ふん!」
「ジョニーが死ななかったのもそのせいね。」
「ジョニーか?」
「確かに内側からだったけど、ジョニーには無理ね。まあ、あの部屋を一目見れば、何かがぶつかって偶然に割れたってのが妥当ね。」
「やれやれ、バイヤーとゴーストライターの別々の捜査に、こんな繋がりがあったとはな。ところでヴェネッサ、さっきから聞こえて来る物音は何だ?」
「ああ、事件が私の手から離れたから、家に帰って来て荷物をまとめてるの。」
「荷物?」
「私、明日から休暇をとったから。」
「何だと!?そんな事、聞いとらんぞ!」
「ちゃんと今言ったわ。」
「なっ!?」
「明日のお昼頃には、南の島!」
「南の島?」
「そう、本物のバカンスよ!」
「そいつは、丁度いい!」
「ちょっと?」
「いい話があるんだ!」
「やめてよ?」
「目の前の記事によるとな。」
「グラハム?}
「南の島で人喰いクラゲの目撃情報があるんだ。」
「やめてって!」
「どうだ、ヴェネッサ?休暇ついでに、その人喰いクラゲを・・・ん?ヴェネッサ?・・・おい!・・・切りやがった・・・・・・。」
携帯電話を内ポケットにしまうと、グラハムはテーブルの上に置かれた新聞を広げて、熱心にクラゲの記事を読み始めた。

2:14AM
『カフェ・バレンタインデー』

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