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2009年6月 3日 (水)

「第百五十五話」

 この店は、あまりにも不思議で、さっき私が
「サラダを下さい。」
と、注文すると
「かしこまりました。」
と、かしこまったのだ。あらま?と、思い。私は、ツーステップで立ち去る店員の後ろ姿を白目で見届け、持っていた雑誌を鞄から取り出して、この店の紹介記事を読み返し、改めてこの店の不思議過ぎる不思議さを感じた。
「隊長!」
「どうした!隊長!」
隣のテーブルには、あからさまに隊長丸出しな隊長達が座っていた。
「さっきの作戦会議の事なんだけどな!隊長!」
「あれ、よく分からなかったぞ!隊長!・・・・・・いや、よく分からなかったと言うか、きれいさっぱり分からなかったぞ!」
「隊長もか!」
「えっ!?そう言う隊長もなのか!」
「声が小さかったな!隊長!」
「ああ、声が小さかったぞ!隊長!」
「最前列の隊長席に座ってたのにな!隊長!」
「ああ、手榴弾も爆発しない距離だったぞ!隊長!」
隊長がよく来る店。やはり雑誌の情報は、正しい。なら、なぜ私がサラダを注文したら、こうしてテーブルの上にサラダが置かれるまでに至るのだ?
「ママ!」
「ん?」
「赤ちゃんは、どうして産まれるの?」
向かいのテーブルには、無理難題を問い掛ける少女と大きなお腹の母親が座っていた。
「もうすぐお姉ちゃんになるってのに、公の場でいきなり下ネタかよっ!」
「ママ?下ネタって、何?」
「博士って知ってるでしょ?」
「博士?博士って、3丁目の科学研究所荘の博士?」
「そうよ。でも、世の中にはまだまだ沢山の博士がいるの。」
「???」
「あのね。赤ちゃんって言うのはね。その博士達が作ってくれるの。ママのお腹の中の赤ちゃんも、もちろん博士が7時間にも及ぶ改造手術を施して作ってくれたの。」
「ママ、手術したの?」
「そうよ。でもいい?赤ちゃんだけじゃないの。博士はね。何でもかんでも手当たり次第、作ってくれるの。だから、博士なの。故に、博士なの。」
「博士って、凄いね!」
「勘違いしちゃダメよ。博士が凄いんじゃないの。凄いが博士なの。ここ、肝心よ。むしろ、ここ以外は人生においてゴミみたいなもんだから、捨てちゃいな。」
「ふ~ん。ママ?下ネタって?」
「カァー!カァー!カァー!」
「ママ?」
「さあ、カラスが鳴いたから帰るわよ。」
「カラス?ママがカラスの鳴き真似を全力でやったんでしょ?」
「いい?カラスって言うのは、一人一人の心の中に居るの。だから、カラスなの。故に、カラスなの。それからね。カラスが鳴いたら、如何なる場合でも帰らないとダメなの。それはもう!それは、もう!なの。」
「帰らないと、どうなっちゃうの?」
「下唇が爆発しちゃうのよ。」
「嫌だよー!下唇爆発したくないよー!下唇爆発したら、残された上唇が可哀想だよー!」
「そうね。上唇の為にも急いで帰らないとね。偉いわ。優しいわ。さすが、お姉ちゃんね。」
「えへへ!」
「じゃあ、帰ろうね。」
「うん!」
「あら、奥さん!赤い屋根の家の奥さんじゃない!」
「あんれまあ!」
「何どうしたの?赤い屋根の家の奥さんも、このお店によく来るの?」
「ええ、子供とお買い物の帰りとかにね。赤い屋根の家の奥さんもよく来るの?」
「ママ?」
「そうなの!あら、それにしてもお腹、だいぶ大きくなってきたわね。」
「次の雨の日に産まれるって、背中に大きな刀傷があるお医者が。」
「そう!じゃあ、次の雨の日が楽しみね。」
「ええ!」
「ママ?下唇・・・・・・・・・。」
「お名前は、もう決まってるのかしら?」
「まだなの。何かいい名前ないかしら、赤い屋根の家の奥さん。」
「爆発、ママ?爆発!」
「そうね?男の子?女の子?」
「20歳になるまでは、知らないようにしようって、主人と。」
「そうなの。そうね?例えばの例えば、こんな名前はどうかしら?赤い屋根の家の奥さん。」
「聞かせて?赤い屋根の家の奥さん。」
「ママ!早く帰ろうよ!下唇爆発しちゃうよ!」
「男の子でも女の子でもいいように、レインマンって、どう?」
「グッジョブ!!」
「マーマー!!下唇爆発嫌だよー!!」
巻き糞を頭の上に乗せた親子と蜜蜂を鼻の穴で養蜂するオバサン。やはりこれも雑誌の記事通りだ。ならどうして?ドレッシングをサラダにかけながら、私の疑問はより一層、膨らんでいくばかりだった。
「愛してる?」
「愛してるさ!」
「どれぐらい?」
「この無限に広がり続ける宇宙の広さぐらい無限大にさ!」
ドレッシングをサラダにかけ終わる頃には、後ろの席のカップルの会話が聞こえて来た。
「無限大?」
「そう、無限大!無限大に君を愛しているさ!君への愛は無限大なのさ!」
「ちょっと待って!」
「ちょっと待つけど、どうしたの?」
「宇宙が無限大に広がり続けるって、誰が決めたの?もしかして?アナタ、無限説の人なの?」
「そうだよ!宇宙は無限に広・・・・・・ちょっと待って、君はもしかして、有限説の人なのかい?」
「当たり前じゃない!宇宙が無限に広がる?馬鹿な事、言わないでよ!」
「ば、馬鹿な事だって!?」
「宇宙はね!広がり続けて、いずれは縮むの!」
「まさか!?ビッグクラッシュを引き起こすって、本気で思ってるのか!?」
「当然っ!だってそれが、宇宙よ!拡張と収縮を繰り返す!ビッグバンとビッグクラッシュを繰り返す!無になって、有になり!また有になって、また無になる!これこそが、宇宙!宇宙が有限である限り、永遠なんてこの世に存在しないわ!」
「なぜ、そんな馬鹿な事を!宇宙は無限だ!果てはない!無限の可能性!無限の未来!無限の形!沢山の無限が散りばめられているんだ!果てしなく果てしないんだ!宇宙ってのは!」
「馬鹿ね。」
「何だと!!」
「何よ!!」
「僕は、君を無限大に愛してるんだよ!!」
「愛もまた、宇宙と同じ。有限よ!拡張して収縮する!宇宙を無限だなんて言ってるアナタの愛なんて!ナノ程もないのよ!」
「ふざけるなっ!君がそんな人だったなんて思わなかったよ!」
「アタシもよ。アタシ達、もう終わりみたいね。」
「いいや。」
「えっ?」
「言っただろ?僕の愛は、無限大だってさ!この愛もまた、宇宙のように無限なのさ。」
「な、何てこった!?」
この店を訪れるカップルは、必ず別れ話をする。やっぱり、雑誌に書かれている事は、事実のようだ。なら本当に、目の前にある空になったお皿の中の美味しいサラダは、いったい何だったと言うのだ?私は、心の中に不思議さとナンセンスを残したまま、ツーステップでお店を出た。

第百五十五話
「特集!絶対にサラダを出さない店」

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