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2009年6月24日 (水)

「第百五十八話」

 優しい話が書きたくて、僕は殺人事件の現場に来ていた。
「どうだ?」
「ああ、警部。見て下さい。」
「・・・・・・酷いな。」
「ええ、巨大なハンマーで、顔面を一撃、即死ですね。」
「するとあれだな。犯人は、相当な力持ちだな。」
「そうなりますね。こんな巨大なハンマーを振りかざす事が出来る人物ですからね。かなりの力持ちに間違いありませんよ。ところで警部?」
「ん?」
「後ろにいる方は?」
「ああ、物書きだ。」
「物書き?ですか?何か今回の事件と関係でも?もしかして、重要な目撃者ですか?」
「いや、違う。何でも優しい話が書きたいから、殺人事件の現場を見てみたいらしい。」
「そっちですか。」
「まあ、捜査の邪魔は、しないと言っているから、彼の存在は気にせず、我々は捜査に集中しよう。」
「ですね。」
一連の刑事達のやり取りを聞いていて僕は、こう思った。仮に被害者が、イチゴジャムだらけのこの床を歩いてる最中に、滑って転んで顔面を巨大なハンマーに打ち付けたとしたら、これは殺人事件じゃなく、単なる事故死だ。それに、毛むくじゃらの天井で首を吊ったあと、毛むくじゃらが切れて落ちた拍子に巨大なハンマーに顔面を打ち付けたとしたら、これは殺人事件じゃなく、単なる自殺だ。
「死亡推定時刻は?」
「はい。午前0時~午前2時の間です。」
「今が、午前2時12分だから、ん?殺されたてって訳か?あれか?最悪、我々がいる間に殺されたって訳か?」
「ホヤホヤです。」
「第一発見者は?」
「それが・・・・・・・・・。」
「どうした?」
「死にました。」
「なに!?どう言う事だ!?」
「第一発見者は、マンションの下の階の、この真下の部屋に住んでいる透視能力を持った女性です。」
「なぜ、死んだんだ!」
「それが、かなりのお調子者で、我々と話をしている最中も、8階の自室のベランダの手摺の上を靴下を履いたまま歩く始末でして、警部が到着する少し前に、案の定、スキップの最中に足を滑らして、転落してしまいました。」
「何てこった・・・・・・。」
不幸中の不幸とは、まさにこれだと、僕は痛感した。女性がお調子者ではなく、単におっちょこちょいだったらと、悔いても悔やみ切れない痛恨の極みだった。
「なら、目撃情報は?防犯カメラに怪しい人物とか映っていたとかは!」
「映っていました。」
「で、画像解析の結果はどうだったんだ。」
「それが、少し問題がありまして、死亡推定時刻と思われる時間帯に、玄関のエントランスに備え付けられている防犯カメラが捉えた怪しい人物は、5人いまして、その全てが別の事件の犯人でして、今回の事件とは全くの無関係だと思われます。」
「ちょっと待て!その中の誰かが、今回の事件を引き起こした可能性もあるんじゃないのか?」
「その可能性は、ないと思います。」
「なぜ、そう言い切れるんだ?」
「5人が5人とも、ガリガリだからです。」
「なに!?」
「とてもこんな巨大なハンマーを持てる力持ちだとは、考えられません。現に、画像を元に周辺を捜索して逮捕した5人に、科学捜査班がポリグラフと共に、力持ちテストを行いましたが、力持ち、と結果が出た者はいません。」
「待て、5人の中にもしかしたら、念力を使える者がいるかもしれないぞ?仮にそいつが己の力を隠しているとしたら?」
「警部、こんな時に冗談はやめて下さい。」
「そうだったな。念力なんて、そんなマンガや映画のような絵空事、現実にある訳がないな。すまんすまん。」
「そうですよ。」
でも、あながち念力を頭ごなしに否定してしまう事を僕は、どうかと思った。この世界は不思議だらけで、未だに解明されてない謎だらけだからだ。限りなく0%に近い念力の可能性だとしても、それはけして0じゃない。念力の可能性を捨てるには、早すぎると思った。もっと念力をもっと念入りに調べる必要性は、十分過ぎる程あると思った。事実、僕は何度もテーブルの上の味噌汁が入ったお椀に手を触れず動かした事がある。
「警部の方は、どうでした?」
「ああ、ここに来る前に、超能力捜索班の元を訪ねて来たんだが、うっかり部屋の電気を点け忘れてたもんで、描いてもらった犯人に繋がる絵が、まるで何の絵なのかが、さっぱり分からん。」
「そんな!?」
「部屋の電気が消えていた事に気付かなかったとは、迂闊だった。」
「いえ、警部のせいではありません。この世に電気と言う物を発明してしまった、その偉人が悪いんです。警部を責める権利なんて、誰にもありませんよ。」
「そうか?」
「そうですよ!警部は、確実に悪くありません!」
こう言うの諺で何かあったんだよな?何だったっけな?えーっと?何だったっけ?羊の群れに飛び込むダイバー、だったっけかな?違うな?何だろ?えーっと?眼鏡も傘も機能的にはもはや限界、かな?う~ん?違うな?何かしっくり来ないもんな?
「そう言えば、何か争う物音や言い争う声を聞いた者はいないのか?」
「隣人が午前0時頃に何か言い争うような、何か物音のような、そんな音を聞いたそうです。」
「それは重要な手掛かりに繋がるんじゃないか?」
「ただ、隣人があまりにもインディアンでして、嘘を付かない代わりに、真実も言わないんですよ。」
「何だと!なら、反対側の隣人は?そっちはどうなんだ!」
「居留守です。」
「なっ!?こんな時に、居留守だと!?」
「それも完全なる居留守です。」
「人が一人殺されてるんだぞ!そんな時に、何を居留守する必要があるんだ!ちょっと行ってくる!」
「落ち着いて下さい、警部。」
「これが落ち着いてられるか!」
「気持ちは分かります。ただ、居留守と言っても、ただの居留守ではないんです。」
「どう言う事だ。」
「ドアに、勉強中の札が・・・・・・。」
「・・・・・・そうか。それならしょうがないな。人の一生懸命を邪魔する権利は、我々には、いや誰にもないからな。」
「はい。」
「なら、真上の部屋の住人は?何か聞いてないのか?」
「それが・・・・・・。」
「どうした?空き部屋なのか?」
「いや、住んでるには住んでるんですが・・・・・・。」
「だから、何なんだ!」
「この真上の部屋、幽霊が出るって曰く付きの部屋でして、怖がって誰も聞きに行けないんです。警部、もしよかっ」
「聞かなかった事にしよう。」
数ヶ月後には、この部屋も曰く付きになるんだろうか?そんな考えが僕の頭の中を過った。でも、それならそれで、その曰くに事件の詳細を聞けば、スピード解決だ。とも過った。
「他に誰もいないのか!こんな巨大なハンマーで一撃だぞ?相当な地響きがしたに違いない!」
「実は警部、このマンションの屋上なんですが・・・・・・。」
「屋上がどうかしたのか。」
「コズミックP、の秘密基地になっているんです。」
「コズミックP!?コズミックPって、あのコズミックPの事か!?」
「そうです。正義のスーパーロボット、コズミックPです。」
「まさか!?ここが、僕等いいもんじゃないんだぞ軍団の操る、メカ機械獣ロボと戦う、あのコズミックPの秘密基地だったとは!?信じられん!」
「言っちゃダメですよ?」
「口が裂けても言うもんか!!」
「なので、マンションの住民ときたら、非常に地響き慣れしているんです。現に今夜もコズミックPは、出動していますし、コズミックドッグやコズミックウィングの発進も確認されています。」
「待て!」
「どうしました?」
「コズミックウィングは、確か前々回の戦いで、ぶら下がりメカ機械獣ロボにぶら下がられ、破壊されてしまったはずじゃ?ま、まさか!?」
「ええ、新型です!」
「こんなに早くか!?」
「この地球(ほし)の未来(あした)の為です!」
「・・・・・・・・・うっ。」
「警部、男泣きですか?目頭を押さえる程の男泣きなんですね?」
「いや、これは繋げて1つにしてしまおうと言う一連の動作だ。」
「そっちでしたか。」
「よーし!我々も負けてはいられんぞ!全速前進で、この犯人を捕まえるぞ!」
「はいっ!!」
優しい話が書けるかどうかは、全くもって僕次第な話だけど、僕には優しい話が書けない気は、しなかった。そして、僕が殺人事件の現場を去った後も、現場検証や聞き込みなどなど、捜査は果てしなく続いたとかどうだとか?

第百五十八話
「迷宮入り」

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