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2009年7月29日 (水)

「第百六十三話」

「お前が、ヤったんだな!」
「ああ、俺が、ヤったよ。」

第百六十三話
「もぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「早いっ!!」
「何だと?」
「まだ、私がこの取り調べ室へ来て、1分も経ってないじゃないか!いやまあ、1分は経ってるかもしれないが、にしてもだ!早すぎるっ!」
「・・・・・・何を言ってるのか、さっぱりなんだが?」
「だから!ヤったヤってないの取り調べ室、特有の刑事と重要参考人との駆け引きじゃないか!」
「駆け引き?」
「そうだよ!取り調べの醍醐味と言えば、駆け引きと決まってるだろ!取り調べ室と言ったら、他に何も浮かばないだろ?それを何だ!ヤったんだな!ヤったよ。じゃないよ!ったく!」
「おいおいおいおい、刑事さん。頭、どうかしちまったのか?」
「どうかしちまったのかは、こっちの台詞だ!いとも簡単にヤったなんて言っちゃいやがって!それでも連続殺人鬼か!連続殺人鬼の端くれかっ!お前は!」
「・・・・・・・・・。」
「それはさぁ。私だってさぁ。あれだよ?実際に、ヤってないって言われたらさぁ。ああ、この人、4000%ヤってないんだとは思わないよ。でもさぁ。でも、こんなにもヤってるだなんて事は、予想もしてなかったよ!」
「ヤった事をヤったと言って、まさかこんなに怒られるとはな。」
「逆に怒られずに済むと思ってた、お前の神経を疑うよ!私はね。いい?私は、今日のこの日の為に、どれだけシュミレーションをした事か。こう言うであろう、ああ言うであろう、それはもう、ありとあらゆるパターンを頭に叩き込んで、何度も何度も、毎日、毎日、妻に小言を言われながらも、妻と愛犬7匹を相手に頑張って来たんだよ!えっ?それを何だ?何て言ったんだっけか?お前が、ヤったんだな!俺が、ヤったよ。だと!ふざけすぎるな!こんな陳腐なパターン!誰かが認めても、私は認めないからな!分かったかっ!」
「・・・・・・つまり、駆け引きをすればいいんだな。」
「当たり前だ!」
「やれやれ。」
「ヤったんだな!ヤってない。だぞ?」
「ああ。」
「ヤってない。だからな!」
「ああ。」
「行くぞ?」
「ああ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「始めないのか?」
「だって何か、何か凄くやる気ない感が漂ってるじゃないか!何だよそれ、何なんだよ!何か?手抜きか?私みたいな老いぼれ刑事には、本気で駆け引きする必要ないってか?私みたいな老いぼれ刑事にする駆け引きは、持ち合わせてないってか?老いぼれ刑事なめんなよ!」
「別に俺は、なめちゃいないさ。」
「いやもう、その態度がなめてんだって!この取り調べ室に流れてるこの感じが私は、嫌っ!」
「・・・・・・・・・。」
「じゃあさぁ。私がバッターでさぁ。お前がピッチャーでさぁ。一打逆転の時だったらさぁ。どうすんの?お前、どうすんの?投げるだろ?本気で投げるだろ?」
「まあな。」
「だったら、頑張ろうぜ!頑張って行こうぜ!だって、今!それと同じ事が今!この空間で巻き起こってるんだぞ馬鹿野郎!」
「おいおいおいおい、とんでもない刑事が来ちまったもんだな。」
「行くぞ!」
「・・・・・・オーケー。」
「入って来るとこから行くぞ?」
「何だと!?」
「だってそうだろ?こんな緊張感のないような雰囲気だったら無理に決まってるだろ!一旦、リセットだよ!」
「リセット?」
「当たり前だ!」
「やれやれ、もう好きなようにしてくれ。」
「よし!じゃあ、取り調べ室に入って来ました。」
「やんないのかよ!」
「やりませんよ?何で?いけませんか?」
「いやだって、今の感じだったら実際にドアから入って来ると思うだろ!」
「私はなぁ。取り調べ室に一度入ったらなぁ。次、あのドアから出る時は、犯行を自供させた時と決めているんだ!」
「・・・・・・そりゃあ、ご立派な信念だ。」
「で、椅子に座りました。相手の顔を見ました。」
「いちいち言うのか?」
「臨場感だろ!」
「何がしたいんだよ。」
「だから!」
「分かった分かった。駆け引きだったな。」
「そりゃそうだろ!」
「続けてくれ。」
「顔を見ました。睨み付けました。相手も睨み付け返しました。・・・・・・・・・返しました!私も負けじと睨み付け返し返しました。」
「ちょっと待ってくれ。」
「何だ!」
「いったいいつ始まるだ?さっきそんな事してないだろ?のオンパレードだぞ?」
「アドリブだ!」
「アドリブってなんだよ。」
「緊迫感だ!盛り上げて盛り上げて盛り上げて、盛り上げる。」
「盛り上げっぱなしか?」
「私はなぁ。前半、盛り上げて、半ば以降、盛り下がるストーリーが、大っ嫌いなんだ!」
「盛り下がるって?」
「こうだよ!」
「そんな直角に落ちるストーリーないだろ!」
「うるさい!」
「やれやれ、もはや、掛ける言葉も浮かんできやしない。とっとと、盛り上がって終わりにしよう。」
「よし!」
「・・・・・・・・・。」
「返し返しました。お前も睨み付け返し返し返しました。私も負けじと睨み付け返し返し返し返しました。しばらく睨み付け合いました。」
「・・・・・・・・・。」
「緊張感走る中、私はいよいよ駆け引きの引き金となる一言を発する事を決意しました。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「お前が、ヤったんだな!」
「ああ、俺が、ヤったよ。」

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