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2009年7月15日 (水)

「第百六十一話」

 展開の始まりは確かそう、少し涼しくなった夏の日の夕方、俺が散髪に出掛ける路線を辿ってた途中の道で、急な雷雨に襲われた俺が、シャッターの閉まった店先で雨宿りをしてた時だった。
「パッ!!バリバリバリ!!」
それまでにない稲光と轟音だって思ったと同時に、目の前に雷が落ち、俺は思わず目をつぶった。
「18時ジャスト。」
その声に反応して目を開けた俺の隣には、黄色いツナギ姿の中年の男が腕時計を見ながら立ってた。
「ほら、見て下さいよ!18時ジャスト!ねっ?」
「はあ・・・・・・・・・。」
何て満面の笑みを浮かべながら、わざわざ見ず知らずの人に18時を告げる男なんだ。
「はあ、って何かこう、もっと喜んで下さいよ!」
「えっ?」
「成功したんですよ!」
男は、俺の両肩を両手でガッチリ掴むと、激しく俺を揺すり、抱き付いて来た。
「ちょ、ちょっと!」
俺は、訳が分からなかった。が、このまま男に抱き付かれたままじゃいけないって事だけは、分かった。
「せ、成功って、いったい何の事ですか!」
だから、男を突き放した。男は、ビックリした表情で俺を見ていた。
「どこかで会った事、ありましたっけ?」
「何を言っているんですか、博士!」
「博士!?」
「一緒に数々の危険を潜り抜けて来た仲じゃありませんか!そんな私の事を、博士は忘れてしまったと言うんですか!」
「いや、すいません。恐ろしく言ってる意味が分からないんですけど?もしかして、人違いをしてるんじゃないですか?」
「博士!私が博士を見間違えるはずが、あるでしょうか!」
「いやぁ・・・・・・。」
ヤバイ、これはかなり関わっちゃいけない人に関わってしまった。ん?もしかしてこの人、今の落雷が直撃しちゃったのか?でも、特に直撃の様子も見当たらないしな。だが、この場合は落雷しててくれた方が、どれ程ありがたい事か!
「すいませんでした。」
なぜか男は突然、頭を下げて謝った。
「博士が私の事を分からないのも無理ありません。私達はまだ、出会っていないのですからね。」
謝られて現状がより訳が分からなくなる事ってあるんだ!と思った。そして、行こう!そうだ!行こう!この男とここで訳の分からない会話をする事に比べたら、ずぶ濡れになるなんて、なんて事ないじゃないか!もう、行っちゃおう!
「それじゃあ。」
「待って下さい!」
誰が待つかよ。
「博士!」
だいたい面と向かって言わなかったけどな!何で陶芸家の俺が博士なんだよ!
「アナタは、今から5時間後に死にます!」
「何だって!?」
「すいません、博士。ついついアナタとの再会を喜び、当初の目的を忘れていました。」
この男との会話、一向に訳が分からなくなる一方だ。だが、自分の死を鬼気迫る顔の男に告げられ、果たして立ち止まらないヤツがいるだろうか?
「俺が死ぬって、どう言う事ですか?」
「落ち着いて聞いて下さい。」
そう言った男の方が、深く深呼吸を一度した。
「私は、今から5時間後の少しだけ未来から、タイムマシーンでやって来ました。」
いやほら、信じろって方が無理でしょ。それならそれで、何と無く話の辻褄が合うけども!でも、こんな馬鹿な話をいきなり信じちゃう方がどうかしてる!よし!だったらここは、証拠の一つでも見せてもらおうじゃないか!
「タイムマシーン?なら、タイムマシーンを見せて下さいよ!」
「博士、何を言っているんです。タイムマシーンなら、一番最初に見せたじゃありませんか。ほら!」
「そんな馬鹿な!?それがタイムマシーンだって言うのかよ!?」
「そうです。この腕時計がタイムマシーンなんです。博士、何もそんなに驚く事はないでしょう。」
いや、驚くだろ!これが事実だろうが嘘だろうが、そりゃ、驚くだろ!何か乗り物的な物を想像しちゃうだろう!
「全く、自分で発明しといて自分で驚く人がいますかね。」
男は、さも当たり前のような事を、さも当たり前のような顔で、さも当たり前のように言ってるけど、俺にとっては何一つとして当たり前じゃない。って、なに!?俺!?俺が?俺がタイムマシーンを作ったって?どんな展開だよ!
「タイムマシーンなんて作れる訳ないだろ?俺は、陶芸家で、科学とは全く縁のない世界の人間なんだから。」
「今はね。」
今はね。か、未来から来たヤツが言い放つには、打って付けの言葉だな。未来?ちょっと待て!男は、5時間後の未来からやって来たって言ったよな?て事はだ!仮に男の話が事実の路線で行ったとしてだ!おいおい!こりゃとんでもない展開だぞ!?
「俺は、5時間でタイムマシーンを作ったって事か!?しかも、そんな腕時計タイプのタイムマシーンを!?」
「正確には、3時間と30分ですね。ほら、博士これから散髪行くでしょ?」
いや待てって、どう考えても無理だろ!タイムマシーンのノウハウを知らないヤツが、何で3時間半で作れちゃうんだよ!って、えっ?散髪?確かに男は、散髪って言ったぞ?何でそれを知ってるんだ?誰にも散髪屋に行く事を言ってないのは勿論だし、散髪屋はここからまだまだ先で、視界にも入ってない!おいおいおい、まさか本当に男は5時間後の未来からやって来たって言うのか?いよいよヤバイ展開だぞ?ってそれ以前に、死ぬって分かってんのに散髪屋行くか?
「どうして、散髪屋の事を?」
「どうしてって、私に話してくれたし、それにほら、この写真の博士と今の博士の髪型が違いますしね。」
「こ、これは!?」
男がポケットから取り出した写真には、無惨に殺された俺が写ってた。
「あっ!?すいません!博士の気持ちも考えずに、いきなりこんな写真を見せてしまって!これは万が一、私の言っている事を信用してもらえなかった時に出すつもりだったんです。でも博士?これで、私の言っている事が本当だと、信じてもらえましたよね?」
「・・・・・・・・・。」
信じざるを得なかった。目の前の自分の死体の写真を見てるって言う何とも言えない不思議な感覚に捕らわれながらも、これが事実と分かった以上、俺は頷くしかなかった。そんな事よりも何よりも、俺にはこれからやらなきゃならない事が山程あった。
「俺は、どうして殺されたんです?」
「タイムマシーンを作ったからです。そのせいで、タイムマシーンを狙う組織に殺されたんです。博士は!博士は、最後まで奴等にタイムマシーンの設計図を渡しませんでした!そして自分の身を犠牲にしてくれたからこそ!私は、5時間前へ来る事が出来たんです!でも、それも賭でした!実験も何もしていませんでしたから!しかし、博士!博士は、成功したんですよ!タイムマシーンは、完成したんですよ!」
男は、俺の手を両手で握り締め、泣いていた。それを振り払う程、俺も野暮じゃない。ただ、やらなきゃならない事は、ある!だから俺は、ゆっくりと男の手を放した。
「一つだけ聞いてもいいですか?」
「何でしょう?」
「どうして5時間前なんてす?どうして5時間前の俺に、この事を伝えに?」
「タイムマシーンの遡れるこれが、今の限界だからです。」
成る程ね。これで、謎が解けたよ。どうして、未来から助けに来るには、5時間前なんだろう?って謎が。
「現状は理解しました。さあ、行きましょうか。」
「行ってらっしゃい。」
「はあ?」
「散髪屋ですよね?」
いや、だから!だから、この状況で散髪はおかしいでしょうが!もはや散髪の事なんて忘れてたよ!
「違いますよ。その組織から逃げるんですよ!だってアンタは、俺を助けに来たんでしょ?さあ、その組織の詳細を教えて下さい!」
「博士?アナタは、勘違いをしている。」
「はい?」
「私は、アナタを助けに来た訳ではありません。」
「何だって!?じゃあ、いったいアンタは、何をしに来たんです!」
「私は、生きてる博士に一目会って、助けて下さったお礼を言いに来たんです!」
「えっ!?」
「博士!本当にありがとうございました!」
深くお辞儀をする男の腕時計が、いつの間にか止んでた雨の後、いつの間にか顔を出していた夕日に照らされて、妙に輝いてた。なのに滴り落ちる地面を濡らす物。男が俺を助けないんじゃなく、男は俺を助けられないんだ。いやそうじゃない。俺が俺を助けさせないんだ。腕時計、写真、そして5時間後の未来から来た男の存在と流した涙が、何よりも変わらない未来を証明していた。まあだから俺は、これからの5時間がいったいどんな風に無茶苦茶な展開を巻き起こすのかって路線で、人生を楽しむ事にした訳だ。

第百六十一話
「変えなかった未来」

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