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2009年8月19日 (水)

「第百六十六話」

「あづー!!」
それは、いきなりで突然だった。僕が夏の暑さにうなだれてた時、チャイムが鳴り、ドアを開けると目の前には、白づくめの男が立っていた。男は、白いサングラスの真ん中をクイッとすると、白い背広の内ポケットから封筒を一通取り出し、僕に手渡し、アパートの階段をゆっくりと下りて行き、白い車に乗って、去って行った。僕は、あまりにも理解不能な状況に、男に話し掛ける事すら出来なかった。しばらく玄関に立ち尽くしたあと、僕は部屋に戻り、男が渡した白い封筒の封をペーパーナイフで切った。中には、僕の持つ家電では、再生不可能であろう小さな特殊な記録媒体と認定証が入っていた。
「ピンポーン!」
僕が、認定証に書かれた文字を読もうとした時、再びチャイムが鳴った。ドアを開けると、そこには宅配業者の人がダンボールを片手に持って立っていた。サインをしてダンボールを受け取り、僕は再び部屋へ戻った。部屋へ戻って来る途中、送り状に書かれた文字を見て、中身がさっきの記録媒体の再生機だって事、そして、送り主がこの国からだって事が分かった。とにかく分からない事だらけだったけど、やるべき事は、一つしかなかった。
「ベリベリベリ!」
僕は、勢いよくガムテープを剥がし、ダンボールを開けた。そして、見た事もない特殊な再生機を中から取り出し、説明書を片手にそれをテレビに接続した。あとは、特殊な記録媒体を特殊な再生機に入れれば、全ての謎が解ける。
「カチッ!」
しばらく真っ黒なテレビ画面が映し出されたあと、そこに映った人物は、この国で一番偉い人物だった。テレビ画面の中のその人物は、淡々と今回の経緯を説明すると、最後に深々とお辞儀をしていた。映像は、そこで終わり、再び画面は真っ黒になった。
「プチン!」
僕は、テレビの電源を切ると、画面の中で最後の方にこの国で一番偉い人物が言っていた通り、認定証を見た。そこには確かに、僕がこの国で一番価値のない人間だと言う事が、認定されていた。認定証を手に茫然自失の僕の頭の中では、画面の中で、この国で一番偉い人物が、切実にこの国の為だと何度も何度も説明していた言葉がグルグル回っていた。そして、これが無作為に選ばれたモノではなく、何かの調査結果で、僕になったと言う言葉に引っ掛かってもいた。謎が解けると思って再生ボタンを押したけど、謎が解けるどころか、謎は謎のままで、僕にこの国で一番価値のない男だって認定がされただけだった。
「ピンポーン!」
そしてまた、タイミングよくチャイムが鳴った。僕は玄関まで走り、ドアの前で一度深呼吸をしてから、ドアを開けた。
「パシャ!」
そんな僕をカメラのフラッシュが迎えてくれた。カメラを肩に担ぎ直した男は、笑顔で僕に握手を求めて来た。そして男は、自分が新聞記者だと名乗った。次に男は、この国で一番価値のない僕の事を取材に来たのだと言った。取材なんて受ける気分じゃなかったから、僕は男の申し出を素っ気なく断った。すると男は、自分はこの国からの依頼で僕を取材に来たのだと、許可書を見せた。
「どうぞ。」
だから僕は、仕方無く新聞記者の男を部屋へ招き入れた。僕が冷蔵庫から冷たい飲み物を取って来る間、新聞記者の男は、僕の部屋を写真に撮りまくっていた。僕が部屋に戻ると、男はソファーに座り、僕の写真を一枚撮ると、カメラをテーブルの上に置き、続いて鞄から取り出したボイスレコーダーのスイッチを押て、テーブルの上に置いた。
「今の気分は、どうですか?」
そして、男の取材が始まった。
「国に対して今、何か言いたい事はありますか?」
それは淡々と、そして事務的な取材だった。
「この制度の最初の生け贄に当たる訳ですが、国民に向けて何か言いたい事は、ありますか?」
男のチープな取材にも、この国の新たな制度にも、僕はうんざりしていた。一番価値のない人間を決定する事により、その人間を見下すように、自分より下がいるんだって、そんな精神を国民に持たして、国民へやる気と希望を植え付ける事を目的としたこの制度、全くうんざりする。
「貴方は、ご自分をどのように捉えていますか?」
救世主?英雄?この国で一番偉い人物がテレビの画面の中で言っていた言葉を借りれば、そんなとこだろう。でも僕は、この国の救世主でもなければ、ましてや英雄なんかじゃない。そう僕は・・・・・・。
「僕は、単なるこの国で一番価値のない男です。」
「なるほど。」
何がいったい、なるほどなのか?理解もしたくない。この国で一番価値のない男なんだから、この国で一番価値のない男だって決まっているに決まっているのに、何がなるほどだ。
「これが、最後の質問です。政府が当初、この制度を決めるに当たり、懸念していた事があります。それは、価値のない人間だと選ばれた人間が、自ら命を絶つのではないか?と言う事です。単刀直入にお聞きします。貴方は今、自殺をお考えですか?」
単刀直入?僕には、遠回しに自殺するなって言っているように聞こえるけど?やれやれ、どこまでうんざりさせれば気が済むんだ?
「いいえ。むしろ、この国で一番価値のない男として、長生きしてやろうって考えています。」
「それはなぜです?」
新聞記者の男が驚いている表情が、妙に滑稽に感じて、思わず笑いが吹き出しそうになったけど、僕は堪えた。そして、そのもっともチープな質問に、こう答えてやった。
「だって、僕が死んだら、また誰かが、この国で一番価値のない人間に選ばれてしまうじゃないですか。」
新聞記者の男は、しばらく唖然としたあと、ボイスレコーダーの電源を切り、鞄にしまうと、最後に僕の写真を一枚撮り、深々とお辞儀をして出て行った。階段を下りて行く男の後ろ姿を見ながら、今さっき自分で男に言った言葉を思い出していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
そして、こうなる事も全て計算され尽くしていたのかと気付くと、僕は再びうんざりして、やけに青い青空を眺めた。

第百六十六話
「この国で一番価値のない男は、この国で一番優しい男」

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