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2009年9月16日 (水)

「第百七十話」

「結局、あほー、が吼えまくる。世の中、あほー、が吼えじゃくる。」
僕は、7人の追っ手に追われていた。
「吼えて、吼えて、吼えまくる。吼えて、吼えて、吼えじゃくる。」
長さの違う刀を左右の手に持った男は、何やら人生を悟ったような口調で、ジリジリと、丸腰の僕との間合いを詰めて来ていた。
「あほー、ってのは、僕の事ですか?」
「あほー、が、あほー、を自覚する。あほー、が、あほー、を認知する。その時、既にこの世に、あほー、の姿はない!」
男の双剣が僕の首と胴体を切り離そうとする前に、一瞬早く僕の鎌が男の首と胴体を切断した。
「・・・・・・・・・間に合いましたね。」
片膝を付き、屈み、片腕を伸ばして手にした鎌を見上げながら、僕は安堵と殺意に包まれていた。
「見事じゃな~い?ブーメランな感じってわけ~?フェイクだったわけ~?わざとなんだ~!わざと、大きな鎌を外して投げたんだ~!すんご~い!」
明らかに不利な体制で、戻って来た鎌をキャッチした僕の目の前に、ほぼ裸状態のカウガールが現れた。眉間に当てられたショットガンの銃口が、ひんやりと僕の体も心も冷ましてくれた。出来ればこのまま清涼感の中で、眠りたいと思ったけど、永遠の眠りに付く気は、なかった。
「どうする?ど~する?このまま、死んどく~?それともな」
カウガールは、ミスを犯してなどいない。口調とは裏腹に、その行動は冷静で正確だった。戦いにおいて気を付けなければならないのは、1つの戦いが終わった後に出る隙だ。カウガールのそれは、そんな僕の隙をツイての行動だった。間違いじゃない。そう、大正解だ。
「危なかったですよ。」
でも、戦いにおいて、隙を作った相手に対して2つ気を付けなければならない事がある。1つは、絶対的優位に立った時の余裕だ。だけど、話し終わる前にカウガールがショットガンの引き金を引いていたのは、明らかだった。カウガールは、それもクリアしていた。でも、カウガールには、自分が話し終わる前に、僕の鎌が槍に変形する事は、分からなかった。
「ドサッ!」
そう、もう1つは、相手の奥の手には気を付けろだ。真逆に言うなら、奥の手は、最後の最後まで見せてはならないって事だ。カウガールの心臓を貫いた槍を引き抜くと僕は、洞窟の出入口へと向かった。追っ手は、あと5人。
「やあ!」
メガネの彼は、右手を上げて僕に挨拶をしてきた。僕の嫌いな人間の行動の1つが先回りだ。騙された感、優越感に浸る相手の顔、劣勢を生み出すシステム、このどれもが僕の心を不愉快にさせる。僕が、おにぎりよりもサンドイッチの方が好きな理由は、そこにある。
「さあ!ゲームを始めようか!死神君!」
まるで安易なこのニックネームが気に食わない。大きな鎌を武器にしてるからって、死神?まるで頭が悪すぎる。あまりにも目で見た事実を事実として、真に受けすぎている。だから、そう言ったあとメガネを得意気にクイッと上げたメガネの彼は、死んだんだ。目の前の僕に気を取られすぎて、真後ろに立つ爆弾女に気付かなかったんだ。僕の追っ手が7人いるって言ったけど、7人が7人、別に仲間同士ってわけじゃない。そう考えると、僕よりも追っ手の方が命懸けって事なのかな?
「次は、貴方が吹き飛ぶ番ね。」
高級な衣装と装飾品に彩られたモデルのような女の出で立ちを見ていると、女が手にしている爆弾にも宝石が散りばめられているんじゃないかって錯覚してしまう。
「実際に会ったら、なかなかイイ男じゃないの。こんな形で出会っていなければ、恋人の1人として付き合って上げても良かったかもしれないわね。」
「それは、光栄な事です。」
この爆弾女の泣いた顔が見てみたいと思ったけど、おそらくそれは、叶わない。プライドが高い女が、人前で涙を見せるわけがないだろうし、ましてや泣いて僕に命乞いなんてするわけがない。時には、願望を願望のままにしておく事も必要だ。
「準備はいい?」
「まだです。って言ったら、待ってくれるんですか?」
「ええ、待つわ。お互い、準備万端で戦いたいですもの。当然よ。」
それが、背後からメガネの男を爆破した者の言う事かと思ったけど、メガネの男のメガネが爆発した事を考えると、それはそれで真正面からなのかもしれない。いや、それ以前に、既にメガネの男が爆弾女の手玉に捕られていたんだろう。
「でも待つのは、準備万端じゃない場合だけよ。貴方は、既に臨戦態勢だから、待って上げないわ。」
バレてた。まあ、バレるか。また、洞窟内に逃げようとも考えたけど、それは得策じゃない。洞窟内で爆弾女を始末出来たとしても、袋小路の洞窟内では、どうしてもまた連戦をせざるを得なくなる。いくらなんでも、それじゃあ、僕が死んでしまう。今、僕にとってもっとも最優先すべき事は、休息だ。
「さよなら。死神さん。」
死神に、さよならなんて、ジョークにしては、最高のジョークだ。と、同時に投げられた無数の爆弾の雨を掻い潜り、爆風の衝撃波を乗りこなし、僕は爆弾女との距離を一気に縮め、その透き通るような細い首へ鎌を突き付けた。
「どうやら、貴方の事をだいぶ甘く見ていたようだわ。」
「のようですね。」
「でもなぜ?なぜ、一思いに切らないの?わたくしに、惚れた?」
まさか?これは、笑えないジョークだ。僕だって、一気に切断するつもりだったさ。
「つくづく貴女は、策士ですね。」
「何が?」
「やれやれ、だって僕がもし、貴女の首を切断していたら、貴女も僕も木っ端微塵じゃありませんか。」
「ふふ。鋭いのね。私の方が惚れそうだわ。」
既に僕が惚れているみたいな言い回しは、気になったけど、もっと気になったのは、この非常にマズい状況だ。もちろん、爆弾女の首を切り落とせば、それがきっかけで爆弾女は爆発して、僕もろとも木っ端微塵になる。でも、僕が気になっているのは、そこじゃない。それなら僕が首以外を切り落とせば済む話だし、何よりも僕に主導権がある。気になっているのは、爆弾が爆発するって事は、爆弾を爆発させられるって事だ。
「気になる?」
「ええ、気になります。」
ここは時間をなんとか稼がないといけない。
「わたくしが、いつ自爆するかが?かしら?」
「ええ、そこんとこが妙に気になって気になって、しょうがないです。」
武器変形には、少しだけ時間が掛かる。チャージの時間を稼がないと、僕は確実に死ぬ。
「何に変形させるつもりなのかしら?」
「何でしょう?」
「槍?」
「いいえ。」
「大剣?」
「いいえ。」
「バズーカ砲?」
「いいえ。」
「火炎放射器?」
「違います。」
いったい爆弾女が、武器変形をどこまで知り尽くしているのか無性に気になって気になって、しょうがなかっ

「ボカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!」

女は、何の躊躇もなく、爆発した。
「正解は、盾です。」
けど、もちろん僕の方は生きている。全身に激痛が走る中、盾を鎌へ戻すと僕は、崩れ落ちる洞窟の出入口から、足を引き摺りながら出来るだけ遠くへと走った。外はあいにくの晴天と大草原、身を隠すには最悪の条件だった。
「いててて、これ確実に何本か骨、いっちゃいましたね。」
晴天と大草原と負傷、でもそれらは、ほんの些細な、気にしなければ気にならないぐらいの最悪だった。本当の最悪は、僕の目の前にあった。
「休息が必要なんですけどね。どうも、そう言うわけには、いかないみたいですね。」
そこには、細身で長身のおじいさん、の横に小型犬を2匹連れた少女、そして少女を挟んで太っちょで大柄な男が立っていた。

第百七十話
「あと3人」

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