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2009年9月30日 (水)

「第百七十二話」

 僕も暇だったし、彼もまた暇だったから、出会ったばかりの僕らは、沼の近くの横たわった大木の上に腰掛けて、少しだけ話をする事にした。
「現実に存在するとは、思いませんでした。」
「カパパパパ!」
僕がそう言うと、河童は笑ってた。
「そんなもんさ。」
えっ!?って、思ったけど、まあ、別に河童がタバコを吸わないなんて一度も聞いた事ないし、何と無くこの方が妙に現実的だなって、妙に納得した。
「吸うかい?」
「タバコは、吸わないんで、大丈夫です。」
「なら、消した方がいいかな?」
「いえ、吸ってて構いませんよ。ありがとうございます。」
僕は本当は、愛煙家だ。でもこの場合、妙に緑で、煙まで妙に緑な何だかとても妙にキュウリっぽいタバコを吸いたくなかっただけだった。
「人間がこんな森の奥深くの沼まで来るなんて、いったいどんな事情なんだ?」
「・・・・・・・・・。」
こんな機会、滅多にないだろうから、頭の上の皿を触ってみたいけど、触ったら怒られるかな?
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
割ったら死ぬのかな?
「・・・・・・・・・まあ、言いたくないなら、別に深くは追求しないさ。」
「えっ!?ああ、何で僕がこんな所に来たかですよね?自殺です。」
「自殺!?」
ジュッ!って、河童が持ってるタバコを取り上げて、お皿にジュッ!ってしたら、激怒かな?死ぬかな?死んでしまうのかな?
「疲れちゃったんです。僕を取り巻く何もかもに・・・・・・・・・。」
「そうかい。」
あっ!!そうか!そうだったのか!河童がキュウリを好きだって解釈、間違ってたんだよ!
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
河童は、手にヒレがあるから、人間みたいに指の間に挟んでタバコを吸うって事が出来ないんだよ!だから、ああしてタバコを握って吸ってるんだよ!それがあたかもキュウリを食べてるかのように見えたんだよ!初めて見た人の勘違いだったんだよ!いや、でも待てよ?その光景を見てキュウリが好きだって思うには、あのあまりにもモクモクと立ち上る妙に緑色の煙りは、無視出来ないぞ?
「でも、やめました。自殺するの。」
「ん?」
ならやっぱり、キュウリが好きなのかな?聞いてみようかな?キュウリは大好物なんですか?って、聞いた方が早いよな?でも、怒られたらどうしよう。カパパー!!って、怒られたらどうしよう。カパパパパー!!って、怒られちゃったらどうしよう。
「何か、自殺したって、何かが解決される訳じゃないし、死んだって死ななくたって、どうせ何も変わらずいつもと同じなら、生きてて何かをまた一からやり直してもいいかなって、ただ単に生きてるってだけでも、それはそれでいいかなって。」
「ああ、そうだな。」
「それに・・・・・・・・・。」
「ん?」
・・・・・・・・・・・・・・・よし!
「大好物のキュウリをお腹一杯食べるって言う、幼い頃の夢もまだ叶ってませんしね。」
どう?どうなわけ?本当のとこ、どうなわけよ?
「なるほどな。」
だけ?それだけ?だったら俺の家に来いよ的な、キュウリなら腹一杯食わしてやるよ的な、丁度、今朝、俺が丹精込めて育てた上等なキュウリを収穫したとこなんだよ的な、お前ツイてるな的な、うまいぞ?家の嫁のキュウリづくし料理は的な、何なら今日は家に泊まってくか?的な、水中だから無理か!カパパパパ!的な、そんな答えを期待してたのに、まあでも、そんな僕自身があんまりキュウリを好きでもないから、それはそれで困るか。
「生きてれば、そのうち良い事だってあるさ。まあ、在り来たりな言葉だけどな。カパパパパ!」
「キュウリ、お腹一杯食べれるとか?」
「かもな?カパパパパパパパパ!!」
好きじゃないにせよ嫌いじゃないにせよ。大好物じゃないんだって事は、これでよーく分かった。なら、定説が一つ崩されたんならだよ?ありかな?
「ん?どうしたんだ?急に立ち上がったりして?」
イケるかな?
「もう、帰るのか?」
かかと落とし、イケるかな?
「ん?どうしたんだ?俺の頭に何か付いてるのか?」
「・・・・・・・・・。」
やるなら今だ!今しかない!河童が油断してる今しか!
「・・・・・・・・・。」
「おい?大丈夫か?気分でも悪くなったか?」
「・・・・・・・・・。」
ダメだ!僕には、かかとを落とす事が出来ない!僕の身勝手な好奇心で、お皿を割って本当に河童が死んじゃったら、この思った以上に優しい河童が死んじゃったらって考えたら、無理だ!
「いえ、ちょっと深呼吸をしようと思って、スー、ハー!うん!これぞ生きてるって実感です!」
「だな!カパパパパ!」
「よっこいしょっと。」
「人間、お前なかなか面白いな!カパパパパ!」
いや、河童。貴方の方がよっぽどだよ。よっぽど面白いよ。いや、面白過ぎるよ!でもたぶんこれって、初めて会ったってのもあるし、この何とも言えない幻想的な風景も手伝っての事もあるんだろうし、仮にもし、都会のど真ん中で河童に出会ったら、イラっと来るかもしれないな。いや、確実にイラっ!だな。
「人間!」
「はい?」
あれ?そう言えば?
「生きるってのは、難しいな。」
「ええ、とても。」
あんまり臭くない。てか、全く臭くない。
「でも、生きるってのは、楽しいな。」
「はい、とても。」
何かもっと河童って、生臭さ満載なのかと思ってたけど、川魚的な感じだと思ってたけど、無臭だ!
「だってよ。もし、生きてなきゃ、こうして俺とお前が話をするなんて、なかったんだからな。」
「そうですね。」
甲羅?甲羅がもしかして?超脱臭?超脱臭素材なの?そんな素材で出来てるの?だったら大発見だよ?これって、悪臭界に大革命だよ?
「生きるってのは、何が起こるか分からないもんだ。良い事も、悪い事も、な。」
「はい。」
聞く?聞いちゃう?本当は、凄く臭いんですか?って、物凄く臭いんですか?って、鼻がポロッと取れちゃうくらいですか?って、聞いちゃう?
「だから、面白い!」
「ですね。」
いや、無理だな。普通の人間に対しても聞けないもんな。河童になんて、とてもじゃないけど、無理だよな。きっと無臭なんだよ。そだよ!河童は元来、無臭なんだよ!河童が悪臭だって文献、読んだ事ないし、こればっかりは、僕の単独な思い込みだったんだよ!
「・・・・・・・・・。」
「ん?どうした?」
それにもう、河童があーだとか、こーだとか、何もかもどうだっていいや!僕が居て、横に河童が居て、僕らは会話をしてる。そこに何か余計な詮索なんて必要ない。必要ないんだよ。今を満喫すべきなんだ!
「楽しいですね!」
「ああ、楽しいな!」
「カパパパパ!」
「アハハハハ!」
河童が笑って、僕が笑って、僕が笑って、河童が笑って、笑って笑って、楽しくって、おかしくって、気付けば数時間も経ってた。
「カパパパパ!」
「アハハハハ!」
でも、それでいいじゃん!!
「あのう?」
「ん?もう行くのか?」
「はい。」
「そうか。」
「凄く楽しかったです!ありがとうございました!」
「俺もこんなに笑ったのは、久し振りだ!ありがとう!」
「じゃあ、僕は行きます。」
「気を付けてな。」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
僕は、河童に見送られ、来た道を戻り、気付けば見慣れた街並みの特別な日を彩る為のイルミネーションの風景を見ながら、人混みの日常の中、信号が変わるのをボーッと待ってた。

第百七十二話
「ところで河童って、卵で産まれてくんの?」

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