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2009年10月28日 (水)

「第百七十六話」

「銀行?」
「ええ、銀行へ直接流れるシステムになっているんですよ、これがね。」
そう言うと紹介所の男は、無機質に微笑んだ。
「システム?」
僕は、その斬新過ぎる程のシステムってヤツが、無性に気になった。
「両目に、簡単な手術を施すだけなんですよ、これがね。」
「手術!?」
簡単な手術だなんて、これまた随分と簡単に言ってくれるよ。
「この、超小型の謎のハイテクを埋め込むだけの、超簡単な手術なんですよ、これがね。」
そう言いながら出した紹介所の男の手のひらの上には、もう片方の手に持つ虫眼鏡がなければ小さ過ぎて見えない程の謎のハイテクらしき物があった。まあ、おそらく紹介所の男も、ハイテクについては、詳細を知らされてないんだろう。或いは知らされてたとしても、理解してないんだろう。
「保険は?」
「対象外なんですよ、これがね。」
「対象外!?仮に失敗したら、どうなるんです?」
「失明は、免れないでしょうね。」
「そんなにリスクが高いんですか?」
「そんなにリスクが高いもんなんですよ、これがね。」
やめよう。両目を犠牲にしてまで、お金が欲しい訳でもないし、僕はもっと、軽い感覚で、クラブ活動なノリで済むような事だって、甘く考えてた。うん、やめよう。そうしよう。
「ですが!」
そう固く心に誓った矢先、紹介所の男がグッと顔を近付けて来た。かなりビックリした僕は、思わず仰け反った。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
そして、よく分からない沈黙の時間が続いた。しかもよく見ると男の両目には、手術の痕がうっすらと確認出来た。
「で、ですが、何ですか?」
沈黙の時間に耐え切れなくなった僕が口を開くと、紹介所の男は、元の位置へと体を戻し、また無機質に微笑んだ。
「0%!なんですよ、これがね。」
「何が0%なんです?」
「手術の失敗する確率がなんですよ、これがね。」
鵜呑みにしろと?紹介所の人間が口にする逆に100%の成功率を誇る両目への謎のハイテク移植手術を鵜呑みにしろと?
「でもまあ、無理にオススメしません。ただ、このリストをご覧下さい。」
そう言って紹介所の男は、一枚の用紙を手渡して来た。
「こ、これは!?」
「ええ、手術を受けて巨万の富を得た人々なんですよ、これがね。」
そこには、名の知れた億万長者達の名前が、ズラリと載っていた。
「本当なんですか?」
「なら逆にお聞きしちゃいますが、貴方は巨万の富を得た彼等のアレを、ご覧になった事がありますか?無いんじゃないですか?」
確かに紹介所の男が言うように、僕は彼等のソレを、見た事がない。
「確かに見た事が無いですけど、それって単にタイミングとかって話になってくるんじゃないんですか?」
「単にタイミングとかって話になってこないんですよ、これがね。ほら、これご覧になっちゃって下さいよ。」
紹介所の男が次に手渡して来たのは、アルバムだった。中には、億万長者達の一連の謎のハイテク移植手術中の写真だった。
「ねっ?」
「・・・・・・・・・。」
「どうしました?ちょこっと写真が、グロ過ぎちゃいましたか?」
確かに写真は、グロくて、少し気分が悪くなった。でも僕は、考えたんだ。根本的な疑問を・・・・・・。
「なぜです?」
「なぜ?」
「だってそうでしょ?手術成功率100%!誰もが億万長者!ノーリスク!ハイリターン!こんなウマイ話があるなら、この国の人間全てが、いや、世界中の人間全てが億万長者だ!」
「いや、全てがそうなってしまうと銀行も機能しなくなってしまうんですけどね。」
まあ、そりゃそうだ。
「でも、貴方が言いたい事は、分かりますよ。どうして、こんなウマイ話が、こんな堂々と転がっているのに、多くの人々がそこに飛び付かないのか?って、とこですか?」
「はい。だいたい、そんなとこです。」
僕の答えを聞くと、紹介所の男は、得意の無機質な微笑みを見せた。
「答えは、簡単な事なんですよ、これがね。」
「簡単?」
「貴方が思っている以上の需要があり、それに対して、貴方が思っている以上の供給が無いだけなんですよ、これがね。」
「どう言う意味です?」
「つまり、大事なんですよ、これがね。」
「大事?」
「大切なんですよ、これがね。」
「大切?アレが?そんなまさか!?」
「そんなまさかは、ここに足を運んで来たマイノリティな貴方や紹介所の私の方なんですよ、これがね。」
「億万長者ですよ?」
「ええ。」
「涙と引き換えに、億万長者になれるんですよ?」
「それでも10割近くの人間が、涙を選ぶのが現実なんですよ、これがね。」
「それでも、アナタは!」
「もちろん私も、涙が出なくなって、後悔している人間の一人なんですよ、これがね。」
そう言って紹介所の男は、無機質に微笑んだ。

第百七十六話
「ナミダ買イマス」

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コメント

ナミダ売リマス(TоT)

投稿: mesopotamia | 2009年12月 5日 (土) 01時18分

では、オペの準備を・・・・・・

コメントありがとうなんですよ、これがね。

投稿: PYN | 2009年12月 5日 (土) 01時38分

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