« 「第百七十九話」 | トップページ | 「第百八十一話」 »

2009年11月25日 (水)

「第百八十話」

「食べんの?食べないの?」
「お姉ちゃん?」
「何よ!」
「何を?」

第百八十話
「マルゲリータ」

「パパとママは今日、結婚記念日で、2人きりのディナーに出掛けたの。」
「知ってる。だって、それって、僕とお姉ちゃんからのプレゼントだもん。」
「そう。お陰で、アタシ達の今月のおこずかいは、全てパーよ。でもまっ、パパとママが喜んでくれるなら、オールオッケー。うん、何も問題ないわ。」
「そうだね。」
「で、アタシ達は2人、寂しくディナーの時間って、わけ。」
「知ってる。」
「テーブルの上に新しいテーブルクロス。その上に、お皿とコップ、スプーンとフォークとナイフ。アタシ達は、いつも通り向かい合って座ってる。」
「うん。」
「でもどう?パパとママ達は、きっと今頃、メインディシュが目の前に運ばれようとしているってのに、何でアンタは、アタシの料理に手をつけようとしないの!食べる気ないわけ!」
「お姉ちゃん?」
「何よ!」
「だから、さっきから何回も言ってるけど、何を?」
「決まってるでしょ!ソノ何かをよ!」
「コノお皿の上に乗ってるヤツ?」
「当たり前でしょ!食べんだから、お皿の上に乗ってるヤツじゃない!それを何で、わざわざお皿の上に乗ってないヤツを食べんのよ!アンタ死にたいの!」
「・・・・・・・・・。」
「それといい?赤よ!お皿の上の赤いソレを食べんのよ!緑と黒のソレは、彩りのためだけだから、絶対に口に入れちゃダメよ!ちょっとなら?ちょっとだけなら?とかって、甘い考えは禁物よ!緑と黒のソレが赤いソレに触れないように、そ~っと食べるのよ!」
「うん、知ってる。その注意もお姉ちゃんから何回も言われたからね。」
「ええ、そうよ?アタシも5回目ぐらいまでは数えてたけど、今のでもう何回目かなんて、覚えてないわ。」
「このコップの中の何かも飲んだらダメなんでしょ?」
「そうよ。」
「絶対にコップに触ってもダメなんでしょ?」
「分かってるじゃない。いい?赤いソレは、物凄く喉が渇く!でも、パニックにならないで!いい?パニックは、ディナーの1番の敵よ!ならどうすればいい?この喉の渇き、いったい何で潤せばいい?雨を待つ?いいえ!雨を待つ間に、喉の渇きであの世にゴーだわ!雨はダメ!だったらどうすればいい?どうやって喉の渇きを?」
「スープ。」
「そう!スープよ!アタシ達には、この何かを!時間掛けて、グツグツコトコト煮込んだ透明なスープがある!これを飲んで喉の渇きを潤せばいい!それで、オールオッケー!うん、何の問題もないわ!」
「いくらなんでも、透明過ぎない?」
「ええ、そりゃあモチロン透明なスープですもん。透明過ぎるぐらいが、いいぐらいよ!」
「お姉ちゃん?でも、僕にはスープがあまりにも透明過ぎて、何も見えないよ。すくってもすくっても、何も滴り落ちないよ。ほら?」
「まったく、あまりにも透明なスープが美味しすぎて、一気に飲み干しちゃったのね?」
「違うよ。」
「はあ、やれやれ、お代わりが欲しいなら、素直にそう言えばいいのに!ほら、お皿貸して!」
「お姉ちゃん?」
「ほら!スープがなかったら、赤いソレの喉の渇きで、渇き死にしちゃうんだから、貸しなさいって!」
「お姉ちゃんっ!!」
「なっ!?何よ!?いきなり!?ビックリするじゃない!」
「お姉ちゃん!」
「何よって!」
「お姉ちゃん!!」
「だから!何よって!」
「何っ!何なのこのディナー!」
「ディナーよ!」
「ディナーじゃないよ!」
「はあ???どっから、どう見てもディナーじゃない。」
「こんなのディナーじゃないよ!」
「ふぅ~、何を言い出すのかと思ったら、やれやれね。」
「僕、嫌だよ!」
「あのね?いい?これから先、アンタは、なが~い人生を生きてくの。そしたらこの先、ず~っと、パパとママとアタシとアンタの4人で、ディナーを囲んでく事なんて不可能なの。自然と囲まない事の方が多くなってくの。それはもう、どうしようもない事なの。でも、泣かなくていいわ。」
「泣いてないよ。」
「大丈夫、安心して、アンタにもそのうち家族が出来て、幸せにディナーのテーブルを囲む素敵な毎日がやって来るわ!そして、アンタの子供達もいつの日か、結婚記念日の夜に、アタシ達と同じような事をして、アンタと同じような事を想うはずよ。こうして、ディナーってのは受け継がれていくモノなの。ねっ?だからもう泣くのはやめて、ディナーを食べましょ!」
「だから、僕は泣いてないって!」
「あそうっ。うん、それは良かったわ。なら、ディナーを食べましょ!」
「食べないよ!食べないよって言うか!食べれないよ!お姉ちゃん!」
「何よ!」
「お姉ちゃんは、いったい何を作ったの?この赤や緑や黒や・・・・・・ああもう!この色とりどりなお皿やテーブルの上にいっぱいある何かは、何っ!!食べたら死ぬとか、飲んだら死ぬとか、触っただけでも死ぬとか!ディナーって、そんなに死と隣り合わせなもんじゃないよ!!」
「・・・・・・・・・。」
「な、何だよ。急に顔近付けたりして、何?」
「いい?ディナーは、死と隣り合わせなの。」
「そんなわけないだろ!」
「そんなわけ、あるの。」
「だったら、お姉ちゃんから先にソノ赤いヤツを食べればいいじゃないか!何で僕にばっかり進めるんだよ!何これ?斬新な殺人ゲーム?」
「やれやれ、アンタ、つまんない小説の読みすぎなんじゃない?殺人ゲームですって?バカバカしい。んなわけないでしょ?アタシがアンタを殺して、いったい何のメリットがあるのよ。」
「だったら、ほら!早く赤いソレを食べてよ!お姉ちゃんが赤いソレを食べて、ソノ透明なスープで喉の渇きを潤したとこを見たら、僕も食べるよ!」
「分かったわよ!よ~く見ときなさいよ!」
「うん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「お姉ちゃん?」
「何よ!今から食べんだから、話し掛けないでよ!赤いソレが緑と黒のソレに触れたらどうすんのよ!」
「フォークとナイフを持つ手、震えてるよ?」
「ああーっ!もう!うるさいわねっ!集中出来ないじゃない!それとも何?アンタは、アタシを殺す気なわけ?」
「殺す気なんてないよ。ただ僕は?」
「ただ何よ!」
「ピザでも注文しない?って、思っただけだよ。」
「それも悪くないかもね。うん、何も問題ないわ。」

|

« 「第百七十九話」 | トップページ | 「第百八十一話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/32069247

この記事へのトラックバック一覧です: 「第百八十話」:

« 「第百七十九話」 | トップページ | 「第百八十一話」 »