« 「第百八十三話」 | トップページ | 「第百八十五話」 »

2009年12月23日 (水)

「第百八十四話」

 小学生の息子が風邪で学校を休んだ。だから私は、息子の為に台所で、昼食用のお粥を作っていた。私がお鍋の中のお粥の出来具合を覗いていると、背後に人の気配を感じた。
「・・・・・・・・・。」
息子?いえ、息子じゃない。それは、気配で分かる。じゃあ、いったい誰?私は、深く一度呼吸をして、お鍋の火を止めると同時に振り向いた。
「貴方、誰!?」
目の前には、中年の男が立っていた。
「私?私は」
「強盗!?強盗ね!?」
「ちょ、ちょっと奥さん落ち着いてく」
「そうよ強盗よ!強盗に決まってるわ!強盗じゃなきゃ!この状況、逆におかしいもの!」
「奥さん、どうか落ち着いて下さい。私は」
「お金なら渡すわ!アクセサリーも、テレビも、服も、お粥も、何でも好きな物を上げるわ!だから、殺さんっんんー!んん!?」
「シィィィィィィ!!」
私は、男に口を手でガバってやられた。きっと殺される!そうよ!私は殺されるのよ!待って!違う!私はいい!私は殺されたって構わない!でも、息子は!息子は絶対に殺させない!私が命に変えても守る!
「ガブッ!!」
「いたーいっ!」
ざまあみろ!強盗野郎!手を噛んでやったわ!でも、どうする?どうすればこの強盗を?
「奥さん!何て事をするんですか!」
「人の家へ強盗に入って来て、何て事をするって、何て事言ってんのよ!」
「だから、私は強盗ではないんですよ。」
「黙れ強盗!」
どうする?どうすればいい?考えるのよ!早く考えるのよ!早く!早く!早く早く早く!
「奥さん!私の事を強盗だと思うのも、その強盗の私から息子さんを守ろうと策を考えるのも勝手です!しかし、奥さんが今やるべき事は、そんな事ではないはずです!風邪を引いた息子さんに、お粥を作って持って行って上げる事でしょう!」
「ええ、そうよ!お粥を・・・・・・って、ちょっと待ってよ!どうして強盗がそれを知ってるのよ!?」
「やれやれ、自己紹介まで随分と時間が掛かってしまいましたね。私は、こういった者です。」
そう言って男は、背広の内ポケットから名刺を差し出した。
「お粥大臣?」
「いえ、奥さん。お粥大臣です。」
「いや、そう言ったつもりだったんですけどね。で、そのお粥大臣が、私にいったい何の用なんです?」
「まあ、正確には、お粥大臣なんですが、この際、奥さんのそれは、それで良しとしておきましょか。」
「どの際?ねぇ?イントネーションから文字数まで見事に一致してるのに、ねぇ?どの際?」
「奥さん!」
「はい?」
「サイの話など、今はどうでもいいんです!」
「してませんけど!サイの話なんてしていませんけど!際の話はしましたけどね!ねぇっ!」
「そもそも、お粥と言うのはですね。」
「無視かよ!おいっ!結構、顔近めで、声おっきめなのに、無視かよ!」
「なんですよ!」
「言ってないからな!お前なんか私が、無視かよって顔近めで、声おっきめで言ってる間に、何だかお粥の話をしていたみたいな風になってっけど!そんなの一切してないかんな!」
「奥さん!」
「何っ!」
「だから、今はサイの話など、どうでもいいんですよ!」
「過敏か!言葉のさいの部分気になっちゃうアレルギーか!」
「違います。」
「分かってらぁっ!おちゃらけただけ!おちゃらけてみただけ!」
「やれやれ。」
「それは、私の台詞だよ。まったく!でだから、お粥大臣が来た理由を教えて欲しい訳よ。」
「そんなもん1つしかありませんよ。因みに私は、お粥大臣ですけど、まあいいですよ。」
「なら、いいじゃん!えっ?もしかして、お粥を作ってたからって事?」
「その通りです!」
「はあ?」
「何か問題でも?」
「いや、それを聞かれたらいろいろと問題だらけですけどね。あえて言わしてもらうなら、前のお粥の時には、いらっしゃらなかったですよね?」
「私?」
「ええ、貴方。」
「因みに、奥さんが前にお粥を作られたのは、いつ頃ですか?」
「そうねぇ?一年以上前になるかしら?」
「だったらそれ、私じゃないですよ。」
「はい?」
「だって私が、お粥大臣に任命されたのは、三ヶ月前ですから、それはきっと前お粥大臣ですね。まあでも、前お粥大臣がそんなお粥大臣だったから、新たなお粥大臣として、私がお粥大臣に任命されたんですけどね。あ、そうそう!前お粥大臣と言えばこんな話があるんですよ。」
「ちょっと?」
「私がね。ダンスホールで仲間とメガネの位置の調度いい位置談義に花を咲かせてた時なんですけどね。」
「お粥大臣さん?」
「そこに調度、前お粥大臣がツーステップでやって来たんですよ。いつものあの格好でですよ!」
「お粥大臣さんって!」
「で、メガネ談義仲間の一人が、そんな前お粥大臣を見てこう言ったんですよ!ここは、サーカスかってね!」
「お粥の大臣!!」
「で、私がそれに対してこう言ってやったんですよ。あ、そうそう!サーカスと言えばこんな話があるんだよ!ってね。で、サーカスの話なんですけどね。」
「シャラーップ!!」
「えっ?奥さん、今はサイの話なんてしていませんけど?」
「ミートゥ!!よし分かった!よーし分かった!よーしよしよしよし分かった!長くなっけど!始めっから、ちゃーんとツッコミ入れてこうじゃないか!あったぁ来た!!えっ?何?ダンスホールでメガネの調度いい位置談義?メガネ談義仲間?結構じゃないか!いいじゃないか!どこでメガネの調度いい位置談義に花を咲かせてもらったって、だーれも文句は言わないよ!でもお前、メガネ掛けてねーじゃん!調度いい位置を探す意味分からないじゃん!で?何?前お粥大臣がツーステップでいつものあの格好で来た?それを見た仲間がサーカス?知らねーし!前お粥大臣のいつも、知らねーし!それから何て言った?サーカスと言えばこんな話があるんだよって?普通さぁ。聞いてる方がちょくちょく話を止めてる話の流れがあったらさぁ。話を中断するんじゃないの?何がっつり話しちゃってんの?で、何で次の話題に行こうとしてんだよ!思い出し話の中で更に思い出し話してんだっつってんの!それから最後!どうしてわざわざサイの話にならないように、うるさいをシャラップって言ってんのにだよ?何勝手に訳してんの!!てか、だからお粥大臣って何なのよ!!」
「えっ?」
「聞いとけーっ!!耳ホジホジって!この流れで、その流れって!ベタベタか、お前は!」
「お粥だけにね!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・ちょっと?」
「あれ?」
「あれ?じゃないわよ。自信満々に何してんの?」
「あら?」
「あら?じゃないわよ。いい加減にしろ!なんてツッコミ、しないわよ?」
「奥さん?」
「何よ!」
「ふざけてないで、早くお粥を作って息子さんに食べさせて上げましょうよ。ほら、美味しいお粥がちゃんと作れるように、お粥大臣の私がこうして後ろから見守っていて差し上げますから、さあ!大船に乗ったつもりで!さあさあ!」
「えっ?あっ、はい。じゃあ、宜しくお願いします。でも助かるわー。こうして、お粥大臣さんに見守っててもらえるとって、こんにゃろー!!」
「熱っ!ちょ、奥さん!熱っ熱っ!ダメですよ!熱っ!お粥で暴力は!熱っ熱っ!奥さんって!熱っ!」
「うるさいっ!!」
「だから、何度も言うようにサあっづーっ!!!!」

第百八十四話
「風邪を引いた時に
    頑張って書いた話です」

|

« 「第百八十三話」 | トップページ | 「第百八十五話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/32459487

この記事へのトラックバック一覧です: 「第百八十四話」:

« 「第百八十三話」 | トップページ | 「第百八十五話」 »