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2009年12月 2日 (水)

「第百八十一話」

「さあ、主の部屋へどうぞ。御案内致します。」
どうして僕が?どうしてこんな大きな屋敷に?事の始まりは、一週間前に遡る。その日は、いつもの朝だった。大学への進学を考えていた僕は、この最後の夏休みを有効利用するために、予定のない日は全て図書館で過ごそうと決めていた。洗顔を終えて、朝食を済ませて、部屋で着替えをしながら図書館へ行く用意をしていた時、異変に気付いた。
「えっ?」
全身を映す鏡の中の自分は、いつもの自分じゃなかった。簡単に言うなら、映画や漫画の主人公が、ある日突然、何かの特殊能力に目覚める。僕の身に起きている事も、まさにそれと同じだった。伸縮自在で変幻自在、まさに自由自在だった。しばらく鏡の中の自分で、遊んでみたりしていた。だが、僕の身に付けた特殊能力なんて、到底、世界を救えるようなもんじゃない。現実は、映画や漫画みたいに、上手くは回転していないんだ。数分の無駄な時間を過ごして僕は、図書館へ出掛けた。
「夢じゃなかったか。」
特殊能力の事をすっかり忘れて図書館で一日を過ごした次の日、鏡の前で僕は、改めて昨日の出来事が現実だったんだって実感した。
「やれやれ。」
まあ、ただそれだけだった。
「やっべ!」
時計を見ると、彼女との水族館デートに行く待ち合わせ時間がギリギリだった。僕の特殊能力で、どうやって世界を救おうか?そんな暗闇で胡麻を拾うような事をしている暇なんてなかった。彼女の機嫌を損ねない方が、よっぽど平和への第一歩だ。もちろん、特殊能力の事を彼女に言うつもりはなかった。嫌われるかもしれない確率が高い事を、あえて言う必要がなかったからだ。そのあとの数日も図書館で過ごしたり、彼女の買い物に付き合ったり、特殊能力の事なんて、頭の隅っこに放置しながら過ごしていた。
「お客さんよー!」
今日も図書館で一日を過ごそうと部屋で用意をしていると、一階から母親の声が聞こえて来た。
「お客さん?僕に?」
この時、父親と姉は、会社で家にはいなかった。中学生の弟も昼食を急いで食べて、急いで出掛けて行った。そう、必然的に母親がお客さんだと言うそのお客さんは、僕のお客さんって事だ。
「誰だろう?」
僕は、疑問に思いながら、階段を下りて玄関へ向かった。
「遅いじゃない!」
「えっ?ああ。」
「すいませんね。」
母親は、そう言うと、僕のお客さんに頭を素早く数回下げ、昼食の後片付けがあると言い残し、台所へ行ってしまった。玄関には、僕と見知らぬ老紳士が残された。
「はじめまして。」
「えっ?ああ、はじめまして。」
そう、はじめまして、だった。別に僕が、どこかでこの老紳士の命を救った訳でもなく、まるで、はじめましてだった。
「あのう?どちら様・・・・・・ですか?」
「貴方様を御迎えに伺った者です。」
「はい?」
「貴方様が、わたくしの詳細を知るなど、何ら重要な事ではありません。重要なのは、貴方様がわたくしの主に御会いになる事なのです。さあ、御車の方へ、どうぞ。」
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい!僕には、何が何だかさっぱりなんですけど!僕と、その人と、いったいどう関係あるって言うんですか?」
「特殊能力・・・・・・・・・。」
「えっ!?」
「御理解なさってもらえたでしょうか?」
「理解って、どうしてその事を知っているんですか!?」
「その御質問は、主になさってはいかがでしょうか?わたくしはただ、貴方様を御連れしろとだけ、言われていますので。」
そして僕は、老紳士が運転する立派な車に乗り、主の元へと向かった。僕の特殊能力が関係しているのは、間違いない。なぜ、僕に特殊能力が備わった事を知っているのか?凄く気になった。でも、それ以上に僕の中では、僕の特殊能力が、この世界を救おうとするかのようなこの得体の知れない緊迫感と、いったいどう関係していくのか?その好奇心が上回っていた。
「・・・・・・・・・ん?」
どれぐらい走ったのだろう?いつの間にか僕は、心地好いシートに包まれて眠っていたようだ。気付くと車は止まっていて、窓の外には大きな屋敷がそびえ立っていた。
「す、凄い!」
ただただ、それだけだった。他に思い当たる言葉が見付からないほど、屋敷は凄かった。
「ん?」
そう言えば、運転していたはずの老紳士がいない。僕がそう思った瞬間、後部座席のドアが開き、そこにはさっきの老紳士が立っていた。
「気持ち良さそうに眠っておられたので、起こすのも無粋かと思いまして。」
「はあ、すいません。」
数分毎に老紳士が僕の様子を伺いに来ていたのでは?なんて考えたら、僕は何だか照れ臭くなってしまった。
「さあ、主の部屋へどうぞ。御案内致します。」
これまでの事を頭の中で断片的に整理しながら、僕は豪華絢爛の屋敷の中を老紳士に案内されながら、歩いていた。
「主が御待ちです。」
一際大きくて豪華な扉の前で老紳士は立ち止まり、観音開きのその扉の片方の取っ手を両手で開け始めた。重低音を響かせながら、扉は徐々に開いていく。いよいよだ。いよいよ話は、核心へ動き出す。
「御入り下さい。」
「ああ、はい。」
想像通りの広い部屋だけど、想像以上に汚い部屋だった。いや、汚いと言うか、無数の本が散らかり放題、散らかっている。見渡す限り本棚の部屋。ここは主の部屋ではなく、きっと屋敷の図書館のような場所なんだろう。
「やあ!」
「うわっ!?」
突然、目の前の本の山の中から、眼鏡を掛けた小太りの男が飛び出した。おそらく、主に違いない。でも、髪はボサボサで服装も何だかなって感じで、どうもここの空間とこの人物だけ、屋敷から浮いていた。
「よく来たね。う~ん?まっ!あの辺に座って話でもしようじゃないか。」
「は、はあ。」
主が指差す部屋の真ん中には、やっぱり本が山積みで、床を埋め尽くしていた。
「それでは、わたくしはこの辺で失礼致します。」
「うん。ご苦労さん!」
「御ゆっくりと、御楽しみ下さいませ。」
「どうも。」
そう言って僕にお辞儀をすると、老紳士は扉を閉めて立ち去った。僕は、主と共に部屋の真ん中に向かい、案の定、本の上に向かい合って座る事になった。
「あのう?」
「あっ、ちょっと待って、いろいろ君も聞きたい事が山積みだろうけどさ。ここはスピーディーに話を進めようじゃないか。つまり、結論から先に言わしてって事~!山積みは、そのあとあと~!」
何て掴みきれないペースの持ち主なんだ。やっぱりこれぐらいの屋敷の持ち主ともなると、計り知れないぐらいな強引グマイウェイの持ち主でもあるのかな?
「分かりました。」
「うん!君のその特殊能力で、世界を救ってみないかい?」
まさかの展開と言うか?少しだけ僕が期待していた展開と言うか?だからって、やっぱり僕には、山積みの山積みが、更に山積まれただけだった。
「無理です。」
「無理?なぜ?」
主がそれを本気で言っているんだとしたら、それは逆に今もどこかで世界を救うために悪と戦っているヒーローへの冒涜だと思う。
「僕の特殊能力の事、ご存知なんですよね?」
「もっちろんじゃないか!」
「それなら。」
「伸縮自在で変幻自在で、自由自在に扱える特殊能力!」
「鼻毛をです!」
「鼻毛をだよ!」
「鼻毛を伸縮自在に!鼻毛を変幻自在に!鼻毛を自由自在に!鼻毛を扱えるからって!世界のいったい何が救えるって言うんですか!」
「救えるさ。」
「世界のいったいどんな部分が救えるって言うんですか!」
「いろいろな部分だよ。」
「僕をからかわないで下さい!」
「からかってなんてないさ。」
「僕は、お金持ちの道楽に付き合っているほど暇じゃないんです!」
「ミラクル鼻毛ボンバー!」
「なっ!?」
「どう?このネーミング?良くなくなくはないだろ?」
「・・・・・・・・・まあ、ネーミングはそうですけど・・・・・・でも!こんな特殊能力で、いったいどうやって世界を救えるんだって気持ちに、変わりはありません!」
「君の鼻毛はね。君が思っている以上に、むっげんダイっ!!の可能性を秘めているんだよ!」
「無限大?」
不思議そうに主を見る僕を見て主は、鼻毛ソードに鼻毛ランス、鼻毛ドリルに鼻毛ブーメラン、鼻毛ウイングに鼻毛ホッピング、鼻毛分身に鼻毛変身と、無数の鼻毛アイデアを朝になるまで、いや、朝になっても尽きる事なく話し続けた。
「あとはね!」
「分かりました!」
「分かってくれたか!」
こうして僕は、あの日目覚めた特殊能力を使って、世界を救う事になった。

第百八十一話
「次週っ!
今明かされる!?もう1つのミラクル鼻毛ボンバーズ誕生秘話!!」

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コメント

せ、先生っ!
スポンサーのリンクがゴミ屋敷になっちゃってますが
鼻毛ソードかなにかでどうにかなりますか???

投稿: relsma2a | 2009年12月 5日 (土) 00時12分

大丈夫です!
鼻毛ファイヤーで一発です!
もしくは、ダイソン鼻毛で鼻毛バキューム!!

コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2009年12月 5日 (土) 00時39分

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