« 「第百八十四話」 | トップページ | 「第百八十六話」 »

2009年12月30日 (水)

「第百八十五話」

『殺人鬼と盲目少女』

 ある風のとても強い日の夜中の出来事。少女がベッドでグッスリ眠っていると、不意に訪れた不気味な気配で目を覚ます。上半身をお越し気配の方に顔を向けると、そこには男が立っていた。男の右手には、銃が握られ、男は少女に自分は殺人鬼だと言った。
「・・・・・・・・・?」
少女は、首を傾げながら殺人鬼を見ていた。だから、男も首を傾げながら、こう言った。
「怖くないのか?」
「ええ、怖くないわ。」
「なぜだ?」
「目が見えないから。」
「なるほど。」
そう言って男は、持っていた銃をしまった。

『余命15分の男と余命14分50秒の女』

 部屋には、男と女がいる。
「何なのよこれ!」
「俺が知るかよ!」
男も女も首に鉄のワッカをくくり付けられ、ギリギリで床に足が付く高さで、ギリギリお互いの体に手が届く距離で、天井から吊るされている。
「ふざけないでよ!」
「だから、俺に言うなって!」
鉄のワッカには、デシタルで無機質なカウントダウンが開始されている。男は15:00で、女は14:50。
「どうなってるのよ!」
「だから、俺が知るかよ!」
何かを言い争ってる場合じゃない事は、お互いに分かっていたが、何かを言い争ってなければ正気を保てない事も分かっていた。壁に貼られているメモ用紙に書かれたルールを簡単に説明すると、足元にある解毒剤を手に入れるには、鍵で鉄のワッカを外さなければならない。
「どうすればいいのよ!」
「今、考えてんだろ!」
鍵は、男と女の互いの胃の中に、互いの物が入っている。
「死にたくないわ!」
「俺だって死にたくない!」
助かるには、手に握っているナイフで、胃の中の鍵を取り出さなければならない。そうなると必然的に、助かるのは1人だけだ。果たしてそれは、男か?女か?
「誰か助けてー!!」
「助けてくれー!!」
ゲームは、始まったばかりだ。

『殺人鬼と盲目少女』

 しばらく沈黙が続き、少女が口を開いた。
「眠れないの。何かお話をしてくれない?」
男は、頭を掻き、少女のベッドに近付き、床に膝を付いて、こう言った。
「いいだろう。」
少女は、微笑んだ。

『絶対悪と絶対善』

 悪が蠢くこの町にも、善はいた。オートマチックに無線から流れ込んで来る不愉快なエピソードを聞きながら、彼は現場へとやって来た。
「やれやれ。」
彼以外、まだ現場には、誰も来ていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
彼は、無言で銃を手にし、悪が蠢く家を見つめながら、吐き気と戦っていた。この手の通報に耳を傾ける物好きな警察の人間は、この町にはおそらく彼ぐらいなもんだろう。
「・・・・・・さてと、行くか。」
来るはずもない応援を少しだけ待ってみた彼は、銃をしまうと、車を出てゆっくりと周囲を見渡しながら、不愉快な家のドアの前までやって来た。
「さあて、何が出るかな?」
とは言ったものの、彼には分かっていた。結局、この死の臭いが漂う家で出会う結末は、吐き気の元凶となる悪か、その悪が残した理不尽な死の痕跡のどちらかだと言う事を、或いはそのどちら共に遭遇する可能性があると言う事を・・・・・・。と一瞬、脳裏にいつもの考えが過ったが、短く息を吐き出すと
「バタン!!」
おもいっきりドアを蹴破った。

『余命8分の男と余命7分50秒の女』

 数分前から、女は酷く興奮していた。
「やるしかないわ!」
「何だって?」
「やるしかなのよ!」
「馬鹿言うな!」
「アナタ、正気?」
「お前こそ正気か?胃を切り裂いて、鍵を取り出すんだぞ?」
「分かってるわよ!だからアナタ、アタシの為に死んでよ!」
「ふざけんな!」
「ふざけてないわ!アナタは、アタシより10秒も長く生きられる!アタシが死んだ後に鍵を取り出そうとしてるから、そんな風に言うのよ!」
「おいおいおい、待て待て待て、10秒だぞ!たったの10秒だぞ!10秒で出来るわけないだろ!」
「このまま2人とも死んだら、あの子の面倒は、いったい誰が見るのよ!母親のアタシが生きてた方がいいに決まってるわ!」
「ちょっと待て!それなら俺が生き延びた方が経済的にもいいだろ!」
「経済的ですって!そんな事をよく言えたものね!これはきっとチャンスなのよ!神が与えてくれたチャンスなのよ!」
「何のチャンスだ!頭がおかしくなったのか?考えてもみろ?さっきから俺達が騒いでるってのに、あの子は来ない。普通に考えたら、もうあの子は、先に向こうの世界へ行っちまったんだよ。」
「そんな!?」
「とにかく俺は、2人ともが助かる方法を探す!いいな?それから!お前が俺を殺そうとしたら!その時は、俺がお前を殺す!分かったな?」
「だったら早く探」
「バタン!!」
「何?何なの今の音?」
「もしかしたら、誰かが助けに来たのかもしれないぞ!おーい!!」
「ここよー!!ここにいるわー!!」

『殺人鬼と盲目少女』

「それでそれで!」
「いつになったら寝てくれるんだ?」
「それで?正義のヒーローは、どうなっちゃったの?」
「殺された。」
「誰に?」
「俺にだよ。」
「バタン!!」
「ん?」
「なーに?今の音?」
「さあな?」

『余命3分の男と余命2分50秒の女』

 男は、酷く興奮していた。
「ふざけんなバカヤロー!!テメーぶっ殺してやるからなー!!」
「もう、やるしかないわ。やるしかない。やるしかないやるしかないやるしかないやるしかないのよー!!!」
「このクソ女!!」
「死ねー!!!」
女は、ナイフで男に襲い掛かった。

『盲目少女と殺人鬼』

「聞いてもいいか?」
「うん!」
「なぜ、大声で助けを呼ばないんだ?パパかママが、或いは2人が助けに来てくれるかもしれないぞ?」
「来ないわ!」
「どうして分かる?」
「アタシの目、見えなくなったのって、パパの虐待が原因で、ママの見てみぬフリが理由なの。」
「見てみぬフリか。だから、助けに来ないのか?」
「そう。それに、もう殺人鬼さんが、殺しちゃってるかもしれないしね!」
「なるほど。」

『絶対悪と絶対悪』

 彼は、声のする2階の寝室へ一直線に向かった。そして、ゆっくりとドアを開け、隙間から中の様子を伺った。
「どうなってんだ?」
そこには、天井から吊るされている男女の姿があった。彼は、そのままゆっくりとドアを開け、部屋の中に入った。
「アンタ、警察の人か?」
「ああ、そうだ。」
「助かったわ!ねぇ!早く私達を助けて!」
「その前に聞きたいんだが?」
「ちょっと!先に助けなさいよ!」
「ダメだ。まずは、俺の質問に答えてもらう。」
「時間がないんだよ!」
「そのようだな。で、どっちなんだ?それとも2人ともか?」
「何言ってるのか分からないわ!」
「いいから助けろ!!」
「娘を虐待しているのは、誰なんだと聞いてるんだ!!」
「何を言ってるのよ!」
「そんな事より俺達は、殺されそうなんだよ!!」
「正直に話してくれたら、2人とも助けよう。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「さあ?娘を虐待してるのは、どっちなんだ?」
「・・・・・・この人よ!」
「お、おい!」
「この人のせいで、あの子は、視力を失ったの!」
「虐待は日常的に行われてたのか?」
「ああ、そうだよ!だがな!この女も同罪だ!いつもいつも見てみぬフリをしてたんだからな!」
「そうよ!アタシは、見てみぬフリをした!あの子が虐待されてるのを知ってて見てみぬフリをした!そうすればアタシは、何もされずに済むから!分かった!!」
「ああ、よく分かったよ。じゃあな。」
そう言うと彼は、ドアの方へ振り返り、ゆっくりと歩き出した。
「おい、冗談だろ?」
「どこ行くのよ!」
「俺も見てみぬフリをしよう。」
「おい!それでも警察か!!」
「早く助けてー!!」
「俺はもう、刑事じゃない。」
「何を言ってんだ!」
「早く助けなさいよ!」
「善は悪に殺されたんだよ。」
「お、おい!?ちょっと待ってくれ!」
「お願い行かないでー!!」
「バタン!!」
「ふざけんなバカヤロー!!テメーぶっ殺してやるからなー!!」
「もう、やるしかないわ。やるしかない。やるしかないやるしかないやるしかないやるしかないのよー!!!」
「このクソ女!!」
「死ねー!!!」

『嘘と嘘』

「ねぇ?殺人鬼さん?」
「何だ?」
「本当は、刑事さんなんでしょ?」
「バタン!!」
「今のは、パパか?あの仕掛けは、単純だ。時間が来たら、首のロックが外れる。ただそれだけの単純な仕掛けだ。冷静に観察すれば、すぐに子供騙しだって分かる。毒も嘘、解毒剤も胃の中の鍵も嘘。だが、目を覚ましてあの状況、そして壁に貼り付いたゲームのルールを目にしたらどうだ?たちまち人は、パニックに陥る。思い込みに支配されてしまう。」
「何の事?」
「この町で虐待を受けてるだなんて通報に、いちいち耳を傾ける警察の人間なんていない。ましてやそれが、子供からの通報だとしたら、尚更だ。」
「悲しいわね。」
「俺も同感だ。」
「でも、ここに居たわ。」
「俺はもう、刑事じゃない。助けられる命を助けなかった。だから俺はもう、刑事じゃない。」
「残念だわ。」
「それとここからは、俺の独り言だと思って聞いてくれ。」
「ええ。」
「たまたま無線を聞いた刑事が、たまたま入った家で、たまたま両親が死にかけていた。ここで疑問が?実に単純な疑問だ。誰もが一番最初にぶち当たる疑問だ。犯人は、誰か?家には、盲目の少女しか居ない。俺以外のお人好しが、俺よりも前にこの家にたまたま寄り道をして、たまたま持ってた道具で、たまたまお仕置きをして立ち去ったとも考えられる。だが、こうも考えられる。」
「・・・・・・・・・。」
「ベッドにいる盲目の少女は、果たして本当に盲目なのか?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「面白い独り言ね!」
「ああ、独り言だ。気にするな。さあ、もう話は終わりだ。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
そして男は、立ち去り、そして少女は、眠りについた。

第百八十五話
「刑事と少女」

|

« 「第百八十四話」 | トップページ | 「第百八十六話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/32459492

この記事へのトラックバック一覧です: 「第百八十五話」:

« 「第百八十四話」 | トップページ | 「第百八十六話」 »