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2010年1月

2010年1月 6日 (水)

「第百八十六話」

「えっ!?」
僕は、ある家の前で、あまりの驚愕具合に、思わず自転車を止めてしまった。
「う、うう、ううう、嘘だろ?」
そう呟きながら自転車を降りた僕は『ご自由にお持ち下さい』と書かれたダンボールへ近付いて行った。
「あのう?」
そして、そのダンボールの中に、ちょこんと体育座りな、おじいさんに話し掛けた。
「まさかですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「まさかのまさかですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「まさかのまさかのまかさっ痛っ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕の舌を噛んだ問い掛けに、おじいさんは無言で空を見上げているだけだった。息もしているし、瞬きもしている。僕の乏しい医学知識を持ってしても分かる。間違いなくダンボールの中のおじいさんは、人形でもなければ、死んでいる訳でもないんだって事が。
「あのう?こんな所に居たら、風邪引きますよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
天気予報で今日は、今年一番の冷え込み具合だって言っていたし、夜遅くからは、雨が強い具合に降るって言っていた。いや実際、おじいさんに対して、風邪引きますよ?と言ってみたものの、防寒具的にブリーフのみ具合の出で立ちを見ていると、もう時既に遅し、風邪を引いている可能性も否め切れない。
「すいませーん!」
僕は、とりあえずこの家の住人にいろいろと話を聞いてみようと思った。
「すいませーん!」
がしかし、まるで反応がなかった。
「どなたか居ませんかー!」
僕は、失礼ながらも緊急事態って事もあり、窓を覗き込んだ。けど、家の中は生活感が漂ってはいるものの人の気配は、さ迷っていなかった。
「家の人は、居ないんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ダメ元で、おじいさんに尋ねてみたけど、ダメだった。肩を揺すってみたけど、全体的にガクンガクン具合が凄くて、今にも壊れそうだったからやめた。
「・・・・・・・・・ん?」
ここで僕は、何かを閃いた。
「いや、待てよ?」
例えばだよ?そうこれって例えばだよ?例えば、おじいさんがこの家のおじいさんじゃなくて、別の家のおじいさんだとしたら?
「どうなる?」
おじいさんは、街をさ迷ってさ迷って、さ迷い続けて疲れて、ジャストフィットするダンボールを見付けて、休んでいるだけだとしたら?
「おじいさん?名前は何て言うんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
時に人は、人は時に、同じ過ちを何度も繰り返す。ほら、間違った文字を消して、また、今さっき間違った文字を書いてしまう具合にさ。それを数回繰り返してしまう具合にさ。この世に完璧な人間なんて存在しない。例えば、この世に完璧な人間が存在しているとしたら、それは人間じゃない。でも僕は、誓うよ。もう二度と、返事をしないおじいさんに尋ねないってね。
「文字?」
その時、そうその時、僕はブリーフに書かれている文字を発見した。そこに書かれていた文字は、この家の表札に書かれている文字と、妙にジャストフィットだった。つまりそれは、それはつまり、ダンボールの中でちょこんと体育座りな、おじいさんは間違いなくこの家の住人だって具合にだ。
「よっこいしょ!」
だったら話は、話はだったら、早い具合に早い。僕は、おじいさんをダンボールから自転車のカゴの中へとちょこんと移し、そのまま家へと、ご自由にお持ち帰った。
「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」
えっ?ご自由にお持ち帰ったおじいさんは、どうしたかって?所々、ガタが来てたけど、もちろんこうして、冷蔵庫兼洗濯機として活躍中だよ。そうそう、来月には、オーディオとしても活躍してもらおうかなって考えている具合さ。

第百八十六話
「家電おじいさん」

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2010年1月13日 (水)

「第百八十七話」

 その店は、物凄く右にある。物凄く右にさ。
「マスター?」
「はい?」
「無いの?」
「ええ。」
「無いんだ。」
「無いんです。」

第百八十七話
「右屋」

去年の秋ぐらいから始まった右不足は、今年に入って回復するかのように思えたが、急速に加速して行った。これが所謂、世界的大右不足さ。連日ニュース番組では、各国首脳による右不足解消をテーマにした右会議の様子が流れていた。右会議と銘打ってはいるが、実際にはどうだろう?観るも無惨、聞くも無惨、に左ばっかりってのが現状さ。大都市にすら右が出回らないこのご時世、私が住む町になど、いったいいつになったら右が出回るのか?全く知れたもんじゃないさ。
「無い?」
「見ての通り、店内はもぬけの殻ですよ。この右不足のご時世です。お客さんの期待に答える事は、逆立ちしたって出来ませんよ。」
「マスター?」
「はい?」
「じゃ、何で店を開けてるのさ?店が開いてたらさ。あると思うじゃない。ああ、右が売ってるんだなって、思っちゃうじゃない。」
「すいません。しかし、アタシもこの道一筋で50年やってまして、いくら右が不足しているからと言って、800年代々続くこの店を開けない訳にはいかないんです。」
「いや、本末転倒でしょうそれって!右が無い右屋なんて、ベンジャミンの無い歯磨き屋みたいなもんだよ?店を開けててどうするのさ。」
「頭では、分かってはいるんですけどね。アタシみたいな古いタイプの人間は、どうもいけませんね。」
「私も商売人だからさ。まあ、マスターの気持ちは分からないでもないけどさ。とは言ったものの、マスターにくらべたら私なんてまだまだヒヨッコだけどさ。しかし、いったいいつまで続くのかねぇ?この右不足はさ。」
一昨日の夜だったかな?そこら辺は、適当さ。だってあまりにも内容が百済な過ぎたからさ。右の専門家と左の専門家か達が集まって、何やら討論するテレビ番組を観てたんだ。まあでも、右が不足しているんだから、当然、左が優勢かと思ったが、そうじゃない。右あっての左さ。結局、左右の専門家達は、右往左往するばかりで、右も左もあったもんじゃないさ。笑うに笑えなくて、思わず観たくもない古い映画がやってる所へチャンネルを変えちゃったさ。
「ところで、アタシの店なんかで油を売っててもいいんですか?左屋さん。」
「ん?ああ、大丈夫大丈夫。どうせ店を開けてても、誰も来ないしさ。かみさんが店番しているよ。」
「やっぱり、右不足の影響ですか?」
「マスター?私は言いたいね。右不足、右不足って、世間では大騒ぎだけどさ。実際は、どうさ?その影響で、左が溢れかえっちゃてさ。今じゃ左の値が急降下さ。これじゃあ、左を何個売っても売っても、儲けになんてならりゃしないさ。右があって左がある。左があって右がある。世の中バランスでしょ?左右のバランスが重要でしょ?世界大右不足なんてもんはさ。世界左大暴落の始まりさ。」
「右あっての左、左あっての右ですか。分かりますよ。仮にこれが、左不足だったらと考えると、単にそれはアタシと左屋さんの立場が入れ替わるだけで、苦しみは一緒です。」
「でしょ!そうでしょ!右が苦しんでる時はさ!左も苦しいのさ!それを何で、何で世間は分かってくれないかなぁぁぁぁぁ!」
ならなぜ、世界大右不足が起きたのか?有力な説として上げられているのが、右利き人口の急速な増大さ。それに伴い右の生産が追い付かなくなったと言われている。何ともまあ、当たり前と言ったら当たり前過ぎて、誰もが頷かざるを得ない説さ。でも、そりゃあ、そう言われたらそうだけど、何だかもっともらしい説だけど、それを真に受けてそのまま右から左へと事の重要性を軽く受け流していいものなのか?全くの疑問さ。
「マスターさ。このまま右不足が続いたら、どうなるんだろうね?」
「現に知ってる同業者の何人かは、店を畳んでしまいましたよ。」
「そうだよね。そうなるよね。でもまさかだよね?まさか、右が世の中から不足するなんて、誰が思った?だーれも思ってなかったさ。」
「ええ、こんな時代がやって来るなんて、きっと誰にも分からなかったでしょうね。」
「お偉いさんが、あたふたしちゃうのも何だか妙に納得しちゃうしさ。」
「そうですね。」
「はあ、いつまで続くのかねぇ。右不足。」
「そうですね。」
右暗黒時代。そう呼ぶ学者も少なくない。人類は、真っ暗で長いトンネルの中を今、歩き続けているんです。って、どっかのコメンテーターが気取ってそう言ってたさ。右も左も分からないまま、出口があるのかすら、分からない長く暗いトンネルの中を我々は、いったいいつまでさ迷い続けていればいいのか?とかさ。まあ、左を売る事しか脳のない奴が考えたって分かるもんじゃないさ。とにかく今は、1秒でも早く右不足が解消されるのを願うしかないさ。
「マスター?」
「はい?」
「本当に無いの?この靴下の右?」
「ええ。」
「・・・・・・分かったよ。じゃあ、右が入荷した頃にまた来るさ。」
「申し訳ないね。」
その店は、物凄く右にある。まあでも、見方によっては、物凄く左にある。物凄く左にさ。

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2010年1月20日 (水)

「第百八十八話」

「ワオ~ン!」
夜も深まる頃、犬は何故に夜空へと向かって吠えるのか?
「ワオ~ン!」
そして、そ眼下にそびえ建つマンションの6階の1室では、なにやら大変な事態が巻き起こっていたのである。
「どうすればいいのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
座り込んで髪の毛をグシャグシャにして嘆く女。この女、勘違いで男を殺してしまった女である。
(おいおいおいおい、マジかよ!?)
その女の目の前に横たわる男。この男、勘違いで女に殺されてしまった男である。
「何でよ!?何でこうなっちゃったのよぅ!!」
(それはこっちの台詞だ!このアホ女!)
幽霊は本当に存在するのか?その真相は定かではないがしかし、この場合、横たわる男は今、人間と幽霊の狭間に位置している。いわば、もう間も無く本当の死を迎える存在である。つまりそれは、意識のみの塊なのである。
「マズイよね、マズイよね。やっぱ、やっば警察に通報しなきゃだよね。」
(当たり前だ!しっかり法で裁かれろ!アホ女!)
1つモヤモヤする疑問を解消しておこう。
「ワオ~ン!」
夜も深まる頃、犬は何故に夜空へと向かって吠えるのか?ではなく、何故、勘違いで女が男を殺してしまったのか?何故、勘違いで男が女に殺されてしまったのか?である。簡潔に説明するならば、発端はこうである。女が仕事から帰宅して来ると、部屋に男が居て、男が寝室から出てくると、部屋に女が居たのである。そして、あまりの恐怖状態に女は、勇猛にも果敢にも男へ飛び掛かり、男は、勇猛果敢に女に飛び掛かかられ、首を絞め絞められ、殺し殺されてしまったのだ。
(何が腹立つって、あれだよ!こう言った場合、普通は近場にあった鈍器のような物を手に取っての撲殺だろ?それを何で!何で鬼の形相からの絞殺なんだよ!このアホ女!)
「ダメダメ!撲殺ならまだしも!勘違いで絞殺しちゃいましたぁ。テヘッ!は、ないない!通用しないって!」
(果てしなくアホ女か!絞殺だろが、撲殺だろが、刺殺だろが、爆殺だろが、勘違いで隣の部屋に入って来て勘違いで人殺しした女が、テヘッ!で許されるか!!何を逃げ道を模索しちゃってんだよ!)
そう、そもそもは、部屋を勘違いした女から始まった勘違いだらけの出来事なのだ。
「てか、これって普通に逃げちゃえばいくない?」
(いや、いくないだろ!この国の警察なめんなよ?だいたい其処ら中に指紋べったしだろ!)
「あ、ダメだ!指紋がべったしだ!勘違いして部屋に入って来てからも、しばらく勘違いで、いつもみたいに生活しちゃったもん。至るところに指紋べったしだよ。拭き取るには、掃除専門の方達をお呼びしなきゃだよ。」
(仕事から帰って来て、寝室から着替えてリビングに来たら、寛いでテレビ観てんだもんなぁ。一瞬だけ、俺の方が勘違いしたのかと思っただろうが!このアホ女!)
「あっ!」
(何だ!?)
「そうよ!」
(どうした?)
「そうそう!あったまよい!」
(何が!)
「これならアタシが殺した事にはならないわよ!」
(だから、何がだ!てか、ならないわけならないだろって!)
「すんばらしいわ!!」
(おい!!)
「画期的だわ!!」
(こら!!)
「ナイスアイデア!!」
(だから、何なのかを言えってば!!)
「あっ、でも無理かぁ。」
(何が?)
「無理だよなぁ。」
(だから、何がだよ!)
「てか、完全に無理だよぉぉぉ!」
(ふん!どうせあれだろ?アホな考え巡らせてたんだろ?きっと第一発見者にでもなって、それで指紋の問題を解決でもしようとしたんだろ?アホめ!首を締めた手形が、びったんこなんだよ!)
「経済的に、無理だよなぁ。」
(経済的?経済的って何だよ!)
「この男をバラバラにして部屋の壁に埋めたとしても、その後、ここの部屋を買い取れるほど、今のアタシに経済的な余裕ないもんなぁ。」
(おいおいおい!こりゃ、とんでもなく果てしなくアホだな。アホと言うか、悪魔かこの女は!危うく経済的に余裕があったら、俺はバラバラにされて壁の中だったのかよ!もういいから、観念して早く警察に連絡しろよ!)
「ああっ!!」
(今度は何だよ!)
「襲われた事にすればいいんだよ!」
(はあ???)
「無理矢理この男に部屋に連れ込まれて!」
(ああ???)
「アタシが襲われそうになった所を!」
(おおおおおおおおおおおい!?)
「無我夢中で抵抗した結果!首を絞めて殺しちゃった事にしちゃえばいいんだよ!どう?」
(俺に聞くなよ!?会話出来んなら、迷わず答えはNOooooooだ!!)
「そうよ!帰宅して鍵を開けてる最中に、実家から送って来た果物をお裾分けしたいとかなんとかって声を掛けられて、部屋に入ったら、用意するまでリビングでテレビでも観て寛いでて下さいなんて言われて、まんまと寛いでると、背後から襲われた。で、正当防衛!よし!!」
(よし!!じゃねぇよ!ちょっと待てアホ女!俺はなにか?タイプでもない女を襲った事になるのか?タイプでもない女を襲って逆に殺された男になるのか?タイプでもない女に勘違いで殺されただけじゃなく、死後もずーっと親戚一同にタイプでもない女を殺したって事で迷惑掛けなきゃならないってのか?ふざけんな!!)
「あっ、ダメだ!こんなタイプでもない男に声掛けられて、ノコノコ部屋に上がり込むようなアタシじゃない!いくら罪を逃れる為とは言え、それはアタシのプライドが許さないわ!!」
(そりゃこっちの台詞だ!!アホ女!!)
夜も深まる頃、犬は何故に夜空へと向かって吠えるのか?
「ワオ~ン!」
それはおそらく、犬に聞かなければ分からない。ならばそれは、物語にも同じ事が言える。クライマックスがどうなるのかは、物語に聞かなければならないのである。
「ワオ~ン!」
それはつまり、物語を読み進めると言う単純な作業にも似た行為である。ではでは、この勘違いで始まった勘違いだらけの物語のクライマックスを、物語に聞いてみようではないか。
「ガチャ!」
「えっ!?」
(えっ!?)
突然、扉が開いたかと思うと、足音は2人が居るリビングへと、真っ直ぐ近付いて来る。
「だ、誰!?」
(まさか!?警察?いや、警察なわけない。)
「警察じゃないわよね。だったら?」
(なら?)
「(誰!?)」
息を殺し、足音の主を待つ2人。
「ドサッ!」
「な、何じゃ!?」
リビングに入るなり、大きな旅行カバンを床に落とす老紳士。この老紳士が、足音の主である。
「お隣さんとお隣さんが、何でワシの部屋におるんじゃ!?」

第百八十八話
「601号室の男と603号室の女」

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2010年1月27日 (水)

「第百八十九話」

「何なんですか!」
「いや、俺に言われてもだよ。警察は、国が決めた法律に則って動いてるだけだからよ。」
「ふざけんな!!」
「まあまあまあ、落ち着いて落ち着いて、何も死刑になる訳じゃないんだ。こうして取り調べを受けて、後は3日間の検査にパスすれば、晴れて無罪なんだからよ。」
「無罪?僕は何の罪も犯しちゃいないんだ!早く僕を家に帰してくれ!」
「俺もそうしてやりたいがな。そう簡単には、行かないんだよ。」
「何なんですか!さくらんぼ罪って!」

第百八十九話
「チェリー」

「だから、何度も言ってるだろ。さくらんぼが、こう2つ繋がってて、それを左から食べたからだってよ。」
「だから!何で繋がってるのを左から食べただけで逮捕なんですか!左から食べたら逮捕で、右から食べたら逮捕じゃないって、何なんですか!」
「無罪とは言ったが正確には、まだ逮捕じゃねぇよ。重要参考人だ。で、検査に引っ掛かっちまったら、逮捕だ。」
「同じ事です!」
「少し落ち着いたらどうだ?そんな怒鳴りっぱなしじゃ、喉渇くだけだぞ?」
「こんな理不尽な状況で!落ち着いていられますかっての!」
「まあな。」
「だいたい!さくらんぼ罪なんて聞いた事もないですよ!」
「・・・・・・・・・。」
「何で黙るんですか!」
「いや、まあな。」
「何ですか!何かあるなら言って下さい!もし納得出来る説明なら、その時は僕も、素直に重要参考人として検査に応じますよ!」
「本当だな?本当に、素直に検査に応じるな?」
「ええ、その代わり納得出来たらです!」
「・・・・・・・・・分かった。」
「お願いします。」
「そもそも、さくらんぼ罪ってのは、公表されてない裏の法律なんだよ。」
「裏の法律!?」
「まあ、その辺は詳しく言えないんだが、さくらんぼ罪の他にも、同じような裏の法律が、まだまだあるんだ。でだ、お前さんが気になってる、なぜ左から食べたらってとこだがな。」
「・・・・・・・・・。」
「ある年から、人間が殺人を犯す確率をあらゆる観点から事前に予測する財団が結成されたんだ。」
「殺人を予測する!?」
「まあ、人間の行動心理や過去の殺人犯のデータや家族構成や生い立ちや、まあ、とにかく色々かき集めて分析調査して、人が殺人を犯す確率、つまり殺人指数を弾き出すんだ。」
「まさか!?」
「人間が、どんな行動をすれば、それが近い将来、殺人を犯す事に繋がるのか。長年の研究で、その財団は見事そのメカニズムを作り上げちまったんだよ。信じられないかもしれないがな。」
「ええ、とても信じがたいです。」
「だが、お前さんが、ここにいるって事が、その事実を証明しちまってるんだよ。でだ、その殺人予測の人間の行動パターンの中の1つに、2つ繋がりのさくらんぼを左から食べるってのがあるんだよ。」
「ちょっと待って下さいよ!」
「おいおいおい、いいか?俺に言われてもだからな?これは、お前さんが考えも及ばない程の規模で動いてる計画なんだ。お前さんが、ある男に拳銃を突き付けられて、引き金を引く瞬間、お前さんは、男が自分を殺すつもりだと初めて理解する。そこで時間を巻き戻してみると、男は左からさくらんぼを食べていたって訳だ。」
「そんな馬鹿な!?」
「世の中ってのは、そんな馬鹿なって事が、自分の知らないとこで巻き起こっちまってんだよ。無意識殺人、殺人予知、潜在殺人指数、人間の真本能、人によって呼び方はさまざまだ。まあ、財団が付けた正式な名称が長くて難しから、俺らみたいな者は、覚えられないってのが、現状なんだがな。」
「待って下さい。」
「納得出来ないか?まあ、俺らも納得出来てないんだから、そりゃ仕方ない。」
「これは、もはや納得出来る出来ないのレベルじゃないんでしょ?」
「まあ、そう納得するのが1番だな。考えようによっちゃあ、あれだぞ?殺人を犯す前にここに連れて来られて、お前さんは幸運だったじゃないか。」
「僕が納得出来ないのは、この殺人予測の行動学じゃありません。なぜですか?なぜ、僕が部屋で1人でさくらんぼを左から食べていた事が、分かったんですか?」
「・・・・・・・・・。」
「まさか!?人間、1人1人を監視するシステムが実行されているって言うんですか!いくらなんでも、それはやり過ぎた!!」
「・・・・・・・・・。」
「すいません。刑事さんに言ってもですよね。」
「まあな。もしかしたら、俺ら警察の知らないとこで、人間を1人1人監視するシステムが秘密裏に別の意図で行われてるかもしれないな。だが、殺人予測の場合は違う。詳しくは言えないが、対象物には色々と細工がしてあるんだ。で、その信号をキャッチした財団が、警察に通報して来るって訳だ。」
「そうですか。」
「お前さんが、ここに連れて来られのも、さくらんぼを左から食べた時に、規定の数値を越えただけであって、何も、さくらんぼを左から食べた人間が全て連れて来られたりする訳じゃない。たまたま、数値を越えた最後が、さくらんぼ罪だってだけの罪名だ。」
「検査って、僕はいったい何をされるんです?」
「まあまあまあ、そう怯えなくたって大丈夫だ。何も脳をいじくったり、人体実験をしたり、洗脳したりして、別人にしちまう訳じゃないんだ。ただカウンセリングを受けて講習を受ける簡単なもんさ。お前さん、部屋の掃除をした事あるだろ?」
「ええ。」
「それと同じだ。部屋にこびりついた汚れや溜まった埃が殺人数値で、掃除機や洗剤がカウンセリングや講習って訳だ。まあ、簡単に言えば、数字を0にクリアして社会に戻すって訳だ。」
「なら!」
「ああ、再びお前さんがここにやって来る事もありえるだろうな。」
「・・・・・・そうですか。」
「そう落ち込む事もないだろう。さっきも言ったが、本当に殺人を犯しちまったら、死刑かもしれないんだぞ?」
「そうですね。」
「さてと、そろそろ取り調べを終わりにするか。」
「はい。」
「その前に、何だか喋り過ぎて喉がカラカラだ。お前さんもコーヒーでいいか?」
「はい。」
「ガチャッ!!」
「警部!」
「ああ、彼とコーヒーを飲んだら、引き渡しの手続きを始めるよ。」
「その必要はありません。」
「どう言う訳だ?」
「警部、貴方を重要参考人として取り調べします。」
「何だと!?」
「罪名は、さくらんぼ罪の30代後半の重要参考人の男とコーヒーを一緒に飲もうとした罪です!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

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